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『世界の名著 41  ラスキン  モリス』  責任編集: 五島茂

「「そうですね、太陽がいっぱいの休みの日に、楽しかった子供のころ、思い浮かぶものはなんでも自分のものになったっけ」」
(ウィリアム・モリス 「ユートピアだより」 より)


『世界の名著 41 
ラスキン 
モリス』 
責任編集: 五島茂


中央公論社 
昭和46年3月15日 初版印刷
昭和46年3月25日 初版発行
526p 口絵2葉
17.6×12.8cm 
丸背クロス装上製本 貼函
本体ビニールカバー
函プラカバー
定価650円
装幀: 中林洋子

付録 52 (12p):
人間と自然の美しさ(対談: 安藤一郎・五島茂)/責任編集・訳者紹介/文献案内/編集室だより/次回配本/図版(モノクロ)5点



第52回配本。
二段組。図版(モノクロ)多数。


ラスキン モリス 01


帯裏:

「イギリス史上最も輝ける十九世紀ヴィクトリア朝の繁栄の陰に潜む諸矛盾をいち早く察し、人道主義経済学を創唱したラスキンとその使徒として資本主義社会の人間疎外に全的に抗した実践的社会主義者モリス。機械文明の病根を洞徹した二巨人の熱誠こもる代表作を碩学の名訳でおくる決定版」


目次:

口絵
 ケルムスコット・ハウス (カラー)
 ラスキン/モリス (モノクロ)

ラスキンとモリス (五島茂)

ラスキン
 この最後の者にも (飯塚一郎 訳)
  序文
  第一論文 栄誉の根源
  第二論文 富の鉱脈
  第三論文 地上を審判(さば)く者
  第四論文 価値に従って
 ごまとゆり (木村正身 訳)
  一八八二年版への序
  第一講 ごま――王侯の宝庫について
  第二講 ゆり――王妃の庭園について

モリス
 ユートピアだより (五島茂・飯塚一郎 訳)
  第一章 討論とベッド
  第二章 朝の水浴
  第三章 ゲスト・ハウスとそこでの朝食
  第四章 途中のある市場
  第五章 路傍の子供たち
  第六章 ささやかな買物
  第七章 トラファルガー広場
  第八章 年とった友だち
  第九章 恋愛について
  第十章 質疑応答
  第一一章 政府について
  第一二章 生活上のとりきめにかんして
  第一三章 政治にかんして
  第一四章 問題はどう処理されるか
  第一五章 共産主義社会には労働意欲を促すものが欠けているという問題について
  第一六章 ブルームズベリ市場ホールでの午餐
  第一七章 変化はどうして訪れたか
  第一八章 新生活の開始
  第一九章 ハマスミスへの帰り道
  第二〇章 ハマスミスのゲスト・ハウス再訪
  第二一章 テムズ河をさかのぼって
  第二二章 ハンプトン・コートと過去の礼讃者
  第二三章 ラニミードの早朝
  第二四章 テムズ河をさかのぼって 第二日
  第二五章 テムズ河の第三日
  第二六章 強情な拒絶者たち
  第二七章 テムズ河の上流
  第二八章 小さな河
  第二九章 テムズ河上流の休憩所
  第三〇章 旅の終わり
  第三一章 新しい人々のなかの古い邸
  第三二章 饗宴の開始――結び

年譜
索引



ラスキン モリス 02



◆本書より◆


「ユートピアだより」より:


「第六章 ささやかな買物」より:

「このときまでにわたくしはもう本心にたちもどっていた。そしてこの国の驚くべき風習を思い起こし、いまさら社会経済学やエドワード朝の鋳貨について講義をしようとする気はもたなかった。ただこういった。
 「わたくしのこの服――どうでしょう? ねえ――この服はどうしたらいいとお考えですか」
 かれは笑いだしたいようすなど少しも見せず、まったくきびしい態度でいった。
 「おお、新しい服などまだ手にいれないでください。わたくしのひいおじいさんは好事家(こうずか)です。かれはあなたをいまのままのすがたで見たいと思うでしょう。それに、あなたにお説教するわけじゃありませんが、あなた自身を他のだれとでもまったくおなじようにしようとして、あなたの服装を研究する民衆の楽しみをあなたが奪いとってしまうのは、たしかに正しいとはいえないでしょうね。そうはお感じになりませんか」かれは本気になっていった。」
「「それじゃ」とかれは愉快そうにいった、「これらの売店のなかがどんなふうかもっとご覧になったほうがいいでしょう。ほしいものがなにかお考えください」
 そこでわたくしはいった、「たばことパイプを手にいれられましょうか」
 「もちろんですとも」とかれはいった。「さきにこちらからおたずねしないなんて、なにをわたくしは考えていたのでしょう。いや、あのボッブにいつもいわれているんですよ、わたくしたちたばこをのまない者なんて利己主義な奴だって。それはほんとうかもしれませんね。だが、さあいっしょにいらっしゃい、ここにはちょうどてごろなところがあります」
 そういってすぐ、かれは馬をとめてとびおりたので、わたくしもそのあとについていった。模様のある絹の着物をみごとに着こなした、とても美しい女性が通りすがりに陳列窓をのぞきながらゆっくり歩いていた。かのじょにディックはいった、「お嬢さん、ちょっとなかにはいっている間、わたくしたちの馬をおさえていただけませんか」。かのじょはやさしい微笑を浮かべてうなずいて、そのきれいな手で馬をなではじめた。」

「「おはよう、小さな隣人たち」とディックはいった。「このお友だちがたばことパイプをほしがっておられるのだが、ありますか」
 「はいはい、承知しました」と、少女は幾分おかしいくらい一種とりすました敏活さで答えた。少年は顔を上げ、わたくしの外国人らしい服装をじろじろ見だしたが、自分がお行儀よくふるまっていないと気づいたかのように、すぐに顔を赤らめて横をむいた。」
「「かのじょはまたすがたを消した。そして大きな火皿のついたパイプを手にしてもどってきた。それはなにか堅い木を非常に精巧に彫りぬいたもので、小さい宝石をちりばめた黄金をはめこみにしていた。それは、要するに、わたくしのいままでに見たいちばん美しくはなやかなおもちゃであった。最良の日本の細工物に似てはいるが、それよりも良いものであった。
 「おやおや」とそれに目をとめてわたくしはいった。「これはわたくしにはまったくりっぱすぎる、世界じゅうを治める帝王以外はだれにだってりっぱすぎる。それに、わたくしはそれをなくしますよ。わたくしはいつでもパイプをなくすんです」
 少女はちょっとくじかれたように見えた、そしていった。「それがお気にいらないのですか、お客さま」
 「いえ、いえ」とわたくしはいった。「もちろん気にいっているんです」
 「それならおもちくださいな」とかのじょはいった。「それになくすことなんか心配なさらないで。たとえおなくしになったって気になさることはないじゃありませんか。だれかがきっと見つけるでしょうし、そうすればその人がそれを使い、あなたはべつのを手にいれられるんですから」
 わたくしは少女の手からうけとってそれをじっと見た。そうしているうちに、ふとうっかりして、いった。「しかしこんなりっぱなものには、お代をお払いしなくてはならないのでしょう」
 ディックが、そういっているわたくしの肩に手をかけたので、ふりむくとかれのおどけた友情の目にぶつかった。それは、この国ではもう絶滅してしまっている商業道徳がまたしても顔を出したのをわたくしにいましめたものだ。」



「第八章 年とった友だち」より:

「かれはまた馬車を走らせた。その間わたくしは、あれほど大げさなことばで語られていた十九世紀が、このシェイクスピアを読み、中世のことも忘れてはいない男の記憶のなかで、ものの数にもいれられていないのを考えて、かすかに微笑した。」


「第九章 恋愛について」より:

「この答えに老人も笑った。「それじゃ、わたくしがあなたに話すことにしましょう。あなたがまるで――」
 「まるでわたくしがほかの惑星からきた人間であるかのように」とわたくしはいった。」

「「では、あなたはナンセンスなことを考えておられる」とかれはいった。「昔は離婚裁判所のような気違いじみた業務があったことはわたくしも知っている。が、考えてもご覧なさい、そこへもちこまれた事件はすべて財産争いの事件だった。そしてお客さま」とかれは笑いながらいった。「たとえあなたがほかの惑星からいらっしゃったとしても、われわれの世界を外側からちょっとご覧になっただけで、今日われわれのなかに私有財産についての争いなどはありえないことがおわかりでしょう」
 ハマスミスからブルームズベリまでの馬車のドライヴで、平和な幸福な生活を思わすような多くのヒントを見てきたが、それらは、あの買物のことなどなかったとしても、われわれが考えなれていたような『神聖な私有財産権』はここではもはや存在しないということをわたくしに語るに足るものであったろう。」



「第一一章 政府について」より:

「「どうもわかりませんな」とわたくしはいった。
 「そうでしょう。おわかりになりますまい」とかれはいった。「こんなことをいえばあなたにはショックでしょうが、われわれは、ほかの惑星生まれのあなたが政府と呼ばれるようなものは、もはやもっていないといわなければならない」」



「第一五章 共産主義社会には労働意欲を促すものが欠けているという問題について」より:

「かれの十九世紀の生活に対する評価に、わたくしは驚いてちょっと息がとまった。わたくしは力なくいった。「しかし、あの労働力節約の機械類は?」
 「おやおや!」かれはいった。「あなたのおっしゃるのはなんのことですか。労働力節約の機械類ですって? さよう、あれらはある一つの仕事についての『労働〔というか、もっとはっきりいって人々の生活〕を節約する』ためにつくられ、それをもう一つの、おそらく無用な仕事にむけるために――浪費するために、とわたくしはいおう――つくられたのです。労働を安価にするくふうのすべては、ただたんに労働の重荷を増す結果となりました。世界市場の食欲は食べれば食べるほどつのっていったのです。『文明』〔すなわち、組織化された苦悩〕の圏内にある国々は、市場の奇形のもので満腹して、暴力と詐欺がこの境界の外側の国々を『開発する』ために惜しげもなく使われました。この『開発』の過程は、この時代の人々の公言しているものを読み、しかもその実践したことを理解しえない人々には、異様なものです。それはおそらく、十九世紀の重大な悪徳の最悪のものをわれわれに示しています。あの身代わりたちにやらせた――残虐行為の責任をのがれるために、偽善や空念仏(からねんぶつ)を使うあの手口をです。文明人たちの世界市場がまだその魔手におさめていないある国を渇望したとき、なにか見えすいた口実が見つけだされる――商業主義下の奴隷制とはちがった、まだそれほど残忍ではない奴隷制の抑圧とか、その煽動者たちももはや信じていない宗教を押しつけるとか、『野蛮』国の原住民たちの間で、こちらが犯罪を犯してかれらとごたごたを起こしたならず者や殺人犯の気違いの『救出』とか――、要するに、ともかく犬を打てる棒を見つければいい。それからだれか大胆な、破廉恥な、無知な冒険家が見つけだされ〔この競争時代にはむずかしいことではありませんでした〕、そしてその男を買収して、この不運な国にどんな伝統をもった社会があるにせよ、それをぶちこわし、またそこにどんなレジャーや楽しみがあるにせよ、それを破砕することによって『市場を創造』させる。かれは、原住民にかれらの欲しない商品を押しつけ、原住民たちの天然の産物と『交換』――こうした形式の略奪をそう呼んだ――しました。それによってかれは『新しい需要を創造した』のです。その需要を満たすために〔すなわち、かれら原住民たちは新しい主人たちによって、生きることを許されるために〕この不幸な、寄るべない人々は、『文明』のくだらないものを買えるいくらかの金を手にいれようとして、希望のない苦役の奴隷として身売りをしなければならなかったのです。ああ」と老人は博物館を指さしながらいった。「わたくしはあそこでこれまでに文明〔もしくは組織化された苦悩〕の『非文明』との取引きについての、まったく異様な物語を伝える書物や文書類を読んできました。イギリス政府が『北米土人』の扱いにくい種族への選りすぐった贈物として、わざわざ天然痘の黴菌(ばいきん)を染みこませた毛布を贈った時代から、アフリカがスタンリー(1)という男になやまされた時代までですが、そのスタンリーは――」
 「あの、失礼ですが」とわたくしはいった。」



訳注より:

「(1) サー・ヘンリー・モートン・スタンリー(一八四一~一九〇四)は、イギリスのアフリカ探検家。ウェールズ生まれ。アフリカ分割期のイギリス帝国主義の代表的先駆活動で世界的に知られた。東アフリカ、中央アフリカの奥地を探検、アフリカの植民地化を進めた。あるときは奥地にはいった行方不明のリヴィングストンの救援におもむいて会った。第三回探検のとき、コンゴ自由国を建設した。モリスはかれのゆき方に絶対反対で、スタンリーは本書執筆時ちょうど第三回探検から帰朝して人気絶頂にあった。このようなスタンリーをモリスがこういう書き方で表現しているのは注目される。「荒らしまわる」(infest)というのが、モリスが帝国主義を論難するときに使うことば。かれはまた『コモンウィール』誌ではアフリカ開発を痛撃している。」


「第一六章 ブルームズベリ市場ホールでの午餐」原注より:

「〔1〕 ここでわたくしが「エレガント」(優雅な)というのは、ペルシア模様がエレガントだといったような意味のそれで、朝の訪問に出かける金持ちの「エレガントな」レディーといったような意味のそれではない。そのほうはむしろ「ジェンティール」(お上品ぶった)と呼ぶ。」


「第一九章 ハマスミスへの帰り道」より:

「恋人たちは、いまは横をむいてしまって、互いにひそひそ話をして、われわれを気にもとめていなかった。だから、わたくしは、声だけは落として答えた。「そうですね、太陽がいっぱいの休みの日に、楽しかった子供のころ、思い浮かぶものはなんでも自分のものになったっけ」
 「そのとおりなんですよ」とかれはいった。「あなたは、わたくしがこの世の第二の幼年時代に生きているといって、たったいま、わたくしをからかわれたのを覚えていらっしゃるでしょう。あなたも、それが住むにはしあわせな世界だとお気づきになるでしょう。そして、あなたはそこでしあわせにすごされるでしょうよ――しばらくはね」」



「第二七章 テムズ河の上流」より:

「わたくしはじっと注意した、そして、生活そのものを喜びとしてうけとめ、人類の共通の要求を満たすことと、そのための準備とを、人類の最善のことにふさわしい仕事としてついに会得した人々の作品の、精妙さと豊かな美に、わたくしは驚嘆したのである。わたくしは黙って瞑想(めいそう)していたが、とうとう口をきった。
 「ところで、このあとにくるものはなんですか」
 老人は笑った。「わかりませんねえ」とかれはいった。「それがきたときにはわかるでしょう」」

「われわれはまもなく漕ぎだし、ベンジントンとドーチェスターの間の美しい水域を通って快調に進んだ。いまや午後も半ばごろとなり、暑いというよりむしろ暖かで、まったくの無風状態、空高くふんわりとした雲は真珠のように白く、きらめき、灼(や)けつくような太陽をやわらげていた。しかし、雲は空に高さと堅さを与えるように見えるが、どこまでいっても空の薄青色をかくしはしない。一口にいえば、空は詩人がしばしばいったように、ほんとに丸天井のように見えた。そして、たんに果てしない大気のようではなく、あまりにも広大で光に満ちた丸天井であったから、いずれにしても気分を圧することもなかった。テニスンが「逸楽の国」を、いつもいつも午後ばかりの国、といったとき、かれが思い浮かべていたにちがいないような、いわばそんな午後であった。」





こちらもご参照ください:

ウィリアム・モリス 『民衆の芸術』 中橋一夫 訳 (岩波文庫)


この本をよんだ人はこんな本もよんでいます:

吉田健一 『金沢』




































































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うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

すきなことば: 「だれもいない」「ギブアウェイ」「ウポポイ」「隠密」
きらいなことば: 「人と人とのつながり」「キャリアアップ」「ほぼほぼ」「三密」

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歴史における自閉症の役割。

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