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小林章夫 『チャップ・ブック ― 近代イギリスの大衆文化』

「いずれにしても一八世紀のダイシー一家、一九世紀のキャトナック・プレスなどを中心とした出版業者の活躍により、チャップ・ブックやブロードサイドは、庶民や子供たちの読み物として大いに愛されたのである。たとえその内容がとるに足らないものだとしても、こうした市井の文学を無視しては近代イギリスの姿も偏ったものとならざるを得ないだろう。」
(小林章夫 『チャップ・ブック』 より)


小林章夫 
『チャップ・ブック
― 近代イギリスの
大衆文化』



駸々堂 
1988年4月20日 第1刷発行
389p 
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,300円



本文中図版(モノクロ)93点。
本書は2007年に『チャップ・ブックの世界――近代イギリス庶民と廉価本』と改題の上、講談社学術文庫として再刊されていますが、それは元版(本書)よりページ数が100頁ほど少なくなっています。章立てでいうと「プロローグ」「第九章」「エピローグ」が割愛されています。どのように改訂されているのかも気になるところですが、とりあえず単行本のよさそうなのがアマゾンマケプレで1,000円(送料込)で売られていたので注文しておいたのが届いたのでよんでみました。
イギリス民衆文化はたいへん興味深いですが、人名や書名(日本語に訳されています)の原綴の記載がないのでやや不便です。



小林章夫 チャップ・ブック 01



帯文:

「近代英国庶民がこよなく愛した廉価本の世界――その背景と盛衰を通して18世紀のイギリスにせまる。」


カバーそで文:

「●カバー図版
チャップマン
「チャップマン」というのは元来、商人を表わす言葉だったが、16世紀末から特に「行商人」と限定して使われるようにもなった。(中略)チャップ・ブックというのは、チャップマンが商う本というところから生まれた言葉ではないかという説が出てくる。(本書より)」



目次:

プロローグ チャップ・ブック
 ボズウェルとチャップ・ブック
 チャップ・ブックとは
 チャップ・ブックの値段
第一章 様々のチャップ・ブック――宗教書・実用書・旅行記
 チャップ・ブックとブロードサイド
 チャップ・ブックの分類
 キリスト教道徳の勧め
 富に至る道
 料理書から家計簿診断まで
 旅行ガイド
 マンデヴィルの旅行記
第二章 庶民たちの愛したもの――笑話集・占い・魔女
 笑話集の伝統
 なぞかけの伝統
 人気抜群の占い
 予言者シプトン
 悪魔伝説
第三章 名作ダイジェスト――『ロビンソン・クルーソー』を中心に
 ロビンソン・クルーソー
 ダイジェスト版クルーソー
 チャップ・ブックの『クルーソー』
 その他の名作ダイジェスト
第四章 チャップ・ブックの精神――伝説のヒーローたち
 チャップ・ブックと児童文学
 『巨人殺しのジャック』
 『巨人殺しのジャック』のチャップ・ブック
 民衆の英雄『ウォリックのガイ』
 チャップ・ブックのヒーロー
第五章 歌物語の系譜――バラッドからナースリー・ライムまで
 ロビン・フッド伝説の発生
 ロビン・フッド伝説の変容
 バラッドの華『チェビー・チェイス』
 『チェビー・チェイス』のチャップ・ブック
 ポピュラー・ソング
第六章 犯罪実録の盛衰――ニューゲイト小説への道
 脱獄犯ジャック・シェパード
 人間嗜好から親殺しまで
 ニューゲイト・カレンダー
第七章 無名の作者たち――「グラッブ・ストリート」からハンナ・モアへ
 グラッブ・ストリート
 アレグザンダー・ウィルソンとトーマス・ゲント
 アラン・ラムゼイとスコットランドのチャップ・ブック
 ドゥーガル・グレアム
 グレアムとチャップ・ブック
 青靴下ハンナ・モアの生涯
 廉価版叢書
第八章 チャップ・ブックの出版と流通――ダイシー、キャトナック、そしてチャップマン
 チャップ・ブックの出版者
 ダイシーとキャトナック
 オートリカスの末裔たち
 チャップマンの活躍
 第九章 民衆教育と識字率――ホーン・ブック、バトルドア、チャップ・ブック
 慈善学校の役割
 日曜学校
 私塾の普及
 ホーン・ブックの普及
 教科書としてのチャップ・ブック
エピローグ 消えゆくチャップ・ブック

《参考文献》
あとがき




小林章夫 チャップ・ブック 02



◆本書より◆


「プロローグ チャップ・ブック」より:

「一体チャップ・ブックと呼ばれるものはどのような本をさすのだろうか。まずその外観から見ていこう。第一に大きさだが、(中略)一七世紀から一八世紀にかけては、大体縦が六インチ、横が三インチ半から四インチ、つまり縦一五センチ、横一〇センチ程度のものであった。(中略)これが一八世紀末から一九世紀になると、サイズが小さくなり、縦四インチ、横二インチ半ぐらいが平均となるので、これは今日の文庫本を頭に浮かべればよい。
 次に厚さ、ページ数を見ると、(中略)時代によって変化があるのはサイズの場合と同様だが、一七世紀から一八世紀が大体において二四ページが多く、時として一二ページや八ページなどという極薄のものもまじる。一八世紀末から一九世紀は一六ページというのが一般的だが、もちろん二四ページ、一二ページ、八ページというのもないわけではない。(中略)ともかく五〇ページを超えるようなものはほとんどないことは確かである。」
「こうした安易な体裁の中で、やや目をひくのは、ほとんどのチャップ・ブックに図版が入っていることである。特に一八世紀に入ってから出版されたものには、木版画が多くとり入れられている。」
「ところがこうした絵も、一八世紀末にはいくつかの変遷をきたした。まず、同じ木版画が色々と内容の異なるチャップ・ブックに使われ始める。内容と絵の不一致が生まれてくるわけだ。さらにこの傾向が進むと、本文には何ら関係のない絵が入れられたりすることもでてきた。しかしその一方では、絵の質が向上した。たとえばトマス・ビューイック(一七五三―一八二八)の手がけた木版画である。」
「しかし(中略)、全体としてみれば、やはり稚拙な絵が多かったのである。」



「第二章 庶民たちの愛したもの」より:

「英語で「リドル」と言われる「なぞかけ」。これも笑話同様に、古くから庶民に愛されてきたジャンルである。」
「たとえば例のピープス文庫にもなぞかけのチャップ・ブックがあり、次のようなものが載せられている。

  〈問題〉
  寒くても服を着ず
  霜も雪も恐れない
  靴や靴下もいらず
  それでも遠い所、近い所をうろつき
  肉と飲物はいつでも手に入れ
  サイダー、ビール、ワインは飲まない
  いかなる摂理ゆえか
  物を買わず売らず、それで不足もない。

  〈答〉
  海を泳ぐニシン。

 しかし答は必ずしもニシンである必要はないだろう。(中略)ここはタラであっても、サケであってもよさそうである。

  〈問題〉
  三本足に二本足が乗り、手には一本足を持っている。そこへ四本足が来て、一本足を持ち去ると、二本足が立ち上がり、三本足を四本足へ投げ、一本足を取り戻す。

  〈答〉
  女が三本足の椅子に腰を掛け、手に羊の脚肉を一本持っている。そこへ四本足の犬が来て、羊肉を奪って逃げると、立ち上がった女は三本足の椅子を四本足の犬に投げつけ、羊肉を取り戻した。

 これもはなはだ無茶苦茶ななぞかけで、ナンセンスとしか言いようがない。」



「第四章 チャップ・ブックの精神」より:

「『巨人殺しのジャック』。あのボズウェルがなつかしさのあまり買ったチャップ・ブックの中に含まれていた作品である。ジョージ・オーウェルの言葉を借りれば「西欧世界の基盤をなす神話」と言われるこの物語は、中世以来多くの人間の手で語り継がれてきたものだが、それだけにストーリーは細部で色々と違いがあって、本によって一定しない。一八世紀に出た『巨人殺しのジャックの愉快な物語』と題するチャップ・ブックでは、次のような粗筋になっている。
 アーサー王の時代、裕福な農夫の息子でジャックというのがいた。この頃のイングランドは巨人族が暴れまわって、人々は大いに悩まされていたのだが、その退治に乗り出したジャックは、コーンウォール山に住む巨人コルモロンを落し穴におびき寄せて斧で殺す。このことがウェールズの城に住む巨人ブランダーボアに知れ、その手でジャックは城の一室に捕われてしまう。ジャックをつかまえたブランダーボアは弟の巨人を呼び寄せ、ふたりでジャックを殺すのを楽しもうと考える。ところが、部屋にあった二本の丈夫なひもを見つけたジャックが、扉を開けようとした巨人たちの首にこれをかけ、絞殺して逃げてしまう。
 次に頭が二つあるウェールズの巨人が親しげにジャックに近づいて、家へ招待する。夜になって危険を感じたジャックは、自分の身代わりに棒をベッドへ入れておいた。案の定巨人が忍び込んできて思い切りベッドをたたいたが、もちろんジャックはケガひとつしない。翌朝の食事のとき四ガロンのプディングを出されたジャックは、それをコートの下の皮袋にそっと入れ、巨人に向かって手品を見せてやると言うと、皮袋をあけプディングを流し出す。面白がった巨人は、これに対抗して自分の腹を引き裂いて胃袋を出したため死んでしまった。(中略)」
「粗筋を見てもわかる通り、この物語は血なまぐさい場面をいくつか含んでいる。(中略)元来、民話やお伽話、童謡といったものには、その手の残酷さはつきもので、これを批判し改変しようなどというのは馬鹿げた配慮なのだが、一九世紀以降、『巨人殺しのジャック』が児童文学としての地位を確立していくと、残酷な場面をカットしたり、おとなしいものに改作したりすることが増えてくる。
 しかしこうした残酷場面についての批判が一八世紀に全くないわけではなかった。ジョン・ニューベリー(?―一七六七)という子供向けの作品の出版者として有名だった男が出した本では、ジャックが善と悪について説教をする場面があるほどだ。これはジョン・ロック(一六三二―一七〇四)の教育論の大きな影響であって、子供には徳の重要性や勤勉の意義、健康な精神の大事さを努めて教えることが必要だという考え方の、具体的実践に他ならなかった。
 けれども、教訓主義の波が大きなものではあったにしても、依然として『巨人殺しのジャック』の人気は高く、全体としてはお上品(引用者注:「お上品」に傍点)に書き直すことに抵抗があったのが一八世紀と言えるだろう。ボズウェルがこの作品をこよなく愛したことはすでに本書の冒頭で指摘した通りだが、彼の師匠であるジョンソン博士も、「子供は自分と同じような子供の話など聞きたがらない。……自分の想像力が巨人や妖精、城や魔法によってはばたくことを欲している」と述べて、ニューベリー流の改作には反対していた。」



「第五章 歌物語の系譜」より:

「さてまず詩で書かれた物語として最も有名な「ロビン・フッド伝説」をとりあげることにしよう。
 ヘンリー二世が君臨していた一二世紀中頃、恐らくは一一六〇年前後にロビン・フッドは生まれた。場所はノッティンガム。若い頃から乱暴者で金使いも荒く、そのために財産を食いつぶして金に困り、「アウトロー」となって森に住むようになる。ちなみに「アウトロー」というのは文字通り「法律の外にある者」で、都市の秩序を乱した罪ゆえに法律上の恩典、保護を奪われた人間をいう。
 森に逃れたロビン・フッドは、やがて同じようなアウトローたちと徒党を組んで泥棒の集団をつくり、その首領におさまった。そしてリトル・ジョンやタック坊主といった腕っこきの仲間とともに、旅人たちを襲って金品を奪いとる一方、森の中に新しい自由な世界をつくって、狩猟や遊びに明け暮れる。
 こうしたロビン・フッドが実在したのかどうかはさておき、彼が昔から民衆たちによって語り継がれ歌い継がれることで、伝説上のヒーローとなったことは間違いない。ではなぜ無法者のロビン・フッドが一般民衆のアイドルたりえたのか。それは彼が日本流に言うところの「義賊」であったからにほかならない。(中略)金持ちの商人や裕福な貴族などを襲って金品を強奪はするが、貧しい農民からは決して盗まないばかりか、時には浮浪者や貧民に金銭を恵んだり、食事を与えたりしたのである。また過酷な年貢を要求して村人たちの怨嗟(えんさ)の的になっていた代官をこらしめたりもした。」
「リチャード一世は、アウトローのロビン・フッドとその仲間たちを討伐する身でありながら、赦免にしたいという気持ちを抱いている。一方、ロビン・フッドの側も、たしかに悪代官や悪僧侶を懲(こ)らしめはしたものの、王に反逆する意図は毛頭なく、むしろ「王の真の臣下になる」ことを欲している。リチャード一世とロビン・フッドとの間には、一種の心の通いあいがある。これは「ロビン・フッド・バラッド」を愛好した民衆たちの願望を投影していると言えるだろう。民衆はたしかにアウトロー・ロビンが悪代官を懲らしめる様子に快哉を叫んだけれども、国王という最高権力者に対する憧憬は決して失うことなく持ち続けた。」



「第六章 犯罪実録の盛衰」より:

「ところで、こうした有名な犯罪者たちの他に、歴史上には名を残さない、それでいて当時、世間の耳目を集めた事件もあった。その一つが、『泥棒、殺人犯ソーニー・ビーンとその一家の物語』というチャップ・ブックである。副題には次のような血腥(なまぐさ)い内容が書かれている。

  この一家は海辺の洞穴に二五年暮らし、都会にも町にも村にも一度も出かけなかった。およそ一〇〇〇人から持ち物を奪ってこれを殺害し、その肉を食べたが、ついにめでたく猟犬に発見された。ソーニー・ビーンと妻、八人の息子、六人の娘、八人の孫息子、一四人の孫娘は、すべて捕えられ処刑。以下はその模様である。

 わずか八ページのチャップ・ブックだが、内容はなかなか簡潔にまとめてある。これによると、ソーニー・ビーンはエディンバラの東八、九マイルにあるイースト・ロシアンに生まれた。溝掘りの仕事で生計を立てていたが、悪い女と知り合って駆け落ちし、海辺の岩穴で暮らすようになる。タイトル・ページにもあるように、たくさんの子供、孫に恵まれたが、家族は二五年間、この洞穴に住んで泥棒と殺人で生きた。
 こうした血腥い方法で世を避けて生計を立てていたが、長い間人に気づかれなかった。(中略)この連中は盗みを働くと、死体を隠れ家の洞穴へ運び、骨をバラバラに砕いて、肉を食べる。これが一家の唯一の食べ物であった。」
「血腥いと言えば、次の作品もそうだろう。そのものずばり『血腥い悲劇』と題された一六折判八ページのチャップ・ブックである。

  血腥い悲劇。あるいは不従順なる子供たちへの恐ろしい警告。ベッドフォードシャー、ウォボーンの町にて悪行を重ねたジョン・ギルの恐ろしい物語。家の皿や金を持ち出したのち、両親を殺害、メイドを犯して殺害、家に火をつけ、死体を灰にした顚末。死者の亡霊が獄中のギルの前に現われる。ギルの最後の言葉。」





Fables and Fairy Tales. 0022: Anon., Jack the Giant Killer
http://hockliffe.dmu.ac.uk/items/0022.html

The Complete Newgate Calendar Volume I SAWNEY BEANE
https://web.archive.org/web/20100610003823/http://tarlton.law.utexas.edu/lpop/etext/newgate/beane.htm

The bloody tragedy, or, A dreadful warning to disobedient children: giving a sad and dreadful account of one John Gill, in... (CCD.7.50.8)
https://cudl.lib.cam.ac.uk/view/PR-CCD-00007-00050-00008/1

Chap-books of the eighteenth century
https://archive.org/details/chapbooksofeight00asht



小林章夫 チャップ・ブック 03



小林章夫 チャップ・ブック 04





こちらもご参照ください:

小野二郎 『紅茶を受皿で ― イギリス民衆芸術覚書』
平野敬一 『マザー・グースの唄』 (中公新書)
川崎寿彦 『森のイングランド ― ロビン・フッドからチャタレー夫人まで』
野尻抱影 『ロンドン怪盗伝』 (野尻抱影の本 4)
R・D・オールティック 『ヴィクトリア朝の緋色の研究』 村田靖子 訳 (クラテール叢書)
『コック・ロビンの死と埋葬/トロットおばあさんとこっけい猫君の奇妙な冒険』 (複刻 世界の絵本館)
『1800 Woodcuts by Thomas Bewick and His School』 ed. by Blanche Cirker





























































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うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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