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吉村正和 『フリーメイソン』 (講談社現代新書)

「フリーメイソンは、十八世紀のヨーロッパでは政治・経済・文化において先進国であったイギリスで発足し、イギリス文化のヨーロッパへの浸透とともに、まずクラブ組織としてフリーメイソンが普及していった。ロッジの開かれる時代と地域、ロッジに参加する会員の性格に応じて、フリーメイソンはさまざまな様相を見せるはずである。」
(吉村正和 『フリーメイソン』 より)


吉村正和 
『フリーメイソン
― 西欧神秘
主義の変容』
 
講談社現代新書 930


講談社 
1989年1月20日 第1刷発行
188p 
新書判 並装 カバー
定価530円
カバーイラスト: 山本匠



本文中図版(モノクロ)31点。章扉図版(モノクロ)5点。



吉村正和 フリーメイソン 01



カバー文:

「西欧神秘主義の変容
ゲーテ、ワシントン、マッカーサー……歴史を彩ったフリーメイソンは数知れない。『魔笛』に描かれた、密儀参入と人間完成への希求。古代と近代、神秘と科学、人間と神をつなぐネットワーク。フリーメイソンを、西欧思想の系譜に、鮮やかに位置づける。」



カバーそで文:

「『ウィルヘルム・マイスター』に描かれたフリーメイソン精神――
そこには「塔の結社」というフリーメイソンをモデルとする組織が登場し、
主人公ウィルヘルムの自己実現を助ける。……
ウィルヘルムはやがて、こうした理想の実現を求めて、
同志とともに新大陸アメリカへの移住を決意する。
ウィルヘルムは小説の中の人物であるが、
彼の目指すアメリカでは、
新しい理想国家の実現のための活動は着々と進められていた。
そして、アメリカという現実の国家建設において
重要な役割を果たしたのも、フリーメイソンであった。
われわれも、ウィルヘルムとともに、
アメリカに眼を転じてみることにしよう。
――本書より」



目次:

1 プロローグ
 1 秘密の合言葉と合図
 2 慈善団体としてのフリーメイソン
2 フリーメイソンの起源と歴史
 1 フリーメイソンの起源
 2 グランド・ロッジ結成とイギリスのフリーメイソン
 3 ヨーロッパ大陸に進出するフリーメイソン
 4 組織の仕組とメンバーの資格・職業
 5 参入の儀礼
3 フリーメイソンの思想と目的
 1 モーツァルトの『魔笛』と参入儀礼
 2 西欧神秘主義とフリーメイソン
 3 自然科学とフリーメイソン
 4 道徳による人間と社会の完成
4 アメリカの形成とフリーメイソン
 1 植民地時代のフリーメイソン
 2 ボストン茶会事件から独立宣言へ
 3 建国の父たちとフリーメイソン
 4 アメリカ社会とフリーメイソン精神
5 エピローグ
 1 近代日本とフリーメイソン
 2 日本国憲法とフリーメイソン精神
あとがき
参考文献




吉村正和 フリーメイソン 02



◆本書より◆


「フリーメイソンの起源と歴史」より:

「ロンドンのグランド・ロッジは、勢力拡大のための主たる対象として貴族・富裕商人・知識人を考えていた。少なくとも、ロッジの指導的な役割を果たすのはこういった階層に限られていた。その意味では、フリーメイソンのいわゆる平等主義も、一定の限界をもっていたといわざるをえない。」

「フリーメイソンの基層に社交クラブ的要素があり、その上の層に、啓蒙主義・理神論・科学主義という十八世紀の時代精神を体現するフリーメイソンの顔が加わる。
 注意しなければならないのは、フリーメイソンという組織が独自の思想・主張をもっていたわけではないということである。フリーメイソンは、さまざまな思想を包みこむ「受皿」に似ていた。十八世紀のフリーメイソンにおいては、その受皿に盛られる内容が、啓蒙主義・理神論・科学主義という十八世紀を代表する思想であったということになるのである。
 フリーメイソンの担い手は貴族と上層市民層であり、かれらはロッジでの集会において、当時の先端的な思想に関する情報を交換していたのである。」
「フリーメイソンは、十八世紀のヨーロッパでは政治・経済・文化において先進国であったイギリスで発足し、イギリス文化のヨーロッパへの浸透とともに、まずクラブ組織としてフリーメイソンが普及していった。ロッジの開かれる時代と地域、ロッジに参加する会員の性格に応じて、フリーメイソンはさまざまな様相を見せるはずである。」



「フリーメイソンの思想と目的」より:

「西欧文明は周知のように、ギリシア=ローマ文明とユダヤ=キリスト教文明の二つの軸を中心として形成されている。西欧神秘主義は、その二つの焦点をひとつにつなぐような思考法であり、西欧文明のいわば地下水脈・地下茎(けい)として命脈を保ってきた。」
「西欧神秘主義の根底に、神的世界への夢と憬れがあり、(中略)神的世界への夢は、始原(アルケー)への夢といい換えてもよい。」
「始原(アルケー)への夢とは、簡単にいうと、人間が神と一体化しようとする試みである。」
「西欧神秘主義の文脈におけるフリーメイソンは、(中略)薔薇十字団の後を受けて十八世紀に登場してくる。しかしながら(中略)フリーメイソンには、西欧神秘主義の文脈にすんなりと接続しない部分がある。その疑問を解く鍵を与えてくれたのが、フランセス・イェイツによる薔薇十字団の再解釈であった。」
「フランセス・イェイツの独創性は、十七世紀の薔薇十字運動がたんなる神秘主義・魔術の運動ではなく、その後の西欧世界を塗り替えてしまう近代自然科学思想を先取りする運動であったことを見抜いたところにある。(中略)イェイツは、近代科学を準備したのは、俗説によると科学とはまったく対照的な魔術的世界観であったことを、薔薇十字団を例にして解明したのである。逆にいうと、西欧近代の代表的な学問体系である自然科学の核心に、西欧神秘主義の根が深く入りこんでいることになる。」
「すなわち、西欧神秘主義の系譜にフリーメイソンを接続させるには、ルネサンス以後の西欧を支配した、近代自然科学の視点を必要とするのである。」
「フリーメイソンのみならず、十八世紀の西欧文化の源流となっているのが、万有引力の法則を発見し科学革命を集大成したアイザック・ニュートンと、イギリス経験論哲学の創始者ジョン・ロックである。」
「しばしばフリーメイソンの標語として紹介される「自由」「平等」「博愛」という観念も、フリーメイソンの発案になる観念ではけっしてなく、そのいずれもロックの『国政二論』に見ることができる。」
「ジョン・ロックの『キリスト教の合理性』(一六九五年)は、理神論の成立に大きな役割を果たし、ジョン・トーランドの『神秘的ならざるキリスト教』(一六九六年)は、理神論を確立した古典として知られている。十八世紀のフリーメイソンの思想的背景をなすものとして、ロックとトーランドによるこのような理神論的著作を含めることができる。」
「理神論は、十七世紀後半から十八世紀前半にかけてイギリスを中心に普及したもので、それまでのキリスト教が容認していた超自然的な啓示(奇蹟・預言などを含む)をまったく否定する。啓示性の代わりに人間の理性が根拠とされており、「理性の時代」といわれる十八世紀にふさわしい宗教思想として登場したのである。」
「理神論の登場によって、人間の理性の及ばない神的世界の存在が棚上げされてしまうと、人間の到達目標は人間的な価値によってのみ計られることになる。逆にいうと、神性に人間的要素が読みこまれることになるのである。」

「フリーメイソンの目的は、徳性の涵養による個人としての人間の完成と、社会全体の完成にある。(中略)フリーメイソンにおける人間の完成は、「ソロモンの神殿」に象徴される壮大な建築物の建設の過程として説明されるところに特色がある。」
「「偉大な神の神殿」は、(中略)世界全体を指している。したがって、フリーメイソンは最終的に世界市民主義あるいは四海同胞主義を指向することになり、キリスト教とくにカトリック教会の宗教的世界主義の発想につながるものである。大道具・小道具はなるほど新しく取り替えられるが、役者もプロットもほとんど同じという劇を、われわれは何度も見せられることになる。
 「普遍的な人類共同体」というこのヨーロッパ世界が歴史的に固執しているオブセッションはやがて、たとえばマルクス主義における国際主義や国際連合などにも現われることになるものである。フリーメイソンは、「普遍的な人類共同体」の理想の十八世紀的な形態ということができる。」



「アメリカの形成とフリーメイソン」より:

「フリーメイソンの視点からアメリカ合衆国を見るとき、まず第一に浮かんでくるのは、「道徳」という観念である。アメリカというのは、意外に思われる読者がいるかもしれないが、その本質は「道徳国家」なのである。」
「もちろん、この「道徳」という観念も「自由」「平等」という観念とともに、十八世紀の西欧社会に根差すものであることには間違いない。
 しかし、この「道徳」という観念は、フリーメイソン精神が育成した代表的な観念であると同時に、それはアメリカという国家を支える基盤としてアメリカ社会に深く根づいているのである。」



「あとがき」より:

「ふりかえって、フリーメイソンとは何かと自問してみると、それは近代という世俗化の時代に登場した一種の疑似宗教ではなかったかという気がする。フリーメイソンの中核となる観念として「道徳」と「理性」を挙げることに異論はあるまい。しかし、この二つの観念はフリーメイソンに固有のものというより、「自然」「自由」「平等」「幸福」という諸観念とともに、十八世紀以後の西欧の歴史を特徴づけている観念でもある。「神」から「人間」への展開が、近代を誕生させた。近代は、神の時代ではなく人間の時代である。フリーメイソンは、この人間の時代の代用宗教として登場したのである。
 ところで、本書ではついに触れる機会がなかった視点がある。フリーメイソンは十八世紀の西欧社会を土壌として生まれてきたものであるが、十八世紀の後半になると、その時代精神そのものを批判しながら登場する運動がある。(中略)その運動とは、十八世紀の後半から十九世紀の前半にかけて全ヨーロッパ的規模で巻き起こったロマン主義運動である。」
「「もし道徳がキリスト教〔の本質〕であるならば、ソクラテスは救世主である」とイギリスのロマン主義詩人ウィリアム・ブレイクが述べている。この警句めいた一文には、「道徳」と「理性」の観念を中核として展開してきた十八世紀以後の西欧の歴史を、「物質主義の時代」として弾劾しようとするこの詩人の万感の想いがこめられている。(中略)ブレイクの批判に欠落している最大のポイントは、すでに本書でも指摘したように、一見して「物質主義」とみなされるこの近代西欧の道徳主義と理性主義も、本質的にはキリスト教を含む西欧神秘主義の直系であるという点である。」
「明治以来、日本が営々として受容に努めてきた西欧近代文化の中心にあったのは、近代科学・科学技術であり、その受容を進めた背景には、西欧近代科学が「普遍的」な学問であるという了解があった。(中略)しかし、筆者には近代科学・科学技術を中心とする西欧近代文化が、ある「特殊な」思考法に基づく価値体系をなすものであり、全体としてひとつの「宗教」そのものではないかという気がしてならない。近代科学・科学技術は、「物質主義」の仮面の裏側に、それとはまったく逆の「精神主義」を隠している。これはもはやフリーメイソンというテーマでは扱いきれない問題であり、改めて別の角度からの分析が必要となるであろう。」







こちらもご参照ください:


J・シャイエ 『魔笛 ― 秘教オペラ』 高橋英郎/藤井康生 訳
フランセス・イエイツ 『薔薇十字の覚醒 ― 隠されたヨーロッパ精神史』 山下知夫 訳
ヨーハン・ヴァレンティン・アンドレーエ 『化学の結婚 付・薔薇十字基本文献』 種村季弘 訳・解説
『トマス・ド・クインシー 著作集  Ⅱ』 (全四巻)
















































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分野: パタフィジック。

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好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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