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G・K・チェスタトン 『奇商クラブ』 中村保男 訳 (創元推理文庫)

「草そのものが妖精の大群で、その妖精は自分の味方ではない、そんなふうにさえ思われた。」
(G・K・チェスタトン 「驕りの樹」 より)


G・K・チェスタトン 
『奇商クラブ』 
中村保男 訳
 
創元推理文庫 110-07

東京創元社
1977年6月10日 初版
1995年5月19日 5版
335p
文庫判 並装 カバー
定価580円(本体563円)
カバーデザイン: 小倉敏夫



G.K. Chesterton: The Club of Queer Trades


チェスタトン 奇商クラブ


カバー裏文:

「会員は既存のいかなる商売の応用、変形でない完全に新しい商売を発明し、生活を支えなければならない。この変わったクラブ、奇商クラブの面々をめぐる事件を、優れた裁判官でありながら裁判官席で発狂し、隠退したバジルが解決する逆説に満ちた探偵譚。チェスタトンがブラウン神父シリーズに先駆けて発表した傑作短編集である。全六編に、中編「驕りの樹」と「背信の塔」を併録。」


扉文:

「会員たらんとするものは完全に新しい生業(なりわい)の方法を発明しなければならない。それは既存の商売の応用、変形であってはならないし、その商売は発明者の生活を支える収入をもたらさねばならない。この一風変わったクラブ、奇商クラブの面々をめぐって起こる事件を、英国でも一、二を争う裁判官でありながら裁判官席で発狂し隠退したバジル・グラントが解決する、逆説に満ちた探偵譚。推理小説史上の巨人チェスタトンがブラウン神父シリーズに先駆けて発表した短編集。中編傑作「驕りの樹」と「背信の塔」を併録。」


目次:

奇商クラブ
 ブラウン少佐の大冒険
 痛ましき名声の失墜
 牧師はなぜ訪問したか
 家屋周旋業者の珍種目
 チャッド教授の奇行
 老婦人軟禁事件

背信の塔

驕りの樹
 1 孔雀の樹の物語
 2 郷士ヴェーンの賭
 3 井戸の秘密
 4 真相追究

解説 (中島河太郎)




◆本書より◆


「奇商クラブ」より:

「バジルという人物について何か知っている者はほとんどいなかった。それは、彼が特に非社交的な人間だったからではない。行きずりの人がのっそり彼の部屋に入って来れば、彼は一晩中でも相手にお喋りをさせておくだろう。それでもやはり彼と知合いになった人は皆無といっていい。彼はすべての詩人がそうであるように、そういった知人を必要としていなかったのである。たしかに彼は、夕焼け空が突然、一つの色に溶け合うのを歓迎するのと同じ気分で人間の顔を喜んで迎えるが、いざパーティーに出かけて行く段になると、そんな必要は夕焼け雲を変える必要を認めぬと同様にまったく認めてはいなかった。彼は、ランベス街のある風変わりで居心地のいい屋根裏部屋に住んでいたが、彼をとりかこむ雑然とした品は、あたりの貧民街と奇妙な対比をなしていた。古めかしい奇想天外な書物や剣や甲冑など、ロマン主義の道具立が埃にまみれて散らかっていたのである。しかし、こういった現実ばなれした遺品のかずかずのなかで、当人の顔は、妙に鋭く近代的に見えた。それは、逞(たくま)しくまともな顔だった。」

「「彼には一つ欠点がある」とバジルは思慮深げに言った。「いや、なかにはそれを美点とみなす人がいるかもしれない。奴はあまりにもはっきりと洗いざらい本当のことを言ってしまう癖がある。つまり、真実を語りすぎるんだ」」

「「ぼくとしてはズールー人が劣等な進化段階にあるとは、とうてい信じられない。月に向かって吠えたてたり、暗闇の中で鬼を恐れたりすることはちっとも馬鹿げたことでも、無知なことでもないのだ。ぼくにはそれがいたって理にかなったことだと思われる。存在そのものの神秘と危険を感じる人があったからと言って、どうしてそれを白痴と考えなくてはいけないのか。(中略)暗闇の中で鬼を恐れることのないわれわれこそ、能なしなのだとしたらどうです?」」



「驕りの樹」より:

「「突き出た森林の先端が砂漠と、潮の満ち干のない大海原とのあいだで細まっているあのバーバリーの海岸にいらっしゃれば、今でも、土民たちが暗黒時代の一聖者にまつわる不思議な物語を話しているのをお聞きになるでしょう。(中略)祖言い伝えによると、そのあたりの森に住んでいた聖セキュリスという隠者は、樹をまるで友人のように愛し始めたというのです。その樹は、手が百本、頭が五十あったというギリシャ神話のブリアレオースよろしく無数の枝をもった巨木なのですが、生き物のなかではもっとも穏健で害のない種類で、ライオンのように喰い荒らす代わりに、すべての小鳥たちにその腕を広げてやったのです。そこで聖セキュリスは、その樹たちが時折ほかの生き物と同様に歩くことができるよう祈ったのです。こうして樹は、かつてオルフェイスの歌声で動きだしたように、聖セキュリスの祈りによって歩き動くこととなりました。砂漠の人びとは、聖者が小学生を引き連れた教師のように、歩く森と一緒に歩き回っているのを遙かに眺めて恐怖のとりことなりました。というのも、樹はきわめて厳格な統制のもとに解放されていたからで、隠者が鈴を鳴らすと元の場所に戻り、野獣の真似をするにせよ、歩くことだけで、殺生したり喰い荒らしたりは絶対にしなかったのです。さてあるとき一本の樹が聖者の声ではない何者かの声を聞いたというのです。緑色にたそがれた夏の夕暮どきにその樹は、大きな鳥に姿をやつした何者かが自分の枝に坐って喋るのを耳にしたのですが、それこそ、かつて大蛇に化けて樹から声をかけた悪魔そのものだった。悪魔がそよぐ葉のあいまで次第に声を高めると、樹は、ぐいと腕を伸ばし、なんの悪さもせずに巣のあたりを飛びかっている鳥たちをひっ捉え、ちりぢりにむしり殺してしまいたい欲求にとりつかれた。最後に誘惑者の悪魔は、彼自身の驕りの鳥、あの星をちりばめたような孔雀の大群で樹の梢を満たした。すると、樹の精神は畜生の精神に圧倒され、樹は青緑の鳥どもを八つ裂きにして一枚の羽も残らぬまで平らげ、おとなしい仲間の樹のいる所に戻った。ところが、春がめぐりきて他の樹が葉をつけ始めると、この樹は色も形も奇妙な羽をふきだしたというのです。」」

「「なんて奇妙な恐ろしい物語なんでしょう」と叫んだのはバーバラだった。「自分が人喰い人種になったような気がしますわ」」


















































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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