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石井美樹子 『シェイクスピアのフォークロア ― 祭りと民間信仰』 (中公新書)

石井美樹子 
『シェイクスピアのフォークロア
― 祭りと民間信仰』
 
中公新書 1114

中央公論社
1993年1月15日 印刷
1993年1月25日 発行
vi 196p 
新書判 並装 カバー
定価680円(本体660円)



本書「あとがき」より:

「ルネッサンスの申し子として、シェイクスピアはたしかに「新しい学問」の洗礼を受けていた。しかし、シェイクスピアが作劇の土台としたのは、かれの血のなかに色濃く残る文化と演劇の土着の土壌だ。それは、作者と観客を結ぶ一種の暗黙の契約のようなものであり、個人の恣意や、生活体験を越えた集団的な無意識とでもいってよい。」


本文中図版(モノクロ)21点、地図(「本文関連州名図」)1点。


石井美樹子 シェイクスピアのフォークロア 01


帯文:

「妖精や幽霊が身近だったころ、人々はなにを演じていたのか」


カバーそで文:

「シェイクスピアが活躍していた十六世紀ころのイギリスは民衆文化(フォークロア)の宝庫であった。人々は民間信仰を根強く持ち続け、豊穣を祈る祭りをとり行なった。型にのっとって寸劇をし、美しい衣装を着て踊り、それに夢中になる王侯貴族もいた。社会道徳を守らぬ者には見せしめがあり、学者たちは幽霊の存在をめぐり真剣な論争を繰り広げていた。近代以降急速に失われていった活気に満ちた民衆文化の世界をシェイクスピア劇の中に探り出す。」


目次:

はじめに

第一章 祭りの広場にて
 伝統文化の復興
  セシル・シャープとモリス・ダンスの出会い
  祭りの広場にて
 張り子の馬は健在なり
  ジャック・ケイドの乱とモリス・ダンス
  宮廷の余興としてのモリス・ダンス
  ロビン・フッドの一味がやってyきた
  道化とひしゃく
  張り子の馬は健在なり
  ハムレットのホビー・ホース
 五月祭のケーキ
  ロンドン橋のさらし首
  子羊のエール
  五月祭のケーキ

第二章 フォーク・プレイ
 女王様も見た民衆の祝祭劇
  ホック祝節劇
  豊穣祈願の模擬戦
  イギリスの民衆芸能
 ハムレットのフォーク・プレイ
  宮廷の余興を装ったねずみ取り
  王殺しのフォーク・プレイ
  黙劇は「王殺し」のフォーク・プレイ
 スキミントン――娯楽を装う制裁
  スキミントン
  鹿狩り
  スキミントンの演劇性
  『ウィンザーの陽気な女房たち』
  ハムレットのスキミントン

第三章 『リア王』のメルヘン
 チャイルド・ローランド
  エドガーの呪文
  チャイルド・ローランド
 エドガーの通過儀礼とシンデレラ物語
  イギリスのシンデレラ物語
  コルシカのシンデレラ物語
  エドガーの通過儀礼
  メルヘンから人間の悲劇に

第四章 幽霊のフォークロア
 幽霊のフォークロア
  幽霊が闊歩するチューダー朝
  煉獄をすみかとする幽霊
  幽霊は悪魔なり
  『ハムレット』の亡霊
  古典の復興とオカルト主義者たち
  幽霊のフォークロア
  シェイクスピア劇の主人公たちが見た幽霊

あとがき



石井美樹子 シェイクスピアのフォークロア 02



◆本書より◆


「五月祭のケーキ」より:

「橋の両側には、フィレンツェのベッキオ橋のように、二階建ての店が立ち並び、通行人や買物客でごったがえしていた。当時の様子は、民話「スワファムの行商人」の冒頭に、生き生きと描かれている。「今はずっとむかし、まだロンドン橋の上に端から端までずらりと店が並び、橋桁の下を鮭が泳いでいたころのこと、ノーフォークのスワファムに一人の貧しい行商人が住んでいた……」(『イギリス民話集』河野一郎編訳、岩波文庫)。橋をほぼ渡り終え、劇場や見世物小屋などが立ち並ぶサザック側の入り口のグレイト・ストーン・ゲイトに着くと、まず目に入るのは、日乾しになって槍の先にぶらさがる犯罪人の首だった。
 さらし首の慣習は一三三九年にはじまり、一六七八年まで続いた(中略)。いまから考えるとぞっとするような光景だ。だが、(中略)当時のロンドンっ子にはお馴染みの光景、血まみれの首を見て驚くロンドンっ子はいなかった(中略)多いときには、三十個以上もの首がさらされていたという。
 一五九二年というと、シェイクスピアの『ヘンリー六世第二部』が書かれてからほぼ一、二年後のことであるが、ドイツのウルテンベルクのフレデリックという旅行者がこんな記述を残している。

  しかるべき立派な人物の首が三十四あまりさらされていた。騒乱罪やその他で有罪とされ、首を切られた人たちだ。(W. B. Rye, England as Seen by Foreigners, London, 1865)

 『ヘンリー六世第二部』の四幕一場、サッフォーク公爵は、王妃の使節としてフランスに赴くとちゅう、ケント州の海岸で小艦隊の捕虜になる。家臣が命乞いをと諭すと、公爵は敢然といい放つ。

  サッフォークの帝王なるわがはいの舌は峻厳苛烈だ、
  命令することには慣れていても、なさけを乞うことは知らぬ。
  こんなやつらに、卑屈にも命乞いをして
  名誉を与えてなるものか。断じてできない。
  天国の神と、主君たる国王以外の者にこの膝をまげるくらいなら、
  首切り台のうえに身を投げ出したほうがまだまし。
  帽子をとってげす野郎どものまえに身をさらすより、
  生首を血まみれの竿(ポール)のうえで踊らせるほうがよい。

 かの悪名高いタイバーン処刑場で処刑された犯罪人の首は、身分の上下にかかわりなく胴体から切り離され、ロンドン橋でさらされた。大法官という最高の位にのぼりつめたにもかかわらず、ヘンリー八世の離婚に反対して王の憎しみを買い、ついには断頭台の露と消えたトマス・モアのような有名人が処刑され、その首がさらされたときなどは、見物客がどっと押し寄せた。当時の処刑がそうであったように、さらし首も、熊いじめや芝居と同様に、庶民の娯楽のひとつだったのだ。
 サッフォーク公のせりふを耳にしたロンドンっ子たちは、すぐさま、ロンドン橋のさらし首を心に思い描いたことであろう。と同時に、とくに、シェイクスピアと同郷のウォリックシャーや、オックスフォードシャー出身の人は、「血まみれの竿(ポール)」のうえで「踊る生首」と聞いただけで、「五月祭のケーキ」を連想したのではないだろうか。」

「オックスフォードから西方へ十四マイルほどゆくと、バンプトンの村に着く。この村の聖霊降臨祭の行事は、今日まで、五百年以上も続けられている。祭りの主役はケーキである。丸い缶に入ったケーキを剣持ちが掲げて歩く。剣の先が突き刺さるように、缶の一部に切れ目が入っている。バターがたっぷり入ったパウンドケーキで、ケーキを一切れもらった人には好運が訪れると信じられている。」

「これらの五月祭に共通するのは、生きた動物を屠り、その肉を村人で分けあって食することである。生きた動物のかわりに、ケーキを分けあって食べる場合もある。カートリントンの「小羊のエール」では、小羊の肉からパイのケーキが作られる。(中略)動物の肉やケーキを食べたり、保存したり、身につけたりすることによって、動物や植物の生命力にあやかろうとするのだ。
 さて、バンプトン村の五月祭で動物のかわりをするのはケーキだ。(中略)C・J・シャープは、踊り(モリス・ダンス)を伴うこのような祭りの起源について、こう述べている。

  手短にいえば、大昔に、共同体のあいだに広くゆきわたっていた季節に伴う異教の風習の名残りで、動物と植物とをとわず、生きとし生けるものの豊穣を願う儀式とかかわりがあったのかもしれない。この儀式の中心的な行為は、聖なる動物を犠牲として屠り、その屍を神聖なものとして崇め、おごそかな宴をはることにある。……聖なる動物の犠牲と、それに続く宴の目的は、神と共同体の構成員とのきずなを強めることにあった。(C. J. Sharp, The Morris Book)

 動物や穀物の犠牲を神に捧げて神の怒りを和らげ、共同体の平和と繁栄を祈願する儀式は、原始の時代から、世界中いたるところで行なわれてきた。(中略)バンプトンのポールに突き刺されたケーキも、共同体の安寧のための犠牲をあらわす。テムズ川の橋に掲げられた、槍のうえで踊る、血まみれの首も国家の秩序の安定のための犠牲といえよう。首を見世物にする為政者、そして、その首をひとめ見ようとむらがる群衆。人権意識の発達した現代にあっては想像を絶する残酷な場面だ。だが、(中略)郷土の五月祭の行事に慣れ親しんで育ったロンドンの市民たちには、血にまみれた反逆者の首は、ウィッチウッド森の鹿や槍のうえのケーキのように、かれらと国家とを結ぶきずなだったのだ。さらし首を見あげる見物人は、鹿を射止めて勝ちどきの声をあげる狩人のように、秩序の安泰に安堵し、勝利に酔い痴れたのにちがいない。」














































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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