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水谷驍 『ジプシー』 (平凡社新書)

「このようにして主流社会から排除・排斥される関係がいったん成立してしまうと、排除・排斥する側はそのための制度や仕組み(中略)を精緻に築き上げ、同時にそれを正当化するイデオロギー(中略)を作り出す。他方、排除・排斥される側は、そのような条件のもとで生きてゆくための独特の生活様式や文化を形成してゆく。」
(水谷驍 『ジプシー』 より)


水谷驍 
『ジプシー
― 歴史・社会・文化』
 
平凡社新書 327 

平凡社
2006年6月9日 初版第1刷
254p
新書判 並装 カバー
定価780円(税別)
装幀: 菊地信義



本文中図版(モノクロ)5点、地図1点。

ロルカの『ジプシー歌集』を久しぶりによんだのでアマゾンマケプレで最安値のジプシー関連本でよさそうなのを何冊か注文しておいたうちの一冊が届いたのでよんでみました。


水谷驍 ジプシー


カバーそで文:

「世界に一〇〇〇万人のジプシーがいるとの推定もあるが、
その実態は不明な点が多く、作られたイメージが流布している。
事実、インド起源の民族集団とする説について、
最近の研究では、多くの問題点が指摘されている。
では、〈ジプシー〉と呼ばれる人びとは誰なのか?
ジプシーと主流社会との関係を重視しつつ、
呼称、分布、歴史、文化など、全体像を描く。」



目次:

はじめに

第一章 ジプシーと呼ばれる人びと
 1 人口と分布
  人口統計の問題点
  約一〇〇〇万人が世界各国に
 2 ジプシーとは誰か
  ジプシー、ツィゴイナー、トラヴェラー、ロマ、……
  外見、言語、宗教
  職業、遊動と定住、文化と伝統
 3 ジプシーという呼称
  ジプシーと呼んではいけない?
  ロマという呼称
  安易な言い換え
第二章 ジプシー像の変遷
 1 ヨーロッパへの登場――「エジプト人」として(一五世紀)
  異形の放浪者集団
  なぜ「エジプト人」なのか
 2 セルバンテスの『ジプシー娘』(一七世紀はじめ)
  「盗っ人となるために生まれてきた」ジプシー
  あいまいな境界線
 3 グレルマンの「科学的」ジプシー像(一八世紀末)
  「インド起源の放浪の民族」
  主観的かつ恣意的な議論
 4 ロマン主義的ジプシー像の確立と普及(一九世紀)
  ジョージ・ボローの作品
  現代社会に生きる自然人
  古きよき時代のノスタルジア
 5 新しいジプシー像の探究(二〇世紀末以降)
  伝統的ジプシー像の見直し
  科学的ジプシー像の追究
  「烙印押捺」のプロセス
第三章 歴史――主流社会のはざまで
 1 インド起源説の現段階とその意味
  定説
  突き止められた起源?
  インド起源説の意味
 2 バルカン半島への進出と定着
  ビザンツ帝国のもとで
  オスマン帝国とジプシー
 3 ヨーロッパ中心部への登場と迫害
  「エジプト人」は誰だったのか?
  一五世紀前後のヨーロッパ――貧民・流民層の大量発生
  迫害と排斥
 4 ルーマニアのジプシー奴隷制
  ジプシー奴隷制の歴史
  一九世紀の奴隷解放
 5 「カルデラリの大侵攻」――一九世紀後半の世界的移動
  バルカン半島からアメリカへ
  「移民の世紀」
 6 ポライモス――ナチス・ドイツによるジプシー絶滅政策
  「食らい尽くされた」五〇万人
  ナチス・ドイツのジプシー政策
  ジェノサイドを支えたリッターの「学説」
 7 社会主義の経験
  期待と幻滅
  過酷な定住・同化政策
  社会主義崩壊後の新たな苦難
 8 自己組織化の試み
  先駆的な試み
  世界ロマ会議の運動
  運動の組織と戦略
第四章 ジプシーの現在――いくつかの事例
 1 バルカン半島のモザイク模様
  複雑な分布と構造
  ルーマニア、ブルガリア、アルバニア
  流動的な自己認識
 2 旧チェコスロヴァキアのロマ問題
  少数が遊動したチェコ、多数が定住したスロヴァキア
  「移転と分散」の政策
  転機となるか、EU加盟
 3 オランダのヴーンヴァーゲンベヴォーナー
  新たな移動生活者集団の登場
  主流社会からの隔離と封じ込め
 4 スペインのヒターノとフラメンコ
  絶滅政策と同化政策
  フラメンコをはぐくんだアンダルシアの風土
 5 イギリスの多様なトラヴェラー集団
  ジプシーとティンカー
  「ニューエージトラヴェラー」の登場
 6 フィンランドのカーロ
  存在しない結婚の制度
  決闘と血讐
 7 アメリカのヴラフ系ロマ
  主流社会との関係
  福祉制度の徹底した活用
第五章 日本とジプシー
 1 日本人のジプシー認識
  国語辞典の記述
  鴎外、漱石のジプシー観
  グレルマン/ボローの影
 2 サンカは日本のジプシーか
  サンカとジプシー
  主流社会と結んだ関係
  実態を離れたイメージの形成
  サンカの起源

おわりに
主要参考文献一覧
あとがき
ジプシー関連年表




◆本書より◆


「ジプシー像の変遷」より:

「ヨーロッパにジプシーとおぼしき集団が登場してからほぼ二世紀、その間に彼らは各国にすっかり定着して、その姿がさまざまな文学作品に登場するようになった。そのひとつに、かの『ドン・キホーテ』の作者ミゲル・デ・セルバンテス(中略)の『模範小説集』(一六一三年刊)がある。この短編小説集の冒頭に『ジプシー娘』という作品が収められている。約四〇〇年前のこの作品において、今日にいたるジプシー像のほとんどすべての要素がすでに認められる。」
「世間的にはジプシーは、もっぱら慰みの対象とされるほかは、盗人、人さらい、無知蒙昧などと蔑(さげす)まれ、主流社会とは隔絶した存在とみなされていた。支配階級は、彼らを「一網打尽」にして「全滅」させる機会をうかがっていた。セルバンテスは、そのような一見して主流社会とは隔絶した人間集団のなかに、貴族社会の価値観からしても申し分のない機知に富んだ、教養豊かな、美しい、あるいは凛々しい人物を配することによって、そして彼らに境界線を自由に行き来させることによって、ジプシー社会と主流社会の違いを相対化したように思われる。
 セルバンテスのこのようなジプシー観は、ジプシー排斥の風潮がことのほか高まりを見せていたこの時代のスペインにあってはきわめて異例といえた(中略)。それは、ジプシーに寄せる憧れにも似た共感を借りての彼の体制批判の精神の表れであったと考えてよいのかもしれない(中略)。」

「一八世紀後半になって、ドイツ啓蒙主義の興隆を背景にして、ジプシーの生活と歴史、そして起源をはじめて学問的に考察したと称する書物が現れた。ゲッティンゲン大学の若き歴史学徒ハインリッヒ・グレルマン(中略)が著した『ジプシー――ヨーロッパにおけるこの民族の生活と経済、習慣と運命、ならびにその起源にかんする一試論』である。」
「グレルマンは言う。「もっとも注目に値すると思われるのは、一般に時間も気候も実例も、これまで〔ジプシーを〕いっさい変化させなかったことである。三〇〇年から四〇〇年ものあいだ彼らは放浪してきたが……どこにあってもつねに父祖たちと同じままである(中略)」。」
「ただしグレルマンは、当時の啓蒙主義の風潮にしたがって、賢明な政策と教育によって人間は変わるとも考えて、マリア・テレジアとヨーゼフ二世のジプシー政策(定住させる、定職に就かせる、教会に通わせる、子どもを教育させる、そのために子どもを両親から引き離す、独特の衣装や言葉を禁じる、などの強制的同化政策である)を称えている――このように矛盾する主張を展開して気にとめないのは彼の議論の特徴のひとつでもある。」
「彼らを「有用な国民」に「善導」しなければならないという啓蒙主義の発想が透けて見える。」
「こうして彼は、ジプシーが「乞食と泥棒」であることを「科学的」に証明したのである。」
「しかも彼の議論には、科学的(客観的)評価とは無縁の、ジプシーにたいする軽蔑、嫌悪、嘲笑が露骨に反映されていた(中略)。」
「このようなえせ科学的な議論が現在にいたるまでジプシー論の定説として維持されてきたのはなぜか、という疑問が残る。その理由としてしばしば指摘されるのは、(中略)権威ある文献を重んじるヨーロッパの学問の伝統である。(中略)いったん出版されて「最初の科学的研究」として高い評価を得てしまうと、後学のすべてによってそのようなものとして受け継がれていったのである。」

「ヨーロッパの封建制の解体、資本主義の勃興という歴史的文脈のなかでジプシーの問題をあらためて系統的、包括的に考察しようとしたのが、オランダの社会人類学者や歴史学者のグループである。」
「彼らの議論によれば、ジプシーと呼ばれる人たちの起源はおもに封建制の崩壊から資本主義体制への移行の過程でヨーロッパ各地に広く発生した雑多な出自の貧民・流民層にあり、こうした人たちが定住民の主流社会と特殊な関係を取り結ぶなかで、ジプシーという社会的な存在形態を形成してきた。この過程で決定的な役割を果たしたのが、時の政治権力や教会当局による「烙印押捺」と呼ばれるプロセスである。すなわち、彼らの観点からして政治的・社会的に好ましくないと考えられる人間集団のカテゴリーを設定して、この人間集団に属する個々人を犯罪者と断定して社会から排除・排斥してゆくプロセスである。
 排除・排斥の基準となったのは、近代的国民国家を構成する国民として、善良なキリスト教徒で、ひとところに住み、決まった職業をもつか否かだった。こうした条件を満たさない貧民・流民は「危険な浮浪者」として排除・排斥の対象とされた。
 こうして、貧民や流民を浮浪者・放浪者と規定し、浮浪者・放浪者は犯罪者である、浮浪者・放浪者の典型であるジプシーは犯罪者であるという連鎖が成立した。いったんジプシーとレッテルを貼られれば、その人間は浮浪者・放浪者として断罪されることになり、厳しい弾圧と排斥の対象とされるようになった。
 このようにして主流社会から排除・排斥される関係がいったん成立してしまうと、排除・排斥する側はそのための制度や仕組み――弾圧・排斥の法体系、警察組織、救貧制度、免許制度、一斉捕獲、見せしめ的な刑罰、その他――を精緻に築き上げ、同時にそれを正当化するイデオロギー――ナチス・ドイツの「人種論」がその究極であった――を作り出す。他方、排除・排斥される側は、そのような条件のもとで生きてゆくための独特の生活様式や文化を形成してゆく。
 しかも近代資本主義社会にはつねにある種の「隙間」があって、主流社会によって烙印押捺されて排除・排斥されたこうした人間集団にも居場所があった。このような隙間にあって地域社会に不可欠なさまざまな「サービス」を提供することによって、そこに生活基盤を得て再生産されていったのである。主流社会の側も、隙間を埋めるという経済的な機能を果たすかぎりにおいて、このような人間集団の存在をつねに許容してきた。こうして、今日見られる「ジプシー」と呼ばれる人間集団が近代ヨーロッパ社会に広く形成され、再生産されてきた、と。」
「それは、先祖がどこから来たかではなく、その独特の社会的存在形態がいかにして形成されたかを問うという意味での起源論と理解することができる。」



「日本とジプシー」より:

「サンカとジプシーには、実態はともかく、主流社会とのあいだで形成された関係という面で、多くの注目すべき類似点が認められる。」
「明治初期までに主流社会のあいだで「サンカ=山窩=無籍の犯罪者集団」という観念が成立し、定着していった。すなわち、生業・出自のいかんを問わず流民として「無籍」とみなされた人間すべてが、つまり戸籍がなく、ひとところに定住しないかに見えた人間のすべてが、「サンカ」、「山家」、「山窩」などとして、ふつうの人間とはまったく異なった特殊な人間集団、さらには犯罪者集団とみなされ、そのように扱われるようになったのである。」
「彼らは社会から排除・排斥された。たとえば、文久三〔一八六三〕年に備後国で出た「サンカノモノ追払」令には、山家一味は善悪にかかわらず、男女老幼の差別なく、すべてつかまえて坊主頭にせよ、もとから坊主頭だった者は両眉をそり落とせ、ふたたびつかまれば郡境に追払えとあった。」
「一斉捕獲も試みられている。島根県で、明治八〔一八七五〕年四月を期して全県下で「無籍流離の山家」を捕捉する大作戦が決定され、各区に通達された。」
「遠隔の地や島に閉じ込めて労役に服させる案もあった。」
「いわば強制的同化の提案もあった。」



「おわりに」より:

「こうした新しいジプシー像を念頭において、日本でサンカと呼ばれた人びとの問題を検討してみれば、両者のあいだに興味深い共通性が認められることがわかる。すなわち、西ヨーロッパに遅れて近代資本主義形成の道をたどった日本においても、幕末期以降、特定の人間集団を排除・排斥してゆく同じようなプロセスが進行し、こうして排除・排斥された人びとが「サンカ」と呼ばれるようになったらしいことである。」

























































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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