『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』 会田由 訳 (岩波文庫)

「わたくしは、これまで仕えたさもしい主人どものもとをのがれて、もっとましな主人を求めていたというのに、たまたま出会った主人というのが、わたくしを食べさせてくれないばかりか、わたくしのほうでその男を養っていかなければならないという、わたくしの不運を、今さらながら幾度も考えたことでございました。とはいうものの、彼が何も持ってないばかりか、何ひとつ出来ないことを見ているうちに、この男がむしろ好きになってまいりました。」
(『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』 より)


『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』 
会田由 訳
 
岩波文庫 赤/32-720-1 

岩波書店 
1941年3月5日 第1刷発行
1972年9月16日 第5刷改版発行
1990年9月15日 第13刷発行
125p
文庫判 並装 カバー
定価260円(本体252円)



「編集部付記」より:

「本書は初訳が昭和十六年岩波文庫で発表され、その後昭和三十九年に筑摩書房『世界文学大系第七四巻』に改訳収録されたもので、(中略)それを再び本文庫に収めることとなった。」


LA VIDA DE LAZARILLO DE TORMES, Y SUS FORTUNAS Y ADVERSIDADES


ラサリーリョデトルメスの生涯


カバー文:

「少年ラーサロが、悪知恵にたけた盲人や欲深坊主、貧乏なくせに気位は高い従士やいんちき免罪符売りと、次々に主人をわたり歩いてなめるさんざんな苦労の数々。16世紀当時のスペインの社会や下層民の生活が風刺鋭く、簡潔な描写で赤裸々に写しだされてゆく。ピカレスク小説をヨーロッパに流行させるさきがけとなった傑作。」


内容:

まえおき
第一話
 ラーサロが身の上と、何者の子であったかを物語る。
第二話
 ラーサロが一人の聖職者に仕えることになった次
 第と、その男と共に遭遇したことどもについて
第三話
 ラーサロが一人の従士につかえた次第と、主人と
 共に遭遇したことについて
第四話
 ラーサロがメルセード会の修道僧に仕えることに
 なった次第と、彼と共に遭遇したことについて
第五話
 ラーサロが一人の免罪符売り(ブルデーロ)に仕えることになっ
 た次第と、彼とともに遭遇したことどもについて
第六話
 ラーサロが一司祭に仕えることになった次第と、
 彼と共に遭遇したことについて
第七話
 ラーサロが一人の捕方に仕えることになった次第
 と、彼と共に遭遇したことについて

訳注
解説




◆本書より◆


「まえおき」より:

「まことに際立った、おそらくはこれまで耳にしたことも、目にしたこともないことどもが、大勢の方々のお耳にはいって、忘却の墓場に埋もれてしまわないということは、結構なことと、わたくしは思うのでございます。それと申すのも、そういうことどもをお読みあそばした方のうちには、何かたのしいとお思いになるところもございましょうし、またさして深く詮索(せんさく)なさらない方々にも面白いとお思いになることもあろうかと思うからでございます。されば、プリニウスも「いかに悪い書物であろうと、何かよいところのない書物はない」と申しているのも、この辺のところを指したのでございます。
 わけても、人の好みと申すものは、すべて一様ではございません。一人が食べないものでも、他の者はそれが無性(むしょう)に食べたいという始末でございます。だからある方にとって、取るにたらぬことがらが、他の方々には、けっしてそうではないということが見うけられるのでございます。それだからこそ、よしんば見たところ、ひどくいとわしいものでも、これを破いたり、くだらないとなげうったりしてはならない、いや、それどころか、むしろ害にならないばかりか、その中から、何かしら有益なものを引き出すことさえ出来るのですから、すべての方々に伝わってほしいものでございます。」



「第一話」より:

「ちょうどその頃、たまたまこの宿に、一人の盲人が投宿にやってまいりまして、これがわたくしを手引きにもってこいと考えて、お袋にわたくしをくれと申しこみますと、お袋も、(中略)わたくしを彼の手にゆだねたのでございます。」
「わたくしたちがサラマンカを出て、ちょうど橋のところへさしかかりますと、その橋の渡り口のところに、どうやら牡牛の形をした石の動物像がありました。すると盲(めくら)はわたくしにその動物像のそばへ行けと命じ、わたくしがそこへ行くと、こう申しました。
 「おい、ラーサロ、この牛に耳をあてて見な、中でどえらい音が聞こえるから」
 そこで、わたくしは、ごく無邪気に、そうかなと思って耳を近づけました。すると、奴はわたくしがいよいよ石のそばに頭を持っていったなと感じとると、手にぐいと力をこめて、その牛の畜生に向かって、わたくしの頭をがあんと一つ、思いきりぶっつけたものです。おかげでそれから三日の上も、その頭突きが痛みつづけたほどでしたが、それでわたくしにこう言ったものです。
 「馬鹿野郎、覚えておくがいい。盲の手引き小僧ってものは、悪魔よりかちょっとばかり利口でなくっちゃならんのだぞ」
 そうして、この冗談を大いに笑ったものでございます。
 これまで子供のように眠りこんでいた無邪気さから、わたくしがはじめて目を覚ましたのは、正にあの瞬間だったように、わたくしには思われました。
 そこでわたくしはひそかに、心の中で申しました。
 「こいつの言うのは本当のことだ。つまりおれは、目を見開いて、何ごとにもよく気を配っていることだ。何をいうにもおれは一人ぼっちなんだからな、だから自分でどうやっていったらよいかも考えることだ」
 それからわたくしたちは旅路にのぼりましたが、そのほんの数日のあいだに、奴はわたくしに、隠語を教えてくれました。そうして、わたくしがなかなか利口なことを知って、ひどく喜んで、こう申しました。
 「わしは、金とか銀とかいうものは、お前にやることは出来ないがね、しかし生きるうえに必要な知恵なら、いくらでも貴様に教えてやろう」
 これはまったくその通りでございました。この男は神様についでわたくしに生活というものを与えてくれ、盲でありながら、わたくしの目を開いてくれ、人生行路の手引きをしてくれたのですから。」





こちらもご参照下さい:

『放浪学生プラッターの手記』 阿部謹也 訳






































































































































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