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『ボルヘス詩集』 鼓直 訳編 (海外詩文庫)

「わたしが見ることができるとすれば、それは悪夢。」
(ボルヘス 「盲人」 より)


『ボルヘス詩集』 
鼓直 訳編
 
海外詩文庫 13 

思潮社 
1998年12月1日 第1刷
2001年12月1日 第2刷
189p 
四六判 並装 ビニールカバー
定価1,165+税



うつし世は夢。というわけで、本書はもっていなかったので、ヨドバシ・ドット・コムで注文しておいたのが届いたのでよんでみました。
二段組。既訳のものに関しては推敲が施されています。


ボルヘス詩集


カバー裏より:

「ボルヘス J.L. Borges 
第一次世界大戦前後のジュネーブやマドリードで前衛主義の洗礼を受けた後、〈宿命〉のブエノスアイレスに帰還したボルヘスは、斬新な〈ウルトライスモ〉の旗幟を掲げて詩壇に打って出た。しかし、それぞれ『審問』と『伝奇集』で代表されるエッセー、短篇のような他ジャンルに関るあいだに、詩風を一変させる。中年に至ってホメーロスやミルトンと同じく失明の悲運に遭遇したこともあって、記憶と推敲に便利なソネットのような定型を用い、月、川、砂、薔薇、虎、鏡といった伝統的な隠喩を借り、古今東西の神話、伝説、文学、思想からの引用を頼りながら、宇宙と存在の永遠の在りようを探る形而上学的な詩人へと変貌したのだ。本書では、『創造者』以降の晩年の詩集からできる限り多くの作品を採ることによって、反時代的であるが故にかえって時代に新鮮な衝撃を与えた、めくるめく〈時間の迷宮〉の主の姿を鮮明に浮かび上がらせようとした。」



目次:

詩集〈ブエノスアイレスの熱狂〉から
 見知らぬ街
 サン・マルティン広場
 ロサス
 散策
 夜明け
 サン・フアン街の夜

詩集〈正面の月〉から
 バラ色の店のある街
 町外れの地平線を眺めながら
 別れ
 キローガ将軍、馬車で死に向かう
 平安を誇る
 ジョーゼフ・コンラッドの本で見つけた手稿
 船旅

詩集〈サン・マルティン印の雑記帳〉から
 ブエノスアイレス建設の神話
 扉のエレジー
 イシドロ・アセベド
 ラ・レコレタ

詩集〈創造者〉から
 創造者
 Dreamtigers――夢の虎
 陰謀
 黄色い薔薇
 王宮の寓話
 Everything and Nothing――全と無
 ボルヘスとわたし
 天恵の歌
 砂時計
 象棋
 鏡
 月
 ある老詩人に捧げる
 別の虎
 Blind Pew――盲目のピュー
 詩法
 学問の厳密さについて
 限界
 詩人、その名声を告白する
 アリオストとアラビア人たち
 エピローグ

詩集〈他者は、自己〉から
 詞華集に採られた小詩人に
 羅針
 サロニキの鍵
 十三世紀のある詩人
 バルタザル・グラシアン
 あるサクソン人――(西暦四四九年)
 ゴーレム
 他者
 薔薇とミルトン
 読み手たち
 すでに若くはない人に
 テキサス
 王の墓碑銘
 スノッリ・スツットルソン(一一七九―一二四一
 エマーヌエル・スウェーデンボルィ
 瞬間
 わたしの読者に
 錬金術師
 推論の詩

詩集〈幽冥礼讃〉から
 一九二八年五月二十日
 民族学者
 ガウチョたち
 ブエノスアイレス
 祈り
 His End and His Beginning――彼の終わりと彼の始まり

詩集〈群虎黄金〉から
 短歌
 ジョン・キーツ(一七九五―一八二一)に
 失われたもの
 一九七一年
 脅かされる者
 歩哨
 ドイツ語に捧げる
 約束
 四循環
 王宮
 ヘンギストは男たちを求めている(西暦四四九年)
 一匹の猫に
 群虎黄金

詩集〈永遠の薔薇〉から
 宇宙開闢説
 夢
 ブラウニング、詩人になる決意をする
 豹
 自殺者
 シモン・カルバハル
 カエサルに
 プローテウス
 ヤーヌスの胸像は語る
 盲人
 哀歌
 鏡に
 護符
 夢魔
 白鹿
 The Unending Rose――永遠の薔薇

詩集〈鉄貨〉から
 悪しき夢
 前夜
 イースト・ランシングの鍵
 ペルー
 異端審問官
 ハーマン・メルヴィル
 ヨハネス・ブラームスに捧げる
 悔悟
 バルフ・スピノザ
 ヘーラクレイトス

詩集〈夜の歴史〉から
 西暦六四一年、アレクサンドリア
 獅子たち
 わしは塵でさえない
 アイスランド
 一冊の書物
 一八九九年のブエノスアイレス
 版画
 恋する男
 待つ
 鏡
 土曜日
 因縁

詩集〈定数〉から
 デカルト
 百科事典を購入して
 あの男
 讃歌
 幸福
 創造者
 第三の男
 眠り
 共犯者

詩集〈共謀者たち〉から
 名残り
 それらは河である
 若やいだ夜
 哀悼歌
 累計
 シャーロック・ホームズ
 寓話の糸
 別の偽りの断章
 ゴンゴラ
 共謀者たち

詩人論・作品論
 表現から引用へ (アルトゥロ・エチャバリア=フェラーリ/井尻直志 訳)
 ボルヘス、エクスタシーの詩人 (ウィリス・バーンストーン/井尻直志 訳)
 シンボルの体系 (エミル・ロドリゲス=モネガル/井尻直志 訳)

解説・年譜
 解説 (鼓直)
 年譜 (鼓直 編)




◆本書より◆


「夜明け」より:

「事物が実質を欠いているのならば、
この稠密なブエノスアイレスが
住民たちの分ちもつ魔力の生み落とした
夢でしかないのならば、
その存在が途方もない危険に晒される
瞬間があるにちがいない。
それは夜明けのおののく一瞬であるが、
この世界を夢みている者はまだわずかだ。
徹夜をした少数の者だけが、
やがて他の連中とともに明確なものにする
街路のイメージを、
灰色の漠然としたものとして持っている。
生の執拗な夢が
破綻の危機に瀕する時刻よ、
神にとって、その被造物に
止めを刺すことの容易な時刻よ。

しかし世界はまたもや救われた。
光線が薄汚い色を生み出しながら駆け、
ぼくは朝の蘇生に力を貸したことに
微かな悔いを覚えながら、
白っぽい光線の中に立ちつくす、冷えた
わが家へと急ぐ。
一羽の小鳥が静寂を破り、
疲れ切った闇は、すでに
盲人らの眼に引き込もってしまった。」



「薔薇とミルトン」:

「多くの世代の薔薇が
時の流れの底に消えていった。
せめて一輪でも忘却を免れてほしい。
かつて在った他のものと変わらない
一輪でも。運命がわたしに授けたのは
その沈黙の花。ミルトンが
見えぬながらも顔を寄せた
最後の薔薇を、最初に
名指すという恩恵。おお、今は失われた
楽園の赤と、黄と、白の薔薇よ。その魔力で、
薔薇よ、遠い過去を残していくのだ。
この詩の中で、かつて彼の手にあったときのように、
黄金の色に、血の色に、象牙の色に、闇の色に
輝くのだ、人の眼には見えない薔薇よ。」



「一匹の猫に」より:

「お前は別の時間の中にいる。夢のように
閉じた場の、お前は主人なのだ。」



「ブラウニング、詩人になる決意をする」より:

「わたしは忘却を糧として生きるだろう。
ちらと見て忘れてしまう顔になるだろう。
裏切り者であるという聖なる使命を
甘受したユダになるだろう。
沼地のキャリバンになるだろう。」



「デカルト」より:

「わたしは昨日という日を夢みた。
おそらく、わたしに昨日はなく、おそらく、わたしはまだ生まれていない。
おそらく、わたしは夢みたと夢みている。」



「讃歌」より:

「今朝は、
楽園の薔薇の
信じがたい芳香が漂っている。
ユーフラテスの岸辺で
アダムは水の冷たさを知る。
黄金の雨が空から落ちてくる。
これはゼウスの悪だ。
一匹の魚が海で跳ねる。
アグリゲェントゥムの男(※2)は思い出すだろう。
かつての自分がその魚であったことを。」



訳注より:

「※2 現在はアグリジェントと呼ばれるシチリアの都市出身のギリシアの哲学者、エンペドクレース(前五世紀中葉)のこと。」


「若やいだ夜」:

「夜の浄めの水は、すでに多くの色と
多くの形をわたしから祓ってくれた。
すでに庭園では、鳥や星たちが眠りと影という
昔ながらの決まりの待ち焦れていた
復活をことほいでいる。すでに影は
物の見せかけの姿を映す鏡に封印をした。
ゲーテのあの名言。近いものが遠のく(引用者注: 「近いものが遠のく」に傍点)。
この短い言葉に薄暮の一切が込められている。
庭園では、薔薇たちが薔薇であることをやめ、
〈薔薇〉となることを望んでいる。」



「ゴンゴラ」より:

「わたしは有りふれた物の世界に戻るつもりだ。
水、パン、壺、薔薇……。」





こちらもご参照ください:

Jorge Luis Borges 『Selected Poems』 Edited by Alexander Coleman
ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『創造者』 鼓直 訳 (世界幻想文学大系)
ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『永遠の薔薇・鉄の貨幣』 鼓直・他 訳
ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『エル・オトロ、エル・ミスモ』 斎藤幸男 訳
西脇順三郎 『近代の寓話』 (復刻版)
































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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