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A・ビアス 『死の診断 ― ビアス怪奇短篇集』 高畠文夫 訳 (角川文庫)

「それというのは、さまざまな種類の死があるからなのだ。肉体が残るような死がある。そうかと思えば、肉体が霊魂とともにまったく消滅してしまうような死もある。このような死が起こるのは、ふつう孤独な場合に限られている。」
(A・ビアス 「カーコサの一住民」 より)


A・ビアス 
『死の診断
― ビアス
怪奇短篇集』 
高畠文夫 訳
 
角川文庫 4344/赤 364-2

角川書店
昭和54年9月30日 初版発行
昭和54年12月30日 再版発行
288p
文庫判 並装 カバー
定価340円
カバー: 大沢泰夫



本書「解説」より:

「本書に収めた話は、ビアスの二つの短篇集『いのちの半ばに』(In the Midst of Life)と『怪奇小説集』(Can Such Things Be?)のうち、前者から一篇、残りは全部後者から採ったものである。」


大沢泰夫による扉絵18点。


ビアス 死の診断 01


カバーそで文:

「ホーヴァー氏が避暑に借りた家、その家は以前、人の寿命を確実に予見できる医学博士が建てたものであった。ある晩のこと、書斎にかけてある博士の肖像画が抜け出して彼に向って指さした……。“死の診断”
 ポーの再来といわれ、痛烈な風刺と諧謔(かいぎゃく)を交えた「悪魔の辞典」の著者ビアスが人間の心理の中にこそ恐怖の根源があるとして、従来の古めかしい怪奇小説と異なる無気味な超自然の世界を描く。他に“壁の向こうで”“死人谷の夜の怪”など15篇を収録。」



目次:

ジョン・モートンスンのお葬式
死の診断
壁の向こうで
ジョン・バータインの懐中時計――或る内科医の話――
ジョッキー一杯のシロップ
死人谷の夜の怪――事実ではない物語――
見知らぬ男
マカーガー峡谷の秘密
幽霊屋敷さまざま
 松の島
 無駄だった割当任務(探訪記者の奇妙な冒険)
 廃屋の蔓(蔓の秘密)
 エッカート爺さんの家で起こったこと(神隠し)
 幽霊屋敷
 ホテルの相客
 ノランの怪事件
行方不明の謎
 蒸発した農場主――農場を横切ることの難しさ
 賭け――競走途中の怪事件
 消えた足あと――チャールズ・アシュモアの足あと
右足の中指
月あかりの道
ハルピン・フレイザーの死
アウル・クリーク鉄橋の出来事
あん畜生
カーコサの一住民

解説
 アンブローズ・ビアスについて
 ビアスの怪奇小説について
あとがき



ビアス 死の診断 02



◆本書より◆


「死の診断」より:

「「あなた方の中には――それは、もちろん、ごく一部だとは思いますが――霊魂の不滅とか、すなおに幽霊と呼びたくないので幻影と呼んでいらっしゃるものが実在する、と信じていらっしゃる方がたがおられます。私としては、ただ、たとえ生きている人びとの場合でも、現在はそこにいなくても、これまでいたことのある場所というか――ずいぶん長らく、いや、おそらく強い執着の念をもって生きてきたため、その周囲のあらゆるものに、自分の刻印を残してきたような場所では、時によると、その本人の姿を見かけることがあるものだという確信をもっている、とこれだけを強く申し上げたいのです。実際の話、だれかを取り巻く周囲が、その人の個性の強い影響を受けたため、その人がいなくなったずっと後になっても、ほかの人びとの目に、その人の像が見えるような現象を引き起こす例を、私は知っています。」」


「ジョン・バータインの懐中時計」より:

「また、遺伝の法則に制限を加えることもできない。霊的な世界では、感情や情緒が、それらを支えている心がほろびた後も生き長らえて、幾代も後になって血のつながった子孫の中に現われてくることが、果たしてないのかどうか、私にはわからない。」


「幽霊屋敷さまざま」~「廃屋の蔓(つる)」より:

「ハーディングの細君は、やさしい、目もとの寂しい女で、左足がなかった。
 一八八四年のいつごろだったか、この細君がアイオワ州の母親のところへ出かけたという噂(うわさ)が立った。奥さんはどうされたのか、とだれかがきたのに対して、夫のハーディングがそう返事したのだった。が、彼の口ぶりに別に怪しいところもなかったので、それ以上詮索(せんさく)する者はいなかった。細君はそれっきり帰ってこなかった。」

「或(あ)る日その蔓を掘り起こしてはどうかという提案がなされ(中略)、この提案が実行に移された。根っこのほかには何も見つからなかったが、その根っこがまた、なんと世にも不思議なものだったのだ!
 地表では直径数インチのその幹から、根っこが一本、五、六フィートまっすぐ下に伸び、ぼろぼろした砕けやすい土に達していた。そこで二つに分かれ、その分かれたのがさらに分かれて、小さな根やひげ根や繊維になり、しかも、それらがなんとも奇妙なふうにからまり合っていた。注意して土から掘り出してみると、変な格好のものだった。細かく枝分かれし、それがまた折り返って、目のつんだ網目細工になっている。ところが、その大きさといい、格好といい、びっくりするほど人間そっくりなのだ。頭、胴、手足がちゃんとわかり、手の指や足の指までもがはっきりと見わけがついた。繊維が分布し、きちっと配置されてできた、怪奇な人間の頭を思わせる球状の塊りの中に、なんとなく顔の面影がうかがわれると主張する人も多かった。横になった姿勢をとっていて、小さい根がいくつか胸のところで互いに結びついて一つになりかけていた。
 人間の姿としてみると、この像は不完全だった。片方の膝(ひざ)から下約十インチぐらいのところで、足の部分にあたる細毛が、成長の途中で、急激に逆方向へ、つまり内側に折れ曲がっていた。つまりこの像には左足がなかったのだ。」



「ハルピン・フレイザーの死」より:

「日が暮れてから、もうずいぶんたっているのに、彼が歩いているこの果てしない森は、どこかわからない所からさしてくる青白いかすかな光によって照らされている。さしてくる所がわからない証拠には、その不思議な光に照らされているものには、まったく陰がないのだ。前に通った車の轍(わだち)の跡が溝(みぞ)のように凹(くぼ)んでいる所へ、最近雨でも降ってできたのか浅い水たまりが、深紅に光って彼の目を打った。しゃがんで手をつっ込んでみた。指がその色に染まった。なんとそれは血なのだ! そのとき気がついたのだが、まわりじゅうどこもかしこも血だらけなのだ。(中略)木の幹は、広い範囲にわたってべっとりと深紅色の汚点がつき、重なり合った葉先からは、露のように血の雫(しずく)がぽたりぽたりと落ちている。
 彼は恐怖に襲われながら、これらすべてをながめた。しかしその恐怖には、前々から覚悟していたものが、とうとうやってきたという気持ちもまざっていないわけではなかった。彼には、まるで、すべてが、犯したような気はするが、はっきりと思い出すことのできない何かの罪の償いのように思われたのだ。」






こちらもご参照ください:

アンブローズ・ビアス 『生のさなかにも』 中村能三 訳 (創元推理文庫)







































































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