『ラヴクラフト全集 5』 大瀧啓裕 訳 (創元推理文庫)

「吐き気催すような音をだす弦楽器、金管楽器、木管楽器があり、ときとしてセント・ジョンとわたしは、いうにいわれぬ陰鬱さや魔的な凄絶(せいぜつ)さをたたえた不協和音を奏でたてた。」
(H・P・ラヴクラフト 「魔犬」 より)


H・P・ラヴクラフト 
『ラヴクラフト全集 5』 
大瀧啓裕 訳
 
創元推理文庫 523-5 

東京創元社
1987年7月10日 初版
1991年9月20日 8版
349p
文庫判 並装 カバー
定価500円(本体485円)
カバーイラスト: Virgil Finlay
カバーデザイン: 龍神成文



本書「作品解題」より:

「ラヴクラフト全集第五巻にあたる本書には、後にダーレスによってクトゥルー神話の母胎とされるにいたった作品を中心に収録した。」


巻頭カット1点、「資料」中モノクロ図版3点、「作品解題」中モノクロ図版18点。


ラヴクラフト全集 05


カバー裏文:

「二十世紀最後の怪奇小説作家H・P・ラヴクラフト。その全貌を明らかにする待望の全集――本巻には、医学生のおぞましい企てを描く「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」、ニューヨークの貧民街に巣食う邪教のともがらがもたらす「レッド・フックの恐怖」など、クトゥルー神話の母胎とされる全八編を収録。諸君は一読、鬼才の王国に虜となるであろう。」


巻頭文:

「虚空に黯黒(あんこく)の光芒を放つ巨星ラヴクラフト。本巻には、Uボートの艦長が深海の底でアトランティスに遭遇する「神殿」、医学生のおぞましい企てを描く「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」、ニューヨークの貧民街に巣食う邪教のともがらがもたらす「レッド・フックの恐怖」、セイレムの魔女裁判の史実を巧みに取り込んだ「魔女の家の夢」等、クトゥルー神話の母胎とされる全八編を収録した。巻末に資料「ネクロノミコンの歴史」を付す。鬼才の統(す)べる王国に虜囚となった読者は、二度と俗界に立ち返れぬであろう。」


目次:

神殿
ナイアルラトホテップ
魔犬
魔宴
死体蘇生者ハーバート・ウェスト
レッド・フックの恐怖
魔女の家の夢
ダニッチの怪
資料 『ネクロノミコン』の歴史

作品解題 (大瀧啓裕)




◆本書より◆


「神殿」より:

「吾輩はなだめすかせる考えを改め、おまえは狂っている、憐れむべき狂人にちがいないといってやった。しかしクレンツェは動じることもなく、こう叫んだ。「おれが狂っているのなら、それは慈悲というものだ。無神経なあまり悍(おぞ)ましい最期にも正気でいられる者に、神々の憐れみがあらんことを。」」


「ナイアルラトホテップ」より:

「ナイアルラトホテップ……這(は)い寄る混沌……わたしは最後の者であり……耳かたむける虚空に語りかけよう……
 いつはじまったのか、はっきりした記憶はないが、数ヵ月まえのことだったはずだ。世間一般の緊張は恐ろしいほどだった。政治的にも社会的にも大変動がおこった時期に、肉体が由々しい脅威にさらされているという、いまだかつてなかった不安がたれこめたのだ。あまねく浸透して、ありとあらゆるものをつつみこむこの脅威は、およそ凄絶(せいぜつ)きわまりない夜の幻夢においてしか想像しえないようなものだった。(中略)はなはだしい罪の意識が国じゅうにたちこめ、星たちのあいだの深淵から冷たい流れが吹き寄せて、暗くわびしい場所で人びとを震えあがらせた。季節のうつりかわりに凶(まが)まがしい変化が生じていた――秋の熱気が恐ろしくもいつまでも尾をひいて、この世界、そしておそらくは宇宙までもが、馴染(なじみ)深い神々、ないしは未知の力の支配をうけなくなったのではないかと、そう誰しもが思ったものだ。」



「ダニッチの怪」より:

「「あれは――そうですな、おおざっぱにいうなら、われわれの宇宙には属さない力のようなものだったのですよ。われわれの自然が備えるのとは別な法則によって、行動し、成長し、自らの姿を形づくる一種の力だったのです。」」


「作品解題」より:

「ラヴクラフトは自作の『クルウルウの呼び声』にふれ、「名前だけの怪奇さを求め、既知のものや馴染(なじみ)深いものにしがみついて離れない」読者をあげつらい、自分の書くものはそうした読者の要望にしたがうものではないとして、こう記している。

  さて、わたしの小説のすべては、人間一般のならわし、主張、感情が、広大な宇宙全体においては、何の意味も有効性ももたないという根本的な前提に基づいています。わたしにとって、人間の姿――そして局所的な人間の感情や様態や規範――が、他の世界や他の宇宙に本来備わっているものとして描かれる小説は、幼稚以外の何物でもありません。時間であれ、空間であれ、次元であれ、真の外在性の本質に達するためには、有機生命、善と悪、愛と憎、そして人類と呼ばれるとるにたらぬはかない種族の限定的な属性が、すべて存在するなどということを忘れ去らなければならないのです。人間の性質をおびるものは、人間が見るものや、人間である登場人物だけに限定されなければなりません。これらは(安っぽいロマンティシズムではなくして)徹底したリアリズムでもってあつかう必要がありますが、果のない慄然(りつぜん)たる未知の領域――影のつどう外界――に乗りだすときには、忘れることなくその戸口において、人間性というもの――そして地球中心の考えかた――をふりすてなければならないのです。

 ラヴクラフトの意気ごみのほどを如実に物語るこの信条告白によっても、ラヴクラフトの諸作品が、あまりにも人間中心的な善悪二元論に立脚するダーレスのクトゥルー神話と、厳然たる一線を画するものであることは明らかだろう。」





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『ラヴクラフト全集 4』 大瀧啓裕 訳 (創元推理文庫)




























































































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難破した人々の為に。

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