『蘇東坡詩選』 小川環樹・山本和義 選訳 (岩波文庫)

「人生識字憂患始
人生(じんせい) 字(じ)を識(し)るは 憂患(ゆうかん)の始(はじ)め」

(蘇東坡 「石蒼舒醉墨堂」 より)


『蘇東坡詩選』 
小川環樹・山本和義 選訳
 
岩波文庫 赤/32-007-1 

岩波書店
1975年1月16日 第1刷発行
1988年8月16日 第11刷発行
369p 別丁口絵(モノクロ)2p
文庫判 並装 カバー
定価550円



本書「凡例」より:

「蘇軾(そしょく)の詩百一首と賦(ふ)二篇を選んで訳注し、詩は制作順に排列し、賦を巻末に付した。」


蘇東坡詩選 01


カバー文:

「2度の流罪を頂点に波瀾を余儀なくされたその生涯にもかかわらず、もちまえの明朗闊達さを失わなかった宋代の代表的詩人蘇軾(1036―1101)の詩選。ユーモアを含む軽快で知的な初期の詩風から奥深い光を放つ晩年の精深華妙な詩境まで常に成長しつづけたこの詩人の全貌を余すところなく伝える。飄逸清雄な詩風は読者を魅了してやまない。」



目次:

口絵
 赤壁の賦(部分) 蘇軾筆跡

凡例

初(はじ)めて嘉(か)州を発す
江上 山を看(み)る
荊(けい)州 十首(其の四)
辛丑(しんちゅう)十一月十九日、既に子由(しゆう)と鄭(てい)州西門の外(そと)に別れ、馬上にて詩一篇を賦(ふ)して、之(これ)に寄す
子由(しゆう)の「澠池懐旧(べんちかいきゅう)」に和(わ)す
石鼓(せっこ)
子由(しゆう)が除日(じょじつ)に寄せられしに次韻(じいん)す
子由(しゆう)の「岐下(ぎか)」の詩に次韻(じいん)す 并(なら)びに引(いん)(荷(はす)の葉(は)、柳)
九月二十日、微雪(びせつ) 子由(しゆう)を懐(おも)う 二首(其の一)
歳晩(さいばん) 相与(あいとも)に餽歳(きさ)と為(な)し、酒食(しゅし) 相邀呼(あいようこ)するを別歳(べつさい)と為(な)し、除夜(じょや)に至り旦(あした)に達して眠(ねむ)らざるを守歳(しゅさい)と為(な)す。蜀(しょく)の風俗 是(かく)の如(ごと)し。余(よ) 岐下(きか)に官して、歳暮(さいぼ) 帰(き)を思いて而(しか)も得可(うべ)からず。故(ゆえ)に此の三詩を為(つく)りて、子由弟(しゆうてい)に寄(よ)す(其の三 守歳(しゅさい))
子由(しゆう)の「踏青(とうせい)」に和(わ)す
大秦寺(たいしんじ)
華陰(かいん)にて子由(しゆう)に寄(よ)す
石蒼舒(せきそうじょ)の酔墨堂(すいぼくどう)
穎(えい)州にて初(はじ)めて子由(しゆう)に別る 二首(其の二)
穎口(えいこう)を出(い)でて初(はじ)めて淮山(わいざん)を見る。是(こ)の日 寿(じゅ)州に至る
金山寺(きんざんじ)に遊ぶ
子由(しゆう)に戯(たわ)ぶる
除夜(じょや) 都庁に直(ちょく)す。囚繋(しゅうけい) 皆(みな)満(み)ち、日莫(にちぼ) 舎(しゃ)に返(かえ)るを得ず。因(よ)りて一詩を壁に題(だい)す
蔡準郎中(さいじゅんろうちゅう)の「邀(むか)えられて西湖(せいこ)に遊ぶ 三首」に和(わ)す(其の三)
六月二十七日、望湖楼(ぼうころう)にて酔(よ)いて書(しょ)す五絶(ぜつ)(其の一、二、五)
臨安(りんあん)の浄土寺(じょうどじ)に宿(しゅく)す
望海楼(ぼうかいろう)晩景(ばんけい) 五絶(ぜつ)(其の二、三)
法恵寺(ほうえじ)の横翠閣(おうすいかく)
湖上に飲(うたげ)せしが初(はじ)めは晴(は)れ後(のち)は雨(あめ)ふれり 二首
新城(しんじょう)の道中 二首(其の一)
病中 祖塔院(そとういん)に遊ぶ
八月十五日、看潮(かんちょう) 五絶(ぜつ)(其の三)
海会寺(かいえじ)に宿(しゅく)す
除夜(じょや) 常(じょう)州の城外に野宿(やしゅく)す 二首(其の一)
永楽(えいらく)を過(よぎ)れば、文(もん)長老 已(すで)に卒(しゅつ)せり
去年の秋、偶(たま)たま宝山(ほうざん)の上方(じょうほう)に遊び、一小院に入(い)る。閴然(げきぜん)として人(ひと)無く、僧の几(き)に隠(よ)りて頭(こうべ)を低(た)れて書を読む有り。之(これ)と語るに漠然(ばくぜん)として甚(はなは)だしくは対(こた)えず。其の隣(となり)の僧に問うに、曰(いわ)く、「此(こ)れ雲闍梨(うんじゃり)なり。出(い)でざること十五年なり」と。今年六月、常(じょう)・潤(じゅん)より還(かえ)りて、復(ま)た其の室(しつ)に至れば、則(すなわ)ち死葬して数月なり。詩を作りて其の壁に題(だい)す
雪後 北台(ほくだい)の壁に書(しょ)す 二首(其の一)
文与可(ぶんよか)の「洋川(ようせん)の園地 三十首」に和(わ)す(其の一 湖橋(こきょう))
常山(じょうざん)の絶頂(ぜっちょう) 広麗亭(こうれいてい)に登る
子由(しゆう) 将(まさ)に南都(なんと)に赴(おもむ)かんとし、余(よ)と逍遙堂(しょうようどう)に会宿(かいしゅく)して、両絶句(ぜっく)を作る。之(これ)を読むに殆(ほとん)ど懐(おもい)を為(な)す可(べ)からず。因(よ)って其の詩に和(わ)し、以て自(みずか)ら解(と)く。余(よ) 子由(しゆう)を観(み)るに、少(わか)き自(よ)り曠達(こうたつ)にして、天資(てんし) 道(みち)に近く、又(ま)た至人(しじん)の養生長年(ようせいちょうねん)の訣(けつ)を得たり。而(しか)して余(よ)も亦(ま)た窃(ひそ)かに其の一二(いちに)を聞けり。以為(おもえ)らく、今者(いま) 宦遊(かんゆう)して相別(あいわか)るる日は浅くして、異時(いじ) 退休(たいきゅう)して相従(あいしたご)うの日は長からんと。既(すで)に以て自(みずか)ら解(と)き、且(か)つ以て子由(しゆう)を慰(なぐさ)むと云(い)う
呂梁(りょりょう)の仲屯田(ちゅうとんでん)に答う
中秋(ちゅうしゅう)の月 三首(其の二)
月夜(げつや) 客(かく)と酒を杏花(きょうか)の下(もと)に飲む
徐(じょ)州を罷(や)めて南京(なんけい)に往(ゆ)かんとし、馬上に筆を走らせて子由(しゆう)に寄す 五首(其の一、四)
舟中 夜(よる)起(お)く
予(よ) 事(こと)を以て御史台(ぎょしだい)の獄(ごく)に繋(つな)がる。獄吏(ごくり) 稍(や)や侵(おか)さる。自(みずか)ら度(はか)るに 堪(た)うること能(あた)わず、獄中に死して、子由(しゆう)と一別するを得(え)じと。故(ゆえ)に二詩を作りて、獄卒(ごくそつ)の梁成(りょうせい)に授(さず)け、以て子由(しゆう)に遺(おく)る 二首
御史台(ぎょしだい)の楡(ゆ)・槐(かい)・竹(ちく)・柏(はく) 四首(其の三 竹)
十二月二十八日、恩を蒙(こうむ)りて検校水部員外郎(けんこうすいぶいんがいろう)・黄州団練副使(こうしゅうだんれんふくし)を責授(せきじゅ)せらる。復(ま)た前韻(ぜんいん)を用う 二首
梅花(ばいか) 二首
初(はじ)めて黄(こう)州に到る
正月二十日、岐亭(きてい)に往(ゆ)く。郡の人(ひと) 潘(はん)・古(こ)・郭(かく)の三人 余(よ)を女王城東(じょおうじょうとう)の禅荘院(ぜんそういん)に送る
東坡(とうば) 八首 并(なら)びに叙(じょ)
 (叙)
 (其の一)
 (其の二)
 (其の三)
 (其の四)
 (其の五)
 (其の六)
 (其の七)
 (其の八)
正月二十日、潘(はん)・郭(かく)二生と郊(こう)に出(い)でて春を尋(たず)ぬ。忽(たちま)ち 去年の是(こ)の日、同じく女王城(じょおうじょう)に至りて詩を作れるを記(き)し、乃(すなわ)ち前韻(ぜんいん)に和(わ)す
寒食(かんしょく)の雨 二首
西林(さいりん)の壁に題す
興国(こうこく)自(よ)り筠(いん)に往(ゆ)き、石田駅(せきでんえき)の南二十五里の野人(やじん)の舎(いえ)に宿(やど)る
去歳(きょさい)九月二十七日、黄(こう)州に在(あ)りて子(こ)を生(う)めり。名は遯(とん)、小名(しょうめい)は幹児(かんじ)。頎然(きぜん)として穎異(えいい)なりき。今年七月二十八日に至り、病(や)んで金陵(きんりょう)に亡(ぼう)ず。二詩を作りて之(これ)を哭(こく)す(其の二)
荊公(けいこう)の韻(いん)に次(じ)す 四絶(ぜつ)(其の二、三)
孫莘老(そんしんろう) 墨(すみ)を寄せらる 四首(其の四)
海市(かいし) 并(なら)びに叙(じょ)
文与可(ぶんよか)の墨竹(ぼくちく)に書(しょ)す 并(なら)びに叙(じょ)
恵崇(えすう)の「春江暁景(しゅんこうぎょうけい)」 二首
杜介(とかい) 魚(うお)を送らる
呂行甫司門(りょこうほしもん)の河陽(かよう)に倅(さい)となるを送る
王(おう)郎子立(しりゅう)の「風雨 感(かん)有り」に次韻(じいん)す
子由(しゆう)の契丹(きったん)に使(つかい)するを送る
袁公済(えんこうせい) 劉景文(りゅうけいぶん)の「介亭(かいてい)に登る」詩に和(わ)す。復(ま)た次韻(じいん)して之(これ)に答う
劉景文(りゅうけいぶん)に贈(おく)る
辯才(べんざい)老師 龍井(りゅうせい)に退居し、復(ま)た出入せず。軾(しょく) 往(ゆ)きて之(これ)に見(まみ)ゆれば、常に出(い)でて風篁嶺(ふうこうれい)に至る。左右(さゆう) 驚きて曰(いわ)く、「遠公(えんこう) 復(ま)た虎渓(こけい)を過ぎたり」と。辯才(べんざい) 笑いて曰(いわ)く、「杜子美(としび)云わずや、『子(し)と二老と成(な)り、来往(らいおう)亦(ま)た風流なり』と」と。因(よ)って亭(てい)を嶺上(れいじょう)に作り、名づけて「過渓(かけい)」と曰(い)う、亦(ま)た「二老(にろう)」と曰(い)う。謹(つつし)みて辯才(べんざい)の韻(いん)に次(じ)して詩一首を賦(ふ)す
又(ま)た王晉卿(おうしんけい)の画に書(しょ)す 四首(其の四 西塞(せいさい)の風雨)
東府(とうふ)の雨中に子由(しゆう)と別る
慈湖夾(じこきょう)にて風に阻(はば)まる 五首(其の二)
廉泉(れんせん)
上元(じょうげん)の夜 一首
陶(とう)の「園田(えんでん)の居(きょ)に帰る」六首に和(わ)す 并(なら)びに引(いん)(其の二)
三月二十九日 二首(其の二)
吾(われ) 海南(かいなん)に謫(たく)せられ、子由(しゆう)は雷(らい)州たり。命(めい)を被(こうむ)って即(すなわ)ち行き、了(つい)に相知(あいし)らず。梧(ご)に至りて、乃(すなわ)ち其の尚(な)お藤(とう)に在(あ)るを聞く。旦夕(たんせき) 当(まさ)に追い及ぶべし。此の詩を作りて之(これ)に示す
謫居(たくきょ)の三適(てき) 三首
 旦(あさ) 起きて髪を理(おさ)む
 午窓(ごそう)に坐睡(ざすい)す
 夜臥(やが) 足を濯(あら)う
倦夜(けんや) 一首
縦筆(じゅうひつ) 三首(其の一)
澄邁駅(ちょうまいえき)の通潮閣(つうちょうかく) 二首(其の二)
六月二十日、夜 海を渡る
雨夜(うや) 浄行院(じょうぎょういん)に宿(しゅく)す
藤(とう)州の江上、夜 起って月に対(たい)し、邵道士(しょうどうし)に贈(おく)る 一首


 前赤壁(ぜんせきへき)の賦(ふ)
 後赤壁(せきへき)の賦(ふ)

年譜
地図
解説 (山本和義)
あとがき (小川環樹)



蘇東坡詩選 02



◆本書より◆


「海市(かいし) 并(なら)びに叙(じょ)」より:

「予聞登州海市舊矣、父老云、常出於春夏、今歳晩、不復見矣、予到官五日而去、以不見爲恨、禱於海神廣德王之廟、明日見焉、乃作此詩」

「予(よ) 登州(とうしゅう)の海市(かいし)を聞(き)くこと旧(ひさ)し。父老(ふろう)云(い)う、「常(つね)に春夏(しゅんか)に出(い)づ、今(いま)、歳晩(としく)れたり、復(ま)た見(み)えじ」と。予(よ) 官(かん)に到(いた)りて五日(ごじつ)にして去(さ)る。見(み)ざるを以(もっ)て恨(うら)みと為(な)す。海神広徳王(かいじんこうとくおう)の廟(びょう)に禱(いの)りしに、明日(みょうにち) 見(み)えたり。乃(すなわ)ち此(こ)の詩(し)を作(つく)る。」

「私が登(とう)州の蜃気楼(しんきろう)の話を聞いたのは、ずっとむかしからのことだ。土地の故老たちは、「春と夏に出るのがふつうで、今は歳(とし)の晩(く)れも近いから、もう見えまい」と言う。私はここへ着任して、わずか五日で去ることになった。蜃気楼(しんきろう)が見られないのはいかにも残念だと思って、海神(竜王)のおやしろに祈願したところ、その明くる日に見ることができた。そこでこの詩を作る。」

「東方雲海空復空   東方(とうほう)の雲海(うんかい) 空(くう) 復(ま)た空(くう)
羣仙出沒空明中   群仙(ぐんせん) 出没(しゅつぼつ)す 空明(くうめい)の中(うち)
蕩搖浮世生萬象   浮世(ふせい)を蕩揺(とうよう)して 万象(ばんしょう)を生(しょう)ず
豈有貝闕藏珠宮   豈(あ)に貝闕(ばいけつ)の珠宮(しゅきゅう)を蔵(ぞう)する有(あ)らんや」

「東のかなたは雲と海がひろがるばかり、うつろ、どこまでもうつろだ。あのほの白い明るさの中に、もろもろの仙人たちが出没するのだろうか。いや、この世界はたえずゆらめき動いて、すべての現象がそこから生まれる。貝がらで飾られた楼門のかげに、わだつみの真珠の宮居(みやい)があるなんて、そんなはずはあるまいに。」

「心知所見皆幻影   心(まこと)に知(し)る 見(み)る所(ところ)の皆(みな)幻影(げんえい)なるを
敢以耳目煩神工   敢(あえ)て耳目(じもく)を以(もっ)て神工(しんこう)を煩(わずら)わす
歳寒水冷天地閉   「歳寒(としさむ)く 水冷(みずひやや)かに 天地閉(てんちと)じたれど
爲我起蟄鞭魚龍   我(わ)が為(ため)に 蟄(ちつ)を起(お)こし 魚竜(ぎょりゅう)を鞭(むち)うて」と
重樓翠阜出霜曉   重楼(ちょうろう) 翠阜(すいふ) 霜暁(そうぎょう)に出(い)で
異事驚倒百歳翁   異事(いじ) 百歳(ひゃくさい)の翁(おきな)を驚倒(きょうとう)せしむ」

「人の目にうつるものはすべて幻(まぼろし)の影だ、とは私も知りぬいてはいるが、なんとしてもこの感覚を楽しませるために神のおん手をわずらわそうと決意した。「冬が来て、水は冷たく天地の生気は衰えはてておりますが、神さま、どうか鞭をふるって冬眠さなかの魚や竜をたたきおこして下さい」と。すると、見よ、いくえにも重なりあった高楼とみどりの台地が、霜おく朝に現われ出たのだ。思いもかけぬ出来事に、百歳の故老もあきれはてるしまつ。」

「斜陽萬里孤鳥沒   斜陽(しゃよう) 万里(ばんり) 孤鳥(こちょう)没(ぼっ)す
但見碧海磨靑銅   但(た)だ見(み)る 碧海(へきかい)の青銅(せいどう)を磨(みが)けるを
新詩綺語亦安用   新詩(しんし) 綺語(きご) 亦(ま)た安(いずく)んぞ用(もち)いん
相與變滅隨東風   相与(あいとも)に変滅(へんめつ)して東風(とうふう)に随(したが)わん」

「かたぶく夕日の光の中に、万里のかなたに一羽の鳥が飛び去ったあとは、ただ青銅の磨きぬかれた鏡のように、青い海面がひろがるばかり。私のこの詩も、美しいことばをつらねはしても、何の役に立とうか。これとても東風がひとたび吹きおこれば、すぐに消えさって、万象の変滅と同じゆくえをたどろう。」
















































































































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Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

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