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レーモン・ルーセル 『アフリカの印象』 岡谷公二 訳 (平凡社ライブラリー)

「雪に似たある種の甲羅におおわれているこの異様な生物は、ゆっくりと這いながら、決まった間を置いて、乾いた、うめくようなしゃっくりの声をあげるのだった。」
(レーモン・ルーセル 『アフリカの印象』 より)


レーモン・ルーセル 
『アフリカの印象』 
岡谷公二 訳
 
平凡社ライブラリー 613/る-3-2


平凡社 
2007年6月8日 初版第1刷
410p 
B6変型判(16.0cm) 並装 カバー
定価1,500円(税別)
装幀: 中垣信夫
カバー・マーブル制作: 製本工房リーブル
カバー図版: 『アフリカの印象』初演時(パリ、アントワーヌ座、1912年)のポスターを井川祥子が加工彩色


「本書は一九八〇年八月、
白水社から刊行された。」


「平凡社ライブラリー版 あとがき」より:

「この際、訳文に全面にわたって手を入れた。」



『アフリカの印象』(「小説のシュルレアリスム」版)は子どものころからの愛読書ですが、平凡社ライブラリー版の存在が気になっていたので、遅ればせながらそっちもよんでみました。


ルーセル アフリカの印象 平凡社ライブラリー


カバー裏文:

「ブルトンが熱讃し、レリスが愛し、
フーコーがその謎に魅せられた、
言葉の錬金術師レーモン・ルーセル。
言語遊戯に基づく独自の創作方法(プロセデ)が生み出す
驚異のイメージ群は、ひとの想像力を超える。
――仔牛の肺臓レールを辷る奴隷の彫像、
大みみずがチターで奏でるハンガリー舞曲、
一つの口で同時に四つの歌をうたう歌手、
人取り遊びをする猫等々、熱帯アフリカを舞台に
繰りひろげられる奇想の一大スペクタクル――。」



目次:

アフリカの印象
 1~26

訳者解説 (1980年7月)

平凡社ライブラリー版 あとがき (岡谷公二)
ずうっと読めなかった『アフリカの印象』 (保坂和志)




◆本書より◆


「3」より:

「みみずは、鉛の塊ほども重いように見えた。
 スカリオフスツキーは、相変わらず彼の腕にくっついているみみずを引き離し、それを雲母でできた飼槽のへりに置いた。
 みみずは、容器の内側に入りこんだ。その体の残りの部分も、ハンガリー人の腕のまわりをゆっくりとすべるように動いて、そのあとに従った。
 やがてみみずは、水平にのび、二枚の長方形の板の内側の細いへりで体を支えて、底の溝を完全にふさいだ。」
「ひとりにされたみみずは、体のほんの一部を突然持ち上げると、すぐまた下ろした。
 水滴が、そのあいだに隙間からすべり出て、震える絃の上に重く落ち、絃は、その衝撃で、低い、澄んだ、よくひびくドの音を発した。
 しばらくしてから、みみずは、隙間をふさいでいる体を再び躍らせて、二番目の水滴を滴らせた。それは、今度ははっきりとミの音を立てた。
 同じ方法によって弾かれたソ、次いで鋭いドによって、和音が完全に揃ったところで、みみずは、その和音を一つのオクターヴ全体にわたって、もう一度たてつづけに鳴らしてみせた。
 三度めの最後のドのあと、同時に強く弾かれた七つの協和音が、この試みの序奏のしめ括りとなった。
 こうして一通り調子を試したあと、みみずは、甘美で、物憂げなハンガリーのゆるやかなメロディーを奏ではじめた。」



「9」より:

「ノルベールは、ルイズが一晩中仕事をしていた小屋の方へ私たちを呼び寄せた。彼は明け方の最初の光とともに起き、姉のところへ指図を受けにやって来たのだが、姉のほうは、姿は見せず、声だけあげて、私たちをすぐおこすようにと厳命したとのことだった。
 突然、ものを切り裂くような乾いた音がきこえ、なにかきらめく刃物のようなもの――その一部は私たちの目にも入った――が、ひとりでに動いて、小屋の一方の黒い壁面を切りとりにかかったように見えた。
 刃は、分厚い布地を力強く引き切り、しまいには大きな長方形の穴をあけた。これは、ルイズ自身がナイフを手にして、内側から切っていたのだった。やがて彼女は、切った布切れをもぎとると、ものの一杯詰まった旅行鞄を手にして外に飛び出してきた。
 ――実験の準備は万事完了よ、と彼女は誇らしげな微笑を浮かべて叫んだ。
 彼女は背が高く、乗馬ズボンに、細身の乗馬用長靴といういでたちのために一層女の兵士のように見え、魅力的だった。
 今作られたばかりの、大きな口から、テーブルの上にあらゆる種類のガラス壜、レトルト、平たい現像皿が乱雑にのっているのが見え、小屋は奇妙な実験室という感じだった。
 かささぎが中から飛び出すと、自由と澄んだ大気に酔いながら、大楓から大楓へとほしいままに飛びまわった。
 ノルベールは、姉の手から鞄をとり、並んでエジュルの南の方へ歩き出した。」



「16」より:

「やがて楽器の前に坐ると、名人は甘美と憂愁にみちたあるハンガリーの旋律をゆっくりと奏しはじめた。
 数小節を終えた時、彼は、小さい棒の往復運動に注意をうばわれていたけれども、川の方でなにかかすかな動きが生じたのを視野の中で感じとった。
 一瞥で、彼は、一匹の巨大なみみずが水から出て、土手をよじのぼりはじめたのを認めることができた。
 彼は手を休めることなく、この入来者がチターの方へそっと近づいてくるのを、ちらちらと見た。
 台の下でとまると、みみずは怖れることなく、ハンガリー人の足のあいだにとぐろを巻いた。彼は眼を下に向けて、地面にじっと動かぬみみずの姿を見た。
 スカリオフスツキーは、この出来事はすぐに忘れて練習を続けた。三時間たっぷりのあいだ、ハーモニーの波が、彼の詩情豊かな楽器から流れ出た。
 夕方がきて、彼は演奏をやめて、やっと立ち上がった。そして空を見上げて雨の怖れのまったくないのを知るや、次の練習の時まで楽器をこのままにしておこうと決めた。
 隠れ場所を去る瞬間になって、彼はみみずに気づいた。みみずは道を引き返して土手の方へ向かい、やがて川の底に姿を消した。
 翌日、スカリオフスツキーはまた奇妙な泉のそばに腰を据え、仕事の皮切りにゆるやかで気まぐれなワルツを弾いた。
 最初の反復のあいだ、名人は巨大なみみずにいくらか気をとられた。みみずは、流れから出ると、前日の場所にまっすぐやって来て、音楽演奏の終わるまで、そこに愛らしくとぐろを巻いたままでいた。
 今度もまた、スカリオフスツキーは、立ち去る前に、この無害な爬虫類が、メロディーに堪能して音もなく静かな流れに沈むのを見ることができた。
 同じことが数日のあいだ繰り返された。彼の才能は、蛇使いが蛇をひきつけるように、音楽好きのみみずをひきつけていたのだった。みみずは一度とりこになると、もはや陶酔の味を忘れることができなかったのである。
 彼は、この心服振りに驚いて、みみずに強い関心を持った。夕方、練習が終わると、馴らしてみようと手で行手をふさいだ。
 みみずは、怖れる様子もなく、彼が差し出した指に這いのぼり、手首の上に何重もとぐろを巻いてうずくまった。彼は袖を少しずつまくり上げた。
 スカリオフスツキーは、腕で支えなければならないみみずのあまりの重さに驚いた。川水のあのように密度の濃い環境に適応しているので、みみずはその体の柔軟さにもかかわらず、大変な体重の持主だったのである。
 この最初の実験に続いて、他の多くの実験が行なわれた。みみずはやがて主人を見分け、ちょっとでも呼べばすぐ従うようになった。
 このような従順さは、スカリオフスツキーに、貴重な成果を生むかもしれない訓練の計画を思いつかせた。
 彼は、大気中に鳴りひびく音に対するこの不思議な嗜好を我慢強く育ててゆけば、みみずひとりの力で、チターを弾くように仕向けることができるかもしれないと考えたのだった。」





こちらもご参照ください:

レーモン・ルーセル 『アフリカの印象』 岡谷公二 訳 (小説のシュルレアリスム)
エドワード・ゴーリー 『まったき動物園』 柴田元幸 訳
























































































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難破した人々の為に。

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