吉岡実 『土方巽頌』

「この間、大粒の雨が道ばたの白くて、脆い小石の上に落ちてきてその時、ハッとニワトリの本体をつかみました。巨大なニワトリをつかみました。
 又、白い粉をふいている黒い馬がそこにいます。」
「日々吉岡さんに御教示願うものが多いと思いますが、どうかよろしくお願い申しあげます。ぜひ拙宅にも遊びにいらして下さい。奥さんによろしく。ねこにも。」

(土方巽)


吉岡実 
『土方巽頌
― 〈日記〉と〈引用〉に依る』


筑摩書房 
1987年9月30日 初版第1刷発行
1987年12月10日 初版第2刷発行
244p 目次7p 
19.5×13cm 
丸背紙装上製本 カバー 
定価1,800円
装幀: 吉岡実
オブジェ: 中西夏之
写真: 普後均



本書「補足的で断章的な後書」より:

「「土方巽とは何者?」誰もがそう思っているにちがいない。この人物と二十年の交流があるものの、私にはこの「一個の天才」を、十全に捉えることは出来ないだろう。そこで私は自分の「日記」を中心に据え、土方巽の周辺の友人、知己の証言を藉り、そして舞踏家の箴言的な言葉を、適宜挿入する、構成を試みた。まさしく、「日記」と「証言」に依る「引用」の『土方巽頌』である。
 私は無断できわめて断片的に、多くの方々の文章を「引用」させて頂いた。」



吉岡実 土方巽頌 01


帯文:

「舞踏とは
命がけで
突っ立った
死体である
――土方巽

前衛詩人と暗黒舞踏家の
二十年にわたる稀有な交
流が生んだ書下し追悼篇」



帯背:

「書下し追悼篇」


帯裏:

「土方さん、きみの創造した暗黒舞踏は、ひとことで言えば、奇怪にして典雅、ワイセツにして高貴、コッケイにして厳粛なる暗黒の祝祭であり、世界にも類のないものです。……わが土方巽はまさしく、風神であり、また雷神をも具有する、舞踏の化身であったと、私は思います。
――本書より」



目次:

1 青い柱はどこにあるか?
2 出会い・「ゲスラー・テル群論」
3 「舞踏ジュネ」
4 「変宮の人」
5 雛まつり
6 「鎌鼬」写真展
7 唐十郎一家と赤テント
8 卵のオブジェ
9 アスベスト館の妖精
10 虎の絵の下で
11 「まんだら屋敷」
12 「肉体の叛乱」
13 詩人の絵画展
14 舞踏「麗子」
15 詩画集『あんま』
16 夜の訪問者
17 屈斜路湖畔からの絵葉書
18 「O氏の肖像」
19 少女相愛図のポスター
20 スペースカプセルの夕べ――奇妙な日のこと
21 映画「恐怖奇形人間」
22 「花と鳥」の夕べの後で
23 あやめの花
24 「燔犠大踏鑑」
25 黒塗りの下駄
26 百日鬘の女人
27 三島由紀夫の死
28 土方巽の幼少年期の〈詩的体験〉
29 アートヴィレッジにて
30 「遊行夢華」
31 秋水のように
32 アンドロジーヌ
33 女弟子たち
34 駿河台下で
35 「長須鯨」
36 「四季のための二十七晩」――第二次暗黒舞踏派結束記念公演
37 涙
38 聖あんま語彙篇
39 絵はがき(昭和四十七年十二月十八日付)
40 「静かな家」
41 「陽物神譚」
42 「ひねもす神楽坂抄」
43 雪の夜の宴
44 本名
45 教育勅語的朗読
46 「サイレン鮭」
47 「白桃房」開花
48 大森の一夜
49 「「黄泉比良坂」
50 「塩首」
51 アスベスト館封印
52 「使者」
53 『犬の静脈に嫉妬することから』
54 映画「風の景色」
55 「ラ・アルヘンチーナ頌」
56 白塗りの起源
57 「金柑少年」そのほか
58 港が見える丘公園で
59 初冬の風
60 銅羅魔館にて
61 瀧口修造死去
62 「病める舞姫」
63 「わたしのお母さん」
64 暗黒舞踏派宣言前後
 1 秘儀
 2 題材は文学作品から
 3 「禁色」
 4 共演の少年
 5 DANCE EXPERIENCE の会
 6 「エミリーの薔薇」
 7 「胎内瞑想」
 8 「ディヴィーヌ抄」
 9 衣裳は「ギプス」
 10 〈晩餐会〉
 11 舞踏「降霊館死学」
 12 「音楽は食べるものですよ」
 13 箱の中は?
 14 砂糖壺
 15 火と氷
 16 納豆めし
 17 モーブ色の空
 18 憎い男ぶり
65 瀧口修造の三回忌
66 「舞ひみぞれ」
67 シモン人形
68 奇想の書物?
69 「庭」
70 八芳園にて
71 ライヴスペース・プランB
72 『病める舞姫』完成
73 『病める舞姫』出版記念会
74 「スペインに桜」
75 「石が二つ出会うとき蝶がうまれる」
76 来宮の山荘の一夜
77 バー・おけい
78 六本木の朝明け
79 「縄文頌II」
80 「夏の淵」――祝宴の余波
81 モンロー人形のチョコレート
82 瀕死の雉子
83 バルチュスの絵を観にゆく、夏――〈日記〉 1984年より
84 たんぽぽと髪の句
85 現場・言葉
86 「間腐れ」
87 「恋愛舞踏派定礎」
88 秋の宴・パス夫妻をかこんで
89 アスベスト館の忘年会
90 「舞踏懺悔録集成」開催
91 「死海」――ウィンナーワルツと幽霊
92 「昼の月」
93 「ひばりと寝ジャカ」
94 再び「ラ・アルヘンチーナ頌」
95 神楽坂・鳥茶屋
96 「東北歌舞伎計画」――スタジオ200
97 「親しみへの奥の手」――アスベスト館開封記念公演
98 祇園祭見物
99 「油面のダリア」そのほか
100 秋の夜長
101 舞踏行脚――土方巽最後の講演
102 「富岡鉄斎展」を観にゆく、晩秋
103 十二月は残酷な月
104 暗い新春
105 柩の前で
106 哀悼の一句
107 風神のごとく――弔辞
108 聖あんま断腸詩篇

補足的で断章的な後書
引用資料



吉岡実 土方巽頌 02



◆本書より◆


「卵のオブジェ」より:

「或る夏の午後、土方巽の使いの者が風呂敷包みを届けに来た。それは中西夏之の樹脂で造られたラグビーボールほどの卵のオブジェである。透明体の中に、大きな裁断用鋏が入っている。半ば開いた刃には毛のようなものが、密生しているようだ。よく見るとそれは砂鉄だった。なによりも美しいのは、一本の紅い糸がふるえるように沈んでいることだ。」


「風神のごとく――弔辞」より:

「土方さん、私は詩が書けなくなると、いつも君の活字になった、対談や座談会で発言した、まるで箴言的な言葉を探し出し、それに触発されながら、ずいぶん詩を書いて来たものです。私は自分の考える言葉よりも、きみの独特の口調の奇妙な表現の言葉のほうが、リアリティがあって、ずいぶん借用させて貰っていますね。それらの詩篇は、いずれも自信を持っています。きみは寛容にも許してくれました。」
「土方さん、きみの創造した暗黒舞踏は、ひとことで言えば、奇怪にして典雅、ワイセツにして高貴、コッケイにして厳粛なる暗黒の祝祭であり、世界にも類のないものです。これからは、門下の人やその影響を受けた人たちによって、永く伝えられるでしょう。(中略)わが土方巽はまさしく、風神であり、また雷神をも具有する、舞踏の化身であったと、私は思います。衰弱の果の人の死顔を、見るのは恐ろしいことです。だがきみの死顔のなんと崇高なことよ。誰でもがこのような美しい死顔を、肉親や友人知己に見せるとは限らないでしょう。土方巽よきみは、奇蹟的に長い年月の間、恐るべき癌を飼いならして来て、五十七歳の天寿をまっとうしたのだよ。私たちに燁子夫人は言いました。土方巽はすでに今、肉親家族の心の中だけでなく、きみを愛し、慕う人びとの中に存在するのだと。「土方巽神話」がこれから、芸術や思想の世界に、反映することでしょう。さらば土方巽よ。」



「柩の前で」より:

「病篤いときも死の直前身体(からだ)を起して私共に見せて頂いた舞踏。恥かしそうな初々しい表情の中で指を使っての舞踏。命をかけて、死をかけての舞踏。顔もあげ得ませんでした。透明なヴェールに温く包まれた胎児。見えない目をヴェールにしっかりと押しつける様にしての輝く目。止まるところなく悠久の時間の中での指の舞。魂に刻み込む様に見せて頂きました。」
(大野一雄)

「ビクターの犬や、蝙蝠のハクセイや、オブジェ卵たちはどこへ行ったのだろう。土方巽はいつも『物』ということを考えさせた。私は彼自身をも『物』として感じるほかはなかった。そんな人間はもういない。文字通り不世出の人間であり、『物』であった。愛憎というようなことは私には無縁である。柩のなかを覗いたとき、彼はもともと柩のなかにいたのかもしれないと思った。古代の『王』のようなところのある人間だった。」
(巌谷國士)

「私が知った土方巽は、いつも死とまじわり、死に半分身体を溶かせながら、生き、思考し、他者に対する人であった。これは、いつも死の意識に脅かされたり、あるいは促されたりして、激しく急いで生きたというのとは少し違う。
ある日彼は言った。「生れて来たことが即興じゃないの」。すると死もまた即興、ということになるのだろうか。あるいは死だけは即興じゃないのだろうか、と私は柩のなかの人にたずねていた。そして去年の秋、彼が「残念ながら、人間は死なないんだ」と言ったのも思い出した。死を美化したり、感傷したり、死の脅かしを何かと取り引きしたり、つまり、死をめぐる一切の瞞着に、土方は決して生きる時間を、一秒たりとも譲りわたしたくなかったのだと思う。」
(宇野邦一)









































































































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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