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池上俊一 『中世幻想世界への招待』 (河出文庫)

「この世のありとあらゆるものが幻想なのだ。そうではあるが、幻想が共同性を獲得したとき、簡単には抗えない強制力を発揮し、ひそかに猛威を振るうようになる。それが現実と呼ばれる(引用者注: 「呼ばれる」に傍点)ものである。」
(池上俊一 『中世幻想世界への招待』 より)


池上俊一 
『中世
幻想世界への
招待』
 
河出文庫 い 27-1 

河出書房新社
2012年9月10日 初版印刷
2012年9月20日 初版発行
416p 付記1p
文庫判 並装 カバー
定価1,300円(税別)
ロゴ・表紙デザイン: 粟津潔
本文フォーマット/カバーフォーマット: 佐々木暁
カバーデザイン: 岩瀬聡


「本書は、一九九二年一一月刊『狼男伝説』(朝日選書)を元本といたしました。
文庫化にあたり表題を『中世幻想世界への招待』とあらためました。」



文庫版あとがきより:

「今回文庫化にあたって書名変更し、『中世幻想世界への招待』となったほかは、未熟な箇所がいくつかあったがあえて大きく書き直すことはせず、事実の誤認、誤字や表記ミスなどを直すにとどめた。」


図版(モノクロ)52点。
本書はこのまえネットオフで購入しておいたのをよんでみました。


池上俊一 中世幻想世界への招待 01


カバー裏文:

「奇想天外、荒唐無稽な伝説や物語に満ちた中世ヨーロッパの世界。なぜ当時の人々は、これらの文学に熱狂し、ときには常軌を逸した行動をとったのか。狼男、妖精、若返りの泉、聖人伝説、煉獄、地上の楽園……中世人たちの創造力に圧倒されつつ、背景となる史実を読み解きながら、その豊穣なイメージの世界への扉を開く。」


目次:

序章 ヨーロッパ中世の想像界

第一章 狼男伝説
 はじめに――ヨーロッパのオブセッション
 1 狼男の最盛期
  リスト 史料のなかの狼男たち
  人間―動物―自然
  狼男と性
 2 狼男のイメージの変遷
 むすび――時代を映す鏡

第二章 聖体の奇蹟
 はじめに――神・人・教会の合体
 1 奇蹟のさまざま
 2 聖体論争
 3 高揚する聖体への帰依心
 むすび――権力の網

第三章 不思議の泉
 はじめに――「生命の母」
 1 異教の泉と湖
 2 泉と妖精
 3 恩寵の泉または生命の泉
 4 若返りの泉と愛の泉
 むすび――人と時代を映す

第四章 他者の幻像
 はじめに――幻想と現実
 1 大祭司ヨハネの伝説
 2 キリスト教世界覆滅の陰謀
 3 内なる敵たち
 4 他者認識の深層
 むすび――他者・社会・自然

第五章 彼岸への旅
 はじめに――「あの世」を垣間見る
 1 魂の異界巡歴
 2 彼岸の橋
 3 煉獄の誕生
 4 地上の楽園への旅
 むすび――「現実」から「アレゴリー」へ

終章 イメージの歴史的変遷

あとがき
文庫版『中世幻想世界への招待』あとがき



池上俊一 中世幻想世界への招待 02



◆本書より◆


「第一章 狼男伝説」より:

「北ドイツのある町に、シュトゥッベ・ペーターという魔術師がいた。悪魔は彼にベルトを与えた。それを身につければ、いつでも獰猛なオオカミに姿を変えられ、外せば人の姿をとり戻せるのだった。ベルトを手にしたペーターは、いたく喜んだ。というのは、ベルトを使ってオオカミに変身し、気に入らない人間たちを襲って喉を噛み破り、四肢を引きちぎって血染めにするのは、このうえない快楽であったから。彼は日夜、凶行に及んだが、人間の姿のときには、シャレた服に身を固めて、肩で風を切って歩くいい男で、出会う人は皆、にこやかに彼に挨拶をしたものだった。その人たちの友人や子供を、彼が牙にかけたというのに。こうした社交は、彼の食指をそそる女や子供を物色するまたとない機会でもあった。このようにして、二五年にわたって数知れぬ女や幼児を殺した。あるときは、妊娠している器量よしの二人の娘を襲い、子宮を食い破って赤子を摑み出し、まだ熱く鼓動しているその赤子の心臓を食べたが、彼の舌にはこのうえなく美味だった。凶行は続いた。だが、手足が畑に散乱するような事件が重なると、コリン、クペラト、ベトブール三町の住民は生命の危険を感じて恐怖を募らせ、オオカミ退治に必死になった。ある日、かのオオカミを見つけて猟犬に追わせた。追い詰められた狼男は、ベルトをすべり落とし、ただちに人の姿をとり戻した。捕えられた彼は、裁判所に送られて裁かれ、一五八九年一〇月二八日に「車裂き刑」の判決が下った。処刑は三日後であった。
(魔術師シュトゥッベ・ペーターの公判記録の写しより。
一五九〇年六月二二日記載)」

「狼男は、いったん獣への変身を完遂するや、血腥く残虐な生活に浸るために、猛り狂ったように、〈森〉のもっとも奥深くにしゃにむに走りこんでゆく。またある場合には、まさに森のなかにおいて、変身はおこなわれるのである。」
「〈森〉。これは、不可思議な現象にみちみちた暗い空間である。そこには、妖精やほかの幻獣などの「驚異の存在」がひしめきあっている。それらは、その恐るべき力を、森という聖なる魔法の空間から汲み出している。目に見えない壁に囲まれた森は、だれに対しても開かれているわけではない。人間社会の規範は、そこでは通用しない。
 これらの特徴は、わたしたちに、なぜ〈森〉が宮廷文学における本質的な「トポス」(定型表現)となるほどに騎士の冒険の中心に位置しているのかを、説明してくれる。また、わたしたちの主人公=狼男が、生活の場所としてなぜ森を選ぶのかも、教えてくれる。というのは、彼はオオカミの姿をとり、その獣としての本能は、すべての束縛を脱して、人間世界のいかなる秩序、いかなる正義、いかなる権威からも遠くはなれて奔放に荒れ狂うのであるから。狼男が動物の姿で森に入るとき、彼は、ヴィラン(隷農・自由農民)、隠者、狂人、盗賊、遍歴騎士ら中世社会のアウトサイダーがあらゆる社会関係から解き放たれて、その代わりに自然のエネルギーを獲得するのと同じように、「森に入る」という所作をやりとげることになる。」
「だが一三世紀はじめ以降、〈森〉(のイメージ)は、その魔力を失ってゆく。森はそれ以後、合理化され、脱魔化される。」



「第二章 聖体の奇蹟」より:

「一一七一年の復活祭の日に、イタリアはフェラーラのヴァードの聖母マリアに捧げられた教会堂(バジリカ)でミサがおこなわれていたが、キリスト教徒にまじって背教のユダヤ人やその他の異教徒も列席していた。聖別の後、司祭が聖体を奉挙したとき、全会衆の目に、元気溌剌とした優美な赤子が聖体パンと同じ大きさで見えた。そして手順にそって司祭が聖体パンを分割するとき、会衆の驚愕の叫びが会堂を満たしてこだました。というのは、真紅の鮮血がどくどくと司式司祭の両手のあいだから迸(ほとばし)り出、聖杯はまたたく間にそれに満ちあふれ、聖体布と祭壇テーブル、そして司祭の祭服もすぐ血染めになったから。ついには、もっともっと多量の血が噴出し、教会の穹窿(ドーム)にまでもとどいて無数の血痕をまきちらしたという。愛らしい赤子から殺戮と死のスペクタクルへのこのドラマティックな激変は、会衆の度肝を抜き、恐怖に凍えさせ、異教徒さえも聖体中のイエスの現在を信じるようになった。」



  
こちらもご参照ください:

ティルベリのゲルウァシウス 『皇帝の閑暇』 池上俊一 訳 (西洋中世綺譚集成)
池上俊一 『動物裁判』 (講談社現代新書)
ダニエル・ベルナール 『狼と人間 ― ヨーロッパ文化の深層』 高橋正男 訳
ハワード・ロリン・パッチ 『異界 ― 中世ヨーロッパの夢と幻想』 黒瀬保 ほか 訳
ジャック・ルゴフ  『中世の夢』 池上俊一 訳











































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