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『子不語の夢 ― 江戸川乱歩小酒井不木往復書簡集』 (CD-ROM 付)

「兎に角当分は御互に不健全に徹しやうではありませんか。さうしてこの世の中をむしろ不健全化してしまはうぢやありませんか。」
(大正十四年十二月十九日 不木書簡 より)


『子不語の夢
― 江戸川乱歩
小酒井不木
往復書簡集』

監修: 中相作・本田正一
編者: 浜田雄介
CD-ROM 付


発行: 乱歩蔵びらき委員会
発売: 皓星社
2004年10月21日 発行
343p 口絵(モノクロ)2p 索引xv 
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価4,200円+税
装幀: 山本成実



本書「凡例」より:

「小酒井不木宛江戸川乱歩書簡三十三通(中略)、小酒井久枝宛江戸川乱歩書簡一通(中略)、江戸川乱歩宛小酒井不木書簡百二十通(中略)を翻刻し、日付順に通し番号を付けて収録した。」
「〇〇一、〇〇三書簡は『江戸川乱歩推理文庫 64 書簡 対談 座談』(講談社、一九八九年)収録本文を底本とした。」
「書簡本文を上段におき、下段には脚注を配した。」



本書「解説」より:

「本書は、探偵小説の草創期を担った二人の巨人、江戸川乱歩と小酒井不木の、出会いから不木の死まで、七年にわたる往復書簡である。」
「脚注は、行き過ぎと思われるであろうほどの解釈や推定も敢えて避けず、書簡を読み物として楽しむヒントを提供することにつとめた。(中略)読者それぞれの、アクチュアルな読解に資することができれば幸いである。」
「CD-ROM には、書籍編に収録した書簡のほか、資料として現存する封筒、『小酒井不木より江戸川乱歩への書簡全』の乱歩自筆目次、『小酒井不木全集』出版に関わる高平始、岡戸武平の書簡の、それぞれ画像と翻刻を収録した。書簡本文はすべてカラーで撮影し、高解像度の拡大表示を備えて、情報はもとより手紙の風合いまで再現することをめざした。(中略)さらに翻刻の全文検索機能を加えた(中略)。」




子不語の夢 01



目次:

口絵
序 江戸川乱歩と「新しい時代の公」 (野呂昭彦)

江戸川乱歩小酒井不木往復書簡
  江戸川乱歩書簡翻刻: 小松史生子
  小酒井不木書簡翻刻: 阿部崇
  脚注: 村上裕徳
 凡例
 大正十二年
 大正十三年
 大正十四年
 大正十五年
 昭和二年
 昭和三年
 昭和四年

回想
 江戸川氏と私 (小酒井不木)
 肘掛椅子の凭り心地 (江戸川乱歩)

論考
 乱歩、〈通俗大作〉へ賭けた夢 (小松史生子)
 不木が乱歩に夢みたもの (阿部崇)
 小酒井不木に学ぶ「ひとそだて・まちそだて」 (伊藤和孝)

解説 子不語の夢 七年の航跡 (浜田雄介)
江戸川乱歩・小酒井不木関連年表 (作成: 阿部崇・小松史生子・浜田雄介)
人名索引/事項・作品索引 (末永昭二)




子不語の夢 02



◆本書より◆


「〇〇一 乱歩書簡 七月一日」(大正十二年)より:

「私は元来人一倍好奇心の強い男でして、科学にしろ文学にしろ絵画、音楽に至るまで、好奇心を満足させない様なものは、つまり価値がないのだとすら思っています。少くとも私丈けに取っては左様なんです。
 例えば小説にしましても、所謂純文学といわれる様なものでも、主として探偵小説的興味から読むといった風です。「カラマゾフ」や「罪と罰」などは、私にとっては探偵小説としての魅力が第一なんです。
 私に云わせれば、哲学の興味は探偵小説の興味なんです。物理、化学、生物学の興味は探偵小説の興味なんです。語学すらも、あの他国人の言葉を一行一行理解して行く興味は探偵小説の興味だとは云えないでしょうか。私はそんな風に思っています。」

「今「赤い部屋」というのに着手しています。これは、何の利害もないのに、唯、人を殺し度いという病の男が、生涯に数十人の命を、少しの証拠も残さないで、とった。その懺悔話を中心としたものですが、うまく纏りますかどうですか危んでいます。」



「〇一七 不木書簡 三月十四日 封筒便箋1枚」(大正十四年)より:

「拝啓 昨日「新青年」が来まして「赤い部屋」早速拝誦、私の好きなルヴエルとチエスタートンの長所を一つにした珠玉のやうな名篇、いやどうも驚きました。」


「〇一八 不木書簡 三月十四日 封筒便箋2枚」(大正十四年)より:

「拝復、
御たづねの短時間に木乃伊にする方法は、
  一週間ばかり、腕なり足なりを流水(引用者注:「流水」に傍点「◎」、以下同)の中につけて置けば、組織を屍蠟化すことが出来ます。屍蠟は組織が石鹸になることですから、うまくいつた場合には、蠟細工のやうになります。
  一旦屍蠟になつたが最後決して永久に腐敗しません。(屍蠟といふと黒褐色を思ひ起しますが、あれは長い年月であゝなつたので短時間に出来たのは生きた当時と変りません。)
  くれ/゛\も申しますが流水に浸さなければなりません。例へば相当の大さの桶を持つて来てその中へ足の一本をほりこみ、水道の水を上から落して、昼夜桶の水がかわるやうにして一週間位過ぎれば(或は四日でもよろしい)出来ます。
  (流水の中へつけるのはバイ菌の寄生をさまたげるためです。そして組織を石鹸化するに好都合だからです。)
  尤もうまく出来るときと出来ぬときとあり気候温度の関係があるやうですがそれ位のことは探偵小説ですから許すことが出来ます。脂肪に富んで居る程出来易いから嬰児の屍体などで容易に作れます。脂肪に富んだ人といふ事を念頭において下さい。」
「首を屍蠟化することは困難ですが脚や腕は雑作ないやうです。
水につけてから、出して乾せば丁度、ドラツグの看板位のものは出来ます。」



「〇一九 不木書簡 三月十七日 封筒便箋6枚」(大正十四年)より:

「屍蠟形成のこと、先日御答へしたのは私が嘗て東京の法医学教室に居て、三田先生からきいた所でして、記憶にあるまゝを申上げたのですから、少し不安になつて、三田先生の論文を、当地の大学から取り寄せて調べましたところ、幾日にして屍蠟が出来上るかといふことは書いてないのです。先生は屍蠟なるものは屍体の脂肪のみから出来上るといふことを証明されたのでして、屍蠟が幾日で出来上るかといふことは目的として居られないから無理もありません。が約一ヶ月以内に作つて実験されたといふことはたしからしいです。十日といふのは私が先生から直接きいたうろ覚えですから、尤も安全な時日としては一ヶ月を選んだ方がよいかもしれません。
作り方については論文の中に次のやうに書いてあります。
  屍蠟製成ノ方法トシテハ、上肢或ハ下肢ヲ水中ニ投ジ、尚此製成ノ際水ヲ瀦溜停滞スルヨリモ、常ニ新旧交代セシムルトキハ屍蠟ノ形成ヲ大ニ容易ナラシムルガ故ニ、余ハ大ナル素焼筒ヲ採リテ中ニ水ヲ盛リ、之ニ四肢ヲ投没シテ、更ニ硝子板ヲ以テ上口ヲ密閉(引用者注:「密閉」に傍点)シ、然ル後之ヲ水槽中ニ静置シ、其周囲ヲバ常ニ流通交替スル水道水ヲ以テ灌注シタリ

とあります。尤もこれは三田先生が、屍蠟は脂肪から生ずるといふことを証明するためですから、自然、水だけとほつて脂肪分の通らない素焼を境に入れられたのですが、あなたはたゞ早く屍蠟に化せばよいのですから、素焼筒に入れなくても直接流水に深く漬(つ)けて置くだけでよろしいでせう。」

「嘗て私の読んだドイツのフレクサの探偵小説「プラシユナの秘密」では、ある医学者がある女を仮死の状態にして、デパートメント・ストアの人形の代りにして置くことが書かれてありますが、それは不可能のことですけれど、あなたのは合理的なものですから、科学的にも筋は立派にとほると思ひます。
外部が屍蠟化しさへすればそれを取り出して、空気を抜いた罎の中にでも入れて置けば、あとは追々屍蠟化して行くから、それであなたの目的は達せられませう。」



「〇三七 乱歩書簡 六月十五日 封筒便箋6枚」(大正十四年)より:

「いつも考へることですが、探偵小説に限つては、外の文学と異り、学問と芸術の中間にある様なものですから、学問的興味と芸術的興味をなひ混ぜた様なものですから、先生の様な学問的な頭の方が、それを書かれるのが理想ではないでせうか。その点から云ひますと、小生の書くものなぞ、純正探偵小説の外道かもしれないと思つて居ります。」


「〇三八 不木書簡 六月十七日 封筒便箋6枚」(大正十四年)より:

「探偵小説も芸術として書かれねばならぬといふ自分の主張であり乍ら、自分の書くものは、やつぱり駄目です。(中略)いつも材料を取り扱ふたび毎に、これをあなたなら定めし私が満足するやうに表現するだらうになあ、と思はぬことはありません。(中略)やつぱり、どの作を見ても、あなたの持つて居る天才的な力のひらめきが充ちて居る。それが幾重にも羨ましくもあり尊くもあるのです。「屍蠟」なんども、ねらつた的にぴちんと射当てゝあるのがうれしいのです。春のいら/\した気持、犯人の、裏の裏を行く恐ろしいたくみ。然しあれほどコツたものになると、恐らく通り一ぺんの読者にはその味がわからぬかもしれません。「駄作乱発云々」とあなたは仰しやいますけれど、あれで駄作なら、むしろ、盛んに駄作をやつてもらひたいものです。そんなことに卑下して居られると、あなたの持ち味がひつこんでしまひます。憚りなくどし/\製作して下さい。(中略)誰が何といはうが、私はあなたのすべての作の底に光つて居るものがいつもはつきりと眼につくのです。あなたを及ぶかぎりもり立てゝ行くこそ、私たち日本の探偵小説界に身を置くものの義務だと思つて居るのです。」


「〇五八 不木書簡 八月二十二日 封筒便箋5枚」(大正十四年)より:

「批評家の言葉を無闇に気にするには当りますまい。あなたの持つて居る特種な感覚、それを作品を通じて見せて貰へば私には沢山です。」
「あなたが今後どんな風な工夫を凝らされやうが、あなたの持つて居る特種な感覚さへあらはれて居れば私は無条件で推服します。」



「〇六三 不木書簡 九月六日 ハガキ」(大正十四年)より:

「「苦楽」の「人間椅子」拝誦、実に感心しました。奇抜なことを思ひつかれる大兄の頭はたしかに構造がちがつて居ます、いつも申すとほり、その構造のちがひ工合を見せて下さればそれで私には十分です、どうか、この調子で御進み下さい。」


「〇八四 不木書簡 十二月十五日 封筒便箋3枚」(大正十四年)より:

「今日森下さんから、新春増刊(一月十五日発売)に載るべき平林さんの「探偵小説壇の諸傾向」の「控」を送つて下さいましたから、一読の後御まはし致します。」


「〇八五 乱歩書簡 十二月十七日 封筒便箋3枚」(大正十四年)より:

「平林氏の原稿御転送下さいまして有難う存じます。なか/\うがつてゐると思ひました。(中略)健全不健全の分類には恐縮しました。併し、いかに健全であり、本格であり、無傷でありましても、「予審調書」(脚注より:「『新青年』翌十五年一月号所収の平林の小説作品。新年号は十二月中旬には、すでに店頭へ出ていた。」)などよりは、先生の所謂不健全な「曲線」の方がどれ程心を躍らせ、楽しませてくれるか知れないと思ひます。(中略)健全派の頭目ドイルとポオやルヴエルを比べたら、我々はやつぱり後者に引きつけられます。これは私のみの病的な嗜好でありませうか。」


「〇八六 不木書簡 十二月十九日 封筒便箋4枚」(大正十四年)より:

「兎に角当分は御互に不健全に徹しやうではありませんか。さうしてこの世の中をむしろ不健全化してしまはうぢやありませんか。」


「〇九四 不木書簡 三月三十日 封筒便箋5枚」(大正十五年)より:

「私の作品が一部の人に不快な感じを与へるのは、まつたく、大兄の仰せのとほりです。即ち、取り扱ひ方があまりにも冷たいからであります。(中略)科学的な物の見方に訓練された結果、作中の人物に同情をもつことが私には出来ないのであります。」


江戸川乱歩「肱掛椅子の凭り心地」より:

「大分散佚(さんいつ)したのもあらうけれど、大方は保存してあるので、私は今日、小酒井さんからの手紙を取出して、一つ一つ読返して見た。」
「十四年度の手紙には、日本に探偵小説を確立する為に、我々は何でも構はず書きまくらなければならぬ。といつた調子が満ちてゐる。発足期の興奮があり/\と現はれてゐる。『私はこの調子で筆の続く限り書き続ける。そして一生にせめて一編でも不朽のものを残したい』といふ様な、芸術家の稚気ともいふべき、懐しい文句もあつた。
 十五年度の手紙には、注文殺到して、従来の様に凡ての注文に応じ切れず、流石の小酒井さんも、これではたまらぬといつた調子が見える。『さうせめられても、おいそれと出来るものではない』などの文句もある。
 『今日は朝から考へても一つも纏らず、ポオの小説を読んで暮れてしまひました。実際小説書きは辞職したいやうな気持ちです。参考書を見て書く文章なら立どころに出来るのにと、今更らかつたいのかさうらみの為体です』
 又
 『新青年の浅草趣味拝誦、冒頭の御言葉誠に御尤もに存じます。「飽きるといふこともあるだらうし」といふ言葉ははつきりわかるやうな気がしました。まつたく書け書けと責めるのは酷だと思ひました』
 などの初期の小酒井さんらしくない文句も散見した。だが、さういふ小酒井さんの方が、私は好きであつた。」

「私が最も小酒井さんに接近したのは、一昨年の秋から暮にかけてゞあつた。(中略)小酒井さんと二人で話し合ふ機会が非常に多かつた。
 小酒井さんの創作ノートを見せて貰つたのもその当時である。そのノートには、(中略)二三行につゞめた小説の筋が、一杯書留めてあつた。」
「簡単に「蕎麦羽織」と書いたのなどもあつた。それは落語の「蕎麦羽織」の錯覚を探偵小説に応用したら面白いだらうといふので、あの人体を溶かす薬草を、単に腹をへらす薬と思ひ込む、心理的錯誤は、考へ様によつては随分恐ろしいことで、何だか探偵小説になり相な気がすると話された。」
「私達は、小酒井さんの二階の八畳の客間に寝転んで、薄暗い卓上電燈の下で、色々なことを話し合つたものである。(中略)一緒にお宅の風呂へ這入り、床を並べて寝物語りをしたこともある。
 床を並べると云つても、小酒井さんは寝台でなければ寝られぬ人だものだから、隣の六畳の寝室の籐の寝台の上に寝られ、私は八畳の方に、床を敷いてもらつて、間の襖を開けぱなし、寝台の方を枕にして、電燈を消して、真暗な中で、話をした。
 その時、私達は少年の様に、恋愛について語り合つたことを覚えてゐる。私はお恥しいことだけれど、あこがれながらも、本当の恋といふものを経験したことのない男であるが、私の方では、その不幸な生れつきについて語つたかと思ふ。」




子不語の夢 03



CD-ROMは不織布ケース(未開封)入りで裏表紙に糊付けされていました。それゆえカバー&本体ページ巻末部分が影響を受けてCDの形に円形にへこんでいました。







こちらもご参照ください:

『江戸川乱歩全集 第28巻 探偵小説四十年 (上)』
飯倉照平 編 『柳田国男・南方熊楠 往復書簡集 上』 (平凡社ライブラリー)
パウル・ツェラン/ネリー・ザックス 『往復書簡』 飯吉光夫 訳
オルネラ・ヴォルタ 編著 『サティとコクトー 理解の誤解』 大谷千正 訳
『別冊太陽 絵本名画館 探偵・怪奇のモダニズム 竹中英太郎・松野一夫』













































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。
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