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『宮本隆司 写真展 ― 壊れゆくもの・生まれいずるもの』 (2004年)

「わたしにとって、その長い迷路を歩き回ることは、人間をめぐる謎の中を歩くことであった」
「見せることが前提となっている場所には、まったく興味がない。未完成の変化しつつある場所がもっとも面白い」

(宮本隆司)


『宮本隆司
写真展
― 壊れゆくもの・
生まれいずるもの』

Ryuji Miyamoto Retrospective


発行: 世田谷美術館 2004年
208p
25.6×19.4cm
角背紙装上製本


2004年5月22日―7月4日
世田谷美術館


「本図録は、(A)(B)2種類の表紙デザインを施し発行した。」



本書の表紙デザインは「(A)」であります。
巻頭にモノクロ図版9点。作品図版はモノクロ97点、カラー61点。本文中参考図版(モノクロ)33点、宮本隆司肖像写真(モノクロ)2点。



宮本隆司展 01



本書「ごあいさつ」より:

「宮本は、建築の解体現場に、現代の「廃墟」を見た作家として知られています。(中略)1986年、宮本は、2度目の個展において、建築たちの「死」の瞬間を集め、〈建築の黙示録〉と名づけます。ひっそりと静まり返ったモノクロームの画面の中で、陽の光に最後の姿をさらしながら、壊れゆく建築たちの姿は、傷つきながらも――あるいは、傷ついているが故になお、圧倒的な強さをもち、私たちの視線を捉えて離しません。」
「以降、宮本は、香港の巨大スラム建築の存亡を追った〈九龍城砦〉、アジア最大の廃墟、アンコールの遺跡群とそこに息づく自然を扱った〈アンコール〉、大震災の前に崩れ去る現代都市を見据えた〈神戸 1995〉、バブル崩壊後に急増し、社会問題ともなったホームレスの〈ダンボールの家〉など、都市と建築が内包する様々な問題を、独特の視線で捉えてきました。」
「本展は、初期の代表作〈建築の黙示録〉をはじめ、本展のために撮影された最新作を含む〈ピンホールの家〉および映像作品〈さかさま・うらがえし〉まで、8つのシリーズを集めてご紹介するものです。」




内容:

ごあいさつ (世田谷美術館)
謝辞

宮本隆司写真展によせて (酒井忠康)
光跡に目を澄まして――宮本隆司論 (林道郎)

図版 Plates
01 建築の黙示録 Architectural Apocalypse
02 九龍城砦 Kowloon Walled City
03 ダンボールの家 Cardboard Houses
04 神戸 1995 KOBE 1995 After the Earthquake
05 アンコール Angkor
06 美術館島 Museum Island
07 ピンホールの家 Pinhole Houses
08 さかさま・うらがえし Upside-down Inside-out

宮本隆司の仕事 1973‐2004 (遠藤望)

作家略歴 Biography
展覧会歴 List of Exhibitions
文献目録 Bibliography

出品作品リスト Works in the Exhibition

On Ryuji Miyamoto Retrospective by Tadayasu Sakai (Translated by Stanley N. Anderson)
An Eye Open to Traces of Light: Thoughts on Ryuji Miyamoto by Michio Hayashi (Translated by Stanley N. Anderson)




◆本書より◆


「光跡に目を澄まして――宮本隆司論」(林道郎)より:

「不法ではあるが、都市の日常の人や物の交通の障害物とはならないような控え目な占拠。しかし、その周辺空間との関係は、サイト・スペシフィックな創意工夫に溢れている。そしてそのどれもが、(中略)すでに存在している巨大構造物の縁(へり)にへばりつくようにして建てられている。そしてそれらはすべて、個室のスケール、つまり、一人の人間の身体的スケールを体現している。この、縁に存在する人間のスケールを中心にすえて都市を見るとどうなるか。たとえば、高速道路の高架下に小さく並ぶハウスを見れば、あらためて都市空間の巨大さ、その圧倒的なスケールを感じ、それが象徴する絶えざる交通の量と速度と、矮小化され停滞した死角空間のコントラストに気づかされる。しかしながら、と同時に、そこには、非人間的ともいえる巨大構造物を保護屋根として利用する発想の転換もある。同じようなことは、他の例についても言える。たとえば、何もない地下道という空間は、その昼間の姿を見れば、淀みない人の流れ、速度、効率などを体現しているのに対し、人の流れが途切れる夜は、静寂を保証するかりそめのシェルターとして転用されうる。このように、都市空間は、その縁に寄生する一個人の側から見ると、冷たく抑圧的に作用すると同時に、さまざまな転用可能性をも孕んだ空間なのである。そして、その実現例としてのハウスがつくりだすゲリラ的な異化効果こそ、住人たちと管理された都市空間とのつつましくも工夫に満ちた「渡り合い」の痕跡なのである。宮本の眼差しは、それをあらためて前面化してくれている[16]。」

「16 その意味で、阪神・淡路大震災の折に、多くのホームレスの人たちが、公園などに集まった避難民たちに、仮設住居の作り方などを「指導」し、様々な空間の転用可能性についての「教師」として働く場面があったというエピソードは、大変興味深い。ただ、これは、ふとした瞬間に耳にしたラジオでの話であったのみで、必ずしも正確な情報ではないのかもしれない。そういうこともありえるだろうという感懐をもったエピソードとしてのみ記しておく。」



「宮本隆司の仕事 1973‐2004」(遠藤望)より:

「80年代日本の各地では、毎年のように博覧会やフェアが開催されている。つくば科学万博(正式には「国際科学技術博覧会」)は、その中でも最大規模のイヴェントであり、筑波研究学園都市という人工都市を会場に、総額6500億円を投じて催され、1985年3月から9月の会期中2000万人以上が訪れた。宮本は、博覧会自体には何の興味も持てずに、会期中には一度も訪れず、閉幕後、許可申請して解体工事現場に通った。」

「1987年1月、香港政庁は九龍城砦の取り壊し計画を発表した。」
「このニュースを知り、4月に宮本は九龍城砦を目指して香港入りしている。」
「最初は、この巨大城砦への入口もわからず、ただ建物のまわりをぐるぐる回るだけだったという。何かの隙間としか思われない入口から入り込み、数回訪れるうちに、人がすれ違えるくらいの細い通路を徐々に歩き回れるようになる。近づいてはいけない場所であり、魔窟、犯罪の巣窟ともいわれていた建築の内部は、めくるめくような混沌と無秩序が支配していた。それを宮本は「人類の営みの類まれな超常現象」と呼ぶ。「わたしにとって、その長い迷路を歩き回ることは、人間をめぐる謎の中を歩くことであった」。(中略)宮本は、城砦内に住む中国人宅に泊めてもらったこともある。そして十数階におよぶという高層ビルを上りつめると、意外にも開放感のある屋上階が広がっていた。」

「「見せることが前提となっている場所には、まったく興味がない。未完成の変化しつつある場所がもっとも面白い」と宮本はいう。」

「写真というものは、光と闇そして感光材料の3要素がそろって初めて成立するということを、宮本は様々なところで語っている。」




宮本隆司展 02



宮本隆司展 03



宮本隆司展 04



宮本隆司展 05



宮本隆司展 06



宮本隆司展 07



◆感想◆


『九龍城砦』(ペヨトル工房)は出たときに買おうとおもってうっかりして忘れていたので改めて買おうとおもったのですがちょっと高いので、とりあえずヤフオクで1,060円で出品されていた本図録を購入してみました。
本書には、宮本さんの最初期の写真として、谷中の町並みと墓地が共存する風景がサムネイル図版で掲載されていますが、これは死後の世界と現世の共存であり、同一平面における異なった存在様式の併存であり、後年の『アンコール』の神殿と繁茂する植物の共存につながるものであるし、一方、最初の写真集である『九龍城砦』は現世のただ中の異界であり、後の『ダンボールの家』に通じるもので、九龍城砦のアキュミュレーション(累積)をほどいてモナド化すればダンボール・ハウスになる、そのモナドに映る世界の姿を、本来窓がないはずのモナドに窓(ピンホール)を開けて印画紙に定着したのが『ピンホールの家』であって、さらにそこから自己さえも消してしまったのが固定カメラによるヴィデオ作品『さかさま・うらがえし』で、これはヴェネツィアの広場(カンポ)を撮影したものであり、ヴェネツィアは御存じのようにそのうち水没してなくなってしまうので、先取りされた廃墟であり、そこに映し出された人々(他者として複数化された自己)は未来の廃墟の記憶を生きているといってもよいです。すなわち死後の世界と現世の共存です。
そこへいくと文明が自ら積極的に現出させた廃墟である『建築の黙示録』は、『神戸 1995』の災害による廃墟同様、インスタント廃墟であり、存在すら許されなかった水子のような廃墟であり、否、水子の霊のように祟ることさえなく、ただちに水に流されて、なかったことにされてしまう、しかしその場合、われわれ自身が流されて無かったことにされてしまった水子なのではなかろうかという疑念が残るのでやっかいです。




こちらもご参照ください:

間章 『時代の未明から来たるべきものへ』
谷川渥 編 『廃墟大全』 (中公文庫)
ペーター・ヴァイス 『敗れた者たち』 飯吉光夫訳
中筋純 写真・文 『廃墟チェルノブイリ』






























































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ひとでなしの猫

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分野: パタフィジック。

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尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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