新村出 『新編 琅玕記』 新村徹 編 (講談社文芸文庫)

新村出 
『新編 琅玕記』
新村徹 編
 
現代日本のエッセイ
講談社文芸文庫 し F 1 

講談社 
1994年9月10日 第1刷発行
337p 索引17p 付記1p
文庫判 並装 カバー
定価980円(本体951円)
デザイン: 菊地信義


「本書は一九八一年四月刊旺文社文庫『新編 琅玕記』を底本とした。」



本書所収参考資料「旺文社文庫版編者はしがき」より:

「『琅玕記』には、全六十一編が収められているが、そのうちから、著者自身の身辺雑記、追憶回想編といったもの、また学術論文・考証的なものは、これを省いた。逆に言えば、語源語史に関わるものを中心に、南蛮情緒の香のあるもの、文体としての随筆は、これを残し留めた。」
「以上のような基準で『琅玕記』から採った編数は、三十編で、原著の約半分にとどまる。(中略)その上に、姉編とも言える『南蛮記』から「日本一と日本晴」を、『南蛮更紗』から「近世輸入服飾品とその名称」「ちゃるめら」「二十八宿の和名」「鋤焼物語」の四編、計五編を冒頭に加えた。また(中略)「左か右か」は、その後により詳しい「左と右」(『東亜語源志』所収)が書かれているので、それと差しかえた。さらに、「琅玕余材」(『あけぼの』所収)が末尾に加えてある。」
「原典は、(中略)『新村出全集』(筑摩書房刊)よりとり、その後明らかにされた誤記、誤植は訂正した。」
「原典の旧仮名は、すべて現代仮名遣いに改めた。文中の引用文は、原文のままである。」
「漢字の一部を平仮名に改め新たに多くルビを附した。また、読点も増やし、一部改行もほどこした。」



新村出 琅玕記


カバー裏文:

「『広辞苑』の編者新村出博士の名著と名高い語源探索の書『琅玕記(ろうかんき)』全六十一編の随筆から、令孫新村徹氏が三十余編を選んで「新編」とした。
「更紗」「キセル」の語源を尋ねて南蛮の情緒にひたり、
「亜剌比亜馬と波斯馬」を語って『魏志』『後漢書』の
倭国の記述に始まり、秀吉を経て将軍吉宗の馬匹改良の話に達す。興趣尽きぬ、琅玕の玉にも比すべき随筆集。」



目次:

日本一と日本晴
近世輸入服飾品とその名称
ちゃるめら
二十八宿の和名
鋤焼物語
うぶすな考
うぶすなにあまえる
山言葉
とても補考
御大切という言葉
愛という言葉
法被を着て
時間を測る器
左と右
船に関する二、三の名称
船に丸号をつけた起源
問屋の名義
ぽんと町称呼考
贅六物語
愛智随筆
買驢漫筆
牛肉史談
巳駄話
亜剌比亜馬と波斯馬

更紗散録
煙管
キセルの語源
南瓜随筆
無花果随筆
芭蕉の切株
薔薇露
雲雀東風
和蘭勧酒歌
南蛮酒に酔いて
南蛮贅録
琅玕余材

【参考資料】
 旺文社文庫版編者はしがき (新村徹)

人と作品 (森岡健二)
年譜
著書目録
索引




◆本書より◆


「南蛮酒に酔いて」より:

「京は烏丸(からすま)通りの西がわを、二条からおのおの南北に少し上り下りするところに私の興味をそそった店が二軒ある。(中略)二条南の一軒の方はカステラ屋であって、暖簾には上段に赤く BENIMODENRAI と横書してあり、その真下には片仮名で縦にカステラと墨書し、その右方には花丸ボウル、と書き、左方には越後屋としてある。暖簾の地はズックのような白木綿であるが真ん中で縦に二枚をつぎあわしてある。幅も丈も五尺ほどあろうか。異様に古風な暖簾である。
 二年ほど前に私はTという経済学士から、上記の横文字の何という意味であるかを尋ねられて、DEZIMADENRAI という綴りを間違えてああ書いたので、元はデジマデンライすなわち出島伝来という意味ではなかったのかと故事附けておいた。長崎出島の蘭人からの伝来というわけである。DがBに、ZがNに、そしてAがOに字体の転訛やら書きちがえやらで変ったのであろうと私は考えてみたのであった。
 しかるに今度その家にいってカステラを買いながら主人らしい人にきいてみると、先祖が長崎へいって紅毛人から伝来して来たので、それをベニケデンライと書いたのだという。私は紅毛をベニケではなくしてむしろベニモと訓(よ)んだのであろうと思うが、私は自分が出した前説の少しく穿(うが)ちすぎたの嫌いのあることを微笑せずにはいられなかった。(中略)ともかくも私は、物好きにもこんなことを聞き出すためにカステラを買いにはいったのである。それから家に帰り、紅茶をすすりながらそれを二切れ食べてこの原稿を書きはじめたのである。そのカステラがおまけに古いオランダ焼の小皿の上にのせられて出て来たものだから、とみに興が乗って来た。
 しかし私が最初この一篇を書いてみようという気を起したのは、カステラのせいではない。実はもう一軒の方の酒屋で買った南蛮酒のおかげである。越後屋の前から烏丸通りの西側を歩いて二条を横ぎり、およそ十軒ほど上がった所に中徳という酒屋がある。(中略)格子の前に、南蛮酒、ねり酒、みりん、焼ちう、と幅二寸五分ほど丈一尺ほどの板に文字を刻んで胡粉(ごふん)で塗った雅致のある古めかしい看板が四枚並んで懸っている。
 正月の中ごろだと思うが、烏丸通りのプラターヌスの街路樹を電車の中からじいっと見入っていたとき、ふと前々から念をかけていた南蛮酒の看板のみが一枚特に目にはいったのであった。私は今日こそはと二条で下車して歩をはやめてその酒屋にはいった。いきなり南蛮酒を一本と番頭さんに言った。私は酒屋に酒を買いにいったのはこれが生れてはじめてである。壜詰(びんづめ)はございませんと番頭さんはことわった。一たいどんな酒なんだと私は尋ねた。まあ焼酎と味醂(みりん)との間のものでございますという。私は少し失望せざるを得なかった。看板の並べあいでもすぐに察しられそうにもあったのだし、書物を見るなり人の話を聞くなりして自然会得がゆくはずであったのに、私は名にひかされて、何だかエキゾチックな香りのまだ失(う)せないあるものを求め得るかのような気がしたので、突如とびこんでしまったのである。」


















































































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Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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