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網野善彦 『日本社会の歴史 (下)』 (岩波新書)

「明治以後、敗戦にいたる過程だけではなく、敗戦後の政治・社会の動向についても、前述した「常識」化した誤った思いこみを捨て、「日本」そのものを歴史的な存在と見る視点に立って、徹底した再検討を行うことが、今後の緊急な課題として浮び上ってくるが、それらの仕事はすでに開始されているといってよかろう。」
(網野善彦 『日本社会の歴史 (下)』 より)


網野善彦 
『日本社会の歴史 
(下)』
 
岩波新書(新赤版) 502 


岩波書店 
1997年12月22日 第1刷発行
2004年3月15日 第15刷発行
iii 181p 
新書判 並装 カバー
定価700円+税



全三冊。
本文中図版(モノクロ)4点、地図1点。章扉図版(モノクロ)4点。



網野善彦 日本社会の歴史 下



カバーそで文:

「社会と「国家」とのせめぎあいの前近代史を、社会の側からとらえなおす通史の完結編。下巻は南北朝の動乱から地域小国家が分立する時代を経て、日本国再統一までを叙述し、近代日本の前提とその問題点を提示。十七世紀前半、武士権力によって確保された平和と安定は列島社会に何をもたらしていくのか?〔全3冊〕」


目次:

第九章 動乱の時代と列島社会の転換
 第一節 天皇による国家統一とその崩壊
 第二節 動乱と四分五裂する王権
 第三節 日本国王室町将軍と地域諸勢力
 第四節 列島社会の文明史的・民族史的転換――十四世紀後半―十五世紀前半の社会

第十章 地域小国家の分立と抗争
 第一節 社会の激動と動乱の全地域への拡大――一揆と応仁の乱
 第二節 分立する地域小国家
 第三節 十六世紀の社会

第十一章 再統一された日本国と琉球王国、アイヌ社会
 第一節 日本国再統一の達成と朝鮮への侵略
 第二節 統一国家の確立
 第三節 十七世紀前半の社会と国家

第十二章 展望――十七世紀後半から現代へ
 第一節 十七世紀後半
 第二節 十八世紀から十九世紀前半
 第三節 十九世紀後半から二十世紀後半

参考・参照文献
むすびにかえて




◆本書より◆


「第九章」より:

「このように、列島社会の文明化はこの時期に急速に進み、それとともに列島の諸地域でもアイヌ、琉球などの「民族」の形成の動きが目立ちはじめ、日本国の四至――支配領域も東は外ヶ浜、あるいは「日本(ひのもと)」、西は鬼界島、あるいは鎮西、南は土佐あるいは熊野、北は佐渡として、はっきりと社会のなかに意識されるようになってきた。まさしく列島社会の文明史的・民族史的転換が進行しているのであるが、文明化の進行、村や町の安定化とともに、日本国の国制下におかれた社会のなかには、さまざまな差別が根を下ろしはじめていた。」
「まず安定した自治組織を確立しはじめた村落や都市は、依然として遍歴・漂泊を続ける自立的な宗教民、芸能民、商工民に対し、警戒心を強め、それが差別の生ずるひとつの理由になっている。たとえば、十五世紀につくられたと推定される『三十二番職人歌合(うたあわせ』と題した職人歌合には、こうした多様な遍歴民が描かれているが、歌合の作者はその遍歴民自身に、みずからを「賤しめられた人びと」と発言されており、そのあたりにも問題の一端があらわれているといえよう。
 また平安期には官司に属し、鎌倉期にも「悪党」「海賊」といわれた山や海の領主のネットワークの下でそれなりの役割を果たしていた博打たちも、職人歌合にあらわれなくなり、社会の陰の存在になりはじめたと見られるが、これも、こうした事情と関連していると思われる。
 さらにこのころの社会の文明化の進展、人間と自然との関係の新たな変化にともない、穢れに対する社会の対処の仕方にも大きな変化がおこってきた。かつて人の力を超えた畏怖すべき事態であった穢れは、この時期になると、むしろ汚穢(おわい)として忌避されるようになってくる。」



「第十二章」より:

「明治以降、憲法制定にいたる過程と、さらにそれ以後の国家的な教育のなかで、この国家の指導層はきわめて偏り、また誤りにみちた「日本国」「日本人」の像を日本人自身の意識のなかに徹底的に刷りこんでいった。
 なにより日本国自体について、神々の創った国土に天から降った神の子孫=天皇の統治する国であるという記紀の神話を「事実」として「国史」の教育を行い、さらに日本人を「万世一系」の天皇の支配下にあって、「血統」の上でも天皇につながる均質ですぐれた「大和(やまと)民族」ととらえる意識を植えつけた。そしてこの見方から、アイヌ、琉球人の「民族的」な個性は無視され、さらに中国大陸・朝鮮半島の人びと――「シナ人」「朝鮮人」に対する軽侮、とくに古代日本国の支配者の新羅「征討」から秀吉の朝鮮侵略にいたる動きを背景にした朝鮮半島の人びとに対する著しい蔑視が、日本人のなかに深く根を張っていくことになったのである。」
「そしてさらに明治以後の国家の指導者たちは、さきの「神話」とも関わりつつ、日本国を稲作を基本とした「瑞穂国(みずほのくに)」ととらえ、この国土の中で農業を発展させることを至上の課題とし、それを基盤として諸産業を発展させ、強力な軍隊をつくり上げる「富国強兵」のために全力をあげた。」
「「大日本帝国」が台湾、南樺太、朝鮮半島を植民地にし、「満州」(中国東北)にまで支配を及ぼしていった動機の一つに、こうした農業、「食糧問題」の「解決」が意識されていたことは明白である。そして日本人は、すでに北海道のアイヌの世界や「ウタキ」を信仰する沖縄に対してもそうしてきたように、水田を開拓するとともに、そこに必ず鳥居を持つ「神社」を建て、その地域の人びとにその信仰を強要したのである。
 これはさきの「大和民族」の優越意識と結びついて、長い歴史と独自な文化をもつアイヌや琉球、さらに植民地とした台湾、南樺太、朝鮮半島等の人びとの固有の言語を否定して日本語の使用を強制し、日本風の姓名を名のらせて戸籍にのせた上で、天皇への忠誠(皇民化)、崇拝を強要して恬然(てんぜん)たる驚くべき無神経な姿勢とまったく共通しており、それが第二次世界大戦―太平洋戦争を通じてはかり知れない苦痛をアジアの多くの人びとに与えた事実を、われわれははっきりと認識しておく必要がある。
 そしてその出発点に、明治以後の政府の指導者たちが、日本人に徹底的に教育を通じて刷りこんだ日本国そのものについての、神話を「事実」とする荒唐無稽ともいうべき認識、さらに日本列島とその社会に対する大きく誤った理解があったとすれば、明治政府の果たした役割については、これまでよりもはるかにきびしいマイナスの評価をしなくてはなるまい。」
「もとより明治以降の社会は、こうした政府の姿勢に対して、多少とも批判的な立場を保ちつつ、欧米の思想、学問、文化を独自に受容し、それなりにすぐれた学芸を生み出した。」
「しかし、こうした思想、学問、文学の新たな動向、それにも結びついた政治・社会運動に対し、政府は一九二五年(大正一四)に治安維持法を制定、さらに一九二八年(昭和三)には、「天皇制」を批判し、「国体」の変更を主張するものに対する最高刑を死刑と定め、きびしい弾圧を行った。
 とくに一九三一年(昭和六)、いわゆる「満州事変」がおこり、軍部の主導のもとに日本が「十五年戦争」に突入すると、こうした弾圧は酷烈をきわめ、逮捕され、残酷な拷問のすえに獄死する人びとが少なからずあり、またそれにたえかねて思想を「変える」ことを誓わされる(「転向」する)人びとも多かったのである。」
「そのころの軍隊は「天皇の軍隊」として「皇軍」とよばれたが、「上官の命令は天皇の命令」として、兵士に対する殴打、足蹴、棍棒による打擲(ちょうちゃく)を日常のこととし、ほとんど「牢獄」のような兵営生活を兵士に強制するような実態を持つようになっていた。それに加えて、前述したとおり「シナ人」「朝鮮人」をはじめとする他民族に対する蔑視を徹底して教育されたこの軍隊―「皇軍」が、それ自体、人を狂気にするとされる戦場において、細菌兵器の研究を行ったいわゆる「七三一部隊」による最近の人体実験をはじめ、「南京大虐殺」に代表されるような非戦闘員をふくむ大量な人びとに対する殺傷など、常軌を逸する殺戮をアジアの各地でくりひろげたこと、また兵士たちの性欲処理の対象とされた「慰安婦」たちに対し、兵士以上の「奴隷的」な状態を強制したことは、疑う余地のない事実といわなくてはなるまい。われわれはこれらの事実を、決して目をそらすことなく見すえておく必要がある。とすると、こうしたアジアに対する侵略の直接の起点となり、このような驚くべき実態をもつ軍隊の形成される出発点をつくった明治政府の指導者たちに対しては、さきにふれた以上にさらにきびしいマイナス評価を与える必要があろう。
 明治以降の政府の選択した道は、(中略)まったく誤った自己認識の上に選択された道であり、政府によって刷りこまれた虚像におどらされた日本人を破滅的な戦争に導き、アジアの人民に多大な犠牲を強いた、最悪に近い道であったと私は考える。」






こちらもご参照ください:

網野善彦 『日本社会の歴史 (上)』 (岩波新書)










































































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