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ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『闇を讃えて』 斎藤幸男 訳

「まず何かを願うことなぞわたしには赦されていないのは明らかだ。両眼がまったく光を失わぬようになどと願うのは馬鹿げたことだ。目の見える多くの人々が特に幸せとも正しいとも賢いとも思われないのだから。」
(ホルヘ・ルイス・ボルヘス 「祈り」 より)


ホルヘ・ルイス・ボルヘス 
『闇を讃えて』 
斎藤幸男 訳



水声社 
2006年7月30日 第1版第1刷印刷
2006年8月10日 第1版第1刷発行
177p+2p
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,000円+税
装幀: 伊勢功治
カバー作品: 星野美智子「バベルの図書館――ボルヘス頌 一九八五」



本書「訳者あとがき」より:

「本書は Jorge Luis Borges, *Elogio de la sombra*, Emecé Editores, S. A., 1969 の翻訳である。解説がわりに巻末に掲載した論文は、GUillermo Sucre, Borges: el elogio de la sombra in *Revista Iberoamericana*, vol. XXXVI, núm. 72, julio-septiembre de 1970 の翻訳である。」


本書はまだよんでいなかったのでヨドバシドットコムで注文しておいたのが届いたのでよんでみました。



ボルヘス 闇を讃えて



目次:



ヨハネによる福音書 一章十四節
ヘラクレイトス
ケンブリッジ
エルサ
ニューイングランド 一九六七年
ジェームズ・ジョイス
不滅の贈り物(ジ・アンエンディング・ギフト)
迷宮(エル・ラベリント)
迷宮(ラベリント)
一九二八年五月二十日
リカルド・グイラルデス
民族誌学者
ある幻影に 一九四〇年
身の回りの品品
ルバイヤート
ペドロ・サルバドレス
イスラエルに
イスラエル
一九六八年六月
書物の番人
ガウチョ
アセベド
マヌエル・フロレスのミロンガ
カランドリアのミロンガ
ジョイスの霊に
イスラエル 一九六九年
「騎士と死と悪魔(リッター・トート・ウント・トイフェル)」の二解釈
ブエノスアイレス
福音書外典断簡
伝説
祈り
彼の終りと彼の始まり(ヒズ・エンド・アンド・ヒズ・ビギニング)
ある読者
闇を讃えて

闇を讃えるボルヘス (ギジェルモ・スクレ)
訳者あとがき (斎藤幸男)




◆本書より◆


「迷宮(ラベリント)」より:

「出入りする戸口なぞありはしない。
おまえは中にいて、牢獄そのものが世界だ。」



「民族誌学者」より:

「確かフレッド・マードックという名だったと思う。(中略)大学では先住民の言語の研究を勧められた。西部のある部族には秘密の儀式が今なお伝えられていたので、教授は(中略)彼に居留地に住み着き、儀式を観察して、呪術師が入門者に明かす秘密を探り出すようにと提案した。(中略)マードックは即座に承知した。(中略)二年以上というもの草原のただ中で、日干しレンガの小屋や野ざらし状態での生活を過した。暁の前に起き、日没とともに寝た。そのうちに父祖の言葉とは異なった言葉で夢見るまでになった。(中略)もう友人や町のことは忘れてしまい、論理の受けつけない仕方で考えるようになった。(中略)精神的肉体的な試練の一定期間を過した後、呪術師は夜毎の夢を記憶し、朝方それを報告するようにと彼に命じた。満月の夜が来る度にバイソンの夢を見たように思った。繰り返されるこの夢を師に告げると、師はやがて秘法を伝授してくれた。ある朝誰にも別れを告げることなくマードックはその場を立ち去った。
 町に戻ると彼は草原で暮し始めた頃の夕暮を懐しく思い出した。(中略)教授室を訪ねた彼は、秘法を会得したけれども、明かすつもりはないと教授に伝えた。
 「誓いがそうさせるのかね」と相手は問い質した。
 「いえ、これはわたしの判断なのです」とマードックは言った。
 「あの遠隔の地でわたしは言葉では表しえない何かを学んだのです」
 (中略)
 教授はそっけなく言った。
 「評議会に君の結論を伝えよう。インディアン達と君は一緒に暮すつもりかね」マードックは応えた。
 「いいえ、草原に戻ることは多分ないでしょう。彼らが教えてくれたことは、人がそれぞれの場所、それぞれの状況で生きてゆくのに役立つのです」
 大筋このように話は進んだのだ。」



「ペドロ・サルバドレス」より:

「一八四二年頃のある夜のこと、土埃を上げて疾走する蹄の鈍い音が、雄叫びと怒号を乗せて近づいて来た。(中略)怒号の後に戸を叩く音が続いた。男たちが扉を打ち破ろうとしている間に、サルバドレスは食堂のテーブルを移動させ、絨毯を取り除けて、地下室に潜ることができた。」
「ペドロ・サルバドレスの真の物語が始まるのはここからだ。九年もの間彼は地下室で生きのびた。(中略)想像するに、彼の目がやっと慣れかけた暗闇のなかで、彼は何も、憎しみさえも、危険さえも感じなかったのではないか。そこに、地下室のなかに彼はいたのだ。」
「わたしは灯りも本もない地下室にいる彼を想像する。暗闇が彼を眠りへと誘い込んだことだろう。初めのうちは、刃が喉元をかすめようとしたあの夜の恐怖、慣れ親しんだ街路、そして広がる草原を夢見たことでもあろう。数年の後には退路を絶たれた彼には、地下室の夢しか見ることはなかったのだろう。逃亡者、脅迫される者だった彼は、後には――われわれには真相の知りようもないが――安堵してねぐらに憩う動物か、得体の知れぬ神のような存在だったのかもしれない。」



「一九六八年六月」より:

「(蔵書を配置する行為は
無言で慎ましやかな
批評の技を行使することだ)」



「書物の番人」より:

「ここ高き書棚に数夥しき書物が並んでいる。
近くそして遠くある存在として、
密やかで明らかな星たちのように。
ここにあるのだ――数多の園が、寺院が。」



「福音書外典断簡」より:

「八、他人を許す者、自らを許す者、ともに幸いなり。」
「四十八、敗北も栄誉も変わらぬ態度にて受け入れる勇者は幸せなり。」
「五十、愛される者も、愛する者も、愛なしで生きうる者も皆幸せなり。
五十一、幸せなる者は幸せなり。」



「ある読者」より:

「認(したた)めたページの自慢は余人に任せよう。
読んできた書物こそわたしは誇りたい。」



「闇を讃えて」より:

「南から東から西から北から
数多の道が集い合い
わたしの秘められた中心へとわたしを導いた。」

「わたしは今すべてを忘れようとする。」






こちらもご参照ください:

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『エル・オトロ、エル・ミスモ』 斎藤幸男 訳
谷崎潤一郎 『陰翳礼讃』 (中公文庫)
鳥居みゆき 『夜にはずっと深い夜を』













































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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