モーリス・メーテルリンク 『蜜蜂の生活』 山下知夫+橋本綱 訳

「しかも、どんなによく知っている行為も未知な行為も、どんな卑しい行為も偉大な行為も、どんな身近な行為も疎遠な行為も、私たちのすることはみな深い闇夜の中でしか成し遂げられることはないのだ。結局、私たち自身、蜜蜂がそうだと考えられているのとおなじくらい盲目的な存在なのである。」
(モーリス・メーテルリンク 『蜜蜂の生活』 より)


モーリス・メーテルリンク 
『蜜蜂の生活』 
山下知夫+橋本綱 訳
 
プラネタリー・クラシクス

工作舎
1981年2月25日 初版発行
1987年2月1日 改訂版第1刷発行
iv 291p 
21.6×13.6cm
丸背紙装上製本 カバー
定価2,000円
エディトリアル・デザイン: 海野幸裕+西山孝司



Maurice Maeterlink: La Vie des Abeilles

わたしは社会性が欠落しているのでミツバチやアリやヒトのような社会的な生きものは苦手です。しかしビクトル・エリセの映画『ミツバチのささやき』がすきなので本書をよもうとおもって購入しておいたもののまだよんでいなかったのでよんでみました。やはり苦手でした。「蜜蜂の巣の精神」であるホリズム(全体論)とファシズム(全体主義)はコインの両面でありまして、『ミツバチのささやき』のフランコ政権下スペインの少女アナがむしろ毒キノコや脱走兵やフランケンシュタインの怪物のようなアウトサイダーたちに共感していくのも尤もであるなとおもいました。そういう意味ではアナ・トレント主演のたいへんすばらしい反社会的相互依存映画『エル・ニド』(=対幻想の場としての鳥の巣)は『ミツバチのささやき』の続編であるといってよいですが、それはどうでもよいです。


メーテルリンク 蜜蜂の生活 01


帯文:

「「青い鳥」の作家
メーテルリンクが綴る
献身の
博物誌」



帯裏:

「メーテルリンクの未来的な古典が復活!

メーテルリンクも学問的野人であった。生命観の揺らぐ今日、彼の未来的古典が復活する意義は測りしれない。とくにその特異な進化論に瞠目する。
今西錦司(生態学)

シュタイナーにも蜜蜂の研究があって、神秘家の相似た魂をみる思いだ。生命現象を神秘学の観点から考えようとする読者にひろくすすめたい。
高橋巌(神秘学)

『モンナ・ヴァンナ』と『ペレアスとメリザンド』の作者メーテルリンクの描いた蜜蜂の世界には人間の魂の原風景も染めこまれている。
馬場喜敬(哲学)」



カバー裏「著者紹介」より:

「『蜜蜂の生活』は1901年の作であり、ノーベル文学賞受賞に導いた代表作といわれる。流麗なフランス語で綴られた、その文学性の高さもさることながら、「博物神秘学者メーテルリンク」の広範で深遠な観相力をあますところなく示している。「蜜蜂」と名づけた別荘に住み、古代ギリシャ以来の蜜蜂に関する文献を読み、毎日、その巣に通いつづける有能な養蜂家であったという。彼の観察眼は、つきることのない想像力の海と文学的才能と相俟って、未知の生命形態を克明に描出することとなった。それから30年後、昆虫をあつかった第2弾『白蟻の生活』が著され、第3弾『蟻の生活』がつづく。」


目次:

1章 巣箱の前に立って
 勤勉な蜜蜂たちの、香り高い精神や神秘にふれるために、
 私たちはその巣をこじあけなければならなかった。
2章 分封(巣別れ)
 抗しがたい魅惑の時、分封、それは蜜の祭典、
 種族と未来の勝利、そして犠牲への熱狂である。
3章 都市の建設
 この街は地表から突き立つ人間の街のようではなく、
 空から下に降りてゆく逆円錐形の逆立ちした街だ。
4章 若い女王蜂たち
 彼女は自分の競争相手の挑戦を耳にするや、
 自らの運命と女王の義務を知って勇敢に応酬する。
5章 結婚飛翔
 太陽が光きらめくとき、一万匹以上の求婚者の行列から選ばれた
 たった一匹だけが女王と合体し、同時に死とも合体する。
6章 雄蜂殺戮
 ある朝、待たれていた合言葉が巣箱中にひろまると、
 おとなしかった働蜂は裁判官と死刑執行者に変貌する。
7章 種の進化
 蜜蜂は自分たちが集めた蜜を誰が食べるのか知らない。
 同様に、私たちが宇宙に導き入れる精神の力を
 誰が利用することになるのか、私たちは知らない。

訳者あとがき 
 蜜蜂が、花が、光が語ってくれたら (橋本綱)
 有機と無機のあいだに (山下知夫)
訳者紹介



メーテルリンク 蜜蜂の生活 02



◆本書より◆


「巣箱の前に立って」より:

「それは蜜蜂がまずなによりも、たとえばあの蟻と較べてさえ、群れの生き物だということである。蜜蜂は集団でなければ生きてゆくことができない。その巣はあまりに混雑していて周囲を取り巻いている生きた壁のあいだに頭を割りこませて通り道を切り拓かねばならないほどだが、巣から一歩外に出るとき、彼女は自分の必要成分そのものから足を踏み出していることになるのだ。ちょうど海女が真珠の埋蔵されている大海に潜るように、彼女はすこしのあいだ花でいっぱいの空間にとび出す。しかし死を免れるためには、ちょうど海女が空気を吸いに海面にもどるように、密集の息吹を吸いに規則的な間隔をおいてもどってこなければならない。一匹だけ隔離されると、どんなに大量の食物と適温を用意しても、蜜蜂は、飢えや寒さのためではなく、孤独のために数日をまたずに息をひきとってしまう。集団と都会は蜜蜂にとって、蜜とおなじくらいなくてはならない栄養源になっているのだ。巣の法則の精神を見定めるためには、この不可欠な要素にまで遡らなければならない。巣の中においても個はなにものでもない、(中略)個体の全生涯は、その所属している無数の永続的存在への完全な犠牲となるのだ。」


「分封(巣別れ)」より:

「女王蜂はけっして人間的な意味での女王ではない。命令をくだすわけではなく、むしろ仮面にかくれたみごとなまでに賢いひとつの力に、一介の臣下と同じように、仕えているにすぎない。その力がどこにあるかはこれから見ていくことにして、それまではそれを「巣の精神」と呼ぶことにしよう。」

「「巣の精神」は、容赦することはないが同時に控え目なやり方で、ちょうど偉大な義務に従っているとでもいうように、この翅をもった民族全員(中略)を、自由自在に導いてゆく。それは毎日のように出産の数を調整し、(中略)またそれは女王蜂に廃位や出発の必要性を告げ、競争相手を産むよう強制する。そしてその競争相手たちを女王蜂になるにふさわしく育て、(中略)そしてそのうちの最年長のものが、(中略)他の妹たちを、ゆりかごの中で殺してよいかどうかを決定する。」
「この巣の精神は用心深く倹約精神に富んでいるが、けっして吝嗇というわけではない。(中略)だからこそ、夏の豊かな日々のあいだ、(中略)三百から四百にものぼるあの雄蜂の足手まといな存在を許しておけるのだ。というのも、これから生まれてくる女王蜂はそんな中から自分の愛人を選ばなければならないからだ。ところがそれも女王蜂が受胎をすませ、花の開くのがおそくなり閉じるのがはやくなるころになると巣の精神は、ある朝平然と彼らのいっせい皆殺しを宣告する。」

「そして最後に、種の守護神に対する一年の大犠牲――つまり分封のことである――をとりおこなう時期を定めるのも巣の精神なのである。このとき、一族全体は繁栄と力の頂点に達しているにもかかわらず、突然、未来の世代のためにそのあらゆる富、宮殿、住居、苦しみの成果をなげうち、どこか遠くの新しい祖国であえて不安定な窮乏生活を送ろうとするのである。これこそ、意識的であるかどうかにかかわりなく、人間的道徳を超えた行為というべきである。巣の精神は、都市の繁栄よりも貴い掟に従うために、しばしばしあわせな街をばらばらに壊したり、貧困化させてしまう。そればかりかその街を荒廃しつくしてしまうことすらある。」

「別の都会に属している蜜蜂同士は、互いにけっして知り合おうとしないし、助け合うこともまったくない。」

「彼女たちはなぜ、兄弟にあたる蝶なら知っているだろう安眠や蜜の歓びや愛や、すばらしい余暇を断念してしまうのだろう。蝶のようには生きられないのだろうか。この場合彼女たちをせきたてているのは飢えではない。身を養うためだけなら、ふたつか三つの花があれば充分なのに、彼女たちは自分自身けっしてその甘さを味わうことのない宝を蓄積するために、毎時間二、三百もの花を訪れる。こんな苦しい思いをして、いったいなにになるのだろう。(中略)それに、おまえたちがそのために死のうとしている次の世代とは、本当にこれだけの犠牲に価する存在なのだろうか。その世代はまちがいなく、おまえたちより美しく幸福になれるだろうか。あるいはおまえたちが果せなかったなにかを、つぎの世代がやってくれるだろうか。」



「都市の建設」より:

「蜜蜂にはきわめて奇妙な二重性格がみられる。巣の中で、たしかに全員が愛し合い、助け合う。(中略)そのうちの一匹でも傷つけられれば、他の千匹はその侮辱に復讐しようと、みずからを犠牲にするのも厭わないことだろう。ところが巣を一歩でも外に出ると、互いに知らないふりをしだすのである。ためしに巣からほんの数歩の距離に、蜜の入ったひとつの巣板を置いておき、その上で同じ巣から出てきた蜜蜂を一〇匹、二〇匹、あるいは三〇匹、その肢を切断するか踏みつぶすかしてみるのだ――いやそれを実行するならいたずらに残酷さをひけらかすだけなので、ここではやめておこう。というのも結果は目に見えているようなものだからである――ともかく、そのようにしたと仮定してみよう。すると無傷でそれをやりすごした他の蜜蜂は、傷ついた者たちに顔をふり向けようともせずに、(中略)命よりも大事な液を汲みつづけ、瀕死の者が最期の身ぶりで躰をすり寄せてこようが、まわりで悲嘆の叫びをあげていようが、いっこうに無頓着でいるだろう。そして蜜入りの巣板が空になってしまうと、なにものも無駄にしないよう、今度は犠牲者たちに付着している蜜を採るため、他の者がいることなどお構いなしに、また他の犠牲者を救おうともせず、無傷の採集蜂は平然と死傷者の上にのしかかっていくのだ。」

「たしかに蜜蜂の巣は、はじめの頃の大きな歓びに湧きかえっていたようにみえたし、美しい日々のきらめくような思い出がそこに満ちあふれ、巣を幸福を表現している花々や流水や蒼空とかのあれほど平和的な豊饒さとつながっているようにおもわれたものだ。ところが、これらすべての外面的な歓喜の下には、人が目にすることができるもっとも悲惨な光景が匿されていたのである。」




メーテルリンク 蜜蜂の生活 03


そしてこちらがリーヴルドポッシュ版原書ペーパーバックであります。
























































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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