J・バルトルシャイティス  『幻想の中世 Ⅱ』  西野嘉章 訳 (平凡社ライブラリー)

「三つの偉大なレパートリー、すなわちまずはヘレニズム的古代、ついでイスラームが、そしてそのすぐ後に東アジアが介入してきた。これら三者は同じ向きで、同じ精神で影響力を発揮した。三者が一つに収斂したのは、主に幻想的なものの誘引力のなせる業であった。」
(J・バルトルシャイティス 『幻想の中世』 より)


J・バルトルシャイティス 
『幻想の中世 
― ゴシック美術における
古代と異国趣味 
Ⅱ』
西野嘉章 訳

平凡社ライブラリー 253/は-14-2

平凡社 
1998年7月15日初版第1刷
313p 
B6変型判(16.0cm) 並装 カバー 
定価1,200円+税
装幀: 中垣信夫
カバー・マーブル制作: 製本工房リーブル
カバー図版: ヒエロニムス・ボス《聖アントニウスの誘惑》部分、16世紀初頭、リスボン国立美術館蔵


「本書は一九八五年五月、リブロポートより初版刊行されたものの改訂新版です。」



Jurgis Baltrusaitis: Le Moyen Age Fantastique: Antiquités et exotismes dans l'art gothique

本文中図版(モノクロ)82点。


バルトルシャイティス 幻想の中世 02 01


帯文:

「イメージの東西交渉史」


カバー文:

「鳥形鬼神・器怪・誘惑図・死の舞踏・マンダラ・蓮華文……
イメージの絶えざる越境と異種交配を空前のスケールで描いた形体の詩学、
ここに完結。図版多数、2分冊。全面改訳決定版。」



目次:

第五章 蝙蝠の翼手と中国の鬼神
 第一節 中世における蝙蝠の翼手と龍の頭冠
  ロマネスク美術における翼のない悪魔と天使の翼を持った悪魔。
  十三世紀における翼手と棘冠の出現――人間、龍、怪物、騎士。
  レオナルド・ダ・ヴィンチの飛翔する人間。
 第二節 蝙蝠の翼手と東アジアの鬼神
  海龍。
  有翼人。
  李龍眠の地獄絵。
  雷神。
  西欧的不変性――垂乳根霊、樹木霊、象鼻霊、大耳一角獣、狗頭霊。
  唐代の甲冑。
 第三節 東アジアと西欧
  モンゴル人の侵攻と彼らの魅力。
  外交官と探検家。
  中国におけるフランシスコ会の世紀。
  タルタリカ。
  交易――織物と磁器。
  服飾――鶏冠帽と角錐帽。
  西欧のイメージ体系における中国人とモンゴル人。
 第四節 西欧における東アジアの絵画と地獄についての伝承
  ハイトン、イブン・バトゥータ、マルコ・ポーロの証言。
  黄金の龍を造ったギヨーム・ブーシェ。
  〈モンゴルの反キリスト〉神話、アルメニアにおいて――キラコスの『年代記』/西欧において――リカルド・ダ・モンテ・クローチェ、ロジャー・ベイコン。
  直接交流と符合。

第六章 東アジアの驚異
 第一節 東アジアの神々、それらの台座と光背
  多臂神と蛇神ナーガ。
  花冠台座をともなう〈エッサイの樹〉。
  水晶の光背。
  透明な宇宙。
  容器のなかの人間。
 第二節 生動する自然
  動物のかたちをした山岳と岩山。
  中国の地占術――風水、地に棲息する青龍と白虎。
  中国の画論における人間と動物のかたちをした風景。
  主山と客山。
  ペルシアの動物のかたちをした岩山。
  ゴシックの植物図譜における風水体系。
  西欧における生ける自然。
  壁の染みについてのレオナルド・ダ・ヴィンチと宋迪の解釈。
 第三節 生命ある器物
  ボスとブリューゲルの作品における器物の反乱。
  東アジアにおける人間化した器物と生ける道具類。

第七章 大いなる仏教的主題
 第一節 仏教と西欧の誘惑図
  東洋と仏の誘惑図。
  オリエントの聖アントニウス伝説。
  聖アントニウスの誘惑――万物襲来による絶えざる試練という主題の変容。
 第二節 〈死の舞踏〉と朽ち果てた死骸
  中世における死者との出会い、横たわる死者、立つ使者、踊る死者。
  古代の死霊。
  菩薩の第三・第四の出会い。
  西欧における死の諸相。
  墓碑彫刻。
  立つ死者――キジルおよびイタリアのフレスコ画における骸骨と修道士の問答。
  魔物化した骸骨、ヴェターラ、チティパティ。
  ラマ教の〈死の舞踏〉。
  ラマ教とフランシスコ会の中心地、北京。
  ヴォルゲムートのチティパティ。
 第三節 マンダラ
  仏教的マンダラ。
  ゴシック的マンダラ。
  輪廻の輪とその西欧的変容。
 第四節 ゴシックの幟

第八章 東洋の蓮華アーチ
 第一節 東洋の背向曲線
  蓮華アーチ――彫刻されたアーチ。
  インドと中国の石窟寺院。
  背向曲線の変形版。
  イスラーム風蓮華アーチとアルメニア風蓮華アーチ。
 第二節 西欧における背向曲線
  イギリスにおける蓮華アーチ――花綱飾りの蓮華アーチ、三重蓮華アーチ。
  フランボワヤン建築における蓮華アーチ――半円形の蓮華アーチ、籠の把手形の蓮華アーチ、平板な蓮華アーチ。
  土壌と時期の一致。

結論

平凡社ライブラリー版 訳者あとがき
解説――目で見る東西の驚異 バルトルシャイティスのおもしろさ (荒俣宏)
総索引



バルトルシャイティス 幻想の中世 02 03



◆本書より◆


「蝙蝠の翼手と中国の鬼神」より:

「十三世紀中頃、西欧に一つの新しい神話が誕生した。それはモンゴル人の呼び名と、そして彼らの攻撃を前に全世界の感じていた恐怖との共鳴に端を発した。侵略者は世界の終末を告げる悪魔――でなければとにかくその手先――だと考えられ、至福千年説的悪夢が再来したのだった。」
「また他方でタタール(tatar)の名がタルタル(tartar)、地獄(tartaros)に転ずるという、音韻上の混同も伝承の広がりに拍車をかけた。」



「東アジアの驚異」より:

「この東洋に特有なもう一つの像、水底の目も眩まんばかりに富の溢れる宮殿に棲む蛇神ナーガも西欧のイマジュリのなかに見出される。」

「仏教美術でも光線を遮る光背は利用されていたが、それと同時にまた別なタイプの光輪も見られる。すなわち、(中略)気体の環がそれである。頭部は背景を遮断することのない輝く陰によって取り巻かれている。(中略)暈は、あるいは細かい罫によって、あるいは明るい線によって描き出される。色と映り込み(ルフレ)が周辺部分に集まると光輪は水晶球のようになる。
 この種の光背は伝呉道子筆と伝李龍眠派筆の絵に見出される。それは元代から近代に至るまでよく見られた。聖人の肩の上には気泡のお化けが乗っている。背後に浮かび上がる岩山、流水、竹林もまた、そのなかに封閉されているかのように見える。(中略)水晶のなかには人物もまるごと閉じ込められた。羅稚川筆の画巻(十三世紀)では一人の阿羅漢が躰にまといつく怪物とともにそのなかに封じ込まれている。僧ソット=ナム(一四三九―一五〇五年)の夢を表したチベット絵画では、うら若い天女二人が長い布の両端を持ち、まるで球のなかにいるかのように光背に包まれた童子がその上を渡っている。壁は透明だが、その表面は硬そうに見える。」
「マティアス・グリューネヴァルトの《シュトゥパハの聖母子》(一五〇八―一二年)は球状の気体に包まれている。それは虹にも間違われ、聖母と世界の一部を密閉しているかのようだ。(中略)メムリンクは聖霊の鳩をまるで硝子の鳥籠に入れるかのようにその輝きのなかに置いてみせる。ピーテル・ホイスの作品とされている聖クリストフォロスはボスの伝統を引いているのだが、仏教の夢の童子のように球内に閉じ込められたキリストを背中に担いでいる。この球は光背であるというだけでなく、宇宙球でもあった。」
「この透明な球のなかにヒエロニムス・ボスは〈天地創造〉の光景を入れてみせた。」

「人間や動物など増殖した生命が森羅万象を少しずつ占領していく。山岳や岩山にまでそれが見出される。トルナイによればブリューゲルの絵には居眠りをしている怪物の姿を連想させる丘が見られるという。(中略)あるものはなだらかであり、あるものはごつごつしている。それぞれが固有の姿と命を持っているのだ。動物のかたちをした自然という観念はニコラウス・クサヌスとマルシリオ・フィチーノによって理論化され、この画家の絵で造形的なかたちをとることになった。十五世紀の人文主義者は古代エジプトの諸要素をギリシアの仲立ちを介して受け取ったが、自然を動物のかたちで表すという発想の原点は東アジアにあったのだ。
 ステルランは西欧と中国の幻想的風景のあいだにいくつもの相似性が指摘できるとしている。」
「秘められた力が地を生動させる。それらの力は二つの系統、すなわち男性的なるものと女性的なるもの、陽なるものと陰なるもの、青龍と白虎から成り立っている。自然は、その輪郭が地表に浮き出るこれらの獣とともに呼吸をし、生動している。龍の体幹や四肢は山や丘のなかに描き出される。そこには龍の静脈と動脈が見出される。しかし龍はけっして単独ではいない。その近くにはつねに虎が潜んでいるからである。怪獣の躰は不動ではない。それらは動き、分泌物にも似た霊的エネルギーを放っている。そのエネルギーは秘められた力を活性化させる大地の息のようなものだ。」



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こちらもご参照ください:

J・バルトルシャイティス 『幻想の中世 Ⅰ』 西野嘉章訳 (平凡社ライブラリー)
『バルトルシャイティス著作集 3 イシス探求』 有田忠郎 訳
R・ウィトカウアー 『アレゴリーとシンボル ― 図像の東西交渉史』 大野芳材・西野嘉章 訳 (ヴァールブルク・コレクション)
ジョスリン・ゴドウィン 『キルヒャーの世界図鑑』 川島昭夫 訳
彌永信美 『幻想の東洋 ― オリエンタリズムの系譜』 (新装版)





























































































































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