西原和海 編 『夢野久作の世界』

「さて、こんな放心者である彼、夢野久作はこれまで五十年近くも一体何をやつて来た男なのだらうか。」
(石井舜耳 「怪物夢久の解剖」 より)


西原和海 編 
『夢野久作の世界』


平河出版社 
昭和50年12月15日初版発行
509p 
四六判 丸背紙装上製本 貼函 
定価3,000円
装幀: 秋山法子

 

本書「解説」より:

「敢えて収録文章の取捨選択を行なわず、この一冊に可能な限りの内容を徹底的に詰め込むことにしたのである。久作の文壇デビュー時から現在に至るまでの、彼について書かれた文章の、入手し得る限りの殆んど総てが収められることになった。」
「第I部「同時代からの証言」では、一九二六年に夢野久作が「あやかしの鼓」一篇をもって『新青年』誌に登場し、その十年後、突然の死を迎えるに至るまでの時代を中心に、作品論・作家論・追悼文・回想記などを統括した。」
「第II部「六〇年代における再評価」には、鶴見俊輔や森秀人、平岡正明などによって久作再評価が積極的に推進されるようになった時期から、三一版『全集』刊行直前に至るまでの間に発表された論稿を主として収めた。第III部「新たなる視座からの接近」では、『全集』刊行後から本書編纂時点に至るまでの期間に読むことのできた論稿を対象として集めた。なお第III部には、(中略)三篇の書下ろし論文が加えられているし、(中略)杉山茂丸に関する論評が収録されている。」



二段組。新字。仮名づかいは原文のまま。


夢野久作の世界01


帯文:

「奇蹟の悪夢 五木寛之
夢野久作の世界は一場の悪夢である。彼はドストエフスキイと逆の方向から人間の想像力の極限をきわめた。彼もまたピカソのゲルニカと同時代の三十年代の子であった。いま歴史が音もなく三十年代と重なろうとしている時、夢野久作のよみがえりは重い必然性をもって私たちに迫ってくる。
彼の世界が悪夢だとすれば、それを論ずることもまたこの世のものならぬ仕業だ。ながく地底の斜坑に眠っていた同時代、戦後の久作論が、ここに一冊の奇蹟のように露出してくるのを見て、私は熱いものが体内を逆流するのを感ぜずにはいられない。」



夢野久作の世界02


帯背:

「戦前・戦後の夢野久作論の集大成!
久作解剖の決定版!!」



目次:
 
第1部――同時代からの証言
当選作所感
 当選作所感 (江戸川乱歩・甲賀三郎・平林初之輔・小酒井不木・延原謙)
 応募作品を読みて (森下雨村)
 〈参考資料〉 所感 (夢野久作)
新春劈頭の感想
 「押絵の奇蹟」読後 (江戸川乱歩)
 新年号創作感想 (大下宇陀児)
 新年号読後感 (小酒井不木)
夢野久作氏とその作品 (江戸川乱歩)
 夢野久作氏とその作品
 夢野久作氏
 夢野久作の作品に就て
 夢野君余談
 故人の二つの仕合せ
 夢野君を惜む
多種多面な夢野久作 (大下宇陀児)
 多種多面な夢野久作
 夢野久作氏の横顔
 友を喪ふの記
 思出の夢野久作氏
 夢野久作君を想う
 夢野久作の人と作品
 美しい久作の夢
 夢野久作を偲ぶ
 詩人・夢野久作
怪物夢久の解剖 (石井舜耳)
 怪物夢久の解剖
 久作の死んだ日
 転居御通知
 夢野久作を語る
夢野久作論 (九鬼紫郎(澹))
 夢野久作論
 夢野久作――人と作品
その怪物的存在 (伊志田和郎)
 夢野久作とその作品
 その怪物的存在
夢野久作の素顔
 恐るべき「私」 (竹中英太郎)
 ドグラマグラ執筆中の思い出 (杉山くら)
 夢野久作回想 (喜多実)
夢野久作の死を悼む
 夢野さんの逝った日/わかれ (石川一郎)
 悼惜、辞なし (森下雨村)
 四枚の年賀状 (水谷準)
 夢の如く出現した彼 (青柳喜兵衛)
 故夢野久作を悼む (紫村一重)
 その死を悼む (中島親)
 謎の夢久氏 (蘭郁二郎)
 愚痴になる追憶 (村正朱鳥)
 人間記録の一ツの絶巓 (三上於菟吉)
 夢久の死と猟奇歌 (吸血夢想男)
 夢野久作氏追悼 (木々高太郎)
『夢野久作全集』を推す
 夢野久作全集についての覚書 (大下宇陀児)
 諸家推奨之辞 (広田弘毅・頭山満・諸岡存・森下雨村・江戸川乱歩・大下宇陀児・水谷準・石井俊次)

第2部――六〇年代における再評価
ドグラ・マグラの世界 (鶴見俊輔)
夢野久作の独一性 (森秀人)
 夢野久作のことなど
 夢野久作という作家
 夢野久作の独一性
異端者の系譜 (塚本邦雄)
夢野久作の一断面 (水澤周)
夢野久作登場 (中島河太郎)
 夢野久作解説
 夢野久作登場
 夢野久作
推理小説界からのアプローチ
 宿命の美学――夢野久作論 (権田萬治)
 両刃の剣――夢野久作論 (仁賀克雄)
 浪漫の花――「押絵の奇蹟」論 (小村寿)
 脳髄の地獄――「ドグラ・マグラ」論 (須永誠一)
 狂った美学――「瓶詰地獄」論 (曽根忠穂)
 社会派の先駆――随想・夢野久作 (白石啓一)
夢野久作の生涯 (杉山龍丸)
 夢野久作の生涯
 亡き父・夢野久作を偲んで
 父、夢野久作の周辺
 父、夢野久作の思い出
ドグマ・ドグマ (平岡正明)
 ドグマ・ドグマ
 夢野久作のあやかしの世界
 夢野久作・白日夢の文学
『夢野久作全集』の刊行をめぐって
 夢野久作について (平野謙)
 日本人の想像と空想の極限 (荒正人)
 探偵小説界の異れる星 (横溝正史)
 能における夢野久作 (喜多実)
 夢野久作頌 (福永武彦)
 マンモス的素質 (水谷準)
 旱天の慈雨 (山田風太郎)
 桜吹雪の魅力 (鈴木清順)
 早すぎた作家 (都筑道夫)
 少年の日の暗い衝動と戦慄 (中田耕治)
 夢野久作―なづけようもない作家 (平岡正明)

第3部――新たなる視座からの接近
『夢野久作全集』の刊行に寄せて
 非合理と幻想の復権 (渋澤龍彦)
 “異端の作家”の復権 (紀田順一郎)
 冥府降下の異端作家たち (種村季弘)
 己れ自身についての暗いレッスン (清水邦夫)
 夢野久作忌を中心として/私説夢野久作論 (石沢英太郎)
自然状態と脳髄地獄 (由良君美)
 夢野久作の都市幻想
 自然状態と脳髄地獄
 夢野久作・ドグラ・マグラ
エクリチュールの航海 (天沢退二郎)
密室に懸架した螺旋階段 (菅原孝雄)
一九二〇年代における狂気と文学 (尾崎秀樹)
カリガリから夢野久作まで (狩々博士)
七〇年代と夢野久作
 久作をろ過してファシズム論やるぞ (平岡正明)
 断影・夢野久作 (竹中労)
 魔都――朝鮮カイと列島ゲルダ (唐十郎)
夢野久作――意識の地獄の幽霊 (脇明子)
「犬神博士」における神なるもの (松田修)
犬神博士とヒットラー (おかだたかゆき)
循環的腐卵世界の構造 (松田修)
モドキ博士・夢野久作 (森秀人)
海より時間を……夢野久作における想像力の飛躍をめぐって (菅孝行)
杉山茂丸の生涯 (杉山龍丸)
杉山茂丸 (森秀人)
夢野久作の父の文学的足跡 (由良君美)

解説 夢野久作こそ我が同時代者 (西原和海)
夢野久作研究参考文献目録 (西原和海)



夢野久作の世界03



◆本書より◆


「友を喪ふの記」(大下宇陀児)より:

「いつたいが、職業作家としての意識は、甚だ稀薄だつたともいへる。新青年で、百枚の読切りを頼むと、二百枚ぶつ続けで書いて来る。千二百枚の長篇が、無論、載せられる場合もあり得るけれど、雑誌の連載ものに適してゐると考へてゐる。さういふ例は、枚挙にいとまなかつた。新青年へ書くものも、週間朝日へ書くものも、それよりもつと調子の低い筈の雑誌へ書くものも、同じ調子で書いていゝと考へてゐたらしいところもあつた。竹のやうに真直ぐで無邪気な作家だつたのだ。
 常に自信を持ち、その自信に相当するだけの手腕ある作家ではあつたけれど、時に、悩みはあつたらしく、私のところへ、何か淋しくいらいらしく、風の吹く野原を天地に向つて怒号したいやうな気持で歩いてゐるといつたやうな意味の、歌を送つて呉れたこともある。九州にゐたのだから、そんな時は本当に、淋しかつたらう。誰かに欝憤を洩らしたくて、これが出来ずに、いらいらしたのだらう。作家は、かういふ悩みを、いつでも持つ。ある時、自分の作品に陶酔し満足感で一パイになつてゐたかと思ふと、翌日、ふいに疑惑や不安や自分はもう駄目なのではないかといふ、痛ましい懐疑のどん底に陥ち込み、憂欝で憂欝でたまらなくなる。これは恐らく誰にでもあるのではないだらうか。そんな時、欲しいのは友達がゐて慰さめ力づけて呉れたら、どんなにいゝか知れないのに、夢野氏は、一人きり、九州にゐたのだ。たゞこゝで断つて置かねばならないのは、その時の夢野氏のいらいらしさが、果して今私の想像するやうなものであつたか否か、それは的確でないといふことである。私は、歌を見て、すぐ手紙を出した。すると、その返事は、案外朗かだつたので、もうそれつきり、何も訊かなかつたのだ。」

「私自身は、氏を失って、ひどく淋しい。
 故人を惜しむことよりも、私が淋しいといふ気持の方が強いかも知れない。これが、今の私の正直な言葉だ。」



「故人の二つの仕合せ」(江戸川乱歩)より:

「その一つは、故人が大下君といふよき友を持つてゐたことだ。私達は早くから夢野君と文通もしてゐたし、写真で顔も知つてゐたけれど、この人を喰つた筆名の主が何者であるかといふことは、非常に曖昧にしか知られてゐなかつた。同君は先年九州旅行の途次、福岡で夢野君と対面して、帰京後その話を私達に伝へてくれたのだが、それによつて夢野君がお能の方の専門家であつたことや、杉山茂丸の跡取息子であつたことなどが漸く明瞭になつた。
 さういふ縁故からばかりでなく、大下君と夢野君とは、性格でも、作家としての色合ひでも、どこか一脈通ずる所があつたからだと思ふが、其後夢野君が上京の度毎に、最も屡々会ひもし話し合つてもゐたのは、作家仲間では大下君であつたやうに思はれる。それ故、大下君としては、故人を悼む思ひも一入であつたには相違ないが、夢野君の急逝後、人情家大下宇陀児の実に行届いた動きぶりには、私などひたすら感じ入るばかりであつた。」










































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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