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『完訳 水滸伝 (三)』 吉川幸次郎・清水茂 訳 (岩波文庫)

「張青、武松を料理場まで案内すると、見れば壁には人の皮が何枚かひろげられ、梁からは人の足が五、六本ぶら下がり、あの二人の警吏は、ひっくりかえって、調理台の上で伸びています。」
(『完訳 水滸伝 (三)』 より)


『完訳 
水滸伝 
(三)』 
吉川幸次郎・
清水茂 訳
 
岩波文庫 赤/32-016-3


岩波書店 
1998年12月16日 第1刷発行
377p 
文庫判 並装 カバー
定価660円+税
カバー: 中野達彦



全十冊。
本文中挿絵20点。「注」に図版2点。



水滸伝 三 01



カバーそで文:

「弟の武松は、身の丈八尺の堂々たる偉丈夫。強い酒をたらふく飲んで景陽岡に向い、名うての人食い虎を素手でやっつけて大評判に。兄の武大は背丈は五尺に満たず、気が弱くて真面目一方。ところが兄嫁は海千山千の美女。さてさて、どうなることやら。」


忠義水滸伝 第三冊 目録:

巻の二十三
 横海郡(おうかいぐん)に柴進(さいしん)は賓(まろうど)を留め
 景陽岡(けいようこう)に武松(ぶしょう)は虎を打つ
巻の二十四
 王婆(おうば) 賄(かね)を貪(むさぼ)りて風情(うわき)を説(すす)め
 鄆哥(うんか) 忿(おさま)らずして茶肆(ちゃみせ)を鬧(さわ)がす
巻の二十五
 王婆(おうば) 計(はかりごと)もて西門慶(せいもんけい)を啜(そその)かし
 淫婦 薬もて武大郎(ぶたいろう)を鴆(ころ)す
巻の二十六
 鄆哥(うんか) 大いに授官庁(じゅかんちょう)を鬧(さわ)がし
 武松(ぶしょう) 闘(たたか)いて西門慶(せいもんけい)を殺す
巻の二十七
 母夜叉(ぼやしゃ) 孟州道(もうしゅうどう)にて人肉(じんにく)を売り
 武都頭(ぶととう) 十字坡(じゅうじは)にて張青(ちょうせい)に遇(あ)う
巻の二十八
 武松(ぶしょう) 威(い)もて安平寨(あんぺいさい)を鎮(しず)め
 施恩(しおん) 義(ぎ)によりて快活林(かいかつりん)を奪う
巻の二十九
 施恩(しおん) 重ねて孟州道(もうしゅうどう)に覇(は)をとなえ
 武松(ぶしょう) 酔って蔣門神(しょうもんしん)を打つ
巻の三十
 施恩(しおん) 三たび死因の牢に入り
 武松(ぶしょう) 大いに飛雲浦(ひうんぽ)を鬧(さわ)がす
巻の三十一
 張都監(ちょうとかん) 血は鴛鴦楼(えんおうろう)に濺(そそ)ぎ
 武行者(ぶぎょうじゃ) 夜(よ)るに蜈蚣嶺(ごこうれい)に走る
巻の三十二
 武行者(ぶぎょうじゃ) 酔って孔亮(こうりょう)を打ち
 錦毛虎(きんもうこ) 義もて宋江(そうこう)を釈(ゆる)す





水滸伝 三 02



水滸伝 三 03



◆本書より◆


「巻の三十一」より:

「武松、くらやみのなかにかくれて、時の太鼓をきけば、早くも午後九時をうったところです。馬丁、かいばをやり、提燈をそこへかけますと、夜具をのべて、衣服をぬぎ、寝台にあがって、やすみました。武松、小屋の門のところまでやって来て、門をゆり動かせば、馬丁、大声で、
 「おれさまは、今しがた寝たところだ。衣服を盗もうと思っても、ちと早すぎるぞ。」
 武松、長刀を門のそばに立てかけ、腰刀を手に抜きもちますと、またもや、ぎいぎいと門を押します。馬丁、たまりかね、寝台の上から、まっぱだかで跳び起き、かいばをかきまわす棒を手にもって、かんぬきをひきぬき、門をあけようとするのを、武松、そのはずみに門をおしあけて踏みこみ、馬丁をまっこうからつかまえました。声をたてようとしましたが、ともしびの光で見えたのは、手中のきらきら光る刀、まずそれにどぎもをぬかれてぐにゃりとなり、
 「命ばかりはおたすけ。」
 と、口でひと声叫ぶばかり。
 武松、「わしがだれだかわかるか。」
 馬丁、声を聞いて、やっと武松と知り、大声あげて、
 「兄さん、わたしの知ったことではない。見のがして下さいよ。」
 武松、「ほんとうのことをいうのだぞ。張司令官は今、どこにいる。」
 馬丁、「今日は、張師団長さん、蔣門神さんと三人で、一日じゅうお酒盛、まだ鴛鴦楼の上で飲んでますよ。」
 武松、「そのことばにちがいはないな。」
 馬丁、「うそをいったら、ばちがあたります。」
 武松、「それじゃ、きさまは生かしちゃおけない。」
 と、一刀の下に馬丁を殺して、首を斬りおとし、ぽんと死体を蹴とばしました。武松は刀を鞘におさめ、ともしびのもとで、施恩のくれた綿入れを腰からときおろして出すと、身につけた古い衣服を脱ぎすてて、二枚の新しい衣服を着、きりりと身支度します。」
「月は照りかがやいて、まひるのような明るさです。」
「見れば、そこは台所。二人の女中が、湯わかしのそばで、ぶつぶついっています。
 「朝から一日じゅうお給仕をしているのに、まだ寝る気にならずに、お茶がほしいだなんて。あの二人のお客もあつかましいわね。あんなに飲んでおきながら、まだ下へおりて来て休もうとしないなんて、いつまでしゃべってるつもりかしら。」
 二人の女中、ぶつぶつべちゃべちゃと、不平をいっています。武松、長刀を立てかけ、腰から血みどろの刀を抜きはなって、門をぐっとおしますと、ぎいっと門のおしあけられるままに、踏みこんで行って、まず一人の女中の髷(まげ)をひっつかんで、一刀のもとに殺しました。もう一人の方は、逃げようとしましたが、二本の足は釘づけにされたよう、声を立てようとすれば、口はまた啞になったよう、まったくあっけにとられています。」
「武松、ふりかざす刀に、その女中をも殺し、二つの死骸を、かまどの前まで引っぱって行きますと、台所の燈(ともしび)を消し、窓外の月光をたよりに、一あし一あしと、奥の方へもぐりこんで行きます。(中略)まっすぐ鴛鴦楼の階段のところまでしのんで来て、ぬき足、さし足、手さぐりで二階へのぼりますと、早くも耳にはいったのは、張司令官、張師団長、蔣門神、この三人の話し声。武松、階段の上で聞き耳をたてていましたが、聞こえて来たのは、蔣門神のとめどもないお世辞、
 「閣下のお蔭で、わたくしの仇を討っていただきました。この上ともお礼はたっぷりさせていただきましょう。」
 といえば、張司令官、
 「弟分の張師団長の顔を立てるのでなければ、だれがこんなことをやるものか。君も金はいくらか使ったろうが、うまくあいつをやっつけてしまったわけだ。今頃は、多分あそこで手にかかり、あいつ、恐らく死んでいることだろう。(中略)くわしいことは、あの四人が、あすの朝、帰って来たら、わかるよ。」
 張師団長、「今夜は四人であいつ一人にかかるのだから、やりおおせぬはずはない。命がいくらあっても、足りないよ。」
 蔣門神、「わたくしも弟子たちによくいいふくめておきました。なんでもいいから、あそこで手にかけ、かたづけたら、すぐ報告しろと、そういってあります。」」
「武松、それを聞いて、胸さきの無明(むみょう)の業火(ごうか)は高さ三千丈、青空をもつきやぶらんばかり、右手は刀を持ち、左手は五本の指をおしひろげて、楼の中に踏みこみました。四、五本の画ろうそくがもえさかっているところへ、一、二か所から月光がさしこみ、楼上は大変なあかるさです。(中略)蔣門神は、椅子に坐っていましたが、みれば武松ですので、びっくり仰天し、(中略)いそぎあらがおうとするところを、武松、早くもあびせる一太刀に、まっこうから斬られ、椅子もろとも、斬りたおされてしまいました。武松、ふりむいて、刀をこちらにむけ、張司令官が足を伸ばしかけたところを、武松にすぐさま一刀で耳もとから首すじにかけて斬られ、ばたりと床板の上にたおれました。二人のもの、あがきもがいていましたが、張師団長の方は、(中略)二人とも斬りたおされたと見るや、これはとても逃げられぬとみこみをつけ、椅子一脚を取りあげて、ふりまわします。武松、さっと受けとめ、勢にまかせて、ぐっと押しました。張師団長、(中略)武松の神力にかなうはずなく、ぱたりとあおのけざまに倒れました。武松、ふみ込んで、一刀のもとに、首をうちおとしました。蔣門神は力持ち、やっとこさ起き上って来たところを、武松、さっと左足を飛ばし、もんどりうって、けとばされたのを、やはりおさえつけて首をはね、ぐるりとむきなおると、張司令官の首をもはねました。
 見れば、食卓の上にあるのは酒に肉、武松、杯を取り上げて、ぐっと飲みほし、つづけざまに三、四杯飲みますと、死体の身辺から、衣服の上前をすこし切り取り、それを血にひたして、白壁の上に大きく書いた八文字は、
   人ヲ殺ス者ハ虎ヲ打チシ武松也
 さて、食卓の上の銀の酒器や皿をふみつぶし、そのいくつかを懐にねじこんで、下へおりようとしましたが、下から聞こえて来たのは、夫人の声、
 「二階の旦那がたは、みなお酔いになったらしい。早く二、三人やって介抱しなさい。」
 といいもおおせず、早くも二人の男が二階へあがって来ました。武松、階段のあたりにひそみながら、じっと見ていれば、それは二人のつきびと。即ち、このあいだ武松をつかまえたやつらです。武松、くら闇のなかで、彼等をやりすごし、逃げみちをふさいでしまいました。
 二人のもの、楼の中へはいってみれば、三つの死体が血の海のなかに横たわっていますので、びっくり仰天して、顔を見合わせるばかり。声を立てることもできません。(中略)あわてて引っかえそうとするのを、武松、すぐうしろにくっついて、手があがれば刀は落ち、早くも一人を斬りたおしました。もう一人は、土下座してお助けといいますが、武松、
 「助けてやれぬ。」
 と、ひっつかまえて、これも首を斬りました。殺したあげく、血は画楼にそそぎ、屍は燈影によこたわります。武松、
 「毒くわば皿まで。百人殺しても、死ぬのはただ一度。」
 と、刀をぶらさげて、下へおりて行きます。
 夫人、たずねて、
 「二階は、どうしてあんな大騒動なの。」
 武松、部屋の前まで踏みこみます。夫人、一人の大男がはいって来たのを見ながら、なおもたずねて、
 「どなた。」
 武松の刀、早くも飛んで、まっこうから額(ひたい)に斬りつけますと、部屋の前にたおれて、うめいています。武松、おさえつけて、刀で首を斬ろうとしましたが、なかへはいりません。武松、はてな、と月の光で刀をすかしてみれば、もうすっかり刃が欠けているのでありました。
武松、
 「なるほど首が斬れないはずだ。」
 と、そっと裏門の外へ出て、長刀を取りに行き、欠けた刀を捨てると、再びもどって楼の下へはいって来ました。見れば、ともしびはあかあかとして、この前、歌をうたった腰元の玉蘭が、二人のわかい子をしたがえ、夫人が地べたで殺されているのを、ともしびで照らしながら、やっとひと声、
 「大変だ。」
 と叫んだのを、武松、長刀をにぎりしめて、玉蘭のみぞおちにつきさし、わかい子二人も、武松につき殺されました。長刀の一さしごとに、一人をかたづけると、広間をとびだし、前の門にかんぬきをかけると、もう一度、なかへはいって来て、二、三人の女を見つけ、それをも部屋のなかでつき殺しました。武松、
 「やっとこれで満足だ。」」






こちらもご参照ください:

『完訳 水滸伝 (四)』 吉川幸次郎・清水茂 訳 (岩波文庫)
孟元老 『東京夢華録 ― 宋代の都市と生活』 入矢義高・梅原郁 訳注
小林章夫 『チャップ・ブック ― 近代イギリスの大衆文化』










































































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好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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