『ラヴクラフト全集 6』 大瀧啓裕 訳 (創元推理文庫)

「クラネスは当世風の男ではなく、他の作家たちのように考えることをしなかった。他の作家たちが人生から神話という刺繍(ししゅう)いりのローブをはぎとり、むきだしの醜さのうちに現実という穢(きたな)らしいものを示そうとしているのにひきかえ、クラネスは美のみを探し求めたのである。」
(H・P・ラヴクラフト 「セレファイス」 より)


H・P・ラヴクラフト 
『ラヴクラフト全集 6』 
大瀧啓裕 訳
 
創元推理文庫 523-6 

東京創元社
1989年11月24日 初版
1991年9月20日 3版
357p
文庫判 並装 カバー
定価530円(本体515円)
カバーイラスト: Virgil Finlay
カバーデザイン: 龍神成文



本書「作品解題」より:

「ラヴクラフト全集第六巻にあたる本書は、ランドルフ・カーターを主人公とする一連の作品を柱として、これに密接にかかわる初期のダンセイニ風掌篇をあわせ収録した。」


巻頭カット1点、「作品解題」中モノクロ図版21点。


ラヴクラフト全集 06


カバー裏文:

「二十世紀最後の怪奇小説作家H・P・ラヴクラフト。その全貌を明らかにする待望の全集――本巻には、作者の分身たるランドルフ・カーターを主人公とする一連の作品、および、それと密接に関わる初期のダンセイニ風掌編を収録した。波瀾万丈の冒険小説「未知なるカダスを夢に求めて」等全九編は、諸氏の魂を電撃のごとく震撼せずにはおかぬであろう。」


巻頭文:

「怪奇小説の世界に壮麗な大伽藍を築いた鬼才ラヴクラフト。本巻には、作者の分身たるランドルフ・カーターを主人公とする一連の作品、および、それと密接に関わる初期のダンセイニ風掌編を収録し、この稀有な作家の軌跡を明らかにする。猫を愛する読者なら快哉を叫ぶ佳編「ウルタールの猫」、神々の姿を窺わんとする賢者の不敵な企てを描く「蕃神」、巨匠が書き残した最大の冒険小説、古典の伝統をふまえた波瀾万丈の「未知なるカダスを夢に求めて」等、全九編は、諸氏の魂を電撃のごとく震撼するであろう。」


目次:

白い帆船
ウルタールの猫
蕃神
セレファイス
ランドルフ・カーターの陳述
名状しがたいもの
銀の鍵
銀の鍵の門を越えて
未知なるカダスを夢に求めて

作品解題 (大瀧啓裕)




◆本書より◆


「ウルタールの猫」より:

「スカイ河の彼方に位置するウルタールでは、何人(なんぴと)も猫を殺してはならないそうだが、暖炉のまえに坐りこんで喉(のど)を鳴らしている愛猫(あいびょう)に目をむけるなら、まことにさもありなんと首肯できる。それというのも、猫は謎めいた生きものであり、人間には見えない不思議なものに近いからだ。猫はアイギュプトスと呼ばれた太古から流れるナイル河の魂であり、古代エチオピアのメロエやアラビア南部はオフルの忘れ去られた邑(まち)の物語をいまに伝えるものである。密林の支配者の血縁であり、蒼枯(そうこ)たる不気味なアフリカの秘密を継承するものでもあるのだ。スフィンクスは遠戚(えんせき)にあたり、猫はスフィンクスの言葉を解するが、スフィンクスよりも齢を重ね、スフィンクスが忘れはてたことをおぼえている。」


「セレファイス」より:

「金も土地も失ってしまったいま、世人のやり方を気にかけることもなく、夢を見て、その夢を書きとめることを好んだ。こうして書きあげたものを見せて笑われたため、しばらくは誰にも見せずに書きつづけたとはいえ、結局は書くのをやめてしまった。世間から身をひくにつれ、見る夢はいよいよ素晴しいものになっていくばかりなのだから、そうした夢を紙に書きとめようとすることなど、およそむなしい営みだろう。クラネスは当世風の男ではなく、他の作家たちのように考えることをしなかった。他の作家たちが人生から神話という刺繍(ししゅう)いりのローブをはぎとり、むきだしの醜さのうちに現実という穢(きたな)らしいものを示そうとしているのにひきかえ、クラネスは美のみを探し求めたのである。真実や経験では美を顕(あら)わすにいたらないと知るや、空想や幻想のなかにこれを探し、ほかならぬつい間近、幼年時代に見た夢や聞いた話の、おぼろな記憶のうちに見いだしたのだった。」


「銀の鍵」より:

「ランドルフ・カーターは三十になったとき、夢の世界の門を開く鍵を失くしてしまった。そのときまで、宇宙の彼方の不思議な古代都市、あるいは天の海をへだてた信じがたくも麗(うるわ)しい楽園の土地へと、夜ごと旅をすることによって、凡庸な人生に欠けているものを補っていたのだが、中年という齢が重くのしかかるにつれ、そうした自由がすこしずつ失われていくのを感じ、それがついには完全に絶たれてしまったのである。もはやカーターのガレー船も、金色燦然(こんじきさんぜん)たるトゥーランの尖塔(せんとう)を尻目にオウクラノス河をさかのぼることはなく、筋模様の入った象牙の柱を擁する忘れ去られた宮殿が、月影の下でつきせぬ華麗な眠りにつくクレドのかぐわしい密林を、象の隊商が重い足音をひびかせて進むこともなかった。」


「銀の鍵の門を越えて」より:

「その生涯を通じ、覚醒時の現実の倦怠と気づまりから遁(のが)れ、伝説に名高い異次元の街並や誘い招く夢の景観に没入しようとしつづけたランドルフ・カーターが、五十四歳をむかえた一九二八年の十月七日、地上から姿を消してしまったのである。」
「乗りすてられていた車のなかに、香木から造られたとおぼしき悍(おぞ)ましい彫刻のほどこされた箱と、何人(なんぴと)にも読めぬ文字の記された羊皮紙とが発見された。銀の鍵はなかった――おそらくカーターが携えていったのだろう。それ以外に確固とした手がかりは何一つとしてなかった。」

「地球の歴史上、知られていたり推測されていたりするあらゆる時代、そして知識や推測や真疑を超絶する地球の実体が支配した劫初(ごうしょ)の時代、そうした時代に属する環境のすべてに、カーターがいた。カーターは、人間であり非人間であり、脊椎(せきつい)動物であり無脊椎動物であり、意識をもつこともありもたないこともあり、動物であり植物であった。さらに、地球上の生命と共通するものをもたず、他の惑星、他の太陽系、他の銀河、他の時空連続体の只中を法外にも動きまわるカーターたちがいた。世界から世界へ、宇宙から宇宙へと漂う、永遠の生命の胞子がいたが、そのすべてが等しくカーター自身だった。瞥見(べっけん)したもののいくつかは、はじめて夢を見るようになったとき以来、長い歳月を経ても記憶にとどめられている夢――おぼろな夢、なまなましい夢、一度かぎりの夢、連続して見た夢――を思いださせた。その一部には、地球上の論理では説明のつけられない、心にとり憑(つ)き、魅惑的でありながら、恐ろしいまでの馴染(なじみ)深さがあった。」



「未知なるカダスを夢に求めて」より:

「「ヘイ、アア=シャンタ、ナイグ。旅だつがよい。地球の神々を未知なるカダスの住処(すみか)におくりかえし、二度とふたたび千なる異形のわれに出会わぬことを宇宙に祈るがよい。さらばだ、ランドルフ・カーター。このことは忘れるでないぞ。われこそは這い寄る混沌、ナイアルラトホテップなれば」」




こちらもご参照下さい:

『ラヴクラフト全集 5』 大瀧啓裕 訳 (創元推理文庫)





















































































































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