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『完訳 水滸伝 (六)』 吉川幸次郎・清水茂 訳 (岩波文庫)

「こちらは、呼延灼、官軍の人馬をあまた失ないましたので、みやこへはもどろうとせず、ひとり、かの踢雪烏騅の馬にまたがり、(中略)落ちのびましたが、路用がありません。(中略)みちみち、思うよう、
 「はからずも、きょう、おちいったは、家はあれども帰りがたく、国はあれども身を寄せがたい境涯。はて、だれに身を寄せたものか。」」

(『完訳 水滸伝 (六)』 より)


『完訳 
水滸伝 
(六)』 
吉川幸次郎・
清水茂 訳
 
岩波文庫 赤/32-016-6


岩波書店 
1999年3月16日 第1刷発行
367p 
文庫判 並装 カバー
定価660円+税
カバー: 中野達彦



全十冊。
本文中挿絵20点。「注」に図版2点。



水滸伝 六 01



カバーそで文:

「高廉とその秘書官殷天錫は、高大将の威勢をかさに着てしたい放題。柴進のおじ柴七品はいじめ殺され、柴進も囚われの身に。梁山泊から援軍が向かうが、高廉の魔法とその配下の飛天神兵三百に散々な目にあう。彼の魔法を破れるのは、かの入雲竜公孫勝しかいない。」


忠義水滸伝 第六冊 目録:

巻の五十一
 挿翅虎(そうしこ) 枷(かせ)もて白秀英(はくしゅうえい)を打ち
 美髯公(びぜんこう) 誤って小衙内(しょうがない)を失(うし)なう
巻の五十二
 李逵(りき) 殷天錫(いんてんしゃく)を打ち死(ころ)し
 柴進(さいしん) 高唐州(こうとうしゅう)に失陥(おとしい)れらる
巻の五十三
 戴宗(たいそう) 智(ち)もて公孫勝(こうそんしょう)を取(むか)え
 李逵(りき) 斧(まさかり)もて羅真人(らしんじん)を劈(き)る
巻の五十四
 入雲竜(にゅううんりゅう) 法(じゅつ)を闘(たた)かわして高廉(こうれん)を破り
 黒旋風(こくせんぷう) 穴(あな)を探(さぐ)りて柴進(さいしん)を救(すく)う
巻の五十五
 高太尉(こうたいい) 大いに三路(さんろ)の兵を興(おこ)し
 呼延灼(こえんしゃく) 連環(れんかん)の馬を擺(ひろ)げ布(し)く
巻の五十六
 呉用(ごよう) 時遷(じせん)をして甲(よろい)を盗ましめ
 湯隆(とうりゅう) 徐寧(じょねい)を賺(あざむ)いて山に上(のぼ)らしむ
巻の五十七
 徐寧(じょねい) 鉤鎌槍(かたかまやり)を使うを教え
 宋江(そうこう) 大(おお)いに連環馬(れんかんば)を破る
巻の五十八
 三山(さんざん) 義(ぎ)に聚(あつ)まって青州(せいしゅう)を打ち
 衆虎(しゅうこ) 心(こころ)を同(おな)じゅうして水泊(すいはく)に帰(き)す
巻の五十九
 呉用(ごよう) 金鈴(きんれい)の吊掛(つりかざり)を賺(あざむ)きとり
 宋江(そうこう) 西岳華山(せいがくかざん)を鬧(さわ)がす
巻の六十
 公孫勝(こうそんしょう) 芒碭山(ぼうとうざん)にて魔(ま)を降(くだ)し
 晁天王(ちょうてんおう) 曾頭市(そうとうし)にて箭(や)に中(あた)る





水滸伝 六 02



水滸伝 六 03



◆本書より◆


「巻の五十三」より:

「公孫勝、さらばと立ち上がり、戴宗と李逵とを引きつれ、家をあとにして、二仙山へのぼるみちをたどりました。この時は、もはや、秋の末、冬の初めのころおい、日は短く夜は長く、暮れ易い時候です。山の中腹まで来れば、もう赤い夕日は西に落ちました。松の木かげのひとすじの小路を、羅真人の道観の前まで来ると、朱の額に書いた三つの金文字、紫虚観(しきょかん)と書きつけてあります。」
「ふたりの童子(どうじ)、公孫勝が人をつれてはいって来たのを見て、羅真人に知らせますと、おことばがあって、三人をお通し申せとのことですから、さっそく、公孫勝、戴宗と李逵を引きつれ、松鶴軒の中へまいります。いましも、真人はおつとめをおえたばかり、雲床(うんしょう)の上で、静坐をしておられます。」
「そのとき、戴宗、それを見て、あわてて平伏しましたが、李逵は、じろじろ見つめているばかりです。羅真人、公孫勝にたずね、
 「このおふた方は、どちらから。」
 公孫勝、「これこそ、以前いつかわたくしめが先生に申し上げました山東の義兄弟でございます。いま、高唐州の知事高廉のふるうあやしき術にあい、兄なる宋江、わざわざ二人の弟にいいつけ、ここまで呼びに来させましたが、わたくし、わがままはおそれ多いと、わざわざ先生におうかがいにまいりました。」
 羅真人、「わが弟子よ、火坑(かこう)をのがれ、長生(ちょうせい)を学びおるに、なぜ、またもそんな世界をこいしがる。自分を大切にして、ばかなまねをしてはならぬ。」
 戴宗、二度、おじぎをして、「どうか、公孫道士どのにしばらく山をおりていただけますようお願いいたします。高廉を破りしだい、お山へ送りかえします。」
 羅真人、「おふたりには、わかるまいが、これは世捨て人のとやかくかかわることではない。そなたらは、そなたらで、山をおりて相談なされ。」
 公孫勝は、やむなくふたりを引きつれ、松鶴軒をあとにして、夜もすがら山をおります。李逵、たずねて、
 「あの老仙人さんはなにをいったのかね。」
 戴宗、「きみも聞いたとおりだよ。」
 李逵、「あんなへんてこな声は分からねえよ。」
 戴宗、「つまりだな、先生は、かれに行くな、とおっしゃったのだ。」
 李逵、それを聞いて、わめき出しました。
 「おれたちふたりにこんな遠みちを歩かせて、さんざん苦労したあげく、さがしあてたら、こんな屁(へ)りくつをいいやがる。おれさまのかんにさわることはよしたがいい。片手でやつのかんむりをひねりつぶし、もう一方の手で腰をぶらさげて、あのおいぼれを山の下へつきおとしてやる。」
 戴宗、にらみつけ、
 「そら又足を釘づけにしたいのか。」
 李逵、「いやいやどうして、ちょっとじょうだんをいったまでさ。」
 三人は、もういちど公孫勝の家につき、その晩は、晩飯をととのえて食べました。」
「ふたりは、荷物をまとめ、修行部屋へ来てねむりました。ふたり、ま夜中ごろまでねむりますと、李逵、こっそりとはい起き、戴宗がぐうぐうと寝入っているのを聞きすまし、思案いたします。
 「くそ、腹が立つじゃねえか。きさまはだいたいとりでのものなのに、先生とかなんとかいうばか野郎に聞くことはあるめえ。あした、あいつ、又もや承知しなかったら、それこそ、あにきの一大事をしくじらせる。もう、かんべんならねえ。あのおいぼれ道士を殺しさえすりゃ、聞きに行くところがなくなる。しかたなくわしといっしょに出かけるだろ。」
 李逵、真人をあやめようといたします。」
「李逵、すぐさま、二ちょうの大まさかりを手さぐりでとり、こっそり部屋の戸をあけて、月、星のあかるさをたよりに、ひと足ひと足とさぐりながら山をのぼります。紫虚観の前まで来て見れば、大門(おおもん)の二まいのとびらは閉めてあります。わきの土塀が、さいわいそれほど高くはないのを、李逵、ぱっと跳びこえ、大門をあけると、ひと足ひと足とさぐりながらなかへはいって行きました。松鶴軒の前まで来ますと、窓ごしにだれかが玉枢宝経(ぎょくすうほうきょう)をとなえている声が聞こえます。李逵、背のびして、窓の紙を舌でなめて破り、のぞいて見ますと、羅真人ただひとり、雲床の上に坐って、前の机の上には、一つの香爐に名香をたきしめ、二本の画ろうそくをともし、朗朗と読経のさいちゅう。李逵、
 「このくそ道士、おだぶつじゃわい。」
 と、ぬき足さし足、戸口に近より、手でひと推しすれば、ぎいっと二まいのとびらがいっしょに開きました。李逵、ずいとおし入り、まさかりをとりあげて、羅真人の脳天めがけ、うちおろせば、雲床の上に斬りたおされて、白い血が流れ出します。李逵、それを見て、笑いながら、
 「それ、このくそ道士、おんなを知らねえにちげえねえ。精気をたくわえて、もらしたことがねえから、これっぽっちも赤みがねえ。」
 李逵、もういちど目をすえて見れば、かんむりまでも、まっぷたつに裂かれ、あたまは、くびの下まで、斬りこまれています。李逵、
 「これでまあ、一つの邪魔はかたづけた。大丈夫、公孫勝は行く。」
 と、向きを変えて松鶴軒を出ると、わきの廊下をとおって、走り出ました。そこへ、ひとりの黒いきものの童子が、李逵をさえぎって、どなりつけました。
 「きさま、先生を殺して、どこへ逃げる。」
 李逵、「やい、このくそ稚児め、おまえもわしのまさかりをくらえ。」
 と、手があがればまさかりは落ち、くびは早くも土台のあたりに斬りおとされ、ふたり、いずれも、李逵に斬られてしまいました。」
「夜明けになって、公孫勝は起き出し、あさめしを用意し、ふたりといっしょに食べます。戴宗、
 「あなた、もういちど、われわれふたりをつれて山にのぼり、真人さまに懇願して下さい。」
 といえば、李逵、それを聞いて、そっとあざ笑っています。三人、この前どおり同じ道をたどって山にのぼります。紫虚観のなかにはいり、松鶴軒であいましたのは、ふたりの童子、公孫勝、たずねて、
 「真人さまは、どこにおられる。」
 童子、答えて、
 「真人さまは雲床で、御静坐中です。」
 李逵、それを聞いて、あっとびっくり、舌を出したまま、おいそれとひっこみません。三人、すだれをあげて、はいって見れば、羅真人は雲床のまん中に坐っています。李逵、そっと、
 「ゆうべは、人ちがいをしたかな。」
 と思っていますと、羅真人、
 「そなたたち三人、又もや何しに来た。」
 戴宗、「先生のお慈悲を乞いに、わざわざやってまいりました。どうか一同を難儀から救って下さいませ。」
 羅真人、「その色黒の大おとこは、だれか。」
 戴宗、答えて、「わたくしのおとうと分にて、名字は李、名は逵と申します。」
 真人、笑って、「はじめは、公孫勝を遣わすまいと思ったが、そのおとこのかおに免じて、ひと走り行かせてやりましょう。」」
「羅真人、
 「わしは、そなたら三人をまたたくまに高唐州まで行かせよう。どうじゃ。」」
「戴宗、
 「失礼ながら、先生、どのようにして、われわれをすぐさま高唐州へ送りとどけられます。」
 といえば、羅真人、立ち上がって、
 「一同のもの、わしについて来い。」
 と、三人、あとにつづいて、道観の門外の岩の上まで出て来ました。まっさきに、一枚の赤い手拭いを手にして、岩の上に敷き、
 「わが弟子、乗れ。」
 公孫勝、両足で上に立ちますと、羅真人、そででさっとはらい、ひと声、
 「あがれ。」
 と気合いをかけます。かの手拭いは、ひとひらの赤雲とかわって、公孫勝を乗せたまま、ゆらゆらと空中めがけて飛びあがり、山から二十丈あまりのところで、羅真人、ひと声、
 「とまれ。」
 と気合いをかけますと、その赤雲は動きません。こんどは、一枚の青い手拭いを敷いて、戴宗に踏ませ、ひと声、
 「あがれ。」
 と気合いをかければ、手拭いは、ひとひらの青雲とかわって、戴宗を乗せたまま、なか空にあがって行きます。」
「羅真人、こんどは一枚の白い手拭いを岩の上に敷き、李逵を呼びよせて踏ませます。李逵、笑いながら、
 「じょうだんじゃありませんよ。もし踏みはずしたら、とても大きなたんこぶができる。」
 羅真人、「そなた、あのふたりを見たろう。」
 李逵、手拭いの上に立てば、羅真人、ひと声、
 「あがれ。」
 と気合いをかけます。かの手拭い、ひとひらの白雲にかわり、飛びあがりました。李逵、
 「おやおや、わしのはゆれるよ。おろしてくれい。」
 とどなっています。羅真人、右手でさし招けば、かの青と赤とのふたひらの雲は、しずしずとおりて来ました。」
「李逵、上の方から、
 「おれだって、くそも小便もするぞ。てめえがおろしてくれなきゃ、頭からぶっかけるぞ。」
 とどなれば、羅真人、たずねて、
 「われわれは、世捨て人、そなたをいじめたことなどないのに、そなたはなぜゆうべへいを乗り越えてはいりこみ、まさかりでわしを斬った。わしに道行(どうぎょう)がなければ、殺されているところだ。おまけにわしの童子をひとり殺したな。」
 李逵、「わしじゃねえ。人ちがいしてるんだろ。」
 羅真人、笑って、「わたしのひょうたんをふたつ斬っただけだが、その心ばえがよくない。ちっと苦しいめにあわせてやろう。」
 と、さっと手招きをして、ひと声、
 「行け。」
 と気合いをかければ、一陣のすさまじい風が、李逵を雲のなかへ吹きおくりました。見れば、ふたりの黄いろい頭巾の仁王が護送し、李逵の耳もとに聞こえるのは、風雨の声ばかり、知らぬ間に、薊州ざかいにつきました。びっくりのあまり、魂はからだからぬけ、手足はぶるぶるふるえているところへ、ふとがらがらがっちゃんというひびきが聞こえました。と見るや、それは、薊州府の府庁の屋根の上から、ごろごろところげ落ちたのでありました。」

「羅真人、笑って、「わたしは知っているが、あのおとこ、天上の天殺星として数のうち、下界の衆生の、業(ごう)が重すぎるため、罰として、このおとこを下(くだ)し、殺生させているのだ。わしも天に逆らってまでこのおとこをだめにする気はない。ちょっと苦しめてみただけだ。よびもどしてかえしてあげよう。」」







こちらもご参照ください:

『完訳 水滸伝 (七)』 清水茂 訳 (岩波文庫)
孟元老 『東京夢華録 ― 宋代の都市と生活』 入矢義高・梅原郁 訳注


























































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Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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