『安西冬衛全集  第三巻 未刊詩篇一』

「向う見ずのらんらんたる炯眼。
 無鐵砲という手ぶらの武器の携帶者。」

(安西冬衞 「一鱗翅類蒐集家の手記」 より)


『安西冬衞全集 
第三卷 
未刊詩篇一』


宝文館出版
昭和58年8月30日 第1刷発行
477p 口絵(モノクロ)1葉
A5判 丸背紙装上製本 貼函
定価4,500円
装釘: 濱田濱雄

月報 8 (6p):
明珍昇「安西冬衛の印象」/窪田般彌「たのしみのポエム」(「日本未来派」71号 1956年10月)/編集室から



本書「後記」より:

「本卷には大正十三年(一九二四)より昭和二十五年(一九五〇)に發表された未刊詩篇および初期詩篇を收めた。」
「本卷に收録した作品は、著者の書き込み、訂正のあるものはこれに從い、複數の紙誌に發表された同一の作品は、そのうちから最終稿と思われるものを採った。」



安西冬衛全集


帯文:

「不滅の光芒を放つ安西詩業の全貌!
第三巻 未刊詩篇一
「亜」時代(大正十三年)~昭和二十五年の未刊詩篇、および連作「死語発掘人の手記」「一鱗翅類蒐集家の手記」をほぼ編年順に網羅。また「亜」以前の初期詩篇を併せて収録。」



目次:

Ⅰ 大正十三年(一九二四)―昭和五年(一九三〇)
 競賣所のある風景
 埋れた帆船
 雨によごれた停車場
  陸橋と不幸8ふしあはせ)な少女
  雨によごれた停車場
  早春
  冬盡
 未完成の詩・作品第十番「きやんどる・らめんたびれ」の序曲
 冬
 探偵
 北國と稚拙
 支那裝せるマドモアゼル・冬
 療養院
 鯉
 門
 戰爭
 坂
 港・帆船を主題とせる
 ある不幸(ふしあはせ)な一日の Arrangement
  電話の後
  褪紅色の膝掛
  窓際の婦
 食後
 ――にて
 村のエスキース
  ・あの土を全部あすこへ
  ・教會
 曇日と停車場
 アンリ・マチス風の室内に配(アランジユ)せる或る姉弟の肖像とその背面にカムフラージユされたる自像 或は地球儀と愛國婦人會をモチーフとせる姉弟のある Assemblage.
 冬構
 戰後
 打虎山
 陰陽
 大連
 入江
 マリア・ブランシヤール
 春日喣々
 紋章
 凱旋門
 春
 春
 オダリスク
 kiev
 少女
 タンポポ
 海
 春
 マリイ・ロオランサン夫人
 春
 前菜
 秋
 紋章
 古いネエデルランドの冬
 TINT
  曇天
  日光
 しぐれ
 十二月
 薪
 扉の書
 紋章
 櫻の落葉
  ○曇り日の博物館で
  ○Water closet
  ○堀池の僧正
  ○N氏の話
  ○指物師 勘堂
  ○冬
  ○立(たつ)公
  ○又
  ○述懷
  ○ストーブにあたりにくる男の名
 途上
 閑葛藤
 冬色
 櫻の落葉
 役
 黄河の仕事
 主として新兵器に就て
  航空機の發祥
  彈丸の進歩
  レヴイシツトの無力
  輕機關銃の改良
  タンクの復古
  水雷戰術の紀元
  輕巡洋艦の強韌
  要塞の結構
  Super-dreadnought の莊嚴
 未成鐵道
 ハレム
 「未成鐵道」より
 臘月のひとに
 イラクと花粉熱
 府
 揚子江バグダード鐵道波斯横斷問題
 土耳古風呂
 續 德一家の LESSON
 續々 德一家の Lesson
 百萬弗
 瓦斯
 咫尺
 儀禮
 記憶
 五
 善
 刑
 七
 北
 樅の木の中にある火
 ワ゛ン・ドンゲンに關する一插話
 一九二七年
 百分率
 官吏侮辱罪
 經驗
 戰爭と平和
 燭臺
 ドミトリーの帳尻
 黑と白
 業
 サンドヰッチ
 大落日
 鋏
 黑い河
 備忘録
 天秤座
 酩酊する男
  ラズルダズル膓詰會社
  グラツドストーンの内部
  ランゲルハンス氏島
 藝術と反抗
 王領大學校
 暖い博覽會
 白い赤十字
 賢い民
 文明
  赤星家の甲冑
  三の宮驛
  自轉車問屋からの求婚
  慈善
 洋燈
 牛莊の手巾
 田舎住
  井
  田舎住
  藍

Ⅱ 昭和六年(一九三一)―昭和十年(一九三五)
 尾のない太陽
 時差
 隨筆と小品
  夜寒
  チエーホフの庖丁
  ぬきがき
  スポーツ
  ラズル・ダズル
 現代の英雄
  百年の知己
  汎帝國主義
  匿名政治
  邊彊辯理公司
  現代の英雄
 樹液の中にある音樂
 神々が甫めてわたくしたちに翼を
 老いた太陽は新らしい傷口を療治する
 火の獄
 跡見
  悶える鹿
  貞任之胸座化爲酒頬菱喰
  蕁麻と公算
  獵
  かくて古りゆく時
 薄暑の砌
 大英帝國日未だ沒せず
 「渇ける神」紀要
 挽歌
  冷酷な音樂
 氷の檻
 魔笛
 胡蘿蔔
 蛇の卵
 松樅等
 沙
 秋
 タブー
 猶太
 星條旗
 言語學者の加擔
 虻の音
 歩兵
 亞細亞的函數
 寒い國の春
 二百十日
 領袖
 玄い石
 間者
 テレビン
 海戰
 鼻祖
 赤い停仔脚の成不成功
 フィラデルフィヤ 小亞細亞の古い府 フィラデルフィヤ 亞米利加の古い府
 それは品のいいコートに襤褸と骸炭を拾ひに下りてくる鴉に與へる坐標軸である
 一適一グラムの水の質量に象眼されてゐる純粹な動員計劃
 圓い塔の一角に坐して肉體を毀つ
 廢語

Ⅲ 昭和十一年(一九三六)―昭和十五年(一九四〇)
 淩水觀にて
 保險附の支那蒸氣
 オクターブに跨る怪物
 子供謝肉祭
 ペソ
 黑と金
 馬は男爵
 秋雛
 靴と劇場
 パパイヤとタフタ
 紅い河
 海の聯曲
  千鳥
  貝屏風
  虹
 大漢口陷落す
 龍の爪
 エドワード七世と古代の洞窟

Ⅳ 昭和十六年(一九四一)―昭和二十年(一九四五)
 鼻祖
 櫻四章
  木花之佐久夜比賣
  木花開耶姫
  櫻
  さくら
 山の暮春
 ガマビル
 シッタン川
 風俗
 子供謝肉祭
 さるすべり問答
 戰の場にけふしも神嘗祭を迎ふ
 菊の佳節に逢ひて懷を述ぶ
 ふたつなきいのちを
 十二月八日
 軍神につづけ
 紀元節言志
 きさらぎの夜空に禱る
 撃ちてし止まむ
 梅咲けり
 撃滅の道に殺到せん
 レンエル島沖海戰の捷報到る
 春の駒
 出陣の旦
 海光
 尚武
 山本元帥の遺烈に誓ふ
 雄魂を慰めん
 はるとふゆ
  草山に
  千鳥
 厄除札
 詔を建艦に謹む
 比律賓共和國獨立
 霜と聖戰
 檞と鐵の意志
 初冬の午後の一と時を
 聖斷奉行
 必殺の姿勢
 敵國降伏
 東風強し
 或る陸軍報道班員
 速力
 鐵量に鐵量を
 胚胎
 廢墟
 日間瑣事

Ⅴ 昭和二十一年(一九四六)―昭和二十五年(一九五〇)
 新秋
 むかし
 オディツセイ
 彼の近状
 長男の社會
 閨門春曙
 棕櫚の花
 詩人の出發
 敗戰の美學
 小風俗
  吟遊詩人
  田舎の詩人
 大德寺クロツキー
 スペインの二つの樂曲の近邊で
  イベリヤ
  ホタ
 王道
 間道
 風俗二種
  恍惚たる星
  「アイイダ」と鬪ふ男
 紅いカーペツト
 冬の草木
  五十七才のゴオグ
  中學生
  朝のラウンジ
  閉ざされた庭
  斷食
  雀
  靑寫眞
  寒風の街道
  ビフテキ
 小春
 場末の古道具店でアポリネエルに遇ふ
 空想の水栓
  機械
  法馬
  二頭立の馬車で
  踏繪
  蝶
  黑死病
  うすばかげらう
  ドラクロア
  若い惡魔
  白洲にて
 風俗採集(スクラツプ)
 リラの夜
 風俗採集
  ドクチャンあります
  クロンウエル
  壁畫(部分)
  パーマネント・ウエーブ
  二つのクロツキー
  三つのメタホオル
 山の夕べ
 生涯の部分
  文明
  資質
  沙漠
  蝶
  稚拙感
  職業
  オブジェ
  敵
  獻身の杖
  砦
  道
 夏日小園
  エケ・ホモ
  敵
 格言
  邪魔で出世
  厩は別天地
  染工場の不潔な朝顏
 白いスエター
 大大阪のれいめい
 一九四八年のドンキホーテ
 ハムレットの春
 赤煉瓦のステンシヨ
 海の告知
 水でつぽう
 裏長屋の倫理
 新らしさはより古きもののなかに
 燕
 りんご
 夜の思料
 ブルースとルンバのあいだで
 林檎分割
 西班牙と松脂
 四九年の半言葉
 文化炎上
 美しきアンダルシヤの野
 夏の思議
 サガレン
 今年はじめての秋雨
 文化祭序詩
 冬の行状
 ノアノア
 二月の美學
 袖珍鬪牛士
 金の蠍
 大手前の早春
 朝粧
 夏すでに
 ほたるのテール・ライト
 平和
 社會道德を興す婦人の會
 星のロマンス
  カシオペア
  アンドロメダ
  ペルセウス
  ペガサス
  プレアデス
 百日紅
 奈良土産

Ⅵ 死語發掘人の手記
 死語發掘人の手記
  (一)
  (二)
  (三)
  (四)
  (五)
  (六)
  (七)
  (八)
  (九)
  (十)
  (十一)
  (十二)
  (十三)
  (十四)
  死語發掘人の手記(部分)
  死語發掘人の手記
  死後發掘人の手記

Ⅶ 一鱗翅類蒐集家の手記
 一鱗翅類蒐集家の手記
  (一)
  (二)
  (三)
  (四)
  (五)
  (六)
  (七)

初期詩篇
 春雨の夜
 落日黄
 灰色 黄昏
 旗
 鳰
 北支那短景
 小崗子小品
 厨
 夜霧
 ジヤツク
 春の霙
 餘寒
 冬日幻想
 習作
 靜物
 昔帝劇の廊下より
 惜冬賦
 「冬」素描
 小品三つ
 冬衞集(一)
 冬衞集(二)
 冬衞集(三)
 冬衞集(四)
 冬衞集(五)
 冬衞集(六)
 冬衞集(七)
 冬衞集(八)
 冬衞集(九)
 冬衞集(十)
 冬衞集(十一)
 海
 燎
 門
 東京よ
 憧憬の君よ 今こそ殉情の君が愛撫に身を委せよう
 沼津風景
 入間川スケツチ
 宵
 冬
 皿に描かれた風景
 霜月の寫生帖から
 風土哀詞
 上海の冬
 夜・異端者
 冬きたる
 地圖と少女の幻想
 立冬小品
 ふゆゑ
 冬
 藍色の詩箋
 切子硝子
 漱石忌
 綠の水瓶
 冬、冬、冬
 風變りな顏から
 新年
 室
 卓上靜物
 水邊
 越後町風景
 屋敷
 海
 羅甸區の冬
 冬
 カシノ、ド、パリ
 冬
 霜月
 冬
 冬
 芥火

後記 (山田野理夫)




◆本書より◆


「支那裝せるマドモアゼル・冬」:

「けふ、佛蘭士語のお稽古のかへりに園池さんをおみかけしました。ええ、いつもの冬木の公館のところで
でも、幌の中でしたから御挨拶もいたしませんでした

爐棚の上の黑い茉莉花の造り花は、不思議な日月の紋章として、この部屋のわかき主(あるじ)と、すでに私(わたくし)の胸に年ふりた。

扉があいて翳を索いた老婦人が質素の點心(茶)の仕度を運んでくる。
喪のやうな金曜の午前である。」



「少女」:

「あのひとの挨拶はいつもおこつてゐる。」


「春」:

「彼女は地球儀を愛してゐる。」


「黑い河」:

「   すべてが過ぎ去つた。
   そして、すべてが今では眠つてゐた。
   ただ、この夜陰――罪の堆積の下に、私だけが眼ざめてゐた。
   一年前に犯した罪の重さが、容易に私を眠らせないのである。
   私は強いて眼をつむつた。
   すると、御冬(みふゆ)の優しい骨盤――石灰質の蝶が苦(さ)えるのであつた。

     一

 悲しい習慣が私に憑き始めた。
 私は二十三度半傾いてゐる地軸に、ともすれば悲しみの重みで倒れようとする私を支へてゐる。
 さうすることが幾分でも、私の犯した罪のつぐなひになるだらうか。

     *

 長い間。
 いつとはなく私は母を意識し初めた。私には義理の母だつた。母は私を小さい時からのならはしで「あなた」とよぶ。さういふ愼み深い儀禮――重量(グラビテイ)の働かない空間をおいて、一人の靑年の前に、母は一人の美しい女性だつた。
 私は心の奧で私(ひそか)に罪に觸れて、そして次第に苦痛を感じてきた。
 食事の席で、母は私の容子の冴えないことを氣遣ふのである。
 ――いいえ、お母さん。
 つとめて私は母を避けた。避けること。それは一層私を深い獄(つみ)に墮すのであつた。

     *

 惱みの多い一日の終が漸くくる。私は寢(やす)む前の挨拶を母に告げて、この家の屋根に近い私の寢室に上つてゆく。私は燭臺を枕もとに置いて、私のいやしい精神史――繼續した備忘録を認める。

 階下で、かすかに閉まる扉の音。〈母だ〉一瞬、灯の色にかはる一とすじの、闇よりも濃い蠟の臭ひの中に、私は何かを待ち設けてゐた私のよごれた感情に面(おもて)を合せて、赧くなる。
 渇いた星が天蓋からおりてきて私を喘がせる。
 永い一日の果には、なほこのやうな寢苦しい夜が、私を眠らせないのである。冷かな空氣の色の、蠟涙を傳ひ墮ちる曉方まで……
 この舌を纏(ま)く苔のやうな饑の中に、定數を負うた一人の少女が私の前に現はれた。
 不幸な御冬(みふゆ)。

     二

 夏の首(はじめ)だつた。
 私はこの生涯で、御冬(みふゆ)とめぐりあつた日の、午後のことを忘れない。
 彼女は心持かぶりを傾(かし)げて私の前に彳つてゐた。このひとらしい優しいマナーがさうさせたのであらうか。いいえ、この時もう働きかけてゐた私の、二重の、それは罪の重みだつたのだ。
 御冬(みふゆ)の狹い胸をつつむダンテルの下着には、梨の花粉が匂うてゐた。
 私の瀆れが清められていつた。
 從つて彼女の潔さがよごされていつたのだ。

     *

 私は御冬の狹い胸にすべてのものを投げかけた。そして、更に狹い世界を意欲した。
 狹くすることが一層廣い視野に、われわれを導くものと、私は確信した。
 私は誤つた。
 私が廣い世界を憑んでとつた狹い道は、行きづまりの、實は袋町だつたのだ。
 そこに待つてゐたものは、ただ、窮乏ばかりだつた。
 その上御冬の弱々しい肉體は、はや半ばこはれてゐた。
 季節は冬に向つてゐた。
 すべては私の犯した罪だつた。
 ――お前を不幸にしたのは私だよ。
 ――そんな。
 彼女ははげしく拒むのである。そして悲しげに笑ふのだ。厭なことを云つていぢめると。

     *

 褪紅色の太陽は燐寸(マツチ)會社の方に沈むのである。
 飢と寒さが暗い夜と前後(あとさき)して迫つてくる。
 このやうなけはしい現實の中でさへも、私は稚拙な遊戲をして、當座を僞りつづけてゐたのである。
 なぜ私はひきかへさなかつたか。
 このことについて、私は多くを言ひ得ない。
 ただ、私はこんな卑怯な人間だつたのだ。

     *

 缺乏がつれてくる惡い状態。
 強迫觀念が御冬の神經を昂らせた。
 燐寸會社と壁を合せてゐる危險倉庫が火を引く幻覺が、絶えず怯える彼女を眠らせないのである。
 恐しさにわななく御冬(みふゆ)を結(ゆ)ふ私の腕(かひな)に、彼女の優しい骨盤――露(あらは)にそれと知られる石灰質の蝶が、今にも摧けるかと思はれた。
 靄の陰い晩は併し彼女も聞譯よく「こんなに濡れてゐるから」と訓へる私に、かすかな寢息を委ねて安らかな眠りに墮ちてゆくのである。
 私は火を鎭める想像の河を暗示して、彼女をいたはる悲しいことを、いつか習ひ覺えてゐた。
 併しこの哀れな遊戲の用も、軈てなくなつた。
 結核が彼女の腦を遂に犯したのだ。
 蝶番(てふつがひ)の脱れた御冬(みふゆ)の組織を蝕んで、想像にかはる實際の河が、今は穿たれた。
 そしてその執拗な液體の上を、鴉片のやうな時の容積が黑く流動していつた……」



「酩酊する男」:

「     ラズルダズル膓詰會社

 僕は電話をつなぐ……漆黑な男の交換手……ドツグヱーンをうつ南西風(サウスウエスター)……支配人グリコーゲン氏は旅行中。

     グラツドストーンの内部

 赤い斑點。赤い斑點の中にある赤い斑點……

     ランゲルハンス氏島

 石垣につないだ馬。泡だつた天水桶。疾走する颱風(タイフーン)。」



「藝術と反抗」:

「敗北。北が私をひきずるのだ。magnet」


「秋」:

「黑いコスチューム 黄ろい扇 その翳に海がある」


「蝶」:

「元來、蝶はわが家紋なのだ。」


「稚拙感」:

「詩の叢林。ジャツクラビット。私の採りあげた方法は稚拙感であつた。アルカイザンといふのと少しちがう。私の發見ではない。ただ、私には私のしきたりがある。」


「職業」:

「死語發掘人。
 座せる旅行者。
 類推の惡魔を馭する男。」



「死語發掘人の手記(六)」より:

「生涯に人の讀む書物の分量。太初からこれは決つてゐて動かすことは出來ない。神のみぞ知るこの極印から逸脱することは畢竟叶はない。だとすれば勉強してみたつて無駄だし、怠けてゐても結果は同じことになる。ところでこの己の分量は、神の契約簿にちやんと登録されてをり、妖精がカンニングしてこつそり耳うちしてくれた。それによると千百冊だといふことであつた。
 妖精の私語だから私はそれをお伽話風に金米糖(hundreds and thousands)の寓意であらうと受取つた。金米糖のニヨキニヨキ生やした角が原核(アンテナ)であり、それから放射する幾つかの世界、大體それを勘定して千百冊だといふなら、譯が分る。
 金米糖の角の一つが僕の場合ドラクロアであり、となりのニヨキニヨキがシユオブです。」

「盆栽のカリンの樹が黄疽色の果肉を垂らしてゐるのを見たとき、私は掛物の畫の中で隱遁の歌を歌ふ唐人の心境に自づから通ふものを識つた。」



「一鱗翅類蒐集家の手記(一)」より:

「向う見ずのらんらんたる炯眼。
 無鐵砲という手ぶらの武器の携帶者。」



「地圖と少女の幻想」:

「少女
黑きリボンを結ぶ

いと宏やかに
水色の海、和めり
   ◇
南回歸線を帆走する父の俤を
今宵
辿る
脂よりも皎き括指
軈て
靑き層なせる貿易風を喚ばん
   ◇
水色の海、和めり
胸に
火翳に」



「越後町風景」:

「阪
三月
アンテナのみえる水色の新しきパノラマ
少女のリボンの風に吹かれてゐるやうな」






















































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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