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『コレクション 瀧口修造 5 余白に書くⅡ』

「ある地点へ達しようとして、手探りするすべもなく。ことばの飛び石。」
(瀧口修造 「雲の収斂」 より)


『コレクション 
瀧口修造 5 
余白に書くⅡ』

監修: 大岡信・武満徹・東野芳明・鶴岡善久・巌谷國士

みすず書房
1994年5月15日 印刷
1994年5月25日 発行
338p 目次x 
欧文92p 目次iv
20.5×15.5cm 
丸背バクラム装上製本 貼函
定価7,004円(本体6,800円)

月報 (10p):
謎々ゲーム(中江嘉男と上野紀子)/アリスアリビ劇中劇(金子國義)/鳥打帽子(菊畑茂久馬)/断抄(篠原佳尾)



本書「解題」より:

「本巻収録分は一九七一年から一九七九年までに執筆されたものである。第四巻『余白に書くⅠ』解題の冒頭に記したように未発表の文章も可能なかぎり収録した。」


第11回配本。本文中図版(モノクロ)多数。「解題」は二段組です。


瀧口修造 コレクション 05 01


帯文:

「詩人と画家、それはふたつの人種ではない。
二人はある日、どこかで出会ったのだが……」



目次 (初出):

虹とは…… (戸村浩・ルミに、長男の誕生を記念して、デカルコマニーに添えて、1971・1)
あまりにも個人的な、あまりにも超個人的な詞 (『西脇順三郎全集』内容見本、筑摩書房、1971・1)
一冊の書物は (アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言/溶ける魚』序文、學藝書林、1971・1)
建築という…… (磯崎新『空間へ』に寄せて、美術出版社、1971・2)
美しい復讐 (Japan-Joconde 展、Makoto Nakamura+Shigeo Fukuda, Palis du Louvre 1971・4)
詩集の純潔性をもとめて (小寺謙吉・佐々木嘉明編『現代日本詩書綜覧』序文、名著刊行会、1971・5)
ルネ・マグリット氏は…… (不詳)
梵音会…… (音会 28 Members に寄せて、1971・6)
夜の舌…… (高橋悠治に、1971・6・6)
やさしい生と死よ…… (逝ける眞記子さんに、濱田濱雄夫人の訃報に接して、1971・6・10)
際会 (「諏訪」音会に寄せて、1971・6・10)
乞食城の唄 (唐十郎へ、状況劇場「祝乞食城竣工開城」記念に、1971・7)
星が見えるのは…… (平井進を偲んで、平井たみ宛書簡、1971・7)
平井さんと絵 (追悼平井進展、南画廊、1971・7)
どこにも存在しない土地への旅立ち? (Journey to No Where. Why not? A Message from Tokyo. ユートピアQ&東京EAT企画 Telexed in English to New York, Bombay & Stockholm 1971・夏)
あなたとその道連れの…… (水谷勇夫に、自作の絵端書に添えて、1971・8)
天使館のために (笠井叡に、1971・8)
晴れるやらむ…… (加藤郁乎に、螺旋儀、創刊号、1971・9)
失題 (長谷川淑子に、1971・9・15)
未知の人アントナン・アルトー (『アントナン・アルトー全集』内容見本、現代思潮社、1971・9)
拾い物異聞 (芸術新潮、1971・10)
余白に (武満徹『音、沈黙と測りあえるほどに』序文、新潮社、1971・10)
だれが目撃者? (中江嘉男・上野紀子『MICROCOSM』序文、私家版、1971・11)
口上 (新宿セバスチャンでの自作展に際して、1971・11)
私はここ数年来…… (同上)
落葉よ…… (読売新聞夕刊、1971・11・6)
観念じ…… (松山俊太郎に、1971・11・27)
荒れるやらむ…… (加藤郁乎に、1971・11)
舌代 (自家製オリーヴの瓶詰に付された印刷物、1971年師走)
賛 (同上)
同心の星々々 (小野侑子に、1971・12・7)
歌留多頌 (加藤郁乎『牧歌メロン歌留多』のために、冥草舎、1972・1)
表紙のことば (グラフィケーション、1972・2)
失題の渚 (合田佐和子作品展、村松画廊、1972・3)
クロマトポイエマ讃 (西脇順三郎・飯田善國共作『クロマトポイエマ』南天子画廊、に寄せて、1972・5)
世界の同時存在のことを…… (濱口富治宛て書簡、1972・5・20)
野の鍵を…… (高橋アキのために、ピアノリサイタルの夕、1972・6・24)
アララットの船あるいは空の蜜へ小さな透視の日々 (加納光於・大岡信・白倉敬彦・馬場駿吉の四氏に、その出会いの十字路で 「点」第4号、1972・7)
地の稲妻 (ソニービル内、富士ゼロックス「詩人への広場」の計画に「漂流詩」と名づけ、ペプシコーラの空瓶に詰め自動販売機により発売、1972・8)
青い羽根のあるコラージュ文 (西脇順三郎氏に、無限、29号、1972・8)
ハンス・ベルメール断章 (gq、創刊号、1972・9)
眞名子凝らし…… (土方巽「すさめ玉」ほか秘儀公演の日に、1972・10)
三十年代に笑いのつむじ風を…… (ジンマーマン『マルクス兄弟のおかしな世界』晶文社、のために、1972・12)
短句戒 (1971―72)
古地図を辿って…… (澁澤龍彦『ヨーロッパの乳房』立風書房、のために、1973・3)
本のつくり (第1回日本ブック・デザイン展―企画図書、1973・3)
一定ノ空間内デ…… (カタストロフィ・アートのアンケートに答えて、美術手帖、1973・3)
うつくしき人…… (吉田一穂氏の死を悼んで、吉田八岑に、1973・3)
手遅れナンセンス! (『アリスの絵本』牧神社、1973・5)
一風情の客一人 (同時代演劇、1973・6)
雲の収斂 (『加納光於〈葡萄彈――偏在方位について〉』とともに、美術出版社、1973・8)
独り言の形式で (吉岡実に、ユリイカ、1973・9)
人形螺旋 (四谷シモン人形展のために、青木画廊、1973・10)
音の道、道の音 (武満徹「秋庭歌」に寄せて、国立劇場(大劇場)第15回雅楽公演プログラム、1973・11)
小曲 (上野紀子展に寄せて、銀座・渋谷画廊、1973・12)
アリスのようなアリスのようなアリス (沢渡朔写真集『少女アリス』序、河出書房新社、1973・12)
瞬くあいだ (篠原佳尾銅版画集《WOHIN》のために、ギャラリー’21、1973・12)
失題 (『塚原琢哉による触覚的空間「白いあそび」』ギャラリープレス、1973・12)
失題 (『宮脇愛子作品集』序詩、東京画廊、1974・1)
色彩的な雲水よ、なぜ (サム・フランシス展、出光美術館、1974・1)
遅レノ速サ…… (中江嘉男に、gq、第5号、1974・2)
物化考断章 (佐藤慶次郎展、南画廊、1974・3)
手が先き、先きが手 (季刊トランソニック、第2号、1974・4)
メモラビリア、あしたの花 (合田佐和子展、村松画廊、1974・5)
方外客語 (谷川晃一ミニアチュール展、シミズ画廊、1974・6)
片割れ帽子に題す (菊畑茂久馬に、1974・6)
鳥たちのための…… (小尾俊人に、リバティパスポート、1974・夏)
暗中手記 (激しい季節、創刊号、1974・8)
宇宙人…… (現代詩手帖臨時増刊号〈特集・瀧口修造〉、1974・10)
みどり児よ…… (同上に収録された生後三、四ヵ月の写真に題して)
左手にわれ知らず握る…… (福島秀子「変位図」と共に、同上)
繪呂語呂説 (菊畑茂久馬版画集『天動説』に寄せて、1974・11)
曼陀羅華…… (池田龍雄・加藤郁乎『梵天』出版を記念して、1974・12)
奇遇 (マックス・エルンスト『百頭女』付録、河出書房新社、1974・12)
花田清輝を追悼する会への手紙 (新日本文学、1974・12)
ミロの版画の魅力を (イヴォン・タイヤンディエ『ミロの版画』 河出書房新社、1974・12)
未然の構図 (武満徹に、ユリイカ、1975・1)
アスベスト館の宵を偲ぶ (1975・1・25)
隣組同士 (コスモス、1975・2)
愛と死の彼方へか…… (亡きベルメールに、1975・3・15)
人形に…… (ハンス・ベルメール追悼、1975・3)
画相のあいだ (福島秀子展、南天子画廊、1975・5)
貢物の時は終った…… (合田佐和子展、西村画廊、1975・5)
古い古い夢語り…… (赤瀬川原平『夢泥棒』に寄せて、學藝書林、1975・5)
絵のなかの雑記帖 (金子國義展、青木画廊、1975・6)
アリスまたの名アリビ (カネコ・クニヨシに、1975・5・14)
物質のまなざし (アントニ・タピエスとの詩画集『物質のまなざし』のために、ポリグラファ社、1975・夏)
雨の日号の船出 (フンデルトワッサー展、ギャルリー・ワタリ、1975・9)
風の巣を求めて (渡辺光雅展、青木画廊、1975・10)
小球子譚 (篠原佳尾との詩画集『小球子譚』、西村画廊、1975・10)
地つづきの水 (難波田史男遺作展、フジテレビギャラリー、1975・10)
郁乎随想 (『定本加藤郁乎句集』付録、人文書院、1975・10)
ことば (空閑俊憲展、田村画廊、1975・11)
「上田保著作集」を読んで (三田評論、1975・11)
夢なかば (金井久美子展、シロタ画廊、1975・12)
扉の国へ (中江嘉男・上野紀子『紐育の国のアリス』河出書房新社、1975・12)
線人抄 (『濱田知明銅版画集』 大阪フォルム画廊出版部、1975・12)
守護者・石・海 (ジョアン・プラッツを偲んで、1975)
或る扉絵考 (小山田二郎展、フマギャラリー、1976・1)
ツバサナス…… (白桃房公演の日に、1976・1・30)
けれども曼陀羅は旅している (前田常作展、東京画廊、1976・4)
恩地孝四郎の遺作 (不詳)
『瑛九』を待ちながら (山田光春『瑛九』、青龍堂、内容見本、1976・6)
アントニ タピエスと/に (アントニ タピエス展、西武美術館、1976・8)
黒い炎のたたずまい (藤山ハン作品展、藤好画廊、1976・8)
先駆者の軌跡 (『長谷川三郎全集』内容見本、三彩社、1976・8)
旅する人と絵と (河合勇に、1976・夏)
鏡に沿って (山本美智代オフセット版画集『銀鏡』(私家版)、1976・9)
虹鱒よ…… (唐十郎・李礼仙に、1976・8月末)
時よアラン…… (吉岡実に、1976・9頃)
鈴木博義、それは…… (鈴木博義作品の夕べ、東邦生命ホール、1976・10・4)
磁界に沿って (中西夏之展、南画廊、1976・11)
讃 (1976・11月上旬)
幻獣小異 (月下の一群、第2号、1976・12)
不思議の国異聞 (奈良原一高オリジナル・フォト・プリント集《SEVEN FROM IKKO》序文、1977・1)
余白考 (東野芳明『マルセル・デュシャン』序文、美術出版社、1977・1)
書物というアート (三浦ティニ展、九善画廊、1977・2)
狂花思案抄 (中川幸夫作品集『華』序、求龍堂、1977・3)
エクスプレスで (平沢淑子展、ル・トリスケール画廊(パリ)、1977・10)
ヴォルスからの消息 (ヴォルス展、フジテレビギャラリー、1977・4)
夜行の果ては (宮城輝夫版画集『夜の旅から』序、書肆博物館、1977・5)
塩売りや…… (笠原正明に、1977・5)
現前するガウディ (細江英公展、銀座ニコン・サロン、1977・6)
感想 (古沢岩美美術館月報、第25号、1977・6)
彼の微笑、それから (『岡崎和郎の作品1962―1976』3C123、序詞、1977・7)
ふと現われるもの…… (『花田清輝全集』月報、講談社、1977・夏)
ミツマサのためのコトバ (渡辺光雅に、1977・7)
時空への投華を (石元泰博写真曼陀羅展、西武美術館、1977・8)
私記土方巽 (新劇、1977・8)
稲妻と徘徊抄 (『加納光於1977』、南画廊、1977・11)
《稲妻捕り》とともに (『加納光於《稲妻捕り》Elements』、書肆山田、1978・8)
妖精よ永遠に (草間彌生『マンハッタン自殺未遂常習犯』、工作舎、序文、1977・12)
美術と書物 (みすず書房『アート・イン・コンテクスト』内容見本、1978初頭)
窓ごしに…… (マルセル・デュシャン小展示、自由ケ丘画廊、1978・1)
地水火風の出会いに (『原風景――藤田昭子の燃える造形』 筑摩書房、序文、1978・5)
私たちの出会いといえば…… (赤根和生『モンドリアン』(美術出版社)刊行を祝して、1978・6)
多層の意味を残して (『定本原民喜全集』内容見本、青土社、1978・7)
不可思議は…… (佐谷和彦に、佐谷画廊第1回企画展、マックス・エルンスト、イヴ・タンギー版画二人展に寄せて、1978・9)
ミロは詩である (ULTIMA HORA ミロ特集号、1978・9)
夜ごとの夢は…… (芦川洋子に、リバティパスポート、1978・10)
敏捷で…… (同上)
木枯しや…… (唐十郎に、1978・11)
手箱から (エピステーメー〈宮川淳追悼号〉、1978・11)
断章 (野地正記展、青木画廊、1978・11)
青天の霹靂記 (『花田清輝全集』月報、講談社、1978・11)
軒下の言葉、それとも? (パリ装飾美術館「日本の時空間《間》展のために、草月、1978・12)
冥府の虹 (宮城輝夫石版画展『ぬばたまの』に寄せて、北乃画廊、1978・12)
旅人の壁 (不詳)
掌中破片 (加納光於との詩画集『掌中破片』 書肆山田、煌文庫1、1979・1)
ティンゲリーのカミカゼ (彫刻の森美術館コレクション写真集のために、1979)
野に置け風の時計 (ユーモアと冒険の彫刻・ミロ展、西武美術館、1979・1)
断片 (漆原英子展、日本画廊、1979・1)
機密の地図つくり (『種村季弘のラビリントス』内容見本、青土社、1979・3)
時の余白に (桂ゆき展、東京画廊、1979・6)
瑛九の訪れ (瑛九展、小田急デパート、1979・6)
荒川修作のブルー・プリント (“ARAKAWA Print Works 1965-1979” ギャラリーたかぎ、1979・6)
荒川修作への小序 (荒川修作展、西武美術館、1979・6)
「意味のメカニズム」に寄せて (荒川修作/マドリン・H・ギンズ『意味のメカニズム』序文、ギャラリーちゃかぎ、1979・6)

解題 (鶴岡善久)
初出一覧

MARGINALIA II
 Une belle vengeance
 Graceful Revenge
 RENE MAGRITTE
 TAJ MAHAL TRAVELLERS
 Hommage à Yuji Takahashi
 YUTAKA MATSUZAWA
 for KAWASHIMA
 JOURNEY TO NOWHERE, WHY NOT?
 Ce que je peux répondre à votre enquête,...
 Who's the witness
 A WORD
 Hommage à Joan Miró
 Semantic promenade between Ay and O
 ISHI MITSUTAKA
 A divagation upon invisible monument:
  Tribute to CHROMATOPOEIMA
 pour Natsu Nakajima
 ECLAIR DE TERRE
 HANNAH WILKI
 WORD PLAY WHAT AND WHAT
 JOAN MIRÓ
 Titre perdu
 To Dear TOMOKO ONO
 NOON BUTTONS to NORIKO
 ONCE ONE to YOSHIYO
 To dear Kuga Toshinori
 Hommage à OBI TOSHITO
 Hommage to Louise Nevelson
 An acrostic in Rrose
 Alice Alias Alibi
 LLAMBREC MATERIAL
 REGARD MATÉRIEL
 MATERIAL GLANCE
 A la recherche du nid du vent
 TALE OF A LITTLE BALL DWARF
 Words
 MAX ERNST
 GUARDA, PEDRA, MAR
 à/avec Antoni Tàpies
 MAN RAY
 Wonderland Otherwise
 His smile, and
 ARAKAWA MADELINE
 Mots pour MITSU-MASSA
 TO DEAR KAZUO OKAZAKI
 Par exprès
 Through the Window
 SUMMER CRITIC SMILES
 En homenaje a Joan Miró
 pour ERNST, pour TANGUY
 pour YOKO ASHIKAWA
 MA
 To Dear Kazuko Oshima, To Dear Abram Maguire
 LIBERTY PASSPORT pour KUNIO & SAYURI IWATA
 ARAKAWA'S BLUE PRINTS: A RE-DISCOVERY
 WORDS IN ARAKAWA
 
 notes



※「ルネ・マグリット氏は……」は瀧口修造の文章ではなく、巌谷國士「神秘をもてあそぶ男」(河出書房新社刊『シュルレアリスムと画家叢書 骰子の7の目 6人の画家』内容見本 1973・3)の原稿が誤って編入されたものです。


瀧口修造 コレクション 05 02



◆本書より◆


「拾い物異聞」より:

「拾い物といえば、私の部屋のものすべてが拾い物のように見えてくる。贈られた他人の拾い物と自分の拾い物との境界がわからなくなった観がある。拾い物世界の共有である。私はまたそれをよしとしている。」


「本のつくり」より:

「私にも夢想の本という、なんとも言い表わし難いものが幼いときからあった。けれども、そのようなものは実現したことがないし、それは実現しない性質のものかも知れない……」
「私の本など発行部数は知れたものであるから一般論にならぬだろうが、いつも不審に思うのは、本文用紙の質の種類がかたよっていること。私のように「白くて軽い本」などという素朴な願いは一向に叶えられない。特殊な化粧紙は進歩したかも知れないが、基本用紙の質は貧しい。和紙は特殊な限定本にしか使えず、印刷適性は狭い。活字体の問題、漢字・平仮名・片仮名の統一と調和、タテ組とヨコ組の問題、タイポグラフィの基本的な要素が意外と放置され、デザインはその上をすべっている感じがする。ブック・デザインといえば、一般にグラフィックに走りすぎているという気がしてならない。」
「本はまた趣味の対象でもあるから、一概な意見は通用しないかも知れないが、それにしても本のキモノとアクセサリーが多すぎる。といっても私は禁欲主義ではない。装飾も安ピカも内容に合って徹底すればおもしろいのだが。
 本はまた見えて触れられて、しかも見えず触れられない要素を同時にもつ存在である。本は実用の形であると同時にまず物である。それが何かを話したり表わしたりしようとするのだ。そのあいだにすべてが起るから厄介である。私事にのみ触れて恐縮だが、私にもせめて著作集ぐらいはまとめないかといってくれた出版社が二、三あるが、そのつど固辞することにしている。すると或るとき夢を見た。自分の書いたものを、改行もなく、号数も同じ、全部ベタ組みにして、紙も綴じも電話帖そっくりの本をつくって実費で買って貰った。実に嫌な感じと、実に爽快な感じが相半ばしたが、どうやら自分自身はそのときはもうこの世のものではないような気がしたのである。」



「手遅れナンセンス!」より:

「キャロルはテニエルに画家の幸と不幸とをあたえた。不幸のひとつは、猫のいない猫の笑いを描くことの不可能を思い知らされたこと。けれども猫はそのとき尻尾からゆっくりと姿を消していったので、画家は消える寸前の猫の顔を描くことで事を足した。
 しかし確かに笑いだけが暫らく樹間に存在していたはずだ。しかもアリスが A grin without a cat! と口にするや否や、この文句は途中を消去して、独りだちしてしまった。まるで禅の公案のように。
 もともと夢の出来事であった。夢の窓の禅師も言っている。「夢ノ中ニミユルトコロノ種々ノ物像スベテ実体ナシ。実体ナシトイヘドモ諸々ノ形象宛然タリ……」。ところが夢から現実界に落ちた文句は宛然とも釈然ともしないのである。
 ただ、困ったことに、この猫、いつの頃からか私の夢に忘れた頃にやってくる。」
「また猫は時に猫語で私を悩まし、他家の庭のオリーヴの樹の下を悠々とよこぎる。」
「猫が主張したように、夢ではすべてが狂うのか、そして覚めたら治るのか、疑わしい。
 アリスよ、夢の国から、鏡の向うから無事に戻れたのか、ほんとうに。」



「幻獣小異」より:

「幻獣、限りなく人間から遠く、限りなく人間に近く……」

「スナークは果して動物だったのか。キャロル自身が手を焼いている。ことばから出たばかりに奇獣を粧わずにいられない。蛇(スネーク)と鮫(シャーク)のかばん語スナークをつくったばかりに。そしてこれもかばん語らしいブージャムという無意味語でしきりに言い換えようとする。ブージャムは唇寒い捨てぜりふとも聞こえよう。どっちみち手遅れというものだ。
 どうやら私は紙のあいだから絶えずどこか遠い海へ立ち去ろうとしているものの気配を感じている。それを幻獣というのは今となっては落ちが附きすぎよう。」












































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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