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皆川博子 『ゆめこ縮緬』

「居るべきではないところに闖入したよそもの。それが、彼であった。」
(皆川博子 「玉虫抄」 より)


皆川博子 
『ゆめこ縮緬』


集英社
1998年5月27日 第1刷発行
258p+2p
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価1,680円(本体1,600円)
表紙人形: 吉田良一
装幀: 中島かほる



巻末に初出一覧と著者略歴。
泉鏡花みたいな文体です。かつては「鏡花みたいに書いてはいけない」というのが文学の世界の不文律でしたが、古井由吉『山躁賦』が出たり、唐十郎が芥川賞を受賞したりしたあたりから、鏡花みたいに書いてもよいことになったのではないでしょうか。


皆川博子 ゆめこ縮緬 01


カバーは半透明な紙に著者名と表題が印刷されていて、本体表紙の球体関節人形(吉田良)が透けてみえています。


皆川博子 ゆめこ縮緬 02


帯文:

「この世、
 あの世、
それとも
 幻の世界
   *
 妖(あや)しさの中に
 紡ぎだされる
 華麗な作品集」



帯裏:

「ここに収められた八つの隠花植物たちの名を見るだけで、私は噎(む)せて死にそうになる。「文月の使者」「影つづれ」「桔梗闇」「花溶け」「玉虫抄」「胡蝶塚」「青火童女」、そして「ゆめこ縮緬」――酔って、乱れて、夢から覚めて、ふと足元に目をやれば、私の足は膝から下は朧ろに霞んで、そこから先が見えなかった。私は、信じられない幸福に、もう一度息が絶えそうになる。
久世光彦
(「青春と読書」1998年6月号より)」



目次 (初出):

文月の使者 (「小説すばる」 1996年7月号)
影つづれ (同 1995年7月号)
桔梗闇 (同 1995年1月号)
花溶け (同 1998年2月号)
玉虫抄 (同 1997年3月号)
胡蝶塚 (同 1996年1月号)
青火童女 (同 1997年7月号)
ゆめこ縮緬 (同 1997年10月号)



皆川博子 ゆめこ縮緬 03



◆本書より◆


「文月の使者」書き出し:

「「指は、あげましたよ」
 背後に声がたゆたった。
 空耳。いや、なに、聞き違え……。
 くずれ落ちた女橋のたもと、桟橋への石段を下りようとしたときだった。川面までほんの三、四段。すりへった石段は海綿のように、一足ごとにじわりと水を吐き出す。振り返ろうとして足がすべり、あやうく身をたてなおす、その間に、声の主は、消えていた。怪しげな術を使ったわけでもあるまい。路地のかげに曲がって行ったのだろう。
 明石縮(あかしちぢみ)が薄く透けたすがすがしい夏ごろも。パラソルが、くるりとまわったような気がする。」



「影つづれ」書き出し:

「狂(たぶ)れた、と思う。
 行けど行けど、果てしない野である。
 秋草が道をはばみ、いや、道などはじめからありはしない、尾花をかきわけ踏み出せば、一足だけの空間は生じるものの、歩んだうしろはたちまち、茫漠と芒(すすき)の原。
 まばゆく、火の粉の朱じゃあない、穂の銀砂子(すなご)がどっとなびいて降りかかり、全身月光にうちのめされ、おもわずよろめく足を草にかくされた石塊(いしくれ)がすくう。
 やがて、硫黄のにおいが鼻をつき、視野をしめるのは、岩石ばかりとなった。
 赤褐色、茶褐色、鉄錆色の岩を、乗り越え踏み越え、歩く。
 ――散り舞う桜をば、夢見草とも呼びます。ご存じないか。春に狂った魂が、秋の宿に夢を見せます。おまえさまの仮寝の枕は、夢見草の花びらをつめたものであったから、狂れるのも不思議はございますまい。
 芒の葉ずれのような声が、岩の割れ目から噴き出す霧に綯(な)いまざる。
 ――衣くだされ。布くだされ。」



「桔梗闇」より:

「「きっと、あなた、ぐうたら病なのよ」」

「亡命、それがどういうものか、やはりくわしい知識はない。国を捨てて逃げなくてはならなかった人。地上に居場所のない人。佳耶に想像がつくのはそれくらいであり、それだけで十分に悲哀を共感できた。」



「玉虫抄」より:

「居るべきではないところに闖入したよそもの。それが、彼であった。」


「胡蝶塚」より:

「からだが二つあるような気が、いつも、彼はしていた。小学校にかよっているのは、からっぽのからだのほうで、もう一つは、シャガの原のまんなかにある乳母の家にいるような気がした。」

「もともと、好奇心の強いたちではなかった。好きな絵を描くことのほかに、関心を持たないのでもあった。
 Nをはじめとする、彼の絵を受け入れ、称賛してくれる小説家たちにしたところで、その日常は、彼の目から見ればいたって索漠としたもので、現実のなかでだれのようになりたいという願望も彼にはなく、まして、現実に即応して世間知をまなぶ気もない。」



「ゆめこ縮緬」より:

「書物は、子供の日常のうわっつらをなぞったものでさえなければ、現実の社会を書いたものであろうと、非現実であろうと、子供にとってはすべて不可思議な霧のなかの幻想世界であり、そこでこそ、楽に呼吸ができた。」







































































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うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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