森銑三 『近世人物夜話』 (講談社文庫)

森銑三 
『近世人物夜話』
 
講談社文庫 C30

講談社
昭和48年7月15日 第1刷発行
398p
文庫判 並装 カバー
定価280円
デザイン: 亀倉雄策
カバー装画: K・B・K



単行本は昭和43年東京美術刊、本書はその文庫化です。新字・正かな。「後記」のみ二段組。


森銑三 近世人物夜話


カバー裏文:

「“事実は小説よりも奇なり”秀吉のしっぺ返しと茶の湯、幸村の深謀、後藤又兵衛遺文、蕃山と正雪の心術、西鶴という作家、名優藤十郎の自尊心、白石と瑞賢の果敢なる至誠、渡辺崋山の生活、ほか新門辰五郎にいたる歴史を彩る四十数人を、虚飾なく史料に基いて語る人物伝記。」


目次:


秀吉と如水
秀吉の茶の湯
幸村入城
基次と長政
後藤又兵衛遺聞
真田信之
関口柔心
蕃山と俊光
蕃山と正雪
西鶴といふ作家
坂田藤十郎
大沢勘太夫
白石と瑞賢
広沢の見た夢
甚四郎と金四郎
望月玉蟾
平賀源内
孝子山口庄右衛門
駿河の八助
重賢と定信
宮薗鸞鳳軒の死
隠者平明徳
古賀精里夫人
伴蒿蹊
京伝の机塚
竹村悔斎
南畝の日記
南畝の狂歌との絶縁
南畝の一日
竹本播磨掾
曾槃逸聞
紀定丸
信淵と松陰
渡辺崋山の生活
椿椿山
将棋さし柳雪
東湖瑣話
曲亭馬琴の自撰自集雑稿
京山の書いた馬琴伝
奎堂江戸を去る
拳骨和尚そのほか
新門辰五郎

人物研究に就いての私見 (森銑三)
森さんの「近世人物夜話」 (片桐幸雄)
後記 (森銑三)




◆本書より◆


「望月玉蟾(ぎょくせん)」より:

「望月玉蟾は名を玄といつた。京都の人である。家は描金を業としてゐた。玉蟾は幼時から絵を画くことが好きで、そのために、ともすれば著物を汚す。その都度父親が叱るのだけれども、聞入れない。それで或時は、裏手の柱に縛りつけられた。それでも紐が長くて自由が利いたのか、玉蟾は消炭を拾つて来て、そこの壁に竜を画いた。その出来栄の見事なのに、父も我を折つた。さうして紐を釈いてやつただけでなく、それからはもう叱りつけなくなつた。」

「玉蟾は善画を以て聞えてゐたばかりではなくて、賞鑑にも精しかつた。それで所蔵する古画の目利を乞ふものが多かつた。玉蟾はよいものを一目見ると、一生涯忘れなかつた。後に門人に話をして、それはかやうかやうの絵だと、その大体を画いて見せる。原本と較べると、少しも違はなかつた。
 漢画を口にする者は、宗元以上を尚んで、明人の画はこれを陋とする。玉蟾はさうした意見に、左右せられなかつた。本邦の画では、狩野元信と雪舟とを、最も推重した。人がこの二家に対してとやかくいつたりすると、画を作つてゐる最中でも、すぐに筆を擲ち、眼鏡を外して向きになつて、これを弁ずる。さやうの折には、声色の憤然たるものがあつた。尊尚かくの如くだつたのである。
 玉蟾が夜半に急に弟子を呼んで、紙と筆とを用意してくれといふ。何事かと思つたら、某の像を画いて見ようと思つたら、その形が目に附いて寝られないと、すぐに筆を執つて画き終へて、さうして寝た。」
「或時、人物を画くのには、どこから筆を著けたらよろしいのですか、と問うた人のあつたのに、答へていつた。どこからだつて結構です。何でもなくさういつて、即座に筆を把つて、まづ一方の臂を画いた。それからその上下を画き足して、つひに人物を成した。」



「伴蒿蹊」より:

「大空にあひもかはらぬ月をのみ友とたのみて秋も経にけり」

「もみち葉はたゞ降り敷けや狭男鹿のあとをさつをの目に立てぬまで」



「曲亭馬琴の自撰自集雑稿」より:

「恐らく馬琴は、何人とも胸襟を開いて語るなどといふことは、出来ない人だつたのであらう。
 しかし一面には、馬琴は人間が正直で、人に欺かれ易いところがあつたらしい。(中略)世にすれた商賈などより見れば、馬琴の如きは与し易い男だつたのであらう。若年の頃などには、迂濶に人を信じて乗ぜられるところとなつた経験などもあつて、次第に猜忌的な眼で人を見るやうになつたのであらうかとも考へられる。」



「拳骨和尚そのほか」より:

「史上の人物の逸話には、信頼の置かれぬものが多い。それで専門の史家などには、さうしたものには、てんで目をくれようともせぬ人が多い。
 それも一つの態度であらうが、根も葉もない逸話も、それがその人のものとして伝へられるのには、またそれだけの理由のあることも考ふべきであり、さうした逸話はまたさうした逸話として考察したい。」




































































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難破した人々の為に。

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