『舞曲扇林・戯財録 附 芝居秘伝集』 守随憲治 校訂 (岩波文庫)

『舞曲扇林・戯財録 
附 芝居秘伝集』 
守随憲治 校訂
 
岩波文庫 黄/30-2601 

岩波書店
1943年6月15日 第1刷発行
1990年3月8日 第2刷発行
187p
文庫判 並装 カバー
定価310円(本体301円)
カバー: 中野達彦



本書「凡例」より:

「底本に選定した中で、戯財録の方は、終に原自筆本を發見するに至らず、現存の寫本によつたのであるが、數種何れも誤寫があつて、何れを善本と定めることも出來ぬので、出來るだけ後世に誤讀の跡を殘さぬ限度に於いて、研究の上適宜讀下しておいた。」
「戯財録と芝居秘傳集とは甚しい誤字や宛字は訂し、假名遣も大體今日普通用ゐられるのに正したが、なるべく原形を尊重する方針をとつた。舞曲扇林の方は、讀み癖宛字に特色があるので、諸本に見える錯簡を訂正した以外には殆ど手を加へなかつた。」
「挿繪はすべて收めた。」



正字・正かな。本文中図版。


舞曲扇林 戯財録


カバーそで文:

「舞曲扇林(ぶきょくせんりん)・戯財録(けざいろく) 附芝居秘伝集
歌舞伎の舞踊に関する正しい伝統、本質、性格を説いた『舞曲扇林』に、古来からの歌舞伎の脚本創作の方法、約束事を叙述した『戯財録』を収める。」



目次:

舞曲扇林 (河原崎權之助)
 序
 一 白拍子男舞の始
 二 時花(いまやう)の始 付リ 朗詠の事 並ニ 靜御前事
 三 女樂(ぢよがく)芝居の始り
 四 傾(かぶき)といひ初し事
 五 哥舞妓と書し事
 六 小野お通(つう)事 付リ 遊女に太夫と云事
 七 若衆哥舞妓始り 付リ 四條河原芝居の始
 八 町に女子の藝者有事
 九 六方とさる若の事
 十 十六番小舞の始り
 十一 都見事(けんじ)事 付リ 今やう傳(でん)〱の事
 十二 時花(いまやう)六(りく)態の事 付リ 能と今やう字割 並ニ 六態の次第
 十三 六態鏡(かゞみ)の事
 十四 夢路の花
 十五 舞の四病(びやう)の事
 十六 弓と舞の事
 十七 舞の備の事
 十八 程拍子の事 付リ 程拍子鏡の事
 十九 程拍子數用(すうようの)事 付リ 本間(ほんま)今やう拍子割 並ニ 脉(みやく)ひやうしの事
 二十 過不及の事 付リ 同鏡
 二十一 舞の心業(げう)の事 付リ 戀 並ニ 狂亂
 二十二 今やう異見の事
 二十三 物眞似藝の事 付リ 後者鏡
 二十四 古今の若衆方 同若女方
 二十五 江戸狂言作者
 二十六 今樣藝古來の事知 並ニ 狂言所作爲(つくり)
 二十七 江戸・京・大坂芝居座元の始り 並ニ 今樣萬事の根元
 二十八 伊勢踊始 付リ 作男(だておとこ)五哥仙
 
戯財録 (入我亭我入)
 序
 一 作者之名差別之事
 一 假名物語作者連名之事
 一 浄瑠璃作者連名之事
 一 歌舞妓作者連名之事
 一 作者大悟法式秘傳之事
 一 看板文字數口傳之事
 一 割藝題場數口傳之事
 一 附幷双方對句之事
 一 東西段書曲文之事
 一 三都狂言替り有る事
 一 狂言縱横之筋有る事
 一 四季見物人情差別之事
 一 狂言場所工合之事
 一 古人上手作者金言之事
 一 作者請取役場心得之事
 一 役者出工合役場心得之事
 一 役者出合甲乙附方之事
 一 役割番附位上下之事
 一 表八枚看板古今替り有る事
 一 作者支配心得之事
 一 作者番附居所善惡之事
 一 江戸番附居所荒增之事
 一 藝題繪看板書樣之事
 一 一夜附狂言書樣之事
 一 役者甲乙納樣口傳之事
 一 作者出勤仕樣口傳之事
 
芝居秘傳集 (三升屋二三治)
 序
 一 三津五郎梅の由兵衞
 二 木戸の呼もの
 三 火繩の聲番
 四 頭取河東節の口上
 五 東棧敷屋根階子掛ける事
 六 角力の太鼓
 七 角力の狂言
 八 操り座より歌舞妓出勤
 九 受領豐後掾
 十 作者本讀の密傳
 十一 即席わたり法
 十二 半四郎妻
 十三 竹之丞寺
 十四 菊屋何文
 十五 紀州の姫君助六見物
 十六 帳元榮屋甚兵衞板圍
 十七 門之助座敷道成寺
 十八 提灯の幽靈
 十九 團十郎給金の手付
 二十 半太夫河東
 二十一 十寸見蘭州
 二十二 棟梁長谷川
 二十三 中藏日記
 二十四 河竹名文
 二十五 白猿勝手の空せりふ
 二十六 荒事素足
 二十七 團藏葱賣
 二十八 正本の紙員
 二十九 名題看板
 三十 仲藏の替紋
 三十一 同關兵衞の拵へ
 三十二 揚卷三人へ傳授
 三十三 菊之丞老年の早替り
 三十四 三津五郎釣看板
 三十五 市川荒五郎初名題
 三十六 並木五瓶が魂
 三十七 五大力
 三十八 近頃怪談の元祖
 三十九 松助袴着用
 四十 勘亭一流
 四十一 道成寺傳授
 四十二 虚無僧の掟
 四十三 暫の柿の素袍
 四十四 三日月おせん
 四十五 團十郎鎌○ぬ
 四十六 夜雨庵白猿
 四十七 八代目自殺
 四十八 先祖祭り
 四十九 芝居人別
 五十 女形大坂より登り下り
 五十一 新下りの書状
 五十二 助六吉原廻り

解説



舞曲扇林 戯財録 02



◆本書より◆


「舞曲扇林」より:


「舞の心業」:

「○今やうの所作世上の事もるゝ事なし。中にも十が七ツは戀のしよさなり。うかうかと聲雅に任せ舞たらんは所作に移るまじ。戀の聲雅、みな心業の事なれば、曲つけにくきものなり。さればこそ常に伊勢物語などの戀哥吟じ、よく知る人に其深理を尋、其意(こゝろばせ)を知、其道をよくうつしなば、天然と其意所作に移りておもひゐれ外にあらはるべし。おもはゆきことも心からこそなすべけれ。うはの空にすべからず。おのづから常の風俗(ならはし)も優(やさ)ならんに。」

「狂亂」:

「○妻をしたふあり、子をかなしむあり。よくよくおもひゐれずは、狂亂にはみへまじき事也。見ゆる所のふりは聲雅に依て有べし。妻の事我子の事おもふゆへに狂亂になりたる事なれば、月花をみるとても妻子の事忘る事なく、目にするがごとく所作せば心ぞ外にあらはれてよく移るもの也。今は古來より上手あまた有べけれども、萬事不吟味に成きたり、藝のたしなみ無之ゆへ、古來のものゝごとく名をしとふものなし。右にいふゑびす屋吉郎兵衞狂亂ごと上手にて、中にも關寺得ものにて有しが、拍子をつよく踏、かるがると所作をなせり。有人の云。「百とせの狂女がかほど達者には有まじ、狂らんなればこゝろはさも有べし、五躰はこれほど達者には有まじき」と申されき、勿論也。工夫たらぬなるべし。近き比、中村傳九郎狂亂のしよさ有しが、こゝろ外にあらはれ、見物も移りてほめたりし。藝者は万に心つくべき事也。」


「戯財録」より:


「作者金言之事」:

「一、狂言は何を目當に作るぞと尋ねし者あり。答へていふ。狂言はつれづれの文にある白うるりを目當にするといひ終つて歸る。問ふ人感心せしとなり。白うるりといふものは、あつたらこんな物であらうと推量してゐるところが作者なり。天子・將軍の行跡見たこともなし、乞食・盗賊につきあひたることはなけれども、こんなものであらうと、人情を推量して作るが白うるりなり。今世にいひ傳へ聞き傳へすること、戯場より出たること多し。これ作者の大丈夫白うるりより定め出せしものなり。この心持にて萬事仕組む時は、趣向古くても見ざめのせぬやうに鎌を入れ衣をかけて新狂言にすることなり。そうじて机にゐる時、三千世界はわがものと思ひ、向ふ敵なしと心得、役者はわがものにして遣ふべし。さもなくば筆すくみ氣がねばかりが心に浮み、見物の人氣を動かす事あたはず。一通り筋立てたる跡にて、役者の甲乙にしたがひ加筆すべし。(中略)大座には立者多く、めいめい當てんと先陣を爭ひ、すれ合ひの味方討あるものなり。小座は立者の勇士少く、すれ合ひなく、互に端役までも出て力をつけ合ひ、外芝居の大座に負けまいときしむ故、いちづに狂言もはづみがつきて、仕生けて大座に勝つこと毎度ためし多し。我意を挾み、依怙贔屓に役者の例を亂すべからず、甲乙により役をみるべし。君子は重からざれば位なし。ずいぶん身持よろしく内兜をみられぬやう、諸卒を心にて案じ、場に籠城して狂言の計略を工夫すべし。」



「芝居秘傳集」より:


「十八 提灯の幽靈」:

「菊五郎お岩にて提灯の内より初めて出たるは、南北・梅幸が工風に非ず、長谷川勘兵衞工風にて菊五郎へすすめる。同人はどうして出らるるやら更に呑込めず、勘兵衞、盆提灯の二番を買つて來り、眞中糸の骨のかかり二間切つて捨てたり。切りたる糸のつなぎへ張金にてくくり付け、紙をはり、尤も前と後、通り抜けに切りたり。梅幸細工場へ來て見て、「是では小さからう。一番の提灯が宜からう。」といへば、勘兵衞笑うて、「大きい中より出るは誰でも出られます。小さい内から如何して出られると思はせねば面白くなし。」といふ。「顏が出たら前へからだずつと張つて出、前へ下より撞木突上ぐれば此の撞木に手をかけ、撞木の棹には足の懸民ついてあれば自由にて、其の儘撞木舞臺の下へ引下ぐる。提灯の後より八樋を突出す。是にて出らるる道理。」といふ。梅幸感心して其の通りにやり評判よく、世の中では梅幸が工風と今にいひ傳ふ。」

「三十八 近頃怪談の元祖

「昔、怪談事初めたる役者ありしが、尾上松助松綠が元祖といふべし。此松助は、初代菊五郎の門弟にて、大坂より娘形にて下り、後、元服して立役と成る。松助、元來細工に妙を得たり。「忠孝兩國織」とて忠臣藏の書替を狂言に、師直を勤めしが、自分の首を自作にて彫り、舞臺にて之を遣ひ、松助の首の有る所へ松助が出て來る趣向。見物目を驚かし、誰が見ても正眞の松助の首に相違なし。殊の外評判よく、是、似顏の首の元祖といふ。後に、人形町の鼠屋五兵衞の息子福藏といふ者、幸四郎・半四郎、其の外似顏の首をほりてはやらせたり。
 松助は、怪談物早替りの仕懸等、皆自分の考にて至極手輕くやつたり。累の幽靈にて、蓮池の蓮の葉の上を渡りたる事あり。是は、蓮の葉の下へ黑き臺を拵へ、上にしたし、此の葉の上を渡りしなれば、雜作もなき事なれど、見物の見た目では不思議だというて肝を潰したり。
 後、提灯より出る幽靈も、伜菊五郎と長谷川道具方との相談にて拵へたり。此の外、工風あまたあり。又お岩と小佛小兵衞の戸板返し、累、唐瓜に眼鼻などのつく仕懸は、鐵炮町人形屋政・福井町の勘治と云ふ者の作なりと。」





こちらもご参照ください:

守随憲治 校訂 『役者論語』 (岩波文庫)































































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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

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