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『和漢朗詠集』 大曽根章介 堀内秀晃 校注 (新潮日本古典集成)

「丹竈道成仙室静 山中景色月華低」
「丹竈で仙薬を錬って仙道を修めた人は、その術が成就するや昇天し去った。今は仙室も静まり返り、山中の景色といえば、ただ一輪の月が低く傾いて照らしているばかりだ。」
(『和漢朗詠集』 より)


『和漢朗詠集』 
大曽根章介 堀内秀晃 校注 
新潮日本古典集成


新潮社
昭和58年9月10日 発行
平成2年4月20日 4刷
439p 
四六判 丸背クロス装上製本 貼函
定価2,370円(本体2,301円)



本書「凡例」より:

「本文は、現存最善本の御物伝藤原行成筆粘葉装(でっちょうそう)二冊本の『和漢朗詠集』を底本とした。」
「漢詩文の摘句は、最初に訓み下し文を掲げた。訓み下し文は、古点の訓み方によって訓み下して掲げることにした。上巻は藤原南家点本(日本古典文学会複製)および菅家点本(古典籍影印叢刊複製)により、下巻は菅家点本による訓をたてまえにし、他の古写本の訓を参照するとともに『色葉字類抄』『類聚名義抄』を活用した。」
「訓み下し文においても白文においても、使用漢字は一、二の例を除いて現行の常用漢字字体に統一した。」
「和歌は、すべて歴史的仮名遣いに統一し、漢字は常用漢字字体を用いた。また、適宜漢字をあて、句間を各半字分あけて読みやすさを図った。」
「各摘句・和歌にアラビア数字で通し番号を付し、頭注との参照の便を図った。」
「頭注は、(中略)およそ次のような形式で構成したが、場合によりその一部を欠くことがある。
   口語訳(色刷り)
   評釈
   語釈」



二色刷。第61回配本。



和漢朗詠集 01



帯文:

「漢詩と和歌が織りなす典雅な交響楽――藤原文化最盛期の平安京で編まれ、物語や軍記をはじめとする日本文学の発想の泉として生き続けた珠玉のアンソロジー。」


帯裏:

「王朝がこの世の春を謳歌していたころ、大宮人たちの日々口ずさんでいた詩歌のアンソロジーが誕生した。

和漢朗詠集――白楽天、王維、菅原道真、源順らのきらびやかな漢詩文に、人麻呂、赤人、貫之らのたおやかな名歌を配した詩情の宝庫。

清冽な口語訳、詳細な頭注が、往時の詩歌朗詠の現場を、紙上に再現する!」



目次:

凡例

巻上
 春
  立春
  早春
  春興
  春夜
  子日 付 若菜
  三月三日
  暮春
  三月尽
  閏三月
  鶯
  霞
  雨
  梅 付 紅梅
  柳
  花 付 落花
  躑躅
  藤
  款冬
 夏
  更衣
  首夏
  夏夜
  端午
  納涼
  晩夏
  花橘
  蓮
  郭公
  螢
  蟬
 秋
  立秋
  早秋
  七夕
  秋興
  秋晩
  秋夜
  八月十五夜 付 月
  九日 付 菊
  九月尽
  女郎花
  萩
  蘭
  槿
  前栽
  紅葉 付 落葉
  雁 付 帰雁
  虫
  鹿
  露
  霧
  擣衣
 冬
  初冬
  冬夜
  歳暮
  炉火
  霜
  氷 付 春氷
  雪
  霰
  仏名

巻下
  風
  雲
  晴
  暁
  松
  竹
  草
  鶴
  猿
  管絃 付 舞妓
  文詞 付 遺文
  酒
  山
  山水
  水 付 漁父
  禁中
  故京
  故宮 付 故宅
  仙家 付 道士隠倫
  山家
  田家
  隣家
  山寺
  仏事
  僧
  閑居
  眺望
  餞別
  行旅
  庚申
  帝王 付 法皇
  親王 付 王孫
  丞相 付 執政
  将軍
  刺史
  詠史
  王昭君
  妓女
  遊女
  老人
  交友
  懐旧
  述懐
  慶賀
  祝
  恋
  無常
  白

解説

付録
 典拠一覧
 影響文献一覧
 作者一覧




和漢朗詠集 02



◆本書より◆


「巻下」「仙家(せんか) 付(つけたり) 道士隠倫(だうしいむりん)」より:

「540 壺中(こちう)の天地(てんち)は乾坤(けんこん)の外(ほか) 夢の裏(うち)の身名(しんめい)は旦暮(たんぼ)の間(あひだ)  元(げん)」

「壺中天地乾乾坤外 夢裏身名旦暮間  元」


「仙人壺公の壺(つぼ)の中の天地にも比すべきわが仙境は、全く人間界を超えた別世界であり、浮世におけるわが身も名声も、朝夕を待ち得ぬほどにはかないものだ。」
「俗世を離れた幽居から世の無常を賦したもの。
◇壺中の天地 後漢の費長房が仙人壺公の所持する壺の中に跳び入ると、仙宮世界が見えたという故事(『神仙伝』壺公)をさす。◇夢の裏の身名 盧生が邯鄲(かんたん)の旅舎で呂翁に遇い、その枕を借りて黄梁(こうりょう)一炊の夢を見たという故事(『枕中記』)による。」

「541 薬炉(やくろ)に火有(あ)て丹(たん)伏(ふ)すべし 雲碓(うんたい)に人なくして水自(おのづか)ら舂(つ)く  白」

「薬炉有火丹応伏 蜘蛛碓無人水自舂  白」


「薬炉に火の見えるのは、中に錬り出された丹薬が埋めてあるためだろう。また、雲碓のそばには誰もいないのに水がひとりでに雲母(うんも)をついている。」
「道士の留守の様子を賦したもの。
◇薬炉 丹薬を錬る炉。◇丹 丹砂で仙薬の一。◇雲碓 雲母をつく水臼、雲母は仙薬の一。」

「542 山底(さんてい)に薇(わらび)を採(と)れば雲厭(いと)はず 洞中(とうちう)に樹(き)を栽(う)うれば鶴(つる)先(ま)づ知る  温庭筠(をんていゐん)」

「山底採薇雲不厭 洞中栽樹鶴先知  温庭均」


「山の麓で薇をつめば、山の主である雲も親しげに近づいて来るし、洞の中に木を植えれば、早くも鶴が自分の住処(すみか)だと思ってやって来る。」
「仙人の住んでいる山居の有様を賦す。
◇薇を採れば 伯夷(はくい)叔斉(しゅくせい)が首陽山に隠れて薇を採った故事(『史記』伯夷伝)。◇洞中 仙人の住処。」

「543 三壺(さんこ)に雲浮(うか)ぶ 七万里(しちばんり)の程(ほど)浪(なみ)を分(わか)つ
五城(ごせい)に霞峙(そばだ)つ 十二楼(しふじろう)の構(かまへ)天に插(さしはさ)む  都」

「三壺雲浮 七万里之程分浪  五城霞峙 十二楼之構插天  都」


「三神山は雲のように大海の中に浮んでそれぞれ七万里の間を隔て、崑崙(こんろん)山上の五城は霞のようにそばだって、十二楼は高く天を貫いて聳え立つ。」
「人界に超然とした仙界を幻想的に賦した。
◇三壺 蓬萊・方丈・瀛洲。海中の三山。形が壺に似ているのでいう(『拾遺記』)。◇雲浮ぶ 「双闕雲の浮べるに似たり(史記に曰く、三神山黄金白銀を宮闕と為(な)す。これを望めば雲の如し)」(『文選』結客少年場行)。◇七万里 三壺の間の距離。『列子』湯問に「山の中間相去ること七万里、以て鄰居たり」。◇五城 崑崙山上にあるとされる神仙界の五城十二楼。金玉で造られている。『史記』孝武本紀に「方士言へる有り、黄帝の時五城十二楼を為(つく)る」。◇霞峙つ 謝荘の赤鸚鵡賦に「雲移り霞峙ち、霰委(お)き雪翻る」。」

「544 奇犬(きけん)花に吠(ほ)ゆ 声紅桃(こうたう)の浦(うら)に流る
驚風(けいふう)葉を振(ふる)ふ 香(か)紫桂(しけい)の林に分る  同じ」

「奇犬吠花 声流於紅桃之浦  驚風振葉 香分紫桂之林  同」


「桃花源では、見なれない犬が人を見て驚き吠えて、その声が渓流に沿って聞える。紫桂の林には忽ち風が吹いて来て葉を揺り動かすと、よい香が芬々(ふんぷん)と匂ってくる。」
「◇奇犬花に吠ゆ 『桃花源記』の「渓に縁りて行き路の遠近を忘る。忽ち桃花林に逢ふ(中略)鶏犬相聞ゆ」による。◇紅桃の浦 闇河の北に紫桂の林があり、その実はなつめのようで仙人が食したという(『拾遺記』巻一)。」

「545 謬(あやま)て仙家(せんか)に入(い)て 半日(はんじつ)の客(かく)たりといへども
恐(おそ)らくは旧里(きうり)に帰(かへ)て 纔(わづ)かに七世(しちせ)の孫(むまご)に逢(あ)はむことを  江」

「謬入仙家 雖為半日之客  恐帰旧里 纔逢七世之孫  江」


「自分のごとき者が、何かの間違いで今日この仙境の宴会に侍して半日の客となったが、この楽しさにあずかっている間に実は多くの歳月を経ていて、家に帰ってみたらもしかして七世の子孫に逢うようなことがあるかも知れない。」
「二条院を仙境に譬えてその楽しさを述べたもの。
◇仙家に入て 晋の王質が、石室山に行って童子の囲碁を見ているうちに斧(おの)の柄が朽ち、家に帰ったら数百年を経ていたという故事による(『列仙伝』)。◇旧里に帰て 漢の劉晨・阮肇の二人が天台山に入り、二女子に逢って留まること半年にして帰ると、七世の孫の代であったという(『太平御覧』地部所引幽明録)。」

「546 丹竈(たんさう)道成(な)て仙室(せんしつ)静かなり 山中(さんちう)の景色(けいそく)は月華(ぐゑつくわ)低(た)れり  菅三品(かんさんぼん)」

「丹竈道成仙室静 山中景色月華低  菅三品」


「丹竈で仙薬を錬って仙道を修めた人は、その術が成就するや昇天し去った。今は仙室も静まり返り、山中の景色といえば、ただ一輪の月が低く傾いて照らしているばかりだ。」
「山中の仙室の静寂なさまを詠む。
◇丹竈 丹薬を錬る竈(かまど)。◇月華 月の光。「月華静夜に臨み、夜静かにして氛埃(ふんあい)を滅(け)す」(『文選』沈約詩)。」

「547 石床(せきしやう)洞(ほら)に留(とど)まて嵐(あらし)空(むな)しく払(はら)ふ 玉案(ぎよくあん)林に抛(なげう)て鳥独り啼(な)く」

「石床留洞嵐空払 玉案抛林鳥独啼」


「洞の中には仙人の石床が残って、山風が空しくその塵(ちり)を吹き払うばかりであり、平生使用していた玉案は林の間にうち捨てられて、訪うものといえば鳥の声のみである。」
「◇石床 仙人が寝起きした石の寝台。『関中記』によれば嵩高山の石室には石床・池水・食器があり、道士がそこに遊んだ(『淵鑑類函』地部)。◇玉案 仙人が使用する玉で作った机。『太一洞真玄経』に「各一の白き玉案を捧げ、上に主(つかさど)る所の簡(ふだ)あり」(『太平御覧』道部)。」

「548 桃李(たうり)言(ものい)はず春幾(いく)ばくか暮れたる 煙霞(えんか)跡(あと)なし昔誰(たれ)か栖(す)んし」

「桃李不言春幾暮 煙霞無跡昔誰栖」


「あの仙人が去ってから幾度の春を送り迎えたのか、毎年開く桃李の花にそう尋ねても花は答えることがない。また、昔誰が住んでいたのかと、春ごとにたなびく煙霞に問うても、跡を留めることがないので知ることはできない。」
「仙室の荒廃を詠んだもの。
◇桃李言はず 『史記』李将軍伝に「諺(ことわざ)に曰く、桃李言はず、下自ら蹊を成す」とあるのによる。」

「549 王喬(わうけう)一(ひと)たび去(さ)て雲も長(なが)く断(た)えぬ 早晩(いつか)笙(せい)の声故渓(こけい)に帰らむ  已上(いじやう)四韵(しゐん)」

「王喬一去雲長断 早晩笙声帰故渓  已上四韵」


「あの仙人は、ひとたびは昇天して、乗って行った雲も断えて二度と見ることができないが、いつかはまた王子喬のように、もと住んでいたこの渓に帰って来て、笙の音(ね)を響かせることもあろうか。」
「◇王喬 王子喬。笙の名人。道人浮丘公に伴われて昇天したという。◇早晩 「イツカ」と訓も(『字類抄』)。」

「551 虚澗(きよかん)に声有(あ)て寒溜(かんりう)咽(むせ)ぶ 故山(こさん)に主(ぬし)なくして晩雲(ばんうん)孤(ひとり)なり  山に隠(いむ)なし/紀(き)」

「虚澗有声寒溜咽 故山無主晩雲孤  山無隠/紀」


「隠者が去って行ったので、人のいない谷間には寒々とした滝の音がむせぶように聞え、山には主人がいないので、かつて隠者が友とした夕暮の雲だけが空しくたなびいている。」
「山野に遺賢なき治世の様子を詠んだもの。
◇虚澗 人気のない渓。磻渓の水で釣をしていた太公望呂尚が、周の文王に召された故事を踏む。◇寒溜 冷たい泉。◇故山 昔隠者が住んでいた山。商山の四皓が漢の高祖に招かれて山を下りた故事を踏む。」

「552 夢(ゆめ)を通(とう)するに夜深(よふ)けぬ蘿洞(らとう)の月 跡(あと)を尋ぬるに春暮(く)れぬ柳門(りうもん)の塵(ちり)  菅三品」

「通夢夜深蘿洞月 尋跡春暮柳門塵  菅三品」


「深夜になると、殷の傅説(ふえつ)が隠れていたというつたかずらの這いかかった洞窟(どうくつ)を月が照らしている光景を夢に見る。また暮春には、陶淵明が柳を植えて住んだ家の跡を訪ね問う。」
「古の高士の跡を慕う心情を賦す。
◇夢を通す 夢に志が通って思う人を見ること。殷の武丁が夢に聖人を見、傅巌にいる傅説を探し出して宰相にした故事による。◇蘿洞 つたかずらの生い茂った洞窟。◇跡を尋ぬ 古人の住所を慕い尋ねること。◇柳門 陶淵明が宅辺に五柳を植えた故事をさす。」

「553 濡(ぬ)れてほす 山路(やまぢ)の菊の つゆの間(ま)に いかでかわれは 千代を経(へ)ぬらむ  素性(そせい)」


「山路をたどり仙宮に菊を分けて入ったので、その露にぬれた着物をほすのだが、そのわずかの間にどうして私は人間界での千年もの歳月を過してしまったのだろうか。」
「『古今集』秋下。宇多天皇の時の菊合に、仙宮に菊を分け入った人のさまを模した作り物に添えた歌。作り物の人物の心になって詠んでいる。
◇つゆの間 菊の「露」と、わずかの意の「つゆ」とを掛ける。菊の露は千年の寿を人に授けるとされる。◇千代を 仙界の一日は人間界の千年にも相当する。」









こちらもご参照ください:

『梁塵秘抄 閑吟集 狂言歌謡』  小林・武石・土井・真鍋・橋本 校注 (新 日本古典文学大系)






































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