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西條八十 『砂金』 (復刻)

「菌(きのこ)は
石階に古き日の唄(うた)を
うたふ。」
「蒼白(あをざ)めた夜は
無限の石階をさしのぞく、
暗い海(うみ)は
無花果(いちじく)の葉蔭(はかげ)に鳴る。」

(西條八十 「石階」 より)


西條八十 
『砂金』

名著複刻 詩歌文学館〈石楠花セット〉


刊行: 日本近代文学館
発売: ほるぷ
昭和56年11月20日 印刷
昭和56年12月1日 発行(初刷)
192p
19×15cm
角背革装上製本(薄表紙) 天金
保護函
装幀: 野口柾夫



西條八十詩集『砂金』、尚文堂書店版初版本(大正8年6月刊)の復刻です。
日本図書センターの「愛蔵版詩集」シリーズで買おうとおもっていたのですが、復刻版が安かったので(日本の古本屋サイトで800円+送料200円)、そっちを注文しておいたのが届いたのでよんでみました。表紙も柔かく滑らかな手ざわりで、字体も正字(旧字)で印字のかすれなども古雅な味わいがあってよいです。



西條八十 砂金 01



西條八十 砂金 02



目次:

自序

砂金
 梯子
 蠟人形
 鶯
 パステル
 正午
 桐の花
 戀と骨牌
 石階
 鸚鵡
 黑子
 七人
 文殻
 蹠
 誰か
 薔薇
  一 薔薇
  二 砂上の薔薇
 トミノの地獄
 悲しき唄
 朱のあと
 凧
 今日も
 柚の林
 柚の實
 躑躅
 錶
 懈怠
 雞頭
 海にて
 顏
 St. Bernard
 砂山の幻
 芒の唄
  一 芒
  二 芒
  三 芒の中
 何處
 陶器師の唄
 想ひ
 欺罔
 顏の海
 胸の上の孔雀
 冬の朝の鞦韆
 失へる人形
 假面

遠き唄 (童謠九篇)
 鈴の音
 薔薇
 かなりや
 海のかなりや
 手品
 雪の夜
 蝶々
 蹠
 小人の地獄

曠野 (散文詩三篇)
 曠野
 領土
 温室

目次




西條八十 砂金 03



西條八十 砂金 04



◆本書より◆


「自序」より:

「をりをりに書きつけてをいた作が、いつかこれだけ溜つた。明治四十五年頃から今日に至る約八年間の仕事である。なかで「石階」「温室」「悲しき唄」などが最も古く、「顏の海」「冬の朝の鞦韆」等が比較的輓近の所産である。總じて暗欝な夜の唄は往時の作で、明るい、靜かな調べが近頃の私の心境を語るのである。
 詩作の態度としては、私は終始自分の心象の完全な複本(カウンタアパート)を獲たいとのみ望んでゐた。故國木田獨歩氏が少年時の私に聽かされた言葉の中に、『昔から人の死を描かうと企てた作家は多い、が孰れも其人物の死の前後の状態、若くは其臨終の姿容を叙述するに止り、當の「死」其物を描き得た者は絶えて無い』と云ふのがあつた。この言葉は今でも私の耳に強い響として殘つてゐるが、私が今日像現しようと努めてゐるのも、獨歩氏のこの所謂「死」其物の姿に他ならぬ、即ち閃々として去來し、過ぎては遂に捉ふる事なき梢頭の風の如き心象、迂遠な環境描寫や、粗硬な説明辭を以てしてはその横顏(プロファイル)をすら示し得ない吾人が日夜の心象の記録を、出來得るかぎり完全に作り置かうとするのが私の願ひである。たとへば「朱のあと」に於て、私は靜かな眞晝にそことなく皷動してくる幽かな性慾を描かうと試み、「胸の上の孔雀」に於ては、肉體の疲勞に伴ふ靈性の搖曳を記して置かうと企てた。」



「梯子」:

「下(お)りて來(こ)い、下(お)りて來(こ)い、
昨日(きのふ)も今日(けふ)も
木犀(もくせい)の林の中(なか)に
吊(つるさが)つてゐる
黄金(きん)の梯子(はしご)
瑪瑙(めなう)の梯子。

下(お)りて來(こ)い、待つてゐるのに――
嘴(くちばし)の紅く爛(ただ)れた小鳥(ことり)よ
疫病(えや)んだ鸚哥(いんこ)よ
老(お)いた眼(まみ)の白孔雀(しろくじやく)よ。

月は埋(うづ)み
靑空(あをぞら)は凍(いて)ついてゐる、
木犀(もくせい)の黄ろい花が朽(く)ちて
瑪瑙(めなう)の段に縋るときも。

下(お)りて來(こ)い、倚(よ)つてゐるのに――


遠い響(ひびき)を殘して
幻(まぼろし)の獸(けだもの)どもは、何處(どこ)へ行(ゆ)くぞ。

待たるゝは
月(つき)にそむきて
木犀の花片(はなびら)幽(かす)か
埋(うづも)れし女(ひと)の跫音(あしおと)。

午(ひる)は寂(さび)し
昨日(きのふ)も今日(けふ)も
幻の獸(けだもの)ども
綺羅(きら)びやかに
黄金(きん)の梯子(はしご)を下(お)りつ上(のぼ)りつ。」



「正午」:

「塗(ぬ)りひろがるラックの白晝(ひる)の
懶(ものう)きに、――

蒼白(あをざ)めた巨大な蝶(てふ)は
野のはてに、たゞ一本(ひともと)の
楡(にれ)の梢(こずえ)によぢのぼる。

大空(おほぞら)は
麗(うる)はしき雲母(きらら)のごとく
双(さう)の翅(はね)にかくれ
星宿は靑(あを)き花(はな)と凋(しぼ)みつゝ。

畝(うね)も、丘(をか)も、牧地も、
綠(みどり)は遠(とほ)く翳(かげ)り、
恍惚のなかに
あひよばふ繊弱(かよわ)い樹立(こだち)。

曇り日(び)の、光澤(つや)なき雲(くも)にいろひて
紅(あか)くゑみ割(わ)るゝ觸角の
そのひまに
鳴(な)る、鳴る、午(ひる)の鐘(かね)鳴る。――」



「薔薇」より:

「かげもなし
しんしんと
曇(くも)り日(び)の舗石(しきいし)に、園(その)に、
落(お)ちちる薔薇(ばら)
明(あか)るき地心(ちしん)にひびく
無數の小(ちひ)さきもののうめき。」



「トミノの地獄」:

「姉は血を吐(は)く、妹(いもと)は火 吐(は)く、可愛(かは)いトミノは寶玉(たま)を吐(は)く。
ひとり地獄(ぢごく)に落ちゆくトミノ、地獄くらやみ花も無き。
鞭(むち)で叩(たた)くはトミノの姉か、鞭の朱總(しゆぶさ)が氣(き)にかかる。
叩(たた)け叩きやれ叩かずとても、無限地獄(むげんぢごく)はひとつみち。

暗(くら)い地獄へ案内(あない)をたのむ、金の羊(ひつじ)に、鶯(うぐひす)に。
革(かは)の囊(ふくろ)にやいくらほど入れよ、無間地獄の旅仕度(たびじたく)。
春が來て候(そろ)林に谿(たに)に、くらい地獄谷七曲(ぢごくだにななまが)り。
籠(かご)にや鶯、車にや羊(ひつじ)、可愛(かは)いトミノの眼にや涙。
啼(な)けよ鶯(うぐひす)、林の雨に妹(いもと)戀(こひ)しと聲かぎり。
啼けば反響(こだま)が地獄にひびき、狐牡丹(きつねぼたん)の花がさく。
地獄七山七谿(ぢごくななやまななたに)めぐる、可愛(かは)いトミノのひとり旅(たび)。
地獄(ぢごく)ござらばもて來(き)てたもれ、針(はり)の御山(おやま)の留針(とめばり)を。
赤(あか)い留針(とめばり)だてにはささぬ、可愛(かは)いトミノのめじるしに。」



「悲しき唄」:

「―姉(あね)よ、日は毛布(けぬの)のごとく黑(くろ)みきたれり、
―弟(おとうと)よ、海もまた毛布(けぬの)のごとく黑(くろ)みきたれり。

  姉(あね)の黑き胸當(こるせつと)は
  寂(さび)しき砂丘の棗林(なつめばやし)に隱れ、
  弟(おとうと)の蒼白(あをざ)めし瞳(ひとみ)は
  十字街(じがい)の白日に震(ふる)えたり。

―海(うみ)の夜(よる)きたれり、眞白(ましろ)なる波、
  眞白なる浮燈臺(うきとうだい)に蜥蝪色(かめれおんいろ)の灯(ともしび)かがやき、
―市(まち)の夜(よる)きたれり、橄欖の樹蔭(こかげ)、
  寶石商の牕(まど)に盗人(ぬすびと)ぞ忍び入る。

  姉(あね)よ、急げ棗林(なつめばやし)に
  誰(たれ)びとか御身(おんみ)を待てり、
  弟(おとうと)よ、急げ、舗道に
  音もなく白薔薇(しろばら)散れり。

―姉(あね)よ、汝(な)が銀(しろがね)の時計はいまだ七時を指(さ)せるや、
―弟(おとうと)よ、汝(な)が冷(ひえ)し髑髏はいまだ口を噤(つぐみ)て語(かた)らざるや。

  姉(あね)は頸(うなじ)に懸けし
  銀(しろがね)の時計を捜(さぐ)り、
  弟(おとうと)は衣匣(かくし)にまろぶ
  冷えはてし髑髏(どくろ)を想ふ。

―死(し)の夜(よる)きたれり、姉(あね)の死骸(むくろ)、
  姉(あね)の死骸(むくろ)に夜光虫の群(むれ)は歌ひ、
―眠(ねむり)の夜(よる)きたれり、弟(おとうと)の死骸(むくろ)、
  弟(おとうと)の死骸(むくろ)に市街(まち)の霧しづかに懸(かか)る。」



「柚の實」:

「逃(のが)れんすべなし、
せめては小刀(メス)をあげて
この靑き柚(ゆず)の實を截(き)れ、
さらばうちに黄金(こがね)の
匂(かぐ)はしき十二の房(へや)ありて
爾(おんみ)とわれとを防(まも)らむ。」



「懈怠」:

「日に幾度(いくたび)
眼(まなこ)をとざす
疲(つか)れて、ものうく。

瞼(まぶた)のうへに
とまれる蛾(が)の
翅(はね)の薄白(うすじろ)さ、また冷たさ。

ほのかに蒼(あを)み
螺(きさご)のごとく翳(かげ)りゆく大地、
さびしげなる
白晝(ひる)の星宿。

をりをり、あたたかく
眉(まゆ)にふる花粉よ、――
忘れて鏽(さ)びし鐵籠(かなかご)に
そを囚(とら)へんとして
現(うつゝ)
眠(ねむ)り入る。」



「雞頭」より:

「雞頭の下(もと)の
小さき地獄。」

「母よ、恐ろし
玻璃戸(がらすど)の外(そと)を眺めよ、
秋の日に、葉蔭(はかげ)に、なほも
暗(くら)く、暗く、凝(こ)りて、動かざる

その地獄。」



「かなりや」:

「――唄(うた)を忘(わす)れた金絲雀(かなりや)は、後(うしろ)の山に棄(す)てましよか。
――いえ、いえ、それはなりませぬ。

――唄(うた)を忘れた金絲雀(かなりや)は、背戸(せど)の小藪(こやぶ)に埋(い)けましよか。
――いえ、いえ、それもなりませぬ。

――唄(うた)を忘れた金絲雀(かなりや)は、柳(やなぎ)の鞭(むち)でぶちましよか。
――いえ、いえ、それはかはいさう。

――唄(うた)を忘れた金絲雀(かなりや)は、
  象牙(ざうげ)の船(ふね)に、銀(ぎん)の櫂(かい)、
  月夜(つきよ)の海(うみ)に浮(うか)べれば、
  忘(わす)れた唄(うた)をおもひだす。」



「海のかなりや」:

「唄(うた)を忘れた
金絲雀(かなりや)は、
赤い緒紐(をひも)で
くるくると
縛(いまし)められて
砂(すな)の上。

かはいさうにと
妹(いもうと)が
涙ぐみつゝ
解(と)いてやる、
夕顏(ゆふがほ)いろの
指さきに
短(みじ)かい海の
日(ひ)がくれる。」



「領土」より:

「――あなた、まあご覽なさい。この珈琲茶碗はほんたうに奇異(ふしぎ)なものを持つてゐますよ。わたしがかう凝乎(じつ)と、この白い滑らかな面(おもて)を瞶(みつ)めてゐますと、わたしにはこの中に綺麗なこじんまり(引用者注:「こじんまり」に傍点)した小さい室(へや)が在つて、その中央(まんなか)にまた小さい黑檀の卓子が据ゑてあるのが見えて來るんですよ、さうして可笑(をか)しいことには白い夜會服を着た貴婦人たちが大勢この周邊(まはり)に腰をかけてゐますの。そして暫く見てゐるうちに何處(どこ)からかもうひとり老(としと)つた貴婦人が出てきて、骨牌(かるた)を出して皆の前で奇術(てづま)を始めるんですの。その奇術(てづま)がまたほんとうに奇體なんですよ。まあかう骨牌(かるた)を聚(あつ)めてさしあげる、いちばん表面(おもて)の札はスペードの六なんですが、それが見る見るうちに六つの小さい髑髏(されかうべ)に變つてしまふんですもの。」



西條八十 砂金 05





こちらもご参照ください:

北原白秋 『桐の花 ― 抒情歌集』 (復刻)
モーパッサン 『水の上』 吉江喬松・桜井成夫 訳 (岩波文庫)
イエーツ 『鷹の井戸』 松村みね子 訳 (角川文庫)
丸尾末広 『トミノの地獄 ①』 (BEAM COMIX)
皆川博子 『ゆめこ縮緬』
多田智満子  『森の世界爺』



















































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うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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