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『平家物語 (上)』 高橋貞一 校注 (講談社文庫)

「「世(よ)に隨(したが)はざるを以(もつ)て、狂人(きやうじん)とすと見(み)えたり。」」
(『平家物語』卷第三「二代后」 より)


『平家物語 (上)』 
高橋貞一 校注
 
講談社文庫 A50


講談社 
昭和47年2月15日 第1刷発行
昭和54年11月20日 第12刷発行
430p 口絵(モノクロ)1葉
文庫判 並装 カバー
定価460円
カバー装画:K・B・K



本書「凡例」より:

「本書は、元和九年刊行の片仮名交り附訓十二行整版本を底本とし、明らかに誤と認められる漢字を訂正し、流布本の詞章の標準となるべく、厳密なる校訂を施したものである。」


本文は旧字・旧かな。



平家物語 上



カバー裏文:

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり…その響は平家物語の連想を必然して日本人に久しい。元和9年刊行片仮名交り附訓12行整版本を底本に平家諸本研究の権威高橋教授による厳訂本。適切簡明な脚注・補注、全文に亙る振り仮名等読み易い古典平家物語。巻一より巻六を収録。」


目次:

凡例

解説
 一 平家物語の構成
 二 平家物語の特質
 三 平家物語の諸本
 四 平家物語の著者及び著作年代
 五 平家物語流布本
 六 参考文献など

平家物語 卷第一
 祇園精舎
 殿上闇討
 鱸
 禿童
 我身榮華
 妓王
 二代后
 額打論
 淸水炎上
 殿下乘合
 鹿谷
 鵜川合戰
 願立
 御輿振
 内裏炎上

平家物語 卷第二
 座主流
 一行阿闍梨
 西光被斬
 小教訓
 少將乞請
 教訓
 烽火
 新大納言被流
 阿古屋松
 新大納言死去
 德大寺嚴島詣
 山門滅亡
 善光寺炎上
 康賴祝
 卒都婆流
 蘓武

平家物語 卷第三
 許文
 足摺
 御産卷
 公卿揃
 大塔建立
 賴豪
 少將都還
 有王島下
 辻風
 醫師問答
 無文沙汰
 燈籠
 金渡
 法印問答
 大臣流罪
 行隆沙汰
 法皇御遷幸
 城南離宮

平家物語 巻第四
 嚴島御幸
 還御
 源氏揃
 鼬沙汰
 信連合戰
 高倉宮園城寺入御
 競
 山門牒状
 南都牒状
 南都返牒
 大衆揃
 橋合戰
 宮御最後
 若宮御出家
 鵼
 三井寺炎上

平家物語 卷第五
 都遷
 新都
 月見
 物怪
 大庭早馬
 朝敵揃
 咸陽宮
 文覺荒行
 勸進帳
 文覺被流
 伊豆院宣
 富士川
 五節沙汰
 都還
 奈良炎上

平家物語 卷第六
 新院崩御
 紅葉
 葵前
 小督
 廻文
 飛脚到來
 入道逝去
 經島
 慈心坊
 祇園女御
 洲股合戰
 喘涸聲
 横田河原合戰

補注




平家物語 上 02



◆本書より◆


「妓王」より:

「太政入道(だいじやうのにふだう)は、かやうに天下(てんか)を掌(たなごころ)の中(うち)に握(にぎ)り給(たま)ひし上(うへ)は、世(よ)の誹(そし)りをも憚(はばか)らず、人(ひと)の嘲(あざけ)りをも顧(かへり)みず、不思議(ふしぎ)の事(こと)をのみし給(たm)へり。譬(たと)へば、その頃(ころ)、京中(きやうぢう)に聞(きこ)えたる白拍子(しらびやうし)(脚注:「歌舞の拍子の名。又それを舞う女をもいう。」)の上手(じやうず)、妓王(ぎわう)(脚注:「祇王と書く本もある。滋賀県野州郡妓王村より出たという。」)、妓女(ぎによ)とて、おととひ(脚注:「姉妹。」)あり。とぢといふ白拍子(しらびやうし)が娘(むすめ)なり。然(しか)るに姉(あね)の妓王(ぎわう)を、入道相國(にふだうしやうこく)寵愛(ちようあい)し給(たま)ふ上(うへ)、妹(いもと)の妓女(ぎによ)をも世(よ)の人(ひと)もてなす事(こと)斜(ななめ)ならず。母(はは)とぢにもよき屋(や)造(つく)つて取(と)らせ、毎月(まいぐわつ)に百石百貫(ひやくこくひやくくわん)(脚注:「米百石銭百貫。」)を送(おく)られたりければ、家内(けない)富貴(ふつき)して、樂(たの)しい事(こと)斜(ななめ)ならず。」
「かくて三年(さんねん)といふに、又(また)白拍子(しらびやうし)の上手(じやうず)、一人(いちにん)出(い)で來(き)たり。加賀國(かがのくに)の者(もの)なり。名(な)をば佛(ほとけ)とぞ申(まう)しける(脚注:「加賀国能美郡鶴来町、手取川の右岸に仏原という所がある。」)。年(とし)十六(じふろく)とぞ聞(きこ)えし。京中(きやうぢう)の上下(じやうげ)これを見(み)て、昔(むかし)より多(おほ)くの白拍子(しらびやうし)は見(み)しかども、かかる舞(まひ)の上手(じやうず)は未(いま)だ見(み)ずとて、世(よ)の人(ひと)もてなす事(こと)斜(ななめ)ならず。」
「佛御前(ほとけごぜん)は、髪姿(かみすがた)より始(はじ)めて、眉目(みめ)かたち世(よ)にすぐれ、聲(こゑ)よく節(ふし)も上手(じやうず)なりければ、なじかは(脚注:「どうして。なにかは。」)舞(ま)ひは損(そん)ずべき。心(こころ)も及(およ)ばず舞う(ま)ひすましたりければ(脚注:「想像も及ばぬ程立派に舞ったので。」)、入道相國(にふだうしやうこく)舞(まひ)にめで給(たま)ひて、佛(ほとけ)に心(こころ)を移(うつ)されけり。」
「妓王(ぎわう)はもとより思(おも)ひ設(まう)けたる道(みち)なれども(脚注:「平生から覚悟はしていた事ではあるが。」)、さすが昨日今日(きのふけふ)とは思(おも)ひもよらず(脚注:「伊勢物語、業平の歌に、「終にゆく道とはかねて聞きしかど、きのふけふとは思はざりしを」とある。」)。入道相國(にふだうしやうこく)、いかにも叶(かな)ふまじき由(よし)、頻(しき)りに宣(のたま)ふ間(あひだ)、掃(は)き拭(のご)ひ、塵(ちり)拾(ひろ)はせ、出(い)づべきにこそ定(さだ)めけれ。(中略)妓王(ぎわう)今(いま)はかうとて出(い)でけるが、なからん跡(あと)の忘(わす)れ形見(がたみ)にもとや思(おも)ひけん、障子(しやうじ)(脚注:「襖障子。玉かつま十二、からかみ参照。」)に泣(な)く泣(な)く一首(いつしゆ)の歌(うた)をぞ書(か)きつけける。
  萌(も)え出(い)づるも枯(か)るるも同(おな)じ野邊(のべ)の草(くさ)何(いづ)れか秋(あき)にあはで果(は)つべき」



「大臣(だいじん)流罪(るざい)」より:

「「三界(さんがい)(脚注:「一切衆生の生死輪廻する世界。」)廣(ひろ)しといへども、五尺(ごしやく)の身(み)置(お)き所(どころ)なし。一生(いつしやう)程(ほど)なしといへども、一日(いちにち)暮(くら)し難(がた)し」」


「鵼(ぬえ)」より:

「案(あん)の如(ごと)く日頃(ひごろ)人(ひと)の申(まう)すに違(たが)はず、御惱(ごなう)の刻限(こくげん)に及(およ)んで、東三條(とうさんでう)の森(もり)の方(かた)より、黒雲(くろくも)一群(ひとむら)立(た)ち來(きた)つて、御殿(ごてん)の上(うへ)にたなびいたり。賴政(よりまさ)きつと見上(みあ)げたれば、雲(くも)の中(なか)に怪(あや)しき物(もの)の姿(すがた)あり。射損(いそん)ずる程(ほど)ならば、世(よ)にあるべしとも覺(おぼ)えず。さりながら矢(や)取(と)つて番(つが)ひ、南無八幡大菩薩(なむはちまんだいぼさつ)と心(こころ)の中(うち)に祈念(きねん)して、よつ引(ぴ)いて、ひようど放(はな)つ。手答(てごた)へしてはたとあたる。「得(え)たりや、おう」と、矢叫(やさけ)び(脚注:「矢を射た時叫ぶ声。」)をこそしてんげれ。猪早太(ゐのはやた)つと寄(よ)り、落(お)つる處(ところ)を取(と)つて押(おさ)へ、柄(つか)も拳(こぶし)も透(とほ)れ透(とほ)れと、續(つづ)け樣(さま)に九刀(ここのかたな)ぞ刺(さ)いたりける。その時(とき)上下(じやうげ)手々(てんで)に火(ひ)を燃(とぼ)して、これを御覽(ごらん)じ見給(みたま)ふに、頭(かしら)は猿(さる)、軀(むくろ)は狸(たぬき)、尾(を)は蛇(くちなは)、手足(てあし)は虎(とら)の如(ごと)くにて、鳴(な)く聲(こゑ)鵼(ぬえ)(脚注:「鵺とも書き、とらつぐみという鳥。」)にぞ似(に)たりける。」


「物怪(もののけ)」より:

「平家(へいけ)都(みやこ)を福原(ふくはら)へ遷(うつ)されて後(のち)は、夢見(ゆめみ)も惡(あ)しう(脚注:「覚一本、「平家の人々夢見もあしう」。」)、常(つね)は心騒(こころさわ)ぎのみして、變化(へんげ)の者(もの)ども多(おほ)かりけり。或夜(あるよ)入道(にふだう)の臥(ふ)し給(たま)ひたりける所(ところ)に、一間(ひとま)(脚注:「間は柱と柱との間。」)にはばかる程(ほど)の者(もの)の面(おもて)の出(い)で來(きた)つてのぞき奉(たてまつ)る。入道(にふだう)ちつとも騒(さわ)がず、はつたと睨(にら)まへておはしければ、只(ただ)消(き)えに消(き)え失(う)せぬ。岡(をか)の御所(ごしよ)と申(まう)すは、新(あたら)しう造(つく)られたりければ、然(しか)るべき大木(たいぼく)なんども無(な)かりけるに、或夜(あるよ)大木(おほぎ)の倒(たふ)るる音(おと)して、人(ひと)ならば二三千人(にさんぜんにん)(脚注:「覚一本、二三十人。千は十の誤り。」)が聲(こゑ)して、虚空(こくう)にどつと笑(わら)ふ音(おと)しけり。如何樣(いかさま)にもこれは天狗(てんぐ)の所爲(しよゐ)と云(い)ふ沙汰(さた)にて、晝(ひる)五十人(ごじふにん)、夜(よる)百人(ひやくにん)の番衆(ばんしゆ)(脚注:「当番の衆。」)を揃(そろ)へ、蟇目(ひきめ)(脚注:「蟇目は鏑矢に似た鏃(ヤジリ)で朴または桐の木で中をくりぬき、空にして数箇の孔をあけ、これを射ると風が入って鳴り響く矢。」)を射(い)させられけるに、天狗(てんぐ)のある方(かた)へ向(むか)つて射(い)たるとおぼしき時(とき)は、音(おと)もせず。又(また)無(な)い方(かた)へ向(むか)つて射(い)たる時(とき)は、どつと笑(わら)ひなんどしけり。
 又(また)或朝(あるあした)入道相國(にふだうしやうこく)帳臺(ちやうだい)(脚注:「寝殿内に台を設けてとばりを垂れたもの。寝所。」)より出(い)でて、妻戸(つまど)(脚注:「寝殿の側面にある両開きの板戸。」)を押開(おしひら)き、坪(つぼ)の内(うち)(脚注:「内庭。」)を見給(みたま)へば、死人(しにん)の枯髑髏(しやれかうべ)どもが、幾(いく)らと云(い)ふ數(かず)を知(し)らず、坪(つぼ)の内(うち)に充(み)ち満(み)ちて、上(うへ)なるは下(した)になり、下(した)なるは上(うへ)になり、中(なか)なるは端(はし)へ轉(ころ)び出(い)で、端(はし)なるは中(なか)へ轉(ころ)び入(い)り、轉(ころ)び合(あ)ひ、轉(ころ)びのき、からめき合(あ)へり(脚注:「ぶつかり合ってからからと鳴りひびく。」)。入道相國(にふだうしやうこく)、「人(ひと)やある人(ひと)やある」と召(め)されけれども、折節(をりふし)人(ひと)も參(まゐ)らず。かくして多(おほ)くの髑髏(どくろ)どもが、一(ひと)つに固(かたま)り合(あ)ひ、坪(つぼ)の内(うち)に、はばかる程(ほど)(脚注:「みちあふれる程。」)になつて、高(たか)さは十四五丈(じふしごぢやう)もあるらんと覺(おぼ)ゆる山(やま)の如(ごと)くになりにけり。かの一(ひと)つの大頭(おほがしら)に、生(い)きたる人(ひと)の目(め)の樣(やう)に、大(だい)の眼(まなこ)が千萬(せんまん)出(い)で來(き)て、入道相國(にふだうしやうこく)をきつと睨(にら)まへ、暫(しば)しは瞬(まだた)きもせず。入道(にふだう)ちつとも騒(さわ)がず、ちやうど(脚注:「つよくじっと。覚一本、はたと。」)睨(にら)まへて立(た)たれたりければ、露霜(つゆしも)などの日(ひ)に當(あた)つて消(き)ゆる樣(やう)に、跡形(あとかた)もなくなりにけり。」







こちらもご参照ください:

『平家物語 (下)』 高橋貞一 校注 (講談社文庫)
『平治物語』 岸谷誠一 校訂 (岩波文庫)

































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