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クノー 『はまむぎ』 滝田文彦 訳 (小説のシュルレアリスム)

「「じゃあなにかね、時ってものはこんなに無なのかね? もはや歴史もないのかね」と、女王が尋ねた。
 「それがどうだって言うんだ」と、二人は答えた。
 彼女は肩をすくめた。
 そこで彼らはカランタンの前面にある林間の空地を後にして、永遠の時の流産を横切って、六月のある晩、町の門のところにたどり着いた。彼らはなにも言わずに別れた、なぜなら彼らはもはやたがいに知らず、かつて知り合ったこともなかったから。」

(クノー 『はまむぎ』 より)


クノー 
『はまむぎ』 
滝田文彦 訳
 
小説のシュルレアリスム

白水社
1976年9月16日 印刷
1976年9月28日 発行
388p 口絵(モノクロ)1葉
四六判 丸背紙装上製本 函
定価1,500円
装幀: 野中ユリ



Reymond Queneau: Le Chiendent, 1933
レーモン・クノーの『はまむぎ』は、新装版や、新訳も出ているようですが、日本の古本屋サイトで旧版の最安値(800円)のを注文しておいたのが届いたのでよんでみました(ついでにミシェル・レリス『黒人アフリカの美術』(1,000円)も注文したので、計1,800円+送料700円でした)。
解説によると「“はまむぎ”という植物名は、フランス語では、なかなか除去できない厄介な雑草として(中略)、やっかいなわずらわしいことというコノテーションを含んでいる。」ということなので、たぶん「はまむぎ」というのは、人類とか、人類の歴史とか、人間社会とか、人間関係とかのことなのではないでしょうか。
本書は結末が冒頭につながって円環をなしています。
そういうわけで、本書はフランス版ジェイムズ・ジョイスといってよいのではないでしょうか。


クノー はまむぎ 01


帯文:

「青年時代をシュルレアリスムの激動のなかに過したクノーは、処女小説『はまむぎ』によって独自の原理に基づく散文世界を構築した。数学とエロティスム、哲学と歴史、乾いたユーモアと詩の精神。奔放多彩な言語を駆使したこの小説は、今日の新しい小説形式・技法を用意した先駆的作品である。」


内容:

はまむぎ

解説 (滝田文彦)



クノー はまむぎ 02



◆本書より◆


「午後五時ごろ、北駅の前で一人の男が轢(ひ)き殺されるのを見て以来、クロシュ夫人は浮き浮きしていた。もちろんながら、彼女はあんなに恐ろしいものは見たことがないと語っていた。たしかにそうだったろう、かわいそうなポティスは一台のバスに念入りにローラーをかけられたのだから。念入りに準備された一連の偶然によって、彼女はほぼおなじ時刻、おなじ地点に面したカフェのテラスにたまたま腰を下ろしたが、そのカフェは幸運なる偶然の一致によってまさしくその場所に位置していたのである。彼女はカミルレ茶を注文し、そして辛抱強く、おなじような事件がまた起こるのを待った。彼女にとってはそれはすでにすんだことだった。彼女は毎日そこに来るだろう。事故を待ちかまえて。不条理にも、ポティスが末端まで到達できなかった歩道と歩道を結ぶ理想的な線、その線が不条理にもいまや運命、ないしは天命、ないしは宿命を招き寄せるはずだと思えたのである。そこではある身震いすることが起こったのだった。アスファルトの上に飛び散る黄色い脳味噌。そこでは無限に、説明不可能なままに恐ろしい事故が再現しなければならず、そしてクロシュ夫人は身震いすること、恐ろしいことが大好きだった。カミルレ茶はなまぬるくて、砂糖っ気がほとんどなかった。ボーイはそのことで手きびしい文句をきかされた。ひどく暑かったので彼女はケープを脱ぎ捨て、灰色の格子縞(こうしじま)のハンカチで顔をぬぐった。他の客たちはこの女客の顔を見ないようにしていた。そして彼女は待った。
 泥よけを接触させた二台のタクシーがあり、それからもう一台、くだらない理由で違反をくったタクシーがあった。だがそれだけだった。一時間というもの、何千という自動車、何千という歩行者が、なんら重大な混乱もなくそれぞれの道をたどった。潮のように二本足の動物が、そしてごくまれに四本足の動物が駅に飛び込んでいった。潮のように二、三、四輪の車が行列していった。だが、なにごとも起きなかった。
 カミルレ茶はとっくの昔に飲みほされ、クロシュ婆さんは失望していた。そのときある考えが浮かんだ。あの事故のことを考えるのをやめたら、たぶんあんな具合に別の事件が起こるのじゃないか。」



クノー はまむぎ 03
















































































































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