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ソーマデーヴァ 『屍鬼二十五話 ― インド伝奇集』 上村勝彦 訳 (東洋文庫)

ソーマデーヴァ 
『屍鬼二十五話
― インド伝奇集』 
上村勝彦 訳
 
東洋文庫 323 

平凡社 
昭和53年1月27日 初版第1刷発行
316p
18.4×11.6cm 
角背布装上製本 機械函
定価1,000円
装幀: 原弘



本書「凡例」より:

「本書は十一世紀インドの詩人、ソーマデーヴァ作『カター・サリット・サーガラ』に含まれる「屍鬼二十五話」(Vetālapañcaviṃśatikā)のサンスクリット原典からの翻訳である。」
「底本には The Kathāsaritsāgara of Somadeva Bhaṭṭa, ed. by Pandit Durgāprasād & K. P. Parab, 3rd & Revised ed. by Wāsudev Laxmaṇ Shāstri Paṇsikar, "Nirṇaya-sāgar" Press (Bombey, 1915), pp. 406-466 を用いた。訳注において、これをニルナヤ版と略称した。」
「原典はすべて韻文形式であるが、訳者は散文形式によって訳出した。」
「各話の標題は訳者が付したものである。」
「巻末に、ジャンバラダッタ本「屍鬼二十五話」から三話を付載した。」



屍鬼二十五話


勇敢なトリヴィクラマセーナ王が修行僧の手助けをすることになって、夜中に屍鬼(ヴェーターラ)が憑いた死骸を運ぶ。屍鬼は運ばれながら王に話をして聞かせ、内容に関して質問する。王がそれに答えると(言葉を発すると)、屍鬼はもとの場所に戻ってしまい、王は何度も死骸を運びなおさねばならなくなるが、それは屍鬼が修行僧の悪だくみを察知して、王を救うためにしたことだった。
というわけで、訳者によると、本書は西欧の文学にも影響を与えていて、第六話「すげかえられた首」はゲーテ、トーマス・マンなどによってとりあげられているとの指摘がありますが、第八話の、七枚の蒲団を重ねたベッドに寝て、その下にあった毛の跡がわき腹にできてしまう「デリケートな兄弟」の話は、アンデルセン「エンドウ豆の上に寝たお姫さま」の原話なのではないでしょうか。


目次:

凡例

プロローグ
第一話 烙印をおされた少女
第二話 娘一人に婿三人(一)――彼女の灰を抱いていた男
第三話 男が悪いか女が悪いか
第四話 息子を犠牲にした忠臣
第五話 娘一人に婿三人(二)――ソーマプラバーの場合
第六話 すげかえられた首
第七話 海中都市(一)――阿修羅の娘と結婚した男
第八話 デリケートな兄弟
第九話 王女と四人の求婚者
第十話 三人の男と約束した女
第十一話 デリケートな王妃たち
第十二話 海中都市(二)――天女を妻にした王
第十三話 バラモンを殺したのは誰か
第十四話 盗賊を愛した少女
第十五話 ムーラデーヴァと性転換の秘薬
第十六話 ジームータヴァーハナの捨身
第十七話 侮辱された女の復讐
第十八話 呪法に失敗した師弟
第十九話 三人の父親を持った王
第二十話 生贄の少年はなぜ笑ったか
第二十一話 焦がれ死にした女
第二十二話 ライオンを再生した兄弟
第二十三話 青年の死体にのりうつった行者
第二十四話 父が娘を、息子が母を妻にした場合
第二十五話 大団円

ジャンバラダッタ本『屍鬼二十五話』
例言
第二十一話 二日目に彼女を抱くのは誰か
第二十二話 ムーラデーヴァの計略
第二十三話 羅刹に怯える都

解説 
あとがき




◆本書より◆


「海中都市(二)」より:

「さて、ディールガダルシンは決意も堅く、一人で諸国をさすらい聖地を巡礼しているうちに、プンドラ地方にたどり着きました。その地方の、海に遠からぬある都で、彼はとあるシヴァの神殿に入り、その中庭に坐っていました。彼は日光の熱で疲労し、長旅でほこりまみれでした。ところが、そこに、ニディダッタという商人が神を礼拝しに来ていて、彼を見つけました。この商人はもてなし好きな男でしたから、そのような状態の彼を見て家へつれて行きました。彼が聖紐(せいちゅう)をかけ、瑞相をそなえていたので、きっと最高のバラモンであると考えたのです。商人は自宅で彼に水浴させたりごちそうを出したりして、この上もなく歓待しました。そして、疲れのとれた彼に、
 「あなたはどなたですか。どこからいらしたのです。どこへ行かれるのですか」
 とたずねました。
 「私はディールガダルシンというバラモンです。アンガ国からここに来ました。聖地巡礼をするためにです」
 彼は〔事実の一部〕を隠して商人に答えました。すると、大商人ニディダッタは彼に言いました。
 「私は商用のため黄金島へ行きます。そこであなた様は私が帰って来るまで私の家にいらして下さい。聖地巡礼でお疲れでしょう。疲れがとれたらお発ちなさい」
 それを聞くとディールガダルシンは言いました。
 「そういうことなら、どうして私はここに留まりましょう。隊商長さん、もしよろしければあなたといっしょに私も行きましょう」
 好人物の商人は、そうなさいませ、と言いました。そこで宰相は、商人の家で久しぶりにベッドに寝て、その夜をすごしました。
 翌日、彼は商人とともに海に出て、商品を満載した船に乗りこみました。そしてその船で航海し、驚異と恐怖に満ちた海を眺めているうちに、やがて黄金島に着きました。(中略)彼は商人ニディダッタとともにしばらくの間その島に滞在しました。その間、商人は売買をすませたのでした。
 そこから商人とともに船に乗って帰る途中のことです。突然、波の背から海上に出現した如意樹を認めました。その樹は、珊瑚の美しい枝や金色に輝く幹や宝石でできた美々しい果実や花で飾られておりました。そして、彼はその幹に、いとも珍(めずら)かなる姿の美少女が宝石をちりばめたソファに腰かけているのを認めました。彼が一瞬、これはどうしたことか、と考えこんでおりますと、その少女は、琵琶(ヴィーナー)を手にして歌いはじめました。

 前世にまいた行為の種の
 人は必ずその果をうける
 げに前生になされしことは
 運命すらも変えられぬ

 その天女はそう歌ってから、如意樹のソファに身を横たえたままで、あっという間に海中に没してしまいました。」

「ヤシャハケートゥ王は、大海の中に沈みましたが、驚いたことに、突然神々しい都を見出したのでした。都は諸々の宮殿で光り輝いていました。それらの宮殿の柱は燦然たる宝玉でできていて、壁は黄金できらめき、格子窓は真珠でできているのでした。そしてまた、いくつかの公園が都を飾りたてていました。公園の溜池(タンク)にはさまざまな宝石でモザイク模様をほどこした階(きざはし)がついております。その公園は、如意樹に満ち満ち、すべての欲望を満足させるものでした。
 その都はこのように豪奢でしたが、全く人気(ひとけ)がありませんでした。」



「第十八話」より:

「さて豪胆なトリヴィクラマセーナ王は、その夜、焰の舌を動かし人肉を食う亡霊のような火葬の薪の火に満ちた墓地を行き、再び例のシンシャパー樹にたどり着きました。すると思いがけなくも、同じような姿をした夥しい死骸がそこにぶらさがっているのを見出したのです。それらは屍鬼が幻術によって現出したものでした。
 「ああ、これはどうしたことか。屍鬼が幻術で私に時間を浪費させようとしているのに違いない。私はこれらの多くの死骸の中のどれを取ったらよいかわからない。もし私が目的を成就しないうちにこの夜が過ぎるなら、私は火に飛び込むしかない。笑いものになるのは我慢できない」
 と王が考えると、屍鬼は王の決意を知ってその勇気に満足し、幻術を撤回しました。すると屍鬼の宿る死骸は一つだけになりました。そこで王はそれを降ろし、肩にかついで再び歩きはじめました。すると屍鬼は歩いている王にまたもや話しかけました。
 「王様、あなたの忍耐は驚くべきものだね。そこで俺の物語を聞きなさい」」



「解説」より:

「本書で「屍鬼」と訳したヴェーターラ(vetāla)は鬼神の一種で、死体に憑(つ)いてこれを活動させることから、漢訳仏典において、起尸鬼(きしき)、起屍鬼、起死尸、起死屍鬼、起屍、屍鬼などと訳されている。そして、毘陀羅(びだら)、毘多荼(びただ)(vetāda)、鞞陀路婆(びだろば)、迷怛羅(めいたら)などと音写されている。死体に憑く鬼神のみならず、死体を起す呪法を「ヴェーターラ」と呼んだ例もあるようである。」
「ヴェーターラ呪法については、ヴァラーハミヒラ(Varāhamihira, 五―六世紀)が、その百科全書的な占星術書『ブリハット・サンヒター』の中で触れている。そこには、「ヴェーターラ」とは、「呪文(mantra)の助けによって死体を再び起き上がらせる」呪法であると説明されている。また、もしヴェーターラ呪法(vetālīya)が誤って行われた場合には、その呪法を行っている行者自身が滅びると信じられていた。」
「ヴェーターラは屍体に憑いてこれを活動させることを得意とするが、時としてその姿を現すことがある。その特徴は、「色は黒く、丈が高く、駱駝のような首、象のような顔、牡牛のような脚、梟のような眼、驢馬のような耳を持つ」と描写されている。」
「ヴェーターラは『カター・サリット・サーガラ』第十二巻で活躍するのだが、その他の巻に出て来ないわけではない。たとえば注目すべき例として、第五巻の一插話であるデーヴァダッタの物語にも登場する。
 デーヴァダッタは、妻ヴィディユットプラバーの腹を引き裂かせ胎児を食べてヴィディヤーダラ(半神族の一種)となった苦行者ジャーラパーダに復讐するために、ヴェーターラ呪法を行う。彼は夜中に墓地へ行き、死体に憑いているヴェーターラを樹の根かたに請じて供養し人肉を供えたが、ヴェーターラが満足しなかったので自分の肉を切ろうとする。ヴェーターラは満足し、ジャーラパーダのいるところに彼をつれて行く。そこでは、ジャーラパーダはヴィディヤーダラの王となっていて、死んでからもとのヴィディヤーダラの姿にもどったヴィディユットプラバーを口説いていた。デーヴァダッタはヴェーターラの助けを得てジャーラパーダに飛びかかるが、ヴェーターラがジャーラパーダを殺そうとすると、デーヴァダッタはそれを引きとめ、彼を地上にもどせと命令する。そこにドゥルガー女神が現れて、デーヴァダッタをヴィディヤーダラの帝王の位につける。かくて彼は妻とともに幸福に暮す。」
「ヴェーターラ信仰はタントリズムと結びつき、人身献供を要求する血なまぐさい秘密の儀式をともなう。ヴェーターラ呪法は黒月の第十四日目の深夜の墓地でおこなわれる。前述したように、人骨の粉で描かれた曼荼羅(マンダラ)の内部の地面には血が撒かれ、その四方には満々と血を湛えた瓶が置かれる。燈明用の油は人間の脂肪である。行者は真言(マントラ)を唱えて本尊とするヴェーターラを死骸の中に請じ入れる。閼伽水(あかすい)としては、頭蓋骨の器に血を盛って供える。人間の眼球を火にくべて焼香する。そして人肉を供物とする。
 ヴェーターラがこのような供養(プージャー)に満足した時には行者の願いをききとどけるが、行者が呪法に失敗した時には彼は死ぬ。」





































































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Author:ひとでなしの猫
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