セリーヌ 『夜の果ての旅 (上)』 生田耕作 訳 (中公文庫)

セリーヌ 
『夜の果ての旅 (上)』 
生田耕作 訳
 
中公文庫 C 22 

中央公論社
昭和53年2月25日 印刷
昭和53年3月10日 発行
335p
文庫判 並装 カバー
定価400円
カバー絵: Clément Serveau による挿画より



下巻「解説」(生田耕作)より:

「この翻訳は中央公論社より「世界の文学」第四十二巻として、大槻鉄男氏との共訳で刊行されたものであるが、今回「中公文庫」に収めるに当って、生田が単独に全面的改訳を施し、(中略)個人訳として発表することに改めた。」


セリーヌ 夜の果ての旅 上


カバー裏文:

「全世界の欺瞞を呪詛し、その糾弾に生涯を賭け、ついに絶望的な闘いに傷つき倒れた《呪われた作家》セリーヌの自伝的小説――人生嫌悪の果てしない旅をつづける主人公バルダミュの痛ましい人間性を、陰惨なまでのレアリスムと破格な文体で描いて、「かつて人間の口から放たれた最も激烈な、最も忍び難い叫び」と評される現代文学の巨篇」




◆本書より◆


「この世は旅さ
冬の旅、夜の旅
一筋の光も射(さ)さぬ空のもと
俺たちゃ道を求めて進む
              「スイス衛兵の歌」一七九三年」


「旅に出るのは、たしかに有益だ、旅は想像力を働かせる。
これ以外のものはすべて失望と疲労を与えるだけだ。僕の
旅は完全に想像のものだ。それが強みだ。
それは生から死への旅だ。ひとも、けものも、街(まち)も、自然
も一切が想像のものだ。これは小説、つまりまったくの作
り話だ。辞書もそう定義している。まちがいない。
それに第一、これはだれにだってできることだ。目を閉じ
さえすればよい。
すると人生の向こう側だ。」


「「本当なの? フェルディナン、あなたほんとに気が狂っちまったって」
 ある木曜日ローラはたずねた。
 「そのとおりだよ!」
 僕は正直に言った。
 「それで、ここでなおしてくださるの?」
 「ローラ、恐怖をなおしたりはできないさ」
 「そんなに恐ろしいの?」
 「そんなどころじゃないさ、ローラ、わかるかい、恐ろしいのなんのって、僕が死んでも、火葬だけはご勘弁ねがいたいほどさ! 土の中にそっとしといて、そこで、墓場で、静かに腐らせてほしいんだ、いつでも生き返れる姿勢でね……万に一つということもあるからね! ところが焼いて灰にされちまえば、わかるかい、ローラ、もうおしまいさ、完全におしまいさ……骸骨(がいこつ)のほうが、なんといっても、まだしも人間に近いからね、灰よりはまだ生き返りやすい……灰になればおしまいだよ! ちがうかい?……だからさ、戦争が……」
 「まあ! そいじゃ、あなたは本当に腰抜けなのね、フェルディナン! なさけない人、どぶ鼠みたい……」
 「そうだよ、ほんとの腰抜けさ、ローラ、僕は戦争を否定するね、それに戦争のお添え物も、何から何まで……僕は戦争に弱音をはいたりはせんよ……僕はあきらめんつもりだ、僕は……めそめそ泣いたりはせん……僕はそいつをきっぱり否定するんだ、そいつに荷担する連中も、なにもかも、その連中とも、戦争とも、僕はなんのかかり合いも持ちたくない。たとえ奴らが七億九千五百万人で、僕のほうはひとりぼっちでも、まちがってるのは奴らのほうさ、ローラ、そして正しいのは僕のほうさ、なぜなら僕の願いは僕にしかわからんのだから。僕はもう死ぬのはごめんさ」
 「でも戦争を否定したりはできないわ、フェルディナン! 祖国が危機に瀕しているときに、戦争を否定するなんて、気違いか臆病者(おくびょうもの)ぐらいよ……」
 「そんなら、気違いと臆病者万歳さ! いや気違いと臆病者生き残れだ。たとえばだよ、ローラ、君は百年戦争のあいだに殺された兵隊のうちの一人でもその名前を思い出せるかい? そういう名前の一つでも知ろうという気を起こしたことが今までにあるかい?……ないだろう、どうかね?……君は一度だってそんな気になったことはなかっただろう? その連中は君にとっては、この文鎮のいちばん小さい粒や、君の毎朝の うんこ と同じくらい、名もない、興味もない、もっと無縁な存在だよ……だからわかるだろう、奴らは犬死したんだ、ローラ! まったくの犬死さ、ばかな奴らさ! 断言していいね! こいつは証明ずみさ! 値打ちのあるのは命だけさ、今から一万年もすれば、賭(か)けてもいいね、この戦争も、今はどんなに重大な出来事に見えていても、完全に忘れられてしまうだろう……十人ほどの学者がたまに機会があれば、議論するぐらいが関の山さ、この戦争の名を高めた主な殺戮の日付けについてね……数世紀後、数年後、いや数時間後に、この問題について世間の奴らが発見する記憶に値するものといったら、それくらいのものさ……僕は未来なんか信じないね、ローラ」
 僕がおのれの恥ずべき状態をぬけぬけとひけらかす人間に変わったのを知ったとき、ローラは僕に対する同情をすっかりひっ込めてしまった……人間の風上にも置けぬ奴と判断したのだ、きっぱり。」


「どこへ行っても、人間には高望みがついてまわるものである。僕の場合は、病人になる使命を授かっていた、常に病人。人さまざまだ。」





こちらもご参照下さい:

セリーヌ 『夜の果ての旅 (下)』 生田耕作 訳 (中公文庫)























































































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