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上田秋成 『胆大小心録』 重友毅 校訂 (岩波文庫)

「翁五歳の時、痘瘡の毒つよくして、右の中指短かき事第五指の如し。又左の第二指も短折にて用に足はざれば、筆とりては右の中指なきに同じく、筆力なき事患ふべし。」
(上田秋成 『胆大小心録』 より)


上田秋成  
『胆大小心録』 
重友毅 校訂
 
岩波文庫 黄/30-220-2 


岩波書店 
1938年10月15日 第1刷発行
1989年3月17日 第3刷発行
122p 
文庫判 並装 
定価250円



本書「はしがき」より:

「膽大小心録の傳本は、今日知られてゐる限りに於て、三種を數へることが出來る。そのうち分量の最も多く且最も廣く知られてゐるのは、大阪鹿田松雲堂藏の傳寫本で、上中下三卷から成り、夙く藤岡作太郎氏によつて世に紹介せられた。(中略)本書の校訂用底本として選んだのは右の傳寫本であるが、これは羽倉信光の淸書を、茸窓・松園と寫し傳へたものの某家に藏せられてゐたのを、更に松雲堂主人が書寫せしめたもので、原本そのものが既に奔放な筆致で、かなり讀み難いものであつたらしいのに、更に烏焉馬の誤を重ねたであらうことが想像されるのであるが、しかし今日これ以上原本に近いものが見出されないとすれば、その本文は出來得る限り尊重せられなければならない。しかも明治以後これの印刷に附せられたものは、いづれもその上に多少の誤を重ねてゐる。本書は努めてその誤なきを期し、俗字・略字はこれを正しきに改めたと、一部内容の穩當を缺くと認めた部分に、その字數を記して省略を施した外は、一切本文のまゝとし、能ふ限りこれが忠實なる移植を念とした。
 たゞ本文庫の性質上、一般讀者の便宜を慮つて、各段に假に番號を附し、本文には新に句讀點・濁點・分畫點・返點を施し、誤字はその左傍に註記し、また脱字と思はれるものは假に括弧〔 〕を施してこれを補つて置いた。」



旧字・旧かな。


上田秋成 胆大小心録


帯文:

「近世文学の鬼才 上田秋成の晩年の随筆。不遇孤独の境涯にあってなおその信条を曲げることのなかった秋成の真情が端的に顕れている。」


内容:

はしがき (校訂者)

上卷
中卷
下卷




◆本書より◆


上巻より:

「儒者と云人も、又一僻(癖ヵ)になりて、妖怪はなき事なりとて、翁が幽靈物語したを、終りて後に恥かしめられし也。狐つきも、癇症のさまざまに問答して、おれはどこの狐じやといふのじや。人につくことがあらふ物かといはれたり。是は道になづみて、心得たがひなり。狐も狸も人に附事、見る見る多し。又きつねでも何でも、人にまさるは汝(彼ヵ)等が天稟也。扨善惡邪正なきが性也。我によきは守り、我にあしきは崇(祟ヵ)る也。根(狼ヵ)さえよく報ぜし事、日本紀に、欽明の卷の始にしるされたり。神といふも、同じやうに思はるゝ也。よく信ずる者には幸をあたへ、怠ればたゝる所を思へ。佛と聖人は同じからず。人體なれば、人情あつて、あしき者も罪は問ざる也。此事神代語りにいひたれば、又いはず。」

「翁の京にすみつく時、軒向ひの村瀨嘉右衞門と云儒者の、京は不義國じやぞ。かくごしてといはれた。十六年すんで、又一語をくわへて、不義國の貧(ヒン)國じやと思ふ。二百年の治世の始に、富豪の家がたんとあつたれど、皆大坂江戸へ金をすいとられたが、それでも家格を云てしやちこばる事よ。貧と薄情の外にはなるべきやうなし。山河花卉鳥蟲の外は、あきやじやと思ふてすんで居。」

「河内の國の山中に一村あり。樵者あり。母一人、男子二人、女子一人、共に親につかへて孝養たる。一日村中の古き林の木をきり來たる。翌日兄狂を發して、母を斧にて打殺す。弟是を快しとして、段〃刄す。女子も又俎板をさゝげ、庖刄をもて細に割む。血一雫も見ず。大坂の牢獄につながれて、一二年をへて死す。公朝其罪なきをあわれんで刑名なし。」



中巻より:

「翁五歳の時、痘瘡の毒つよくして、右の中指短かき事第五指の如し。又左の第二指も短折にて用に足はざれば、筆とりては右の中指なきに同じく、筆力なき事患ふべし。書かく人の云、そなたは必書を習ふべからず。かたちよく似たりとも、骨法は得べからずと。此言につきて、廿三四より姓名を記すに足ねども、商戸なれば、たゞ帳面にむかひて日記の用だにつとむればとて書に心なし。故に惡書なる事は、人の見る所なり。ちか頃目くらく、老にいたりて、たゞ字とも何とも思はずして、心にまかせて筆を奔らすを、ある人見て、よめがたしと傍より云。なんぞ問事の遲きと古人も云しとわらへば、又ある時、善書の人が、翁の書はちか頃妙なる所をかゝれたるぞ。佛祖たちなどの豪放にまかせられしに似たりといふ。こたふ、佛祖は必書に豪放なるやしらず。我たゞ鳥の跡にならふと云し。大にわらひて去ぬ。」

「翁が惡筆をさへ譌(僞ヵ)して商ふと聞。是老が名利はあらねど、面目の事也。其人にあひて一禮云たし。」

「六月の大祓に、しら人・こくみとは、今も邊土の氏子が、たんと生れてはとて、うみの子の面に紙布をはりてしろくするを、しろくしてしまやつたかととむらふ也とぞ。こくみは子をくびりころす也。かゝる治世にも、まだいきとゞかぬ事があるは。」



下巻より:

「放下の語るをきけば、そちの母はいくつじや。八十三とか。大事にしや。萬人一とりないものじや。金銀では得られぬぞ。其かわりに、賣と云ても、三文にも買てはないといふた。是は奇語也。」




こちらもご参照ください:

石川淳 訳 『癇癖談』 (ちくま文庫)
川村湊 『言霊と他界』
宮負定雄 『奇談雑史』 (ちくま学芸文庫)
平田篤胤 『仙境異聞・勝五郎再生記聞』 子安宣邦 校注 (岩波文庫)
































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