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大林太良 『海の道 海の民』 

「中世の百科事典『塵添壒囊抄(じんてんあいのうしょう)』には、天皇は海神の子孫だから応神天皇のときまで、竜のような尻尾(しっぽ)があったという奇怪な伝承を記している。このように天皇家には海神ないし竜神の血が流れているというのは、広くかつ後世まで民衆の間でも信じられていたのであった。」
(大林太良 『海の道 海の民』 より)


大林太良 
『海の道 
海の民』 



小学館 
1996年12月10日 初版第1刷発行
279p 索引・引用文献xxii
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,300円(本体2,233円)
装丁: 守先正
装画: 蓮見智幸



本書「あとがき」より:

「この本は『海と列島文化』に発表した論文を中心として、その他の機会に発表した海にかんする論文を加え、また加筆して、一冊としたものである。」


本文中に図版(モノクロ)52点、地図4点。
本書は もったいない本舗 さんで579円(送料無料)で売られていたのを注文しておいたのが届いたのでよんでみました。



大林太良 海の道 海の民 01



目次:

序章 まわりの海から日本文化をみる

第一部 列島と海洋文化
 第一章 日本の海洋文化とは何か
  一 海と島をみる視角
  二 漁撈と海上交易
  三 神話的宇宙論と古代における王権と海
  四 海民の社会
  五 東アジア海民の交流
 第二章 黒潮と海上移動
  一 人間と文化の移動と海流
  二 日本民族文化にみる黒潮の役割
 第三章 入れ墨の連続と不連続
  一 入れ墨習俗の変遷
  二 入れ墨他界観の分布
 第四章 日本の神話伝説における北方的要素
  一 北方からの道
  二 北方的要素の多様性

第二部 地域と海民
 第五章 合流と境界の隼人世界の島々
  一 俊寛とガイドブック
  二 隼人世界の島々の六つの特徴
  三 三つのルート
 第六章 内海の文化
  一 九州と畿内を結ぶ瀬戸内海
  二 中世の外敵伝説
  三 瀬戸内海文化領域
  四 海の豪族と水軍
  五 海の宗教
 第七章 伊勢神宮と常世の重浪
  一 遍歴と鎮座、王権と皇祖
  二 常世と豊穣
  三 海人と伊勢神宮
 第八章 若者組織の社会史――志摩桃取の場合
  一 志摩の沿海文化
  二 寝宿のもつ意味とその役割
 第九章 海と陸のヒスイの道――越と出雲
  一 階層化の進展と玉の役割
  二 神話にみる婚姻習俗

あとがき
初出一覧
引用文献
索引




◆本書より◆


第一章より:

「日本神話の体系は地上における王権の由来を説き、天皇家の先祖が天から降臨したことを語るのを主眼としている。そこでは表面に出ているのは王権の根源は天にあるという考えである。(中略)ところが、その一方で、太陽の女神(アマテラス)自身も、天で生まれたのではなく、イザナギが筑紫(つくし)の日向(ひむか)の橘小門(たちばなのおど)の阿波岐原(あわきはら)で、海水で禊(みそぎ)をしたとき生まれたと『古事記』は語っている。(中略)つまり、太陽の女神、天界の支配者そして天皇家の祖神であるアマテラスも実に海辺に生まれたのであった。さらに、天孫が地上に降臨したのちは、その息子の山幸彦(やまさちひこ)は、海神(ワタツミの神)の宮を訪ねることによってはじめて王者となることが可能となった。そして山幸彦、その子のウガヤフキアヘズは、ともに海神の女をめとり、二代つづけて海神の血が入って、はじめて初代の天皇、神武(じんむ)が生まれたのであった。
 中世の百科事典『塵添壒囊抄(じんてんあいのうしょう)』には、天皇は海神の子孫だから応神天皇のときまで、竜のような尻尾(しっぽ)があったという奇怪な伝承を記している。このように天皇家には海神ないし竜神の血が流れているというのは、広くかつ後世まで民衆の間でも信じられていたのであった。」

「ところで、このような日本古代における王権と海との密接な関係は、アジアの東部では決して孤立したものではなかった。」
「新羅(しらぎ)の脱解(だっかい)王の出現を『三国遺事(さんごくいじ)』は次のように伝えている。第二代の南解王のとき、駕洛(から)国の海上に船が停泊した。駕洛の首露(しゅろ)王は臣民とともにこれを迎え、留めようとしたが、船は鶏林(けいりん)の東下西知村阿珍(あちん)浦にいたった。「時に浦辺に一嫗(おうな)あり、阿珍義先と名づけ、すなわち赫居(かくきょ)王の海尺(かいしゃく)の母なり」とある。彼女は、この海中に岩がないのに、なぜ鵲(かささぎ)が集まって鳴くのか不審に思って舟を漕いで行ってみた。すると一艘の舟の上に鵲が集まっており、舟のなかに箱が一つあった。この舟を樹下に曳いていって開けると、端正な少年がいた。これが脱解だった。三品彰英が論じたように、
   海尺は古く海辺の漁人に対する俗称であり、脱解を拾い上げたのがそうした海尺の母であったということは、この神話と信仰が本来漁民の間の伝承であり、あるいはちょうど我が海部族の海童信仰にも比すべきものでなかったかを示唆している(三品 一九七二、三一六―三一七)。
 私はこの三品説に賛成であるが、それにつけ加えることがある。それは、新羅の建国神話においても、表面では王権の根拠は天にあることになっていながら、そのかげに、海とのつながりが見えがくれする点で、日本の場合と類似していることである。」

「その後、朝鮮では高麗(こうらい)王家の祖が海とのつながりを示す伝説をもっている。『高麗史』によると、作帝建(さくていけん)は竜王の乞いに応じて海中の岩で老狐(ろうこ)を殺し、竜王の女(むすめ)と結婚した。しかし、のちに彼女が竜に化した姿をみたため、二人は別れることになったという。この後半の部分は、わが国のトヨタマビメ神話と共通している。そして竜女の生んだ子のうち、長男の竜建の子が高麗の太祖・王建である。」
「東南アジアにおける王権と海とのつながりは、いろいろな形でみられる。第一に、カンボジアの民間伝説に、牛飼いの少年が王から命ぜられて、海底の国に竜王の女を探しに行き、彼女を連れ帰り、王を亡(ほろぼ)して自らが王となり、竜女を皇后とする筋のものがある(中略)。」
「第二の事例は『スジャラ・ムラユ』(つまり『マレー年代記』)である。インド王チュランは海中探検を志して、ガラスの籠(かご)に入って海底のデイカ国に達し、そこの王女と結婚し、三人の子をもうけたが、三人の男の子が成人したら必ず地上の国に送るように言いのこして、チュラン王は南インドに帰った。そしてこの三人の王子はのちに南スマトラのシ・ダンタンの丘に天降ることになっている。」



第五章より:

「このように隼人世界と海外との交渉においては、種子島が古くから注目すべき地位にあったが、また中世においても種子島は、(中略)倭寇(わこう)の出身の最も多い薩摩(さつま)(鹿児島県西部)・肥後(ひご)(熊本県)・長門(ながと)(山口県西北部)につぐ九か国(島々も含む)の一つとして、大隅と相並ぶ存在であったし、また高麗(こうらい)への往来もあった。」
「もちろん種子島ほど顕著な交渉の歴史はなかったが、あの俊寛の流された硫黄島もまた、唐土から漂着するところであったという。『神社啓蒙』や『下学(かがく)集』(文安元年〈一四四四〉成立)、また『和漢(わかん)三才図絵』(寺島良安編。正徳三年〈一七一三〉刊)には、次のような灯台鬼の伝説が残っている。
 むかし軽大臣(かるのおおおみ)が遣唐使として唐土に渡ったとき、唐人に不言薬をのまされた。そして、身に彩画をほどこされ、頭に灯台をいただき、灯火をともし、灯台鬼となった。その子の参議春衡(はるひら)も遣唐使となり、斉明(さいめい)天皇二年(六五六)丙辰(ひのえたつ)の年に唐の皇帝に謁(えつ)した。千夜を経て、灯鬼が出たが、灯鬼はわが子をみて、指をかんで血で漢詩と和歌をしたため、自分が父であることを知らせた。春衡は父であることを知って、灯鬼を求めたが、日本に帰る日、颯州(薩州)硫黄島で父は没し、そこに葬った。だから、そこを鬼界という。
 なんとも奇怪な話であるが、『和漢三才図絵』も、「軽大臣は何時の人なるかを知らず」と記しているように、虚構の人物であった。しかし、『薩隅日地理纂考』一二之巻では、硫黄島の徳躰(とくたい)神社の祭神を軽大臣とし、石祠(せきし)で神体は自然石であること、軽大臣が息子にともなわれて帰朝のとき、「時に硫黄嶋に漂着し、遂(つい)に此の地にて薨(こう)じ、神に崇(あが)むといふ」などと記しているように、硫黄島でも信じられていた伝説であった。」




大林太良 海の道 海の民 02



大林太良 海の道 海の民 03







こちらもご参照ください:

谷川健一 『古代海人の世界』
網野善彦 『海と列島の中世』 (講談社学術文庫)
大林太良 『邪馬台国』 (中公新書)































































































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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

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