西脇順三郎 『近代の寓話』 (復刻版)

「人間でないものを愛する人間の
秋の髪をかすかに吹きあげる風は
音もなく流れて去ってしまう。」

(西脇順三郎 「山櫨の実」 より)


西脇順三郎 
『近代の寓話』 
(復刻版)


恒文社
1995年2月20日 発行
220p 口絵(モノクロ)1葉 
22.6×14.6cm
丸背バクラム装上製本 カバー 
機械函
定価5,000円(本体4,854円)


「本書は昭和28年発行創元社版の復刻です。」



西脇順三郎 近代の寓話 06


復刻版函。題箋が貼付されています。


西脇順三郎 近代の寓話 01


カバー表。


西脇順三郎 近代の寓話 02


カバー裏。


西脇順三郎 近代の寓話 03


目次:

近代の寓話
キァサリン
アン・ヴァロニカ
冬の日

秋の写真
梅のにがさ
南画の人間
☆(マチスのデッサンに)
桃の国
無常
冬の日

山櫨の実
人間の記念として
磁器
午後の訪問
甲州街道を

山の酒
アタランタのカリドン
かなしみ
粘土
ナラ
一月
枇杷
庭に菫が咲くのも
道路
五月
冬の会話
夏から秋へ

地獄の旱魃
フェト・シャンペエトル
呼びとめられて
草の葉
夏の日
花や毛虫
燈台へ行く道
山の暦
イフィヂェネアの剥脱
生命の祭祀
野の会話
留守
プロサラミヨン
たおやめ
かざり
紀行
修辞学
自然詩人ドルベンの悲しみ
体裁のいゝ景色
ESTHETIQUE FORAINE



西脇順三郎 近代の寓話 04



◆本書より◆


「近代の寓話」より:

「四月の末の寓話は線的なものだ
半島には青銅色の麦とキャラ色の油菜
たおやめの衣のようにさびれていた
考える故に存在はなくなる
人間の存在は死後にあるのだ
人間でなくなる時に最大な存在
に合流するのだ私はいま
あまり多くを語りたくない」

「アンドロメダのことを私はひそかに思う
向うの家ではたおやめが横になり
女同士で碁をうっている」



「キァサリン」より:

「杏子色の夕焼け
露のような女は
山猫のような影になる
春から夏へ夏から秋へ
このコンクリートの路の上で
人間は恐ろしくしゃべっていた。」



「アン・ヴァロニカ」:

「男と一緒に――
その男は生物学の教授――
アルプスへかけおちする前
の一週、女は故郷の家にひそかな
離別の気持を味うので来ていた。
昔の通りの庭でその秘密をかくして
恋心に唇をとがらしていた。
鬼百合の花をしゃぶってみた。
「壁のところで小供の時

地蜂
おやじ
の怒りにもかゝわらず
梅の実をぬすんでたべたこともあったわ。」
この女にその村であった
村の宿屋でスグリ酒と蟹をたべながら
紅玉のようなランポスの光の中で
髪を細い指でかきあげながら話をした
「肉体も草花もあたしには同じだわ」」



「秋Ⅱ」:

「タイフーンの吹いている朝
近所の店へ行って
あの黄色い外国製の鉛筆を買った
扇のように軽い鉛筆だ
あのやわらかい木
けずった木屑を燃やすと
バラモンのにおいがする
門をとじて思うのだ
明朝はもう秋だ」



「秋の写真」より:

「十一月の初めに
歩く朝の孤独のために
この一生のたくらみを
記するだけのことだ。」



「無常」より:

「バルコニーの手すりによりかかる
この悲しい歴史
水仙の咲くこの目黒の山
笹やぶの生えた赤土のくずれ。
この真白い斜塔から眺めるのだ
枯れ果てた庭園の芝生のプールの中に
蓮華のような夕陽が濡れている。」



「冬の日」より:

「すべてを失った今宵こそ
ささげたい
生垣をめぐり蝶と戯れる人のため
迷って来る魚狗(かわせみ)と人間のため
はてしない女のため
この冬の日のために
高楼のような柄の長いコップに
さんざしの実と涙を入れて。」



「山櫨の実」:

「なぜ私はダンテを読みながら
深沢に住む人々の生垣を
徘徊しなければならないのか
追放された魂のように。
青黒い尖った葉と猪の牙のような
とげのある山櫨(さんざし)の藪になっている
十月の末のマジエンタ色の実のあの
山櫨の実を摘みとって
蒼白い恋人と秋の夜に捧げる
だけのことだ。
なぜ生垣の樹々になる実が
あれ程心をひくものか神々を通貫
する光線のようなものだ。
心を分解すればする程心は寂光
の無にむいてしまうのだ。
梨色になるイバラの実も
山櫨の実もあれ程 Romantique なものはない。
これほど夢のような現実はない。
これほど人間から遠いものはない。
人間でないものを愛する人間の
秋の髪をかすかに吹きあげる風は
音もなく流れて去ってしまう。」



「呼びとめられて」より:

「菜種の畑を
蛇のようにはってみた。」



「夏の日」より:

「夕べにはつばめの翼
我が心はかたむく
草の茎に沈む日をみて」



西脇順三郎 近代の寓話 05










































































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

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難破した人々の為に。

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趣味: 図書館ごっこ。

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将来の夢: 石ころ。

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