塚本邦雄 『独断の栄耀 ― 聖書見ザルハ遺恨ノ事』

「広辞苑掲載が必ずしも百%「正」とは決められません。「広辞苑に載ってるから逆に間違っているのと違いますか」と僕はこの頃いいますよ。」
(塚本邦雄 『独断の栄耀』 より)


塚本邦雄
『獨斷の榮耀
― 聖書見ザルハ遺恨ノ事』


葉文館出版
2000年5月23日 初版第1刷
199p 口絵(モノクロ)1葉 
四六判 丸背紙装上製本 カバー 
定価2,500円+税
装画: 山下陽子



本書は、聖書および斎藤茂吉をテーマにした安森敏隆氏との対談を中心に、塚本・安森氏それぞれの講演を収録しています。
安森敏隆(やすもり・としたか)は1942年広島生、文学博士、歌人、クリスチャン。斎藤茂吉、塚本邦雄を論じた著作があります。
口絵図版は「塚本邦雄愛用文語訳聖書」書影2点。
新字・新かな。


塚本邦雄 独断の栄耀 01

 
目次:
 
◆対談◆
 
第一章 聖書(バイブル)――獨斷の榮耀
 文学を志す者にとって、これは必読の書
 不可解故に我愛す――バイブルのすすめ
 編纂者の問題、新約聖書・「ヨハネ黙示録」
 「チェルノブイリ――この星の名は苦(にがよもぎ)といふ」
 三ケ国語聖書
 絵画の迷宮――バテシバ
 旧約聖書の精華――雅歌
 
第二章 二十世紀言葉狩り
 翻訳の罪
 植物音痴
 キリストと蠅――文法の問題
 広辞苑・飛んで火に入る夏の虫
 戸籍係に物申す――命名の問題
 
第三章 茂吉のリアリズム
 斎藤茂吉の歌集の特徴――《編纂者茂吉》を中心として (安森敏隆)
 茂吉と基督
 『つきかげ』賛
 
第四章 聖書見ザルハ遺恨ノ事
 聖書見ザル歌詠ミハ遺恨ノ事也
 聖書(バイブル)と短歌
 
◆講演◆
 
晶子・茂吉と現代短歌 
「知られざる傑作」 

後記・光輝・好機



塚本邦雄 独断の栄耀 02



◆本書より◆


「第一章 聖書(バイブル)――獨斷の榮耀」より:

塚本 信仰の書として、僕は、バイブル一度も読んだことありません。むしろ、こんな面白い読み物があるだろうか、と物語として読みます。人間ってものはこんな嫌らしいものであったかということを痛感させられるように。」
「矛盾したことばっかりで、それが実に面白い。」

塚本 「ヨハネの黙示録」に「この星の名は苦艾といふ」と、書いてある。「苦艾」というのは、「チェルノブイリ」です、ロシア語で。あの、「アルテミシア・アブシンティウム」っていう、例の「アプサント」という酒の原料ですよ。」
安森 ほんと、あの廃墟の中で一番勢いよく生えるのが今でも苦艾らしくって、廃墟になった教会の中に苦艾が沢山生えている、っていう写真、(中略)何かに載ってましたね。」


塚本 ダビデが、バテシバという美女に惚れるという場面、バイブルにありますね(旧約・サムエル記下第11章)、(中略)バテシバがダビデの王宮へ行く、その絵が面白いと思うんです。王宮の一番上まで螺旋階段があって、その途中で、バテシバがふっと振り向くところが描かれている。そんなときのこと、バイブルに何も書いてない。その、振り向くところがね、(中略)登りながらふっと下界を振り向くところが見事に描かれていますよ。このあたり、うまいなあと思って。」


Francesco Salviati (1510-1563) - Bathsheba Goes to King David

Francesco Salviati: Bathsheba Goes to King David
(Wikipedia より)


「第四章 聖書見ザルハ遺恨ノ事」より:

塚本 そういえば、叔父からバイブルを読みなさいといわれた頃、僕には姉が二人いて、『少女画報』だとか、『少女倶楽部』なんか、一緒に読んでたんです。ちょっと『少女画報』というのはませてて、そこに、福田正夫の作品で、水銀の出てくる話がありました。サロメのビアズリーとそっくりの絵を描く蕗谷虹児の挿絵付きで。それがね、オペラのプリマドンナが二人いて、お互い、嫉視反目、殺してやろうかと思っている。先に主役を貰ったプリマドンナの方に、敵役のプリマドンナが百合の花束を届けてやるんです。その百合の花弁の底に、水銀を仕掛けておいて、とってもいい匂いがして、朝露が溜まってるから、この朝露を飲むと大変声がよくなるのよ、といって飲ませるんです。すると、水銀がぽたぽたっと喉の中に入ってしまい、声が潰れてしまって台なしになる、しばらくして、死んでしまった。それで、なるほどなあ、人を殺すのに使えるんだと思った記憶があります。こんな、いらぬことは、よく憶えています(笑)。」

塚本 申命記には、したらいけないことばかり、沢山書いてあるんです。ここに、これだけ禁止事項が書いてあるのに、ロトの箇所では近親相姦を平気でしています。矛盾だらけです、バイブルは。そういうこと、今度、うんと書いてやろうと思っているんです。片一方では、物凄くうるさい「申命記」なんてのがあるのに。例えば、「水の中にいて鱗のないものは食べてはいけない」(旧約・第14章3―29)、これ、海老、蛸、烏賊は全部駄目ということですね、「陸の上にいて鱗のあるものは食べてはいけない」、蛇が駄目ということです。
 ところで、東京には蛇屋があるらしいね、一軒だけ蛇だけの料理でお客さんを招いているところが。(中略)猫屋さんもあるらしい、猫を料理して食べさせるの、東京に。割合に流行っていたと書いてありました。
安森 私も(中略)神田の焼鳥屋さんで(中略)、カンガルーを食べさせてもらいました。カンガルーの刺し身(笑)。
塚本 昨夜、ラクダの脚の踵のところを、料理して食べるというの、テレビでやってた。三日間位、煮詰めるんだって。そうすると、ある物質のところが全部溶けて、一種のダシになると。でも頭で考えると、あんなの食べる気しないでしょう(笑)。」



「晶子・茂吉と現代短歌」より:

「「明星」風のロマンティックな歌人は、他に沢山いました。(中略)山川登美子なんかそうですね。」

「おつとせい氷に眠るさいはひを我も今知るおもしろきかな

「おそろしきかな」じゃなくて「おもしろきかな」ですよ。山川登美子、死ぬ前の年の歌です。あれだけは、与謝野晶子も負けたなあ、と私は思います。」
「彼女は肺結核ですね、末期に近いんでしょう。あっという間に死んでしまいますがね。彼女は梅花女学校を出て、若狭の国へ帰って、やがて病床。結局なおりませんでした。血を吐きながら、歌をうたっていたんじゃないかと思います。だからそのときの「おもしろきかな」というのに私は慄然とします。これは命を賭けてうたってるのです。命を質に入れてあの歌を作ったんだといってもいい。」





こちらもご参照下さい:

塚本邦雄 『眩暈祈祷書』
塚本邦雄 第二十四歌集 『約翰傅偽書』
笠原芳光 『塚本邦雄論 ― 逆信仰の歌』























































































































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