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G・K・チェスタトン 『ポンド氏の逆説』 中村保男 訳 (創元推理文庫)

「「ははあ」タルノウスキーはゆるやかに喉の奥から声を出した――「いわゆるパラドックスというやつですね」
 「や、それは言わんでください」ポンド氏はうなった。「英国ではみんなにそう言われていますがね。しかし正直のところ、パラドックスとは何なのかわたしにはわからないのです」」

(G・K・チェスタトン 『ポンド氏の逆説』 より)


G・K・チェスタトン 
『ポンド氏の逆説』 
中村保男 訳
 
創元推理文庫 110-9 

東京創元社
1977年9月22日 初版
1989年1月6日 7版
234p
文庫判 並装 カバー
定価360円(本体350円)
カバー: 日下弘・荘司訓由



G.K. Chesterton: The Paradoxes of Mr. Pond, 1936


チェスタトン ポンド氏の逆説


扉文:

「温厚で控え目な小柄な紳士ポンド氏には穏当な筋の通った談話の最中に奇妙な発言をまじえる癖があった。死刑執行停止令を携えた伝令が途中で死んだために囚人が釈放された。完全に意見が一致したために二人の男の一人が相手を殺した。影法師を一番見誤りやすいのはそれが寸分の狂いもなく実物の姿をしている時だ。背が高すぎるために目だたない……等々。耳を疑いたくなるポンド氏の話も実はつじつまがあっているのだ。読者はどう推理されるだろうか。巨匠チェスタトン自らが逆説集と銘うった珠玉の短編集!」


目次:

三人の騎士
ガーガン大尉の犯罪
博士の意見が一致すると……
道化師ポンド
名ざせない名前
愛の指輪
恐るべきロメオ
目だたないのっぽ

形而上的推理と幻想と逆説 (中村保男)




◆本書より◆


「三人の騎士」より:

「ポンド氏は人なみに礼儀正しく、身ごしらえもこざっぱりしている。それなのにわたしはこの人物には妙に心を動かされるし、時には不気味なものを感じることさえある。わたしの幼い頃の想い出や、氏の名前からくるおぼろな連想が手伝っているのだろう。子供心の気まぐれから、父の旧友であり官吏であった氏の《ポンド》という名を、うちの庭の《泉水(ポンド)》とごっちゃにしてしまったらしいのである。そう言えば、この人物は庭の泉水に不思議に似たところがある。ごく静かで姿もよく整い、いわば天と地と日々の陽光を平凡に映して、はなはだ明るいのがこの泉水氏の常態なのだが、しかしわたしはうちの泉水には何かしら奇妙なところがあるのを知っている。百ぺんも見るうちには一ぺんくらい、一年のうち一日か二日は、模様がへんに違っているのである。そういうときの泉水には、単調な静寂(しじま)の中に舞うものの影がうごいたり、閃くものが走ったりする。そして魚だとか蛙だとか、さてはもっと奇怪な生きものまでが、姿を天にさらけ出してみせるのである。それと同じに、ポンド氏の中にも怪物がいるのをわたしは知っていた。その怪物は彼の胸底から浮かび上がって一瞬間だけ姿を現わし、また沈み去ってしまう。この怪物の出現は、穏当で筋の通った談話の最中にポンド氏みずからが放つ奇怪な発言という形をとった。そこで、正常このうえない話の途中で突然に氏の気が触れたと思いこむ人もあった。しかし、そういう人にしても、氏があっというまにまた正気に返っているのを認めないわけにはいかなかった。
 ポンド氏自身がずいぶんと魚に似て見えることもあったので、ああいうばかばかしい空想が子供のわたしにとりついたのは、あるいはそっちのせいであったのかもしれない。」



「愛の指輪」より:

「「さきほど申しましたように」ポンド氏は例によって明解ながら少々長たらしい物語の終わりにさしかかったところだった――「このガーガン君ははなはだ誠実な人物で、埒もない不必要な嘘をよくつきます。しかし彼の誠実さというものは――」」
「「今、なんとおっしゃったんです?」ウォットンの口調には皮肉がなくもなかった。
 「もちろん、わかりきったことです」ポンド氏は口をとがらした。「ほんものの嘘つきは埒もない不必要な嘘などつくものじゃありません。いつだったかガーガン君は海蛇を見た、それも一匹や二匹じゃなく六匹の海蛇を見た、最初のやつより次のやつ、次のやつよりもその次のやつ、と順ぐりに大きい六匹だったと述べましたが、こういうことをいわざるをえない必要など彼にはなかったのです。ましてや一匹めが二匹めに、それが三匹めに、と次々に呑まれていったと報告に及ぶにおいてをやです。最後に残った一番大きいのが口をかっと開いたので船を呑むかと思ったそうですが、実はお腹がくちくなってあくびが出ただけで、じきに昼寝を始めたそうですよ。その大海蛇の腹中では次に大きいのがあくびをして昼寝につき、そのまた腹中では、というふうに順ぐりに進むさまには整然たる数学的秩序があったのですが、これはくどくど申しあげるまでもありますまい。ただ、最後の小さいやつは食事がまだだったので、何かないかと外出して行ったそうです。徹頭徹尾、不必要な言明ですよ、こんなのは。それに、聡明な発言だったともとうていいえませんね。この談話のためにガーガン君の社会的地位が高まるとか、科学的研究の報いとして賞金や勲章が授かるなどということもありそうにない。なぜだかわたしは存じませんが、たとえ一匹に限定しようと海蛇の話と聞いただけで顔をしかめるほどの偏見が学界にはありますし、ましてこういう形式の談話に学者たちが耳を傾けようとも思えませんからね。」」
「「ガーガン君が六匹の海蛇を見たと称しても、そのことだけならわたしは信じることだってできます。しかし、一匹目から二匹目と順々に大きいやつが出現したというのは信じ難いことです。最初のは大きく、次のは小さく、その次のは大きかったというふうにもちかけられたら、あるいはわたしどもも一杯喰ったかもしれません。」」



「恐るべきロメオ」より:

「ポンド氏は淡々と述べた――
 「生まれてこのかた、わたしはパラドックスなど喋ったことはありませんよ。自明の理を語っているだけなのです」」



































































































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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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