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R・A・ラファティ 『九百人のお祖母さん』 浅倉久志 訳 (ハヤカワ文庫)

「わたしはおとなにはならなかった。ただ、みっともなく年をとっただけだ」
(R・A・ラファティ)


R・A・ラファティ 
『九百人のお祖母さん』 
浅倉久志 訳
 
ハヤカワ文庫 SF757/ラ-1-1


早川書房
昭和63年2月15日 発行
昭和63年4月30日 2刷
539p
文庫判 並装 カバー
定価660円
カバー: 横山えいじ



R. A. Lafferty: Nine Hundred Grandmothers, 1970



ラファティ 九百人のお祖母さん



カバー裏文:

「「なに、この星の住民は誰も死なない!?」「そう、だからうちには九百人もお祖母さんがいるよ」調査員セランがとある小惑星で耳にしたとんでもない話。だが待てよ、それが本当なら、この星の先祖をたどっていけば宇宙の永遠の謎、万物の始まりを解き明かすことができるではないか! そしてある家に忍びこんだ彼を待っていたのは……悪夢と笑いにみちた表題作ほか、世界最高の科学者たちがおかしな実験を繰り広げては右往左往する「われらかくシャルルマーニュを悩ませり」「その町の名は?」など21篇を収録。愛すべきホラ吹きおじさんラファティが贈る、抱腹絶倒の短篇集!」


目次:

九百人のお祖母さん (Nine Hundred Grandmothers)
巨馬の国 (Land of the Great Horses)
日の当たるジニー (Ginny Wrapped in the Sun)
時の六本指 (The Six Fingers of Time)
山上の蛙 (Frog on the Mountain)
一切衆生 (All the People)
カミロイ人の初等教育 (Primary Education of the Camiroi)
スロー・チューズデー・ナイト (Slow Tuesday Night)
スナッフルズ (Snuffles)
われらかくシャルルマーニュを悩ませり (Thus We Frustrate Charlemagne)
蛇の名 (Name of the Snake)
せまい谷 (Narrow Valley)
カミロイ人の行政組織と慣習 (Polity and Custom of the Camiroi)
うちの町内 (In Our Block)
ブタっ腹のかあちゃん (Hog-Belly Honey)
七日間の恐怖 (Seven-Day Terror)
町かどの穴 (The Hole on the Corner)
その町の名は? (What's the Name of That Town?)
他人の目 (Through Other Eyes)
一期一宴 (One at a Time)
千客万来 (Guesting Time)

訳者あとがき
文庫版/訳者あとがき




◆本書より◆


「九百人のお祖母さん」より:

「婆さまは小柄で、腰かけ、ニコニコしていた。(中略)婆さまによばれてやってきた爺さまも、セランにニコニコ笑いかけた。(中略)ふたりは優しく穏やかだった。あたりには、匂いとは紙一重だけちがうものがたちこめていた――不快ではなく、眠たげで、なにか悲しみに近いものを思いださせる雰囲気。
 「ここには、あなたがたよりも年寄りがいるんですか?」セランは熱心にきいた。
 「ええ、ええ、大ぜいいますよ。かぞえきれないぐらい」そういうと、婆さまは、自分よりもいっそう年老いて小柄な、じじばばたちを呼び入れた。だれもが働きざかりのプロアヴィタス人と比べると、半分ぐらいの大きさしかなく――小柄で、眠たげで、ニコニコしていた。」
「なんと年老いて優しく、なんと弱々しく眠たげだろう。」

「最初の婆さまが、セランについてこいと身ぶりした。ふたりは斜路を通って床の下へくぐり、家の中の古い部分へはいった。そこは地下に違いなかった。
 生き人形! 老人たちはずらりと棚の上に並び、めいめいの壁龕(へきがん)の中で小さな椅子にすわっていた。」
「これがプロアヴィタス人の生きた先祖だ。
 小さな生き物たちの多くは、またもや眠りにおちはじめた。」
「彼は世紀をくぐり、千年紀をくぐって、斜路を降りつづけた。最初に階上で気づいたあの雰囲気は、いまやはっきりした臭気にかわっていた――眠たげで、なかば記憶に残り、ほほえみかけ、物悲しく、そしてかなり強い匂い。これが時の匂いなのだ。
 「ここにはあなたよりも年寄りがいるのかね?」セランは、ひとりの小さな婆さまを自分の掌にのせてたずねた。
 「いるともさ。このわたしの掌にのるような小さい年寄りがね」婆さまが答えた言葉は、セランがノコマから教わったプロアヴィタス語の、古い、単純な形態だった。」



「スナッフルズ」より:

「スナッフルズは熊である――おそらく――そして曲がりなりに。この熊は、それ自身、動物類のカリカチュアで、なんとなく巨大な犬に似ており、なんとなく毛むくじゃらな人間にも、人食い鬼にも、おもちゃにも似ていた。そして、スナッフルズは、熊のカリカチュアでもあった。
 ビリー・クロスは、熊についてみんなに説明した。ビリーは昔からの熊ファンだった。
 「一度も見たことがなくても、また話を聞かされたことがなくても、子供たちが夢に見る動物が一つだけある。それが熊なんだ。(中略)熊は子取り鬼(ブーガーマン)なんだ。熊は幼年期という古い家の屋根裏に住んでいる。(中略)そこでの熊の存在ってものは、おとなの暗示じゃなく、生得の子供の知識なんだ。
 しかし、この子取り鬼には二重性がある。やつは優しく魅力的であると同時に恐ろしい。子取り鬼は、おとなが子供に聞かせる話じゃない。子供がそれを忘れてしまったおとなに聞かせる唯一の話だ」」
「「さて、子取り鬼(Boogerman)は、言語学的にも興味がある。インド=ヨーロッパ祖語の二百たらずしかない語根の一つだからだ。Bog はスラブ語で神を意味するようになったが、booger は古くは獣人的な創造神だったし、サンスクリット語の bhaga にもこの意味がなくはない。破壊者の意味では、古代アイルランド語で bong という言葉になり、初期リトアニア語では banga になった。むさぼり食うものという意味では、ギリシア語の phag という語根に生き残り、逃走させるものとしてはラテン語の fug になった。もちろん、ウェールズ語の bwg は幽霊だし、英語の bogey は悪魔の意味に使われてきた。それに bugbear (「恐怖のもと」「お化け」の意味)を加えると、これでちょうど一巡したことになる」
 「つまり、神と熊と悪魔を一つにしたものですか」ジョルジーナがきいた。
 「熊が世界を創造した、とする神話は多い」ジョン・ハーディーがいった。「創造のあと、熊はなにもたいしたことをしなかった。熊の心酔者たちは、もうそれだけやれば充分じゃないか、と考えたんだな」」



「他人の目」より:

「彼のアイデア――他人の心の中に入り、他人の目の奥から彼のとおなじではありえない世界をのぞこうというこのアイデアは、コグズワースの一生の念願だった。思いおこすと、そのアイデアがはじめて強烈に頭にやどったのは、まだ幼かりし頃だったのだ。
 「夜空が黒く見え、星が白くまたたいているように見えるのは、ひょっとするとこのぼくだけかもしれない」と、彼はひとりごちたものだった。「ほかのみんなには空が白く見え、星が黒くまたたいて見える。そして、ぼくは空が黒いといい、みんなも空が黒いという。だけど、みんなが黒いというのは、ほんとは白いことなんだ」
 また――「ひょっとすると、牛の外側を見てるのはぼくだけで、みんなは内側を裏返しに見てるのかもしれない。ぼくはこっちが外側だといい、みんなもこっちは外側だという。だけど、みんなが外側というのは、ほんとは内側のことなんだ」
 また――「ひょっとすると、ぼくが見ている男の子はぜんぶ、ほかのみんなから見ると女の子で、逆に女の子は男の子に見えるのかもしれない。ぼくは“あれは女の子だ”といい、みんなも“あれは女の子だ”という。だけど、みんなが女の子というのは、男の子のことなんだ」
 そこで、こんな恐ろしい考えがうかんだ――「もしぼくが、ほかのみんなの目から見て、女の子だとしたら?」
 この疑問は、幼い彼にもどこかおかしく思えたが、それでもやはり一つの固定観念となった。
 「もし、犬の目にはどの犬も人間に見え、どの人間も犬に見えるとしたら? もし、犬がぼくを見て、ぼくを犬だと思い、自分を人間だと思うとしたら?」
 そのあとに、一度こんな破壊的な考えがうかんだこともある――
 「そして、もしその犬が正しいとしたら?
 もし、魚が鳥を見上げ、鳥が魚を見おろしたら? もし魚が自分は鳥で、鳥が魚だと思い、自分はその魚を見おろしていると思い、空気を水、水を空気と思うとしたら?
 もし、鳥がミミズを食べるとき、ミミズが自分は鳥で、鳥がミミズだと思うとしたら? そして、自分の外側を自分の内側と思い、鳥の内側を自分の外側と思うとしたら? そして、鳥が自分を食べたのではなく、自分が鳥を食べたのだと思うとしたら?」
 これは非論理的だった。しかし、ミミズが非論理的でないと、どうしてわかる? あの体では非論理的になりたくもなるだろう。」









こちらもご参照ください:

H・R・ハガード 『ソロモン王の洞窟』 大久保康雄 訳 (創元推理文庫)















































































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うまれたときからひとでなし
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難破した人々の為に。

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好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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