植田祐次 訳編 『フランス幻想民話集』 (現代教養文庫)

「そのとき、昼間は死んでいる地獄に堕(お)ちた人々が、マリウッチャが歩いたのとは反対側の道からやってくるのが見えた。
 「なんということだろう、あの人たち全部が呪われているなんて」と彼女は思った。それから彼女はその不幸なすべての人々に混じって、地獄へ入っていった。」

(「十字架の護符」 より)


植田祐次 訳編 
『フランス幻想民話集』
 
現代教養文庫 1047/D 597

社会思想社 
1981年4月30日 初版第1刷発行
1982年8月30日 初版第3刷発行
222p
文庫判 並装 カバー
定価360円
カバー絵: ベルナール・ルエダン



本書「あとがき」より:

「なお、訳出に当って使用したテクストは、(中略)Les littératures populaires de toutes les nations, paris, G.-P. Maisonneuve & Larose, 1881-92, 30 vol. であるが、この叢書はこの三十巻のほかに増補版とも言うべき四十七巻が一八八一年から一九〇二年にかけて刊行されている。」


フランス幻想民話集


カバーそで文:

「「けものが話し、石が歩いていたころのこと、不仕合せな者に思いやりのある一人の美しい仙女がいた――」(「仙女の恋」より)
 なんと奔放で、詩情にあふれた書き出しであろうか! 読者は否応なく、無限にひろがるファンタジーの世界に誘い込まれてしまう。
 本書は、フランスの各地で、人々によって語りつがれた民話の中から、幻想的なはなしを拾い、まとめたもの。あなたを、恐ろしくも美しい夢の国へご招待いたします。」



目次:

恋人たち
 心臓を食われた恋人
 ナイチンゲールを恋した娘
 マリア
 許婚(いいなづけ)
 愛の残骸
 仙女の恋
 司祭とその恋人
 煉獄からの復讐
 生首
 フィアンセの亡霊

悪魔
 コケットな娘と悪魔
 娘たちにつきまとう悪魔
 フージュレの医者
 十字架の護符
 妖術師見習

領主
 フルート
 青ひげ
 四季精進日の夜
 妖怪狼(ルー=ガルー)になった領主
 不信心な領主
 神罰
 レオナルド伯爵の財宝

求道者
 行者と羊飼いの娘
 死なねばならぬ
 袋に入れ!

死者
 真夜中の葬列
 シャントルーの鐘つき
 黄金の足
 大食いの娘
 生首に変ったパン

亡霊
 死者のミサ
 けちんぼうな女
 亡霊のミサ
 水晶の城

あとがき




◆本書より◆


「ナイチンゲールを恋した娘」より:

「ある女にベッラドナという名の娘がいた。この娘の可愛らしさときたら、類(たぐい)まれだった。
 この娘が生まれたとき、仙女たちがあらゆる種類の贈物をしてくれたが、その中でもとりわけ、娘が望みのものに変身できる魔力の贈物があった。
 ある日、ベッラドナは母親にいった。
 「ママン、わたし結婚したいの」
 (中略)
 「毎朝、柘榴(ざくろ)の木の上で歌っているあのナイチンゲールと結婚したいの」
 「ナイチンゲールと結婚したいですって。いったいおまえは気でもふれたのかい、それともわたしをからかっているのかい」
 「本気よ。好きな鳥と結婚しなければならないの」
 母親は気の毒にもすっかり途方に暮れてしまった。
 「ねえ、いいかい、おまえ。おまえを幸せにしてくれる、やさしい、美しい、お金持の人を選びなさい。おまえが一緒に暮らしていける方と結婚しなさい」
 「わたしの考えを変えようなどとしないで。わたしはナイチンゲールがいいの」
 「ああ、おまえは木々の間を駆け回りたいのかい。その鳥のあとをどこへでも付いていくには、おまえは大きすぎますよ」
 「わたしはナイチンゲールにだって姿を変えることができるわ」
 母親はうまく娘を説得できないと悟ると、娘が何かに姿を変えて家を出ることを恐れ、娘を部屋に閉じ込めて鍵を二度回して錠をかけた。
 ある日、母親が近在の祭に遊びにくるよう親戚の女に招かれたので、ベッラドナは屋敷の礼拝堂付司祭の手もとに預けられた。
 母親が出かけると、娘はいった。
 「司祭さま、やさしい司祭さま。門の前にあるあのきれいな柘榴の実を一つ摘ませてくれませんか」
 「いいや、お嬢さま。あなたのお母さまが、あなたを勝手に外へ出すことをかたくお禁じになられたのです」
 「では、わたしに食べさせるために、せめて司祭さまが摘んでくださいな」
 「それなら、結構」
 司祭はベッラドナのいる部屋の戸を開けた。
 娘はすぐに心の中で言った。「蠅(はえ)になれ」
 すると、たちまち娘は舞い上がり、家から出ていった。
 いったん外に出ると、自分がしとやかな女であることを思い出して、またいった。
 「ベッラドナになれ」
 すると、彼女はふたたびもと通りになった。
 それから娘は、愛するナイチンゲールを探して野原を駆けていった。
 戻ってみて、ベッラドナの姿が見えなかったときの司祭の驚きようはたいへんなものだった。
 「何に姿を変えたのだろう」と司祭はつぶやいた。
 司祭はいたるところ探し回ったが、空しかった。
 (中略)
 司祭は家出娘を探しに出かけた。一日中歩き回っても娘を見つけられなかったが、ようやく川辺で休んでいる娘の姿を見つけた。
 「ベッラドナ、ベッラドナ、こわがらなくてもよいのだ。お母さまはあなたを許してくださった」
 娘は司祭を見ると、鰻(うなぎ)に姿を変え、川の中に飛び込んでしまった。
 司祭は川辺に近づいて探したが、川の中をのぞき込むと、ぐるぐる泳ぎ回る一匹の鰻が見えるだけだった。ベッラドナの影すらなかった。
 夜が近づいてきたので、屋敷に戻り、母親にいった。
 「川のほとりでお嬢さまに会って話しかけさえしたのですが、わたしを見るなり不意に姿を消し、どこへ行ったのか分からなくなりました。鰻が一匹だけ水の中で遊び回っていましたが」
 「それでは、その鰻が娘だったのです。もしあなたがつかまえていてくれたら、娘はもとの姿に戻っていたでしょうに」
 司祭はまた出かけていった。
 広い平野があり、それがベッラドナだということが分かった。
 司祭が急いで駆けていくと、平野は人跡未踏の森林に変った。哀れな司祭はその中で道に迷った。
 司祭はやむをえず屋敷に戻って、一部始終を話した。
 「もしあなたが森の木の枝をつかんでいてくれたら、ベッラドナはあなたに付いて来ざるをえなくなり、わたしたちは娘を手もとに置くことができたでしょうに」
 司祭は三度(みたび)、出かけていった。
 ある村の入口に礼拝堂が眼に入った。そのすぐそばで一人の主任司祭が聖務日課書を読んでいた。
 「つい今しがた、ここを若い娘が通るのを見かけませんでしたか」
 「今はミサを行っているところでな」
 「そんなことをたずねているのではありません。娘さんが通るのを見かけましたか」
 「中にお入りなさい。まだ間に合う」
 「おまえもおまえのミサも、悪魔にさらわれてしまえ」
 司祭はベッラドナの母親の方へ戻っていった。
 「あなたは何を見たのです」
 「礼拝堂と、そのすぐそばで聖務日課書を読んでいる司祭を見ました」
 「それでは、その司祭が娘だったのです。もしあなたが娘をつかまえていてくれたら、娘はあなたに付いて来ざるをえなかったでしょうに」
 「あの司祭のもったいぶった態度ときたら……」
 「お黙りなさい。あなたはなんの役にも立たない。わたしが自分で出かけます」
 そういって、女は出ていった。
 三日以上も歩いたあげくに、ベッラドナの母親は、娘が一本の木の下に坐って愛するナイチンゲールに話しかけているのを見つけた。
 恋する美しい娘は発見されたと知ると、ばらの木に姿を変えた。
 だが、今度ばかりは娘にも運がなかった。母親は花が満開に咲き乱れているそのばらの木をつかまえると、屋敷へと戻っていった。
 戻る道すがら、ナイチンゲールが悲しげに歌うのだった。

   《わたしに妻を返しておくれ。
   ふたりは永遠に結ばれている。
 婚礼では、花嫁に付添う娘は雲雀(ひばり)、
 かわらひわ と百合の花が二人の立会人だった。
   わたしに妻を返しておくれ。
   ふたりはたがいに恋しあっていた。
 このひとの心とわたしの心はただひとつ、
 このひとが死ねば、わたしも死ぬ》

 しかし、ベッラドナの母親は耳を貸そうとしなかった。母親は、友だちの仙女からもらったある水で急いで娘の魔法を解こうとあせりながら、相変らず屋敷へ向かって歩いていった。
 けれども、ばらの木は死にかかっていた。花びらが一枚、そして一枚、また一枚と途中で落ちた。それにつづいてほかの花びらも落ちた。母親が家に着いたとき、ばらの木はもうすっかり枯れ果てていた。
 ナイチンゲールは妻のあとを追って離れなかった。三日のあいだ、毎朝その鳥は悲しげに柘榴(ざくろ)の木の上で鳴いていた。
 四日目になって、ナイチンゲールは歌わなくなった。彼もまた苦しみのあまり死んでしまったのだった。」







































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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