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G・K・チェスタトン 『ブラウン神父の知恵』 中村保男 訳 (創元推理文庫)

「「なによりもおそろしいのは、中心のない迷路です。だからこそ無神論者は夜ごと悪夢にうなされる」」
(G・K・チェスタトン 「シーザーの頭」 より)


G・K・チェスタトン 
『ブラウン神父の知恵』 
中村保男 訳
 
創元推理文庫 110-2

東京創元社
1982年4月30日 初版
1991年11月15日 5版
328p
文庫判 並装 カバー
定価480円(本体466円)
カバー: 長谷川並一



Gilbert Keith Chesterton: The Wisdom of Father Brown, 1914


チェスタトン ブラウン神父の知恵


扉文:

「奇想天外なトリック、痛烈な諷刺とユーモア、独特の逆説と警句、シャーロック・ホームズものと双璧をなす短編推理小説の宝庫ブラウン神父譚。作者チェスタトンは、トリック創案にかけては古今の推理作家中でも卓越した存在である。まん丸な童顔には、澄んだ目がぱちくりしている。不恰好な小柄なからだに大きな帽子と蝙蝠傘(こうもりがさ)といういでたち。どこから見ても質朴で能のない貧相な坊さんにすぎないのだが、ひとたび事件が起きるや、ブラウン神父の探偵ぶりの鮮やかさ。快刀乱麻をたつように難事件を解決する!」


目次:

グラス氏の失踪(しっそう)
泥棒天国
ヒルシュ博士の決闘
通路の人影
器械のあやまち
シーザーの頭
紫の鬘(かつら)
ペンドラゴン一族の滅亡
銅鑼(どら)の神
クレイ大佐のサラダ
ジョン・ブルノワの珍犯罪
ブラウン神父のお伽噺(とぎばなし)

解説 (中島河太郎)




◆本書より◆


「ヒルシュ博士の決闘」より:

「フランボウは言った――「もしも」やや荒々しい声だった――「もしもヒルシュ博士がほんとうに臆病な裏切者だったら……」
 「ああいうお人にあんまりきびしくしないほうがいい。こういう罪は、すこしも本人のせいじゃないのだよ。あのような人は生まれつき拒絶するという能力に欠けているのだ。女が男からダンスを申しこまれて断わったり、男が投機に手を出すのを断わったりするような能力がもともとないのだよ。」」

「ブラウン神父の顔つきは、いかにもありふれたものだったが、妙な満足感にあふれていた。それは、むろん認識の光で輝くこともあったが、無知である時にもよく輝いた。」



「ペンドラゴン一族の滅亡」より:

「以上のようなどうでもいいことを神父は逐一、耳と目におさめていた。とはいえ、車中の疲れきった男が線路の上で車輪がかなでる単調な曲を聞くともなしに聞いたり、病人が壁紙の模様をなんとはなしにながめているのと大差ない受けとりかただった。」

「「鳥の羽を一枚、化石だの珊瑚(さんご)だのといっしょにしてごらん。だれだってそれを見たら、標本だと思う。次に、同じ羽をリボンや造花と並べて置いてみなさい。こんどは、婦人帽につかう羽だと思うでしょう。インクびんや、本や、ひとかさねのレターペーパーとその羽をいっしょにしておけばどうなるか。それを見た人は十中八九まで、あそこには羽ペンがあったと証言するでしょうな。」」



「銅鑼の神」より:

「「ひとつ、よく考えてごらんなさい。だれでも、自分がひとりきりだと感じれば感じるほど、それだけ自分がはたしてほんとうにひとりなのかどうか怪しく思うようになるんじゃないでしょうか。ひとりきりでいるというのは、当然、自分のまわりがだれもいない空き地であるということで、それなら自分はその空き地のまんなかでことさら人目につきやすいというわけです。」」


「クレイ大佐のサラダ」より:

「ブラウン神父のなかにはふたりの人間が住んでいた。行動家のブラウンは浮草のごとくつつましく、時計のごとく時間にきちょうめんで、日々のささやかな義務を励行し、夢にもそれを変更しようとは考えなかった。他方、熟考家のブラウンは、行動家にくらべてはるかに単純だったが、はるかに強靭(きょうじん)であり、思いとどまらせることは容易ではなく、その考え方は(唯一の知的な意味で)自由な思考法だった。要するに、ありうるかぎりの質問をみずからに発し、できうるかぎりそれに答えることを、無意識のうちに行なってしまうのだった。これは呼吸や血液の循環と変わらぬ自然の働きだった。」


「ジョン・ブルノワの珍犯罪」より:

「神父は、無表情なまん丸い顔を星空に向けて、ぼんやりとしゃべりつづけた。「まず、あいまいな思いつきのほうから紹介しましょう。だいたい、あいまいな思いつきというものはしごくたいせつなのです。わたしはそう思う。証拠にならないようなことがわたしには決め手になるのです。性格的に不可能だということほど大きな不可能性はないと思うのです。」

「ブルノワ夫人は、相変わらず確信しきった様子を努めておさえながら、また神父に近寄った。
 「主人はすぐれた人です。(中略)主人は名声を得たことも成功したこともありません。名士になろうなんてことは夢にも考えていませんでした。(中略)そういう点では主人はあっぱれなほど頭がまわらないのです。まだまだ子供とかわりありません。」」

「「おわかりになってないのですね」とブルノワ夫人は言った。「主人はちっとも気にしやしません。アメリカなんて所がほんとうにあるのかどうかさえもわかっていない人ですもの」」

「「どうかそのままで、ブルノワさん」と神父はいつものあいそうのよい散文口調で言った。「おじゃまいたすつもりはないのです。なにか専門のお仕事の最中に押しかけて来たんじゃありませんか」
 「いいや」とブルノワは言った。「《血まみれの拇指(おやゆび)》を読んでいたところです」これを言うのに、顔をしかめもせず、そうかと言って微笑をうかべもしなかった。そこで客人は、細君が大人物だというこの男にはなにか深い、ひ弱なものではない無関心がひそんでいるのに気づいた。」
「「どうもうまく自分が分析できないのですが」とブルノワは続けた――「それでもあの椅子にすわってこの本を読んでいると、ぼくは半どんの日の小学生みたいに幸福でした。安定感と言いましょうか、永遠感と言いましょうか、どうもうまく言えませんが……すぐ手もとに葉巻があり……マッチも手の届くところに置かれ……話のなかにあの血まみれの指が繰りかえし四度も現われてくれる……それはただ心が安らかになるだけのものじゃありません、完全な充足感なのでした。」」




◆誤訳指摘◆


誤ちは人の常、誤訳もまた人の常なのでしかたがないですが、訳者の中村さんは他人の誤訳を指摘する本を出しているので、自分の誤訳を指摘されてもしかたがないです。しかしめんどうなので一個所だけにしておきます。


「器械のあやまち」より:

「あんたがたは、ありとあらゆる罪がみんなひとつ袋にはいっているのだとお考えになっているようだ。月曜日のけちん坊は火曜日にも守銭奴なのだといいたげな話ぶりをなさる。」


原文:

「You seem to think that all sins are kept together in a bag. You talk as if a miser on Monday were always a spendthrift on Tuesday.」


「spendthrift」は「浪費家」なので、後半は「まるで月曜日の守銭奴が火曜日にはきまって浪費家になるかのような話ぶりをなさる」とでもするとよいです。ここでブラウン神父は、犯罪者にも生まれつきの性格があるので、犯せる罪と犯せない罪(性格的に不可能な罪)があると主張しています。









































































































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ひとでなしの猫

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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