ヤコブス・デ・ウォラギネ  『黄金伝説 3』  前田敬作・西井武 訳

「彼は、(中略)森のみずならの木やぶなの木のほかに自分の先生はなかった、と友人たちに打ち明けている。」
(「聖ベルナルドゥス」 より)


ヤコブス・デ・ウォラギネ 
『黄金伝説 3』 
前田敬作・西井武 訳


人文書院 
1986年6月30日 初版第1刷発行
1989年7月20日 初版第4刷発行
511p 
口絵(カラー)1葉 図版(カラー)3葉
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価3,300円(本体3,204円)



本書「凡例」より:

「本書は、あらゆるキリスト教聖人伝のなかの白眉とも言うべき福者ヤコブス・デ・ウォラギネ著『黄金伝説』を全訳したものである。」


本文中図版(モノクロ)8点。


黄金伝説 03 01


帯文:

「豊富で貴重な資料
聖クリストポルス、使途聖マタイ、聖ミカエルなどの興味深い信仰の物語は、キリスト教世界を越えて、読む者に多くの示唆を与える。」



目次:

九五 聖クリストポルス
九六 眠れる七聖人
九七 聖ナザリウスと聖ケルスス
九八 教皇聖フェリクス
九九 聖シンプリキアヌスと聖ファウスティヌス
一〇〇 聖女マルタ
一〇一 聖アブドンと聖セネン
一〇二 司教聖ゲルマヌス
一〇三 聖エウセビウス
一〇四 聖ペテロ鎖の記念
一〇五 教皇聖ステパヌス
一〇六 最初の殉教者聖ステパノの遺骨発見
一〇七 聖ドミニクス
一〇八 聖シクストゥス
一〇九 聖ドナトゥス
一一〇 聖キュリアクスとその同勢
一一一 殉教者聖ラウレンティウス
一一二 聖ヒッポリュトゥスとその召使いたち
一一三 聖母マリア被昇天
一一四 聖ベルナルドゥス
一一五 聖ティモテウス
一一六 聖シュンポリアヌス
一一七 使徒聖バルトロマイ
一一八 聖アウグスティヌス
一一九 洗者聖ヨハネ刎首(ふんしゅ)
一二〇 聖フェリクスと聖アダウクトゥス
一二一 聖アエギディウス
一二二 聖サウィニアヌスと聖女サウィナ
一二三 聖ルプス
一二四 聖マメルティヌス
一二五 聖母マリアお誕生
一二六 聖ハドリアノスとその仲間
一二七 聖ゴルゴニウスと聖ドロテウス
一二八 聖プロトゥスと聖ヒュアキントゥス
一二九 聖十字架称賛
一三〇 聖ヨハネス・クリュソストモス
一三一 聖コルネリウスと聖キュプリアヌス
一三二 聖女エウペミア
一三三 聖ランペルトゥス
一三四 使徒聖マタイ
一三五 聖マウリティウスとその部下たち
一三六 童貞聖女ユスティナ
一三七 聖コスマスと聖ダミアノス
一三八 司教聖フォルセウス
一三九 大天使聖ミカエル



黄金伝説 03 02



◆本書より◆


「眠れる七聖人」より:

「洞窟で眠っていた七聖人は、エペソスの町の生まれであった。当時キリスト教徒を迫害していた皇帝デキウスは、エペソスにもやってきて、(中略)つぎつぎにキリスト教徒をさがしだして、供香を強要したり、捕らえて殺したりしたものだから、市民たちは、拷問にたいする恐怖心にとりつかれて、友が友を、父が子を、子が父を否認するありさまであった。ところで、この町にマクシミアヌス、マルクス、マルティニアヌス、ディオニュシウス、ヨハネス、セラピオン、それにコンスタンティヌスという七人のキリスト教徒がいて、このような世情を見てこころを痛めていた。彼らは、宮廷でめぐまれた地位についていたが、(中略)こっそり家にひきこもって、斎食(さいしょく)と祈りに専念していた。しかし、とうとう告発する者があって、デキウス帝のまえに呼びだされた。七人は、デキウス帝がつぎにこの町に来るまでに宗旨がえをするようにという猶予をあたえられ、ひとまず身柄を釈放された。その猶予期間中に、彼らは、財産を貧しい人たちに分けあたえ、相談の結果、そろってケリオンの山に入り、そこに身をひそめることに決めた。以後、ずっとこの山にこもり、かわるがわる乞食に身をやつして町に出かけては、食べものを手に入れた。さて、デキウス帝は、町にもどってくると、彼らに供香させるために使いを出した。ちょうどこのとき賄(まかな)い当番にあたって町に来ていたマルクスは、これを聞くと、おどろいて仲間のもとにとってかえし、皇帝が立腹していると伝えた。仲間の者たちは、狼狽した。しかし、マルクスは、戦いにそなえて力と勇気をやしなっておくのが先決だと、町で買ってきたパンをみんなに分配した。さて、それを食べおわってからも涙ながらにあれこれ話をつづけていると、突然、七人が七人とも眠りこんでしまった。神の思召(おぼしめ)しがはたらいたにちがいなかった。」
「それから三百七十二年の歳月が流れ、皇帝デキウスはすでになく、その一門もことごとく滅び去り、世はあたかも皇帝テオドシウスの治世三十年目のころ、死者の復活などありえないとする異端の教説が天下にはびこっていた。篤信なキリスト教徒であったテオドシウスは、信仰がこのような邪説におびやかされている風潮をいたく悲しみ、粗毛の衣を身にまとい、宮廷のいちばん奥まった一室にひざまずいて、日夜涙にあけくれしていた。」
「エペソスのある住人が、ケリオンの山中に羊飼いの番屋を建てようと思いついた。そこで、あの古い洞窟を利用することになり、石工(いしく)たちが石をとりのぞいて洞窟をあけたとたんに、眠っていた七人の聖人たちは、眼をさまし、たがいに「おはよう」と挨拶をかわした。一夜あけた朝とばかりおもったのである。」



「聖女マルタ」より:

「そのころ、アルルとアヴィニョンの中間あたりの、ロダヌス川(ローヌ川)のむこうにある森のなかに半獣半魚の竜が棲んでいた。胴体は、牛よりも太く、馬よりも長く、歯は、剣のようで、先が角(つの)のようにとがっていた。全身がかたい鱗(うろこ)でおおわれていた。水中にひそみ、通りかかった人びとを食い殺し、船を沈めた。この竜は、もともとアジアのガラテア地方から海を渡ってこの地に上陸したのであって、海に棲む狂暴なレウィアタンがガラテア産の獣オナクスと交わって生んだものである。追われて逃げるときは、まるで投石器のようにあたり一面、遠くまで汚物をまきとばし、それをかけられた者は、炎をあげて燃えあがる。聖マルタは、人びとにたのまれて、この竜の退治に出かけることになった。森に入っていくと、おりしも竜がひとりの人間を食らっているところに出くわした。彼女は、すぐさま竜に聖水をふりかけ、十字架を突きつけた。すると、竜はたちまち降参し、小羊のようにおとなしくなった。彼女は、腰帯で竜をしばった。やがて、ほかの人びとも到着し、石と槍で竜を打ち殺した。ところで、人びとは、この竜のことをタラスクスとよんでいた。この地方は、それにちなんで今日でもタラスコンとよばれている。」


「聖ベルナルドゥス」より:

「シトー会に入ってからのベルナルドゥスは、ひたすら聖霊にこころをうばわれ、神にこころをみたされていて、ほかのことには気を使っているひまもなかった。彼は、一年間修練士の庵室で暮らしていたが、その建物の天井が丸天井であるか平天井であるかということすらおぼえていなかった。また、修院聖堂にいくども出入りしながら、後陣に三つある窓をひとつしかないと思いこんでいた。」
「食事も、喜びや食欲をおぼえて食べるのとちがって、からだが弱らないようにという気遣いから食べるだけであった。だから、食卓につく時刻になると、大きな苦痛を味わいにいくような気がした。(中略)どんな食物も味がよくわからなかった。あるときなどは、まちがって自分のまえに出された油をいくらか飲んでしまったが、唇に油がついているのを妙におもった人に言われるまで、それに気づかなかった。おなじように、バターとまちがえて出された血のかたまりを知らずに四日間食べていたこともあった。彼は、水ほどおいしいものはない、水を飲むとのどがさわやかになる、と言った。また、聖書から学んだことは、森や野に出て瞑想と祈りをすることによって自分のものになった、とも語っている。さらに、森のみずならの木やぶなの木のほかに自分の先生はなかった、と友人たちに打ち明けている。」
「着るものも、たいへん粗末であったが、けっして不潔ではなかった。(中略)肌につけるものも、人に知られないかぎり何年でも粗毛のシャツ一枚で通した。しかし、人に知れたとわかると、それをぬいで、ほかの人たちとおなじものを着た。笑うときも、笑いを抑えるというよりも無理に笑おうとつとめているように見えた。笑いをこらえているというよりはつくり笑いをしている人のように見えた。」

「あるとき、聖人は、あらゆる事柄においてつよく彼の感化を受けていたシャルトルーズの修道士たちを訪れた。ところが、ここの修道院の院長は、聖人の乗ってきた馬の鞍がけっして質素でも粗末でもないことを意外におもった。院長は、修道士のひとりにこのことを話した。修道士は、それを聖ベルナルドゥスにこっそり告げた。聖人自身も、たいへんおどろいて、いったいどんな鞍ですかとたずねた。というのは、彼は、クレルヴォーからシャルトルーズまで馬でやってきたのに、自分がまたがっている鞍をまったく見たことがなかったのである。
 聖ベルナルドゥスは、あるときローザンヌの湖のほとりをまる一日馬で旅したことがあったが、湖がまったく眼に入らなかったのか、眼に入ってもそうと気づかなかったのか、晩になって同行の人たちが湖の話をしていると、そんな湖はどこにあるのですか、とたずねた。これには、一同もさすがにあきれかえった。」



「聖ルプス」より:

「ある夜のこと、ルプスが寝て祈っていると、悪魔のしわざで、ひどくのどが渇(かわ)いてきた。彼は、悪魔の悪だくみだと見やぶって、枕をとるなり、水を入れたコップにかぶせた。おかげで悪魔は、コップのなかに閉じこめられ、ひと晩じゅうわめいたり、あばれたりしていた。朝になると、聖人は、悪魔を逃がしてやった。」














































































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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