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岡本綺堂 『中国怪奇小説集 新装版』 (光文社時代小説文庫)

「その以来再び世間に出ようともせず、子々孫々ここに平和の歳月(としつき)を送っているので、世間のことはなんにも知らない。」
(岡本綺堂 「武陵桃林」 より)


岡本綺堂 
『中国怪奇小説集 
新装版』
 
光文社時代小説文庫 お-6-25 
Okamoto Kido Kaidan Collection
【怪談コレクション】


光文社 
2006年8月20日 初版1刷発行
2019年4月25日 3刷発行
420p 付記1p 
文庫判 並装 カバー
定価800円+税
カバーデザイン: 高林昭太
写真協力: gettyimages



本書「凡例」より:

「この一巻は六朝・唐・五代・宋・金・元・明・清の小説筆記の類から二百二十種の怪奇談を抄出した。敢(あえ)て多しというではないが、これに因(よ)って支那(しな)のいわゆる「志怪の書」の大略は察知し得られると思う。」
「訳筆は努めて意訳を避けて、原文に忠ならんことを期した。」



本書「解説」より:

「岡本綺堂訳著『支那怪奇小説集』の初版は昭和十年十一月、サイレン社から出た。」
「支那怪奇小説集も旺文社文庫が採用してくれて、昭和五十三年四月、“支那”を“中国”にかえて、初版が出た。」



かつて「クレイジー」「フリーク」が誉め言葉となったように、「世間知らず」「引きこもり」「井の中の青二才蛙」が誉め言葉になる日も近いです。世間など無いも同然、気にすることはないです。
そういうわけで本書はアマゾン(マケプレじゃないほう)で新品が734円(送料無料)で売られていたのを注文しておいたのが届いたのでよんでみました。



岡本綺堂 中国怪奇小説集



カバー裏文:

「小石川(こいしかわ)の切支丹坂(きりしたんざか)、昼でも薄暗い木立ちの奥にある青蛙堂(せいあどう)。その広間に集まった男女が、怪談や探偵談を講ずる催しがあった。秋彼岸を過ぎた長雨の午後、その日の主題はすべて中国の怪談に限られていた。六朝(りくちょう)時代から前清(ぜんしん)に至るまでの怪奇小説、いわゆる〈志怪(しかい)の書〉を参加者が順繰(じゅんぐ)りに語っていく――。海音寺潮五郎(かいおんじちょうごろう)も賞賛する綺堂の名訳で贈る二百余編の恐怖譚!」


目次:

綺堂先生に感謝する (海音寺潮五郎)

凡例

開会の辞

捜神記 (六朝)
 首の飛ぶ女。玃猿。琵琶鬼。兎怪。宿命。亀の眼。眉間尺。宋家の母。青い女。祭蛇記。鹿の足。羽衣。狸老爺。虎の難産。寿光侯。天使。蛇蠱。螻蛄。父母の霊。無鬼論。盤瓠。金龍池。発塚異事。徐光の瓜。

捜神後記 (六朝)
 貞女峡。怪比丘尼。夫の影。蛮人の奇術。雷車。武陵桃林。離魂病。狐の手帳。雷を罵る。白帯の人。白亀。髑髏軍。山𤢖。熊の母。烏龍。鷺娘。蜜蜂。犬妖。干宝の父。大蛟。白水素女。千年の鶴。箏笛浦。凶宅。蛟を生む。秘術。木像の弓矢。

酉陽雑俎 (唐)
 古塚の怪異。王申の禍。画中の人。北斗七星の秘密。駅舎の一夜。小人。怪物の口。一つの杏。剣術。刺青。朱髪児。人面瘡。油売。九尾狐。妬婦津。悪少年。唐櫃の熊。徐敬業。死婦の舞。

宣室志 (唐)
 七聖画。法喜寺の龍。阿弥陀仏。柳将軍の怪。黄衣婦人。玄陰池。鼠の群れ。陳巌の妻。李生の罪。黒犬。煞神。

白猿伝・其他 (唐)
 白猿伝。女侠。霊鏡。仏像。孝子。壁龍。登仙奇談。蔣武。笛師。担生。板橋三娘子。

録異記 (五代)
 異蛇。異材。異肉。異姓。異亀。異洞。異石。異魚。

稽神録 (宋)
 盧山の廟。夢に火を吹く。桃林の地妖。怪青年。鬼国。蛇喰い。地下の亀。剣。金児と銀女。海神。海人。怪獣。四足の蛇。小奴。楽人。餅二枚。鬼兄弟。

夷堅志 (宋)
 妖鬼を祭る。床下の女。餅を買う女。海中の紅旗。厲鬼の訴訟。鉄塔神の霊異。乞食の茶。小龍。蛇薬。重要書類紛失。股を焼く。三重歯。鬼に追わる。土偶。野象の群れ。碧瀾堂。雨夜の怪。術くらべ。渡頭の妖。

異聞総録・其他 (宋)
 竹人、木馬。疫鬼。亡妻。盂蘭盆。義犬。窓から手。張鬼子。両面銭。古御所。我来也。海井。報冤蛇。紅衣の尼僧。画虎。霊鐘。

続夷堅志・其他 (金・元)
 梁氏の復讐。樹を伐る狐。兄の折檻。古廟の美人。捕鶉の児。馬絆。盧山の蟒蛇。答剌罕。道士、潮を退く。

輟耕録 (明)
 飛雲渡。女の知恵。鬼の贓品。一寸法師。蛮語を解する猴。陰徳延寿。金の箆。生き物使い。

剪燈新話 (明)
 申陽洞記。牡丹燈記。

池北偶談 (清)
 名画の鷹。無頭鬼。張巡の妾。火の神。文昌閣の鸛。剣侠。鏡の恨み。韓氏の女。慶忌。洞庭の神。呌蛇。范祠の鳥。追写真。断腸草。関帝現身。短人。化鳥。

子不語 (清)
 老嫗の妖。羅刹鳥。平陽の令。水鬼の箒。僵尸(屍体)を画く。美少年の死。秦の毛人。帰安の魚怪。狗熊。人魚。金鉱の妖霊。海和尚、山和尚。火箭。九尾蛇。

閲微草堂筆記 (清)
 落雷裁判。鄭成功と異僧。鬼影。茉莉花。仏陀の示現。強盗。張福の遺書。飛天夜叉。喇嘛教。滴血。不思議な顔。顔良の祠。繡鸞。牛寃。鳥を投げる男。節婦。木偶の演戯。奇門遁甲。

解説 (岡本経一)




◆本書より◆


「開会の辞」より:

「「支那の怪奇談と申しましても、ただ漫然と怪談を語るのも無意義であるというお説もございますので、皆様がたにお願い申しまして、遠くは六朝(りくちょう)時代より近くは前清(ぜんしん)に至るまでの有名な小説や筆記の類に拠(よ)って、時代を趁(お)って順々に話していただくことに致しました。ともかくもこれに因(よ)って、支那歴代の怪奇小説、いわゆる〈志怪(しかい)の書〉がどんなものであるかということを御会得(ごえとく)くだされば、こんにちの会合もまったく無意義でもなかろうかと存じます。
 さらに一言申し添えて置きたいと存じますのは、それらの〈志怪の書〉が遠い昔から我が国に輸入されまして、わが文学や伝説にいかなる影響をあたえたかということでございます。かの『今昔物語』を始めとして、室町時代、徳川時代の小説類、ほとんどみな支那小説の影響を蒙(こうむ)っていない物はないと言ってもよろしいくらいで、わたくしが一々(いちいち)説明いたしませんでも、これはなんの翻案(ほんあん)であるか、これはなんの剽窃(ひょうせつ)であるかということは、少しく支那小説を研究なされた方々には一目瞭然(いちもくりょうぜん)であろうと考えられます。甚だしきは、歴史上実在の人物の逸事(いつじ)として伝えられていることが、実は支那小説の翻案であったというような事も、往々(おうおう)に発見されるのでございます。
 そんなわけでありますから、明治以前の文学や伝説を研究するには、どうしても先(ま)ず隣邦(りんぽう)の支那小説の研究から始めなければなりません。彼を知らずして是を論ずるのは、水源(みなもと)を知らずして末流(すえ)を探るようなものであります。と言いましても、支那の著作物は文字通りの汗牛充棟(かんぎゅうじゅうとう)で、単に〈志怪の書〉だけでも実におびただしいのでありますから、容易に読破されるものではありません。わたくしが今日(こんにち)の会合を思い立ちましたのも、一つはそこにありますので、現代のお忙しい方々に対して、支那小説の輪郭(りんかく)と、それが我が文学や伝説に及ぼした影響とを、いささかなりともお伝え申すことが出来れば、本懐の至りに存じます。」」



「捜神記」より:

宋家の母

 魏(ぎ)の黄初(こうしょ)年中のことである。
 清河(せいか)の宋士宗(そうしそう)という人の母が、夏の日に浴室へはいって、家内の者を遠ざけたまま久しく出て来ないので、人びとも怪しんでそっと覗(のぞ)いてみると、浴室に母の影は見えないで、水風呂のなかに一頭の大きいすっぽんが浮かんでいるだけであった。たちまち大騒ぎとなって、大勢が駈け集まると、見おぼえのある母のかんざしがそのすっぽんの頭の上に乗っているのである。
 「お母さんがすっぽんに化けた」
 みな泣いて騒いだが、どうすることも出来ない。ただ、そのまわりを取りまいて泣き叫んでいると、すっぽんはしきりに外へ出たがるらしい様子である。さりとて滅多(めった)に出してもやられないので、代るがわるに警固しているあいだに、あるとき番人の隙(すき)をみて、すっぽんは表へ這い出した。又もや大騒ぎになって追いかけたが、すっぽんは非常に足が疾(はや)いので遂に捉えることが出来ず、近所の川へ逃げ込ませてしまった。
 それから幾日の後、かのすっぽんは再び姿をあらわして、宋の家のまわりを這い歩いていたが、又もや去って水に隠れた。
 近所の人は宋にむかって母の喪服を着けろと勧めたが、たとい形を変じても母はまだ生きているのであると言って、彼は喪服を着けなかった。」

螻蛄

 廬陵(ろりょう)の太守龐企(ろうき)の家では螻蛄(けら)を祭ることになっている。
 何ゆえにそんな虫を祭るかというに、幾代か前の先祖が何かの連坐(まきぞえ)で獄屋につながれた。身におぼえの無い罪ではあるが、拷問の責め苦に堪えかねて、遂に服罪することになったのである。彼は無罪の死を嘆いている時、一匹の螻蛄が自分の前を這い歩いているのを見た。彼は憂苦のあまりに、この小さい虫にむかって愚痴を言った。
 「おまえに霊があるならば、なんとかして私を救ってくれないかなあ」
 食いかけの飯を投げてやると、螻蛄は残らず食って行ったが、その後ふたたび這い出して来たのを見ると、その形が前よりも余ほど大きくなったようである。不思議に思って、毎日かならず飯を投げてやると、螻蛄も必ず食って行った。そうして、数十日を経るあいだに虫はだんだんに生長して犬よりも大きくなった。
 刑の執行がいよいよ明日に迫った前夜である。
 大きい虫は獄屋の壁のすそを掘って、人間が這い出るほどの穴をこしらえてくれた。彼はそこから抜け出して、一旦の命を生きのびて、しばらく潜伏しているうちに、測らずも大赦(たいしゃ)に逢って青天白日(せいてんはくじつ)の身となった。
 その以来、その家では代々その虫の祭祀を続けているのである。」



「捜神後記」より:

武陵桃林

 東晋(とうしん)の太元(たいげん)年中に武陵(ぶりょう)の黄道真(こうどうしん)という漁人(ぎょじん)が魚を捕りに出て、渓川(たにがわ)に沿うて漕いで行くうちに、どのくらい深入りをしたか知らないが、たちまち桃の林を見いだした。
 桃の花は岸を挟んで一面に紅く咲きみだれていて、ほとんど他の雑木はなかった。黄は不思議に思って、なおも奥ふかく進んでゆくと、桃の林の尽くるところに、川の水源(みなもと)がある。そこには一つの山があって、山には小さい洞(ほら)がある。洞の奥からは光りが洩れる。彼は舟から上がって、その洞穴の門をくぐってゆくと、初めのうちは甚だ狭く、わずかに一人を通ずるくらいであったが、また行くこと数十歩にして俄かに眼さきは広くなった。
 そこには立派な家屋もあれば、よい田畑もあり、桑もあれば竹もある。路も縦横に開けて、雞(とり)や犬の声もきこえる。そこらを往来している男も女も、衣服はみな他国人のような姿であるが、老人も小児も見るからに楽しそうな顔色であった。かれらは黄を見て、ひどく驚いた様子で、おまえは何処(どこ)の人でどうして来たかと集まって訊くので、黄は正直に答えると、かれらは黄を一軒の大きい家へ案内して、雞を調理し、酒をすすめて饗応した。それを聞き伝えて、一村の者がみな打ち寄って来た。
 かれら自身の説明によると、その祖先が秦(しん)の暴政を避くるがために、妻子眷族(けんぞく)をたずさえ、村人を伴って、この人跡(じんせき)絶えたるところへ隠れ住むことになったのである。その以来再び世間に出ようともせず、子々孫々ここに平和の歳月(としつき)を送っているので、世間のことはなんにも知らない。秦のほろびた事も知らない。漢(かん)の興(おこ)ったことも知らない。その漢がまた衰えて、魏(ぎ)となり、晋(しん)となったことも知らない。黄が一々それを説明して聞かせると、いずれもその変遷に驚いているらしかった。
 黄はそれからそれへと他の家にも案内されて、五、六日のあいだは種々の饗応を受けていたが、あまりに帰りがおくれては家内の者が心配するであろうと思ったので、別れを告げて帰って来た。その帰り路のところどろこに目標(めじるし)をつけて置いて、黄は郡城にその次第を届けて出ると、時の太守劉韻(りゅういん)は彼に人を添えて再び探査につかわしたが、目標はなんの役にも立たず、結局その桃林を尋ね当てることが出来なかった。」



「宣室志」より:

鼠の群れ

 洛陽(らくよう)に李氏(りし)の家があった。代々の家訓で、生き物を殺さないことになっているので、大きい家に一匹の猫をも飼わなかった。鼠を殺すのを忌(い)むが故である。
 唐の宝応(ほうおう)年中、李の家で親友を大勢よびあつめて、広間で飯を食うことになった。一同が着席したときに、門外に不思議のことが起ったと、奉公人らが知らせて来た。
 「何百匹という鼠の群れが門の外にあつまって、なにか嬉しそうに前足をあげて叩いて居ります」
 「それは不思議だ。見て来よう」
 主人も客も珍しがってどやどやと座敷を出て行った。その人びとが残らず出尽くしたときに、古い家が突然に頽(くず)れ落ちた。かれらは鼠に救われたのである。家が頽れると共に、鼠はみな散りぢりに立ち去った。」



「池北偶談」より:

化鳥

 郝(かく)某はかつて湖広の某郡の推官(すいかん)となっていた。ある日、捕盗の役人を送って行って、駅舎に一宿した。
 夜半に燈下に坐して、倦(う)んで仮寝(うたたね)をしていると、恍惚のうちに白衣の女があらわれて、鍼(はり)でそのひたいを刺すと見て、おどろき醒めた。やがてほんとうに寝床にはいると、又もやその股を刺す者があった。痛みが激しいので、急に童子を呼び、燭(しょく)をともしてあらためると、果たして左の股に鍼が刺してあった。
 おそらく刺客(しかく)の仕業(しわざ)であろうと、燭をとって室内を見廻ったが、別に何事もなかった。家の隅の暗いところに障子代りの衣(きぬ)が垂れているので、その隙間から窺うと、そこには大きい鳥のような物が人の如くに立っていた。その全身は水晶に似て、臓腑(ぞうふ)がみな透いて見えた。
 化鳥(けちょう)は人を見て直ぐにつかみかかって来たので、郝も手に持っている棒をふるってかれに逼(せま)った。化鳥はとうとう壁ぎわに押し詰められて動くことが出来なくなったので、郝は大きい声で呼び立てると、従者は窓を破って飛び込んで来た。棒と刃(やいば)に攻められて、化鳥は死んだ。
 しかも、それが何の怪であるかは誰にも判らなかった。」



「閲微草堂筆記」より:

節婦

 任士田(にんしでん)という人が話した。その郷里で、ある人が月夜に路を行くと、墓道の松や柏のあいだに二人が並び坐しているのを見た。
 ひとりは十六、七歳の可愛らしい男であった。他の女は白い髪を長く垂れ、腰をかがめて杖を持って、もう七、八十歳以上かとも思われた。
 この二人は肩を摺り寄せて何か笑いながら語らっている体(てい)、どうしても互いに惚れ合っているらしく見えたので、その人はひそかに訝(いぶか)って、あんな婆さんが美少年と媾曳(あいびき)をしているのかと思いながら、だんだんにその傍へ近寄ってゆくと、かれらのすがたは消えてしまった。
 次の日に、これは何人(なんぴと)の墓であるかと訊(き)いてみると、某家の男が早死にをして、その妻は節を守ること五十余年、老死した後にここに合葬したのであることが判った。」








こちらもご参照ください:

松村武雄 編 『中国神話伝説集』 伊藤清司 解説 (現代教養文庫)
干宝 『捜神記』 竹田晃 訳 (平凡社ライブラリー)
『閲微草堂筆記 子不語』 前野直彬 訳 (中国古典文学大系)
澤田瑞穂 『鬼趣談義』 (中公文庫)
フランセス・A・イエイツ 『記憶術』 玉泉八州男 監訳
ヘーベル 『ドイツ炉辺ばなし集』 木下康光 編訳 (岩波文庫)































































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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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