斎藤緑雨 『あられ酒』 (岩波文庫)

「愛さんとおもはゞ總てを愛せよ、憎まんとおもはゞ總てを憎めよ。予は何人をも愛さず、また何人をも憎まず。
されども今日の如きが世のさまならば、予は憎まれて憎まれて、猶且憎まれて憎まれて、彼れも我れも飽果つるまで、憎まれて憎まれて、而して死なんとおもふ。」

(斎藤緑雨 「一家言」 より)


斎藤緑雨 
『あられ酒』
 
岩波文庫 緑/31-111-1

岩波書店
1939年8月3日 第1刷発行
1985年11月7日 第5刷発行
231p
文庫判 並装 
定価400円



本書「解説」より:

「「あられ酒」は綠雨の種々な文章を收めた一種の作集で、明治三十一年十二月に刊行、題名も序文に記されている樣に、諸々(もろもろ)の文辭を集めたものであるとの意を奈良名物の霰酒に比したものであるが、かうした多樣な作を盛つた文集として、この集は特殊な體裁を成してゐる。それで本書はさうした趣きも偲ばれる樣に、すべて原本の初版に據つてその形の儘をとつた。」


正字・正かな。


斎藤緑雨 あられ酒


帯文:

「洗練された江戸の文化に通じ、寸鉄人を刺す諷刺と皮肉できこえた明治の奇人斎藤緑雨のきわめつきの雑文集。」


目次:

狂體ふる物揃

覿面
乙女
正直正太夫死す
大いに笑ふ
一家言
酒の上
鴎外漁史に與ふ
金剛杵
春一ダース、のこり物、小細工集、枯菊十句、ひとりごと、豆の花
方角早見五十音
おぼえ帳
ひかへ帳

解説 (湯地孝)




◆本書より◆


「一家言」より:

「愛さんとおもはゞ總てを愛せよ、憎まんとおもはゞ總てを憎めよ。予は何人をも愛さず、また何人をも憎まず。
されども今日の如きが世のさまならば、予は憎まれて憎まれて、猶且憎まれて憎まれて、彼れも我れも飽果つるまで、憎まれて憎まれて、而して死なんとおもふ。」
「遇はざるも可、遇はずとて山には入るまじ、山は聳ゆるのみ。容れられざるも可、容れられずとて水には入るまじ、水は流るゝのみ。終生遇はず容れられず、寧ろ快。盡くるなき世の盡くる迄も、猶遇はず容れられずんば、快更に大。其時予は一箇の世界たるを得べければなり。棄つることあらんや。」



「おぼえ帳」より:

「○おもひ逼りて心中と約したる男女(なんによ)の南無とばかりにひとしくモルヒネをのみしに、其量の少かりければ互に手を取合ひたるまゝ、いづれこの世は夢かうつゝか、ぐつすりと唯眠(ねぶ)りに眠りたるのみ。やがて目覺めたる女の、はやあの世といふへ來しとおぼえて、そと男を搖起し、ちよいとお聞きよ、こゝへも豆腐屋が來るよ。此は予が幼き折芳町にありたる話なり。」


「ひかへ帳」より:

「○幸(さち)なきはお前が姉樣、歳三つにて死したりと七つなる兒にきかすれば、では妹ぢやないか。」
「○意地惡き男の二人連(ふたりづれ)にて、不忍池のほとりを過ぎしに、死したる鮒の浮べるあり、土左衞門よと一人(ひとり)のいへば、水に棲む魚の水に死したるを溺るとは言はずと、一人(ひとり)のいふ。さらば何といふぞときほひ蒐(かゝ)れば、知れた事なり、鮒の行倒れ。
○これに似たるを昔話にて見たり、樂牽頭(がくだいこ)なりしと覺ゆ。鮒の娘鯉と通じけるも、いづれ添はれぬ世をはかなみて、寧(いつそ)死なんと鰭と鰭とを搦み合せ、網船の中にひらりと跳込(はねこ)む。」































































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ひとでなしの猫

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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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