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G・K・チェスタトン 『ブラウン神父の不信』 中村保男 訳 (創元推理文庫)

「超自然を信じるのは自然なことで、自然なものだけを信じることは自然とは感じられぬものです。」
(G・K・チェスタトン 「ムーン・クレサントの奇跡」 より)


G・K・チェスタトン 
『ブラウン神父の不信』 
中村保男 訳
 
創元推理文庫 110-3

東京創元社
1982年3月12日 初版
1991年6月14日 10版
309p
文庫判 並装 カバー
定価450円(本体437円)
カバー: 長谷川並一



Gilbert Keith Chesterton: The Incredulity of Father Brown, 1926


チェスタトン ブラウン神父の不信


扉文:

「奇想天外なトリック、痛烈な諷刺とユーモア、独特の逆説と警句、シャーロック・ホームズものと双璧をなす短編推理小説の宝庫ブラウン神父譚。作者チェスタトンは、トリック創案にかけては古今の推理作家中でも卓越した存在である。まん丸な童顔には、澄んだ目がぱちくりしている。不恰好な小柄なからだに大きな帽子と蝙蝠傘(こうもりがさ)といういでたち。どこから見ても質朴で能のない貧相な坊さんにすぎないのだが、ひとたび事件が起きるや、ブラウン神父の探偵ぶりの鮮やかさ。快刀乱麻をたつように難事件を解決する!」


目次:

ブラウン神父の復活
天の矢
犬のお告げ
ムーン・クレサントの奇跡
金の十字架の呪い
翼ある剣
ダーナウェイ家の呪い
ギデオン・ワイズの亡霊

解説 (中島河太郎)




◆本書より◆


「ムーン・クレサントの奇跡」より:

「ところが、三人の神経質な感覚には、この男がきのこのように音もなくひょっこりと現われたとしか感じられなかった。いや、まったく、この男の様子ときたら、大きな黒きのこにかなり近いものであった。背は低く、小がらでずんぐりしたからだは大きな黒い僧帽にすっぽり隠れてしまいそうなのだ。そこで、もし蝙蝠傘を持ち運ぶ習性がきのこにあったとしたならば、(中略)この神父ときのこの類似は一段と完全になっていたであろう。」


「金の十字架の呪い」より:

「「わたしどもにはわからないことが出てくる超自然の物語を信じるほうが、わたしどもの知っているところと矛盾(むじゅん)するような自然の話を信じるよりも、実のところ自然なのです。偉大なグラッドストーンが死にぎわにアイルランド国粋党首パーネルの死霊にとりつかれたという話を聞いたら、わたしはこれについては不可知論者になって、そんなこともありうるのかと思う。だが、グラッドストーンがヴィクトリア女王に拝謁(はいえつ)したとき、帽子もぬがずに女王の背中をなれなれしくたたいて葉巻を差しだしたというお話になると、とても不可知論者になってはいられない。これはたしかに不可能なできごとじゃない。が、とても信じられない話です。パーネルの亡霊が出たという話のほうがまだ信用できる。なぜと言って、これはわたしの理解しているこの世の中の法則を破っているのだからね。」」

「「わたしは迷宮のようにいりくんだ地下の通路を発見したのです。その迷路をたどってどんづまりにつくと、廃物が山と積まれ、こわれた装飾品や宝石が散乱していました。埋没した祭壇ででもあったのでしょうが、そのなかに一つ妙な金の十字架が見つかったのです。ひっくりかえすと、そこにはイクタスという魚のしるしが描いてあった。この魚じるしは、初期キリスト教徒のしるしだったものですが、よく発見されるものとは形も様式もずいぶん違っていました。」」
「「わたしは、これらの洞窟は地下礼拝所(カタコーム)の代用として使われたのだと信じる一派に属していました。つまり、ローマの帝国全体に火のように迫害が広がったころ、キリスト教徒はこういう古代異教の石の迷宮に隠れ場を求めたのだ――とこう信じていたのですから、問題の金の十字架を見つけて拾いあげたときには、雷にうたれたようにどきりとしました。けれども、それよりもうれしい驚きだったのは、もう一度おもての光の世界へ出ようとしてふりかえったとき、地下の廊下にそって無限にのびる露出した岩の膚を見あげると、そこに輪郭こそ粗雑だが、それだけにまぎれもない魚の形が刻まれているのが見えたことでした。
 じっと見ていると、どこかそれは凍った海に永久に閉じこめられた魚か、なにか原初の有機体の化石に見えてきました。(中略)そのうちにふとこんなことに気がつきました。つまりわたしは、人間の足もとはるかの地の底に落ちて薄明と無音の世界で動きまわっていた初期のキリスト教徒たちは、やはりやみに近い沈黙の海底に啞(おし)の暮らしをしている魚そっくりだったにちがいないと潜在意識のなかで考えていたのです。」」

「「あの暗い地下の礼拝所でキリストの秘密のしるしを岩に描きつけた人は、もっと違った形で迫害されていたのです。その人は孤独な狂人でした。正気の社会が総がかりでその人を助けるのではなく抹殺(まっさつ)してしまおうとしていたのです。わたしもよくいらいらと気をもんでは、わたしを苦しめているのはあいつだろうか、いや、こいつだろうかと頭をひねったものです。(中略)いや、連中は全部ぐるかもしれないぞ。もしあの船に乗っていた全部の人間、同じ汽車に乗ったすべての人、この村に住むあらゆる人がそうだとしたら……とにかく、わたしにかんするかぎりこの人たちがみんな殺人鬼だとしたならば、いったいどうしよう。わたしはこんなふうに考えていました(中略)。もしそのくせものがすでに日光のなかに現われ出て、地上のすべてをわがものにし、あらゆる軍隊と群衆を支配しているとすれば、どういうことになるだろう。奴がもし出口という出口をふさぎ、あるいは煙でわたしを穴からいぶりだし、あるいはまたわたしがおもてに頭をだしたとたんにばっさりと……そういう大規模な殺人計画にはもうどうしようもないんじゃないか。だいたい世界はこういうことを忘れております。つい最近まで戦争を忘れていたくらいですから」
 「そうでした」とブラウン神父は言った――「そして戦争のほうは忘れずにやってきた。あの魚もご同様で、一度は地下に追いやられるかもしれないが、いつかそれはまた日なかに出てくるのです。パドアの聖アントニーもユーモラスにこう言ってますよ――ノアの洪水に生きのこれるのは魚だけ、とね」」





























































































































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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

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好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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