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ウィークリー 『ことばのロマンス ― 英語の語源』 寺澤芳雄・出淵博 訳 (岩波文庫)

「読者の中には、トランプの club (クラブ)と spade (スペード)の名称の由来について、しばし疑問を抱かれた向きも少なくないに違いない。たしかにスペードのほうは鋤(すき)(spade)に多少似たところはあるが、お話に出てくるどんな巨人でも三つ頭のついた棍棒(club)など手に持ってはいない。そのわけはこうである。英国のトランプは図柄としてフランス式図柄、すなわちダイヤ(carreau)、心臓(ハート)(cœur)、矛・槍の切っ先(pique)、三つ葉のクローバー(trèfle)を採用したが、名称についてはあとの二つに対してイタリア・スペイン式、つまり矛とクローバーの代わりに剣と職杖を表わす語、イタリア語の spada と bastone にならって、spade と club を用いたのである。」


ウィークリー 
『ことばのロマンス
― 英語の語源』 
寺澤芳雄・出淵博 訳
 
岩波文庫 青/33-671-1 


岩波書店 
1987年7月16日 第1刷発行
1989年12月5日 第3刷発行
445p 索引46p
文庫判 並装 カバー
定価720円(本体699円)



本書「凡例」より:

「本訳書の原書は、英国の英語学者・フランス語学者アーネスト・ウィークリー(Ernest Weekley, 1865-1954)が英語の語源に関して著わした数多い一般的解説書中でも、とくに広く知られている *The Romance of Words* (John Murray, 1912)である。翻訳にあたっては、(中略)決定版(John Murray, 1961)を底本として、全訳した。」



ウィークリー ことばのロマンス



カバー文:

「ロミオの恋人の名 Juliet は jilt (男たらし)と同語源。skirt (スカート)はラテン語の「短い」に由来。steward (執事)はもともとは「豚小屋の番人」。――英単語の歴史をたずねると興味津々たる事実が次々とあらわれる。語源辞典編纂者であった著者が、語源探究の魅力を伝えるべく、一般読者のために蘊蓄のかぎりを傾けて成った名著。」


目次:

凡例
初版序文

第一章 英語の語彙
第二章 ことばの遍歴
第三章 民間造語
第四章 語と地名
第五章 音の変化
第六章 語と意味
第七章 意味論
第八章 隠喩
第九章 民間語源
第一〇章 二重語
第一一章 同音異義語
第一二章 姓名
第一三章 語源研究――その事実と虚構

訳注
解説 (寺澤芳雄)
人名・書名索引
語句索引




◆本書より◆


「第三章 民間造語」より:

「英語の植物名を見ると、民衆の想像力の様々なはたらき方が認められる。cowslip (桜草の一種)は古形が cowslop で、「牛の糞(slop)」という露骨な命名であり、ほかにもいろいろ口憚(はばか)るような古い名称や、sweet william (アメリカ撫子(なでしこ)、〔原義〕美わしのウィリアム)、lords and ladies (天南星(てんなんしょう)、〔原義〕貴族と貴婦人)、bachelors' buttons (矢車菊、〔原義〕独身男のボタン。花がボタン状)、dead men's [man's] fingers (青白い指状根のある蘭(らん)の一種、〔原義〕死者の指)のような奇妙な命名のある一方、forget-me-not (勿忘草(わすれなぐさ)、〔原義〕私を忘れずに)、heart's-ease (ビオラ・トリコロル、パンジーの原種、〔原義〕心の安らぎ)、love in a mist (くろたね草、〔原義〕霧に包まれた愛)、traveller's joy (仙人草、〔原義〕旅人の喜び)などのような詩的香りの高い造語が見られる。また、その薬効に基づく名称をもつ一群の花もある。例えば、feverfew (夏白菊、〔原義〕熱払い)は febrifuge (解熱剤)と同語源で互いに二重語をなし、tansy (よもぎ菊。中世に不老長寿薬として用いられた)は、「不死」を意味するギリシャ系ラテン語 athanasia をフランス語形 tanaisie を経由して借入したものである。なお比較に値するものに、雪(ゆき)の下(した)(stone-break(er))の学術名 saxifrage (〔原義〕岩(石)砕き)があり、スペイン語から入った sassafras (サッサフラス。その根皮は香料・薬用)と同語源の二重語をなしている。雪の下のドイツ語名は Steinbrech (〔原義〕岩(石)砕き)である。
 かつては、素朴な形での詩的本能がすべての民族の中に内在していた時代があったと思われるが、未開の民族や子供たちの間には今なおその傾向が残っている。しかし、西欧諸民族の間では、この本能は永久に消えてしまったらしい。今日の英国ではもはや、そのような命名を山や花に与えることはないのである。」



「第四章 語と地名」より:

「ところで、地名と産物を結びつける場合に誤解の生じることがある。例えば、赤色の染料に用いられる *brazil* wood (ブラジル蘇芳(すおう)材)は、ブラジル原産ではあるが、Brazil という国名によったのではなく、その逆である。この木材は、すでに十二世紀には染料材として知られており、その名はヨーロッパの多くの言語に借入されている。ポルトガルの航海者たちは南米にこの蘇芳の木がおびただしくあるのをみて、これを国名としたのである。彼らはまた同様な理由からアフリカ北西岸沖の島を Madeira (マデイラ島、〔原義〕木材。ラテン語形 materia)と命名した。鳥の canary (カナリア)はカナリア諸島原産だが、この名はれっきとしたラテン語である。この群島中最大の島 Canaria (カナリア島)は、この島に産した大型の犬(ラテン語で canis)を見てローマ人が名づけたものという。*guinea* gold (もとギニー金貨を鋳造するのに使った二十二カラット金)はアフリカ西岸のギニア(Guinea)原産だが、guinea-pig (天竺鼠(てんじくねずみ)、モルモット、〔原義〕ギニアの豚)はブラジル原産である。この名称は、三角航路をとるのを常とした Guinea-man すなわち Guinea との「奴隷貿易船」に由来すると思われる。この貿易船は英国の産物を積んでまずアフリカ西岸の Guinea に航海し、そこで産物と交換した奴隷を載せて、今度は西インド諸島に向かう途中、いわゆる「航海の中間地獄」(middle passage)で少なからぬ奴隷を死亡させた後、生き残りを西インド諸島で売り渡し、新世界の産物を買い入れて英国に帰った。その時船員たちが持ち帰った物の中に guinea-pig があったに違いない。そこで Guinea-man にちなんで guinea-pig とよばれたのであろう。七面鳥(turkey)も十七世紀には guinea-fowl (〔原義〕ギニアの鳥)とよばれていたが、これも同様の理由によると思われる。guinea-pig のことをドイツ語で Meerschweinchen というが、これは「海を渡ってきた小豚」が原義であろう。
 Guinea はたしかに十七世紀にはばくぜんとした地理用語だったが、India (インド)や Turkey (トルコ)の方がもっと曖昧(あいまい)である。India(n) ink (墨汁)は中国産であるし(フランス語では encre de Chine 「中国のインク」という)、Indian corn (とうもろこし)はアメリカ産である。七面鳥に付けられた名称 turkey に至っては異常といわざるをえない。アメリカ種の鳥であるから、West Indies (西インド諸島)、Red Indian (アメリカインディアン)などのように、これを India と連想してもよかったところである。Turk (トルコ人)という語は、十六、十七世紀にはばくぜんと非キリスト教徒を意味していたのである。」



「第五章 音の変化」より:

「いろいろに綴られる奇妙な語 ampersand は and per se and に由来するが、an- は後続する p の影響で m となった。ampersand というのは略記号 & のよび名だが、私はたまたま二、三日の間に二人の現代の文筆家の文章でこの語が用いられているのに出会うまでは、もう廃語になったものと思っていた。
  One of my mother's chief cares was to teach me my letters, which I learnt from big A to *Ampersand* in the old hornbook at Lantrig.
  母が私のためにとくに気を使った事の一つは、文字を教えることだったが、私は大きな A から最後の Ampersand すなわち & までの文字をラントリッグで古い文字板(ホーンブック)を使って覚えた。
          (クイラー=クーチ『死者の岩』二章)
  Tommy knew all about the work. Knew every letter in it from A to *Emperzan*.
  トミーはその作品について何もかも知っていた。その中のすべての文字、A から Emperzan すなわち & に至るまで知っていたのである。
          (W・P・リッジ『従軍記』)
昔、子供たちはアルファベットを覚えるのに、A per se A, B per se B (A はそれ自体で A, B はそれ自体で B)と言いながら最後に and per se and (& はそれ自体で &)と言い、これを繰返し唱えたのであった。」



「第九章 民間語源」より:

「民間語源という用語は、しばしば狭義に、語源・起源についての誤解に基づく語の歪曲現象を指して用いられる。教育のない人々は、なじみのない、あるいは理解できない語を何とか意味の分る形に歪曲する傾向が認められる。(中略)たとえば(a)sparagus (アスパラガス、(中略))を、雀(sparrow)の食べる草(grass)だからと sparrow-grass と言ってみたり、ディケンズの作品中で悪党ライダーフッドが affidavit (宣誓供述書)をもじって、Alfred David と言ったりする場合である。
  'Is that your name?' asked Lightwood. 'My name?' returned the man. 'No; I want to take a *Alfred David*.'
  「あんたの名前かね?」とライトウッドが訊ねた。「俺の名前だって?」と男は答えた。「いいや、『アルフレッド・デイヴィッド』てえのがほしいんで」
          (『われらが相互の友』一二章)
また、間違った連想がはたらくような場合もある。例えば、primrose (桜草)、rosemary (マンネンロウ)、tuberose (月下香)は、いずれももともと rose (ばら)とは何のゆかりもない。primrose ははじめ primerole, つまりラテン語 primula (プリムラ)に由来する古期フランス語の形であったし、rosemary はフランス語 romarin に由来し、さらにラテン語 ros marinus (海の露)にさかのぼる。tuberose はラテン語の形容詞 tuberosus (英語の tuberous 「塊茎状の」)からである。またラテン・ギリシャ語系の難しい語の言い換えが試みられることもある。例えば、ディケンズの『ピクウィック・ペーパーズ』の登場人物サム・ウェラーが Habeas Corpus (人身保護令状、〔原義〕汝自身を保つべし)のかわりに、Have his carcase (字義どおりには「死体をもらっておけ」)と言ったり、田舎者が bronchitis (気管支炎)や erysipelas (丹毒)のような病名を奇妙な名で呼んだりする場合である。次のキプリングの短篇に登場する駄洒落好きのマルヴァニー二等兵の言う locomotor ataxy (=ataxia)(歩行性運動失調症)のもじりも、この類例に数えることができよう。
  'They call ut *Locomotus attacks us,' he sez, 'bekaze,' sez he, 'it attacks us like a locomotive.'
  「『汽車にやられる(ロコモトス・アタックス・アス)』ってんだ」と彼は言った。「何せ、そいつは汽車みてえに、俺たちをやっつけちまうんだから」
          (『女たちにぞっこん』)
 英語は、そのお得意の借物上手によって、とくにこうした外国語の転訛形の宝庫に恵まれている。」

「民間語源に似たものに、混成(contamination)、つまり二つの語が一つに接合した現象がある。これは、未開人に似かよった言語本能をもつ子供たちの場合にしばしば見られる。ロンドン動物園に生まれて初めて連れていってもらった女の子が canimals (camels 「駱駝(らくだ)」+animals 「動物」)をぜひ見たいと言っているのを聞いたことがあるが、これはじつはキリンのことだった。(中略)イングランド中部地方のある学校(コレッジ)で、Turpin (ターピン)という名の学生の隣りに坐っていた Constantine (コンスタンティン)という学生が、教師から Turpentine (テレビン油(ターペンタイン))と呼ばれてびっくりしたという話がある。」

「語の真の意味が分らないために冗語法(pleonasm)に陥ることがある。例えば、greyhound (グレイハウンド)は、hound (犬)に加えて、第一要素がアイスランド語の grey (犬)を表わすので、「犬-犬」ということになってしまう。peajacket ((水夫の着る)ピージャケット)はオランダ語の pij に対する民間の解釈を示している。この pij は古形が pye で『ヘクサム蘭英』によれば、「パイ・ガウン(py-gown)すなわち兵士や水夫が着る粗い布のガウン」であるから peajacket は冗語ということになる。Greenhow Hill (グリーンハウの丘)は「緑の丘-丘」となるし、Buckhurst Hold Wood (バッカースト・ホールド森)は「橅(ぶな)の林-林-林」となるが、これは、もとの語 how (丘)や hurst (林)が廃れてしまうにつれて、あとから hill (丘)や hold (=holt 「雑木林」)さらに wood (森)が新たに説明としてつけくわえられていったのである。salt-cellar (塩壷)の後半部は、wine-cellar (葡萄酒貯蔵室)の後半部と同じ語ではない。前者の -cellar はフランス語の salière 「塩壷(salt-*seller*)」(『コトグレーヴ仏英』)に由来する語なので、salt (塩)は不要ということになる。」



「解説」より:

「一方私的生活の面では、一八九八年ノッティンガムに引きあげる直前にドイツで過した休暇の間に、アルザス・ロレーヌの知事を務めたリヒトホーフェン男爵の次女フリーダ(中略)を見初(みそ)め、翌年結婚、二人の間に一男二女をもうけた。しかし、(中略)結婚十三年で破局を迎えることになる。二人の前に現われたのは、フリーダより六歳年下で、ウィークリーのフランス語の授業に出席したこともあるローレンス(中略)、やがて『チャタレー夫人の恋人』(一九二八)などで文学の世界のみならず社会に大きな波紋を投じることになる若き日のローレンスであった。たまたまウィークリーはローレンスを昼食に招き、ローレンスは一度は辞退しながら再度の招待に応じて来訪する。そこではじめて言葉をかわした二人は、たちまち相思の仲となり、数週間後フリーダは家庭を棄てて、ローレンスとともにドイツに駈け落ちをした。二年後ウィークリーとの離婚が成立、フリーダはローレンスと正式に結婚することになる。」
「その後ウィークリーは再婚することなく、両親と三人の子供たちをかかえ、教育と著作に専念することになる。英語の語源に関する最初の著作が本書『ことばのロマンス』であり、その初版の出版は一九一二年三月、奇しくもその同じ月にウィークリー自身の招きで、ローレンスが夫人と会うことになったことは前にのべたとおりである。」
「ウィークリーは、戦災その他の事情から、いく度か転居を重ねたが、最後はロンドンのパットニーに居を構え、長女の家族と平和な生活を楽しみ、一九五四年五月七日九十歳で長逝した。」







こちらもご参照ください:

H・ブラッドリ 『英語発達小史』 寺澤芳雄 訳 (岩波文庫)
佐竹昭広 『古語雑談』 (岩波新書)






























































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趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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