『毛吹草』 新村出 校閲/竹内若 校訂 (岩波文庫)
「冬
月のもと淸(きよ)しといへは冬の夜の
夕ばへいとしよき友の來つ」
(「毛吹草追加 下 廻文之狂歌」 より)
『毛吹草』
新村出 校閲
竹内若 校訂
岩波文庫 30-200-1
岩波書店
1943年12月10日 第1刷発行
1988年2月4日 第5刷発行
505p
文庫判 並装
定価700円
本書「凡例」より:
「毛吹草の板本は管見に入つたもののみでも數本あるが、本校訂本はそのうち最も初板に近いものと推定せられる無刊記本毛吹草を底本とし、新板 毛吹草(明暦元年板) 新板 毛吹草(萬治二年板) 新板增補 毛吹草(寛文十二年板)の三本をもつて校合した。」
「校異は一々擧げず、底本の誤脱と認められる箇所、及び疑はしい箇所にのみ註記を施した。」
「漢字の異體字、略字及び俗字の多くは普通のものに改め、その用法の誤り又は不穏當と思はれるものはこれを正したのもあるが、當時の用字法を知る參考のため多くはそのまゝにした。なほ變體假名は普通のものに改めたが、假名遣、送假名はすべてもとのまゝにした。」
「難讀のものには振假名を施したが、底本の振假名と區別するため片假名を用ひた。たゞし卷第四の振假名は底本のまゝである。」
「散文の部分には句讀點を附し、濁點を加へたが、振假名の濁點は底本のまゝにした。」
「毛吹草追加(正保四年刊)は稀覯であるから附録とした。」
旧字・旧かな。
岩波文庫創刊60年記念・リクエスト復刊(第2回)。

目次:
解説 (新村出)
凡例
序
毛吹草卷第一
句躰 指合
毛吹草卷第二
誹諧四季之詞/非季詞
連歌四季之詞
誹諧戀之詞
連歌戀之詞
世話 付 古語
毛吹草卷第三
付合
毛吹草卷第四
名物
毛吹草卷第五
發句 春/夏
毛吹草卷第六
發句 秋/冬
廻文之發句
句數之事
毛吹草卷第七
付句
附録
毛吹草追加 上
發句 春/夏
毛吹草追加 中
發句 秋/冬
句數之事
毛吹草追加 下
一夏之發句
廻文之誹諧
廻文之發句
賦物之廻文字
廻文之狂歌
廻文之短歌
毛吹草の刊年及び諸本考略 (竹内若)
◆本書より◆
「解説」(新村出)より:
「毛吹草七卷は、貞德門下の異端者松江重賴の編輯した貞門俳諧の方式の書で、同派俳風の興隆時代に方つては、異端の書ながらも、盛に利用參考せられた當代の名著であつた。」
「著者松江維舟重賴は、京都の旅宿業者として通稱を大文字屋治右衞門といつた。(中略)慶長七年の生れ、延寶八年に歿し、七十九歳であつた。誕生の年には、舊師松永貞德は三十二歳、相爭ひて共に師の勘當を受けた野々口立圃は八歳、山本西武よりは四年上、(中略)貞門の正系を繼いだ安原貞室は、(中略)八歳も年下であり、(中略)同流異色の北村季吟は彼よりも二十二年も遙か後に生れた。」
「重賴は、性剛直、才俊敏、師匠には破門を受け、先輩の立圃とは全く相容れず、(中略)後には西武とも違ひ、遂に貞室とも背くやうになつた。」
「重賴の著書は十數部存するが、(中略)犬子集と毛吹草とが最も重要なる二大著であることは古來異議もないが、その他、俳諧集中にては、彼れが寛文四年(六十三歳)所刊の佐夜中山集のうちに芭蕉の現存最古の二俳句が載せられてゐる事柄を指摘したい。
本書は、卷一に連歌付と俳諧付との附句の差別より説起し、發句連句の句體の良否をそれぞれ幾多の分類を施しつゝ、一々句例を擧げて品隲し、式目十三ケ條を附記したる後、卷二には俳諧と連歌との兩方に亙つて四季の季題等を掲げて、世話(俚諺)と古語(成語成句)とを附載し、卷三には伊呂波別で附合の語彙を編纂し、卷四には本邦古今の名物(物産)を五畿七道の國別に排列して、松前や琉球や高麗やの異域の産物をも附載した。卷五卷六は春夏秋冬の發句、卷七は附句、を夫々彙輯した。」
「卷第一」より:
「一 見たて
川岸の洞(ほら)は螢の瓦燈(くはとう)かな
波たては輪違(わちがひ)なれや水の月
ふりましる雪に霰(あられ)やさねき綿
水かねかあられたはしる氷面(ひも)鏡
おなしやうなる岩ほ岩かね
苔むしろ色やさなから靑疊(たゝみ)
六月よりも思ふ正月
ふり/\のなりにむきたる眞桑(まくは)瓜
寒き事正直なれや冬の空
軒のつらゝは更にさげ針」
「一 廻文(くはいぶん)
しつつらしさいて果(はて)いさしらつゝし
丸くさかは名こそそこなは風車
きつの火よしらけにけらし宵の月」
「卷第二 世話 付 古語」より:
「天人の五すい
人間(にんけん)の八く
天にあらはひよくのとり
ちにあらはれんりのえだ
せんたんは二ばよりかうばし
しやは一すんより大かいをしる
ゑみのうちのかたな
わたにはりをつゝむ心
はなはねにかへる
とりはふるすにかへる
天しる地(ぢ)しるわれしる人しる
きりはふくろをとをす
よろこひのまゆをひらく
けだものくもにほゆる
ときにあへはねすみもとらになる
いちもつのたかもはなさねはとらす
たまみがかざれはひかりなし
かはらもみがけはたまとなる
こゝろの師とはなれ
こゝろをしとせざれ
どろのうちのはちす
いちのなかの隱者(いんじや)
かうじもんをいです
あくじ千里をはしる」
「天子(てんし)に父母(ふぼ)なし
聖人(せいじん)に夢(ゆめ)なし
和哥(わか)に師匠(ししやう)なし
人は一代(だい)な(な)は末代(まつだい)
侍(さふらひ)と金(こがね)は朽(くち)て朽せぬ
鷹(たか)はしぬれと穗(ほ)をつまぬ
美目(みめ)は果報(くはほう)のもとひ
女(をんな)は氏(うぢ)なうて玉(たま)の輿(こし)に乘(のる)
哥人(かじん)は貴(たつと)からすして高位(かうゐ)に交(まじる)
仁者(じんしや)愁(うれへ)す
智者(ちしや)はまどはす
勇者(ようしや)はおそれず
落花(らつくは)枝(えだ)にかへらす
破鏡(はきやう)二たひてらさす
倫言(りんげん)汗(あせ)のことし
善惡(ぜんあく)は友(とも)による
麻(あさ)につるゝ蓬(よもき)
水(みづ)は方圓(はうゑん)の器(うつはもの)にしたかふ
見るをみまね
ならはんよりなれよ
手功(こう)より目功(めこう)
寺(てら)のほとりの童(わらんべ)はならはぬ經(きやう)をよむ
鄭家(ていか)のやつこは詩(し)をうたふ
勸學院(くはんがくゐん)の雀(すゞめ)は蒙求(もうきう)を囀(さへづる)
みづとりくがにまどふ
うをの木にのぼることし
すなみちありくことし
渇(かつ)にのぞみて俄(にはか)に井(ゐ)を堀(ほる)
飢(うへ)にのそみて苗(なへ)をうふることし
日くれてみちをいそぐ
いひがち高名(かうみやう)
一揆(き)のよりあひ
船頭(せんどう)がおほうてふねが山へのぼる
さゝやき八町(ちやう)
人ごといはゞ莚(むしろ)しけ
まなこは天をはしる」
「卷第三 付合」より:
「ひ
日 暦(こゆみ) 舞扇(まひあふき) 天岩戸(あまのいはと)
日南北向(ひなんぼつかう) 猫(ねこ) 石龜(いしがめ) 非人
火 矢 石 天 墓(はか) 柘榴(ざくろ) 龍腦(りうなう) 生腦(しやうなう) 花
檜葉(ひば) 垣(かき) 折(おり) 岩(いは)
琵琶(びわ) 湖(みづうみ) 法會(ほふゑ) 馬上(ばしやう) 天人 賀茂(かも)
屏風(びやうぶ) 爐(ろ)の先(さき) 勝手口(かつてぐち) 病所(びやうしよ) 山 巖(いはほ) 雛遊(ひなあそび) 草
櫃(ひつ) 鎖細工(ぜうざいく) 節供(せつく) 飯(いひ) 物本(ものゝほん) 刀ノ鞘(さや)
樋(ひ) 機(はた) 刀 鑄物(いもの)
膝(ひざ) 綠子(みどりこ) 猫(ねこ) 談合
鬚(ひげ) 海老(ゑび) 鯲(どぢやう) 鯰(なまづ) 鯨(くじら) 鼠(ねずみ) 虫 莓(こけ) 野老(ところ) 人參(にんじん) 大根(こん) 夷(ゑびす) 天神 唐人(たうじん)
額(ひたい) 山 岸(きし) 甲(かぶと) 人を見る
肘(ひぢ) 輪懸金(わかけがね) 蒔網(まきあみ) 綿
晝寐(ひるね) 海馬(あじか) 狐(きつね) 梟(ふくろふ) 夜鷹(よたか) 蝙蝠(かうふり) 宰予(さいよ) 猫(ねこ) 盗(ぬす)人
引 網(あみ) 舟 鋸(のこぎり) 車(くるま) 石 草 注連(しめ) 屏風(びやうぶ) 枕(まくら) 首(くび) 陣(ぢん) 手 袖(そで) 津(つ) 心 目 風(かぜ) 一文字(いちもんじ) 茶(ちや) 塩(しほ)」
「せ
關(せき) 咳氣(がいき) 相撲(すまひ) 水 花
雪隱(せつゐん) 蕨箒(わらびはゝき) 路地(ろぢ) 沈丁花(ぢんちやうけ) 蠅(はい) 聲(こは)つくろひ 思案(しあん)
瀨(せ) 馬 牛 畠(はたけ)
錢 神佛參 瘡(かさ) 堤(つゝみ) 楊弓(やうきう) ひようそく 鼠戸 嘉祥(かじやう)
蟬(せみ) 耳(みゝ)の煩(わづらひ) 帆柱(ほばしら)
洗濯(せんたく) 川邊 灰汁(あく) しやぼん 日和(ひより) 病あかり
責(せむる) 馬 科人(とがにん) 念佛(ねんぶつ) 碁(ご) 皷(つゞみ) 城(しろ) 戀(こひ)」
「卷第四 名物」より:
「山城 畿内
○洛陽典藥頭屠蘇白散(ラクヤウテンヤクノカミトソビヤクサン) 半井龍腦丸(ナカラヰノリウナウグハン) 延壽院延齡丹(ヱンジユヰンノヱンレイタン) 施薬院牛黄淸心圓(セヤクヰンノゴワウセイシンヱン) 盛方院鳳髓丹(セイハウヰンノホウズイタン) 竹田牛黄圓(タケダノゴワウヱン) 上智院蘇香圓(シヤウチヰンノソカウヱン) 兼康元康齒藥(カネヤスモトヤスノハグスリ) 慶祐太乙膏(ケイユウノタイチカウ) 慶雲意德萬應膏(ケイウンイトクノマンオウカウ) 同茄子膏藥(ナスビガウヤク) 大蛇亮産藥(ダイジヤノスケノサングスリ) 道正解毒(ダウシヤウノゲドク) 外郎透頂香(ウイラウノトウチンカウ)」
「卷第五 發句 夏」より:
「白雨
夕たちの手がらは水のきれめ哉 重方
夕たちの目きゝは雲をしるし哉 道二
夕たちは道外(だうけ)ぶりたる天氣哉 貞盛
夕たちや三日が内のでかし物 宗治
夕たちやふる村雲の劔(けん)の先 德元
鳴神や夕立雲のはらつゝみ 望一
夕たちのさやなりなれや雷(らい)の聲 一木
夕立のなかるゝといや水はじき 重雄
夕立の足やいつくも達者(たつしや)ぶり 作者不知
夕立の切(きり)物なれやのほり龍(れう) 炭伽
夕たちははかてはきぬる木履(ほくり)哉 光有
夕立の雲につまづく日足かな 政公
望一勾當出世の悦に
夕立の雲や涼しき水衣 重賴
夕立を請なかしたる木立哉 元綱」
「毛吹草追加 下 廻文之誹諧」より:
「正保二年九月六日
廻文
春日何
交野(かたの)見つ鳥と小鳥とつみの鷹 重賴
冷(ひえ)の氣(け)さむく酌(くむ)酒(さけ)の醉(ゑひ) 重方
照(てり)て來(き)つ西に眞(ま)西に月てりて 重貞
友はよき人問(とひ)き夜はもと 重供
瓜琴(つまごと)をむかひてひかん男松 方
巣(す)ひくうかけた竹か鶯 賴
日の南雪や早(はや)きゆ南の日 供
ねふりつ乘(のる)は春の釣舟 貞
比もなふ下水みたし鮒(ふな)もろこ 賴
すは花は蓮(はす)すは花は蓮 方
ひとりのみ悲(かな)しき品(しな)か御法(みのり)とひ 貞
たが髪(かみ)きるややる君か方 供
りんきいひ泣(なく)なよ泣なひいきむり 方
つたなき中ははかなき名たつ 賴
狐(きつ)にとひ何度(なんど)もどんな人につき 供
いなやまひでぞ袖隙やない 貞
躰(てい)も見よ哥今いたう讀(よみ)も居て 賴
しろ霜をきつ月おもしろし 方
池の北山やさ山や瀧(たき)の景(けい) 供
葉にりくつなは花つくり庭 貞
松の木ののびる春日の軒(のき)の妻(つま) 方
霞に見ずよ四角(よすみ)に御簾(みす)か 賴
君の代ともれ誰/\も豐(とよ)の三寸(みき) 貞
友の來つる夜よる月のもと 供
鹿が出(で)たかなたは田中たてかゞし 賴
しら露つらややら露つらし 方
村雨や晴じとしればやめざらん 供
すきととぼけななけ郭公 貞
淀(よど)そ爰(こゝ)初旅(たび)だつは爰ぞとよ 方
ねふりたくして出(で)し下り舟 賴
着(き)よきるかきよきかきよきかるきよぎ 貞
つゝめども先(まづ)妻(つま)もとめつゝ 供
ちと難(なん)をたしなみなした女どち 賴
見かけさばきててぎはさげがみ 方
咲(さく)におし馬(むま)はやはまんしおに草 供
名は野の尾花(おばな)名は小野の花 貞
月を嵯峨(さが)霧(きり)ふり/\き笠(かさ)を着(き)つ 方
川からしもが賀茂白川か 方
寄よ皆堤(つゝみ)に見つゝ波よるよ 賴
紫竹(しちく)根(ね)くちし/\ 貞」
「正保三年二月中旬
廻文
南何
樂(らく)までぞ花見て皆は袖まくら 直久
友の來つるは春月のもと 重賴
出(で)し野をば鴈(がん)が歸鴈が羽をのして 重方
雪とく/\ととく/\ときゆ 同
木かきつう切とり取き卯木垣(うつぎかき) 賴
山家(が)は賤(しづ)も持柴鎌(がま)や 同
むらの馬子(まご)もどり成共駒(こま)のらん 方
水底(みなそこ)きよき淸(きよ)きこそ波 同
照(てり)は見ゆ月の輪(わ)のきつ弓張(はり)て 同
むしの音しるししるし音のしむ 賴
宜野(むべの)とや草花はさく宿の邊 同
さゝもるもれややれ盛(もる)もさゝ 方
しらぬ身よ哥がらかたう讀(よみ)ぬらし 賴
今朝(けさ)何事を男(おとこ)になさけ 同
世の名たつくやむは無益(むやく)つたなの世 方
形見(かたみ)を見たかかたみを見たか 同
むつみ來(き)し人と跡とひ樒(しきみ)摘(つ)む 賴
身の品(しな)はたゞ只はなしのみ 同
賴みつゝ民のたのみた堤(つゝみ)の田 方
淀路(よどぢ)どちとよ/\ 同
牛見なば車は丸(まる)く花見衆 賴
桃(もゝ)さく早桃(さもゝ)もゝ咲さもゝ 同
友の來(き)た春寄(より)よるは瀧(たき)のもと 方
鴨(かも)か小鴨かかもか小鴨か 同
皆筏(いかだ)出(で)し竿(さほ)さして高い波 賴
きつき夜風が風がよき月 同
葉のきなやたれたしだれた柳のは 方
しらはぎ萩は萩(はぎ)は氣ばらし 同
狩(かる)時はおかしき鹿をはぎ取か 賴
弓鑓(やり)や見ゆ弓鑓やみゆ 同
名高きと作(つく)りはりくつとぎ刀 方
聟(むこ)がねが來んむこかねがこん 同
手からはやたしなみなしたやはらかで 賴
嶋(しま)は糸よき着(き)よといはまし 同
今朝のめか春初春は瓶(かめ)の酒 方
梅かと花は花はとがめん 同
彌(いや)かるく鶯ひくうくるかやい 賴
子規(しき)猶なきし/\ 同
出(で)ていきつ山や葉山や月出て 方
寒さよしるくくるし夜寒さ 同
眠(ねふ)りしは白露つらし走(はしり)船 賴
岸(きし)かさがしき岸か嶮(さかし)き 同
藻(も)をのけい玉藻(も)をも又池の面(おも) 方
飼(かふ)時なりと鳥なき飛ぶか 同
もいのとやよし寢(ね)し寢し夜門(かど)の妹(いも) 賴
なみだかたみな涙互(かたみ)な 同
世中はむなしく死(し)なんはかなの世 同
敵(てき)時よきと時よきと來て 方
咲いなばもどれどれ共花軍(いくさ) 同
かいるの類(るい)かかいるのるいか 賴
井のもとぞ見すかす霞外面(そとも)の井 方
たつたや春は春はや立た 同
山や野を雪花(ばな)はきゆ小野山や 賴
炭(すみ)くろくたゞ只くろくみす 同
灸(やいと)いやもぐさくさくも灸いや 方
小猫(ねこ)の藝(げい)よよい毛(け)の小猫 同
咲三株(みかぶ)花畑(ばた)花はふかみ草 賴
霖(ながめ)やとくととくと止(やめ)がな 同
妻戸(つまど)によ問(とひ)よれよ人夜にと待 方
此燒香仕(かくたくかし)ぬ主(ぬし)かくたくか 同
慈悲(じひ)よきと寺で御(み)寺て齋(とき)よ非時(ひじ) 賴
彼岸(ひがん)に花は花葉にむかひ 同
木はつらし月かげ欠(かき)つ白椿(つばき) 同
やく山燒(やく)よよく山やくや 方
のかず聞(きゝ)狩取(かりとる)鳥か雉子(きゞす)かの 同
春日(かすが)は神事(じんじ)神事は春日 賴
笛(ふえ)は今朝皷(つゞみ)も見つゝ酒はえふ 方
しばしはまふ間まふ間はしばし 同
田鶴(たづ)たつか羽(はね)早(はや)はねは且(かつ)たつた 賴
むらあし有か苅芦(かるあし)あらん 同
白波な船ばたはなふ波ならし 方
風川西に西には風か 同
病沙汰(やむさた)は果(はた)さぬ沙汰は肌(はだ)寒や 賴
夜着(よぎ)がな着たききたき永夜 同
出(で)てみよと告(つげ)い名月(めいげつ)とよみ出(で)て 方
ぬりとはおちた太刀(たち)をば取ぬ 同
かたきとぞ聞にもにくきそと來たか 賴
いざたゝ女難(なん)を糺(たゞ)さい 同
紐(ひも)をのみよろこぶ比よ身の思ひ 方
そちに契るは春吉日ぞ 同
蝶(てふ)まふて長閑な門の蝶舞て 賴
問(とひ)ぬらし花の名はしらぬ人 方
眞砂地(まさごぢ)をかるくもくるかお兒樣(ちごさま) 同
宮は火きえた絶(たえ)き火は闇(やみ) 賴
鈴(すゞ)のみが音をし音を神の鈴 同
太皷(たいこ)をしばししはしおこいた 方
稚(おさな)さをすかすよすかすおさなさを 同
柿(かき)ある屋にて手に遣(やる)秋か 賴
生(なり)けりと折來(く)る栗を取けりな 同
よき月月夜/\ 同
かきし間や羽はとはねば山鴫(しぎ)か 方
さあ霧たちた立たりき朝 同
しろ霜は篠のしのざゝ葉も白し 賴
鐘(かね)なりけりな鳴(なり)けりな音が 同
つれなきをかなしひし中起馴(おきなれ)つ 同
まつ夜來(こ)よ妻(つま)待夜こよ妻 方
詩(し)の錦(にしき)つゞりやりつゝ錦の詩 賴
をいかはか魚をいかはか魚 同
比も經(へ)ば流(ながれ)よれがなはへもろこ 方
蕪(かぶら)あらふ子こぶらあらふか 同」
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(「毛吹草追加 下 廻文之狂歌」 より)
『毛吹草』
新村出 校閲
竹内若 校訂
岩波文庫 30-200-1
岩波書店
1943年12月10日 第1刷発行
1988年2月4日 第5刷発行
505p
文庫判 並装
定価700円
本書「凡例」より:
「毛吹草の板本は管見に入つたもののみでも數本あるが、本校訂本はそのうち最も初板に近いものと推定せられる無刊記本毛吹草を底本とし、新板 毛吹草(明暦元年板) 新板 毛吹草(萬治二年板) 新板增補 毛吹草(寛文十二年板)の三本をもつて校合した。」
「校異は一々擧げず、底本の誤脱と認められる箇所、及び疑はしい箇所にのみ註記を施した。」
「漢字の異體字、略字及び俗字の多くは普通のものに改め、その用法の誤り又は不穏當と思はれるものはこれを正したのもあるが、當時の用字法を知る參考のため多くはそのまゝにした。なほ變體假名は普通のものに改めたが、假名遣、送假名はすべてもとのまゝにした。」
「難讀のものには振假名を施したが、底本の振假名と區別するため片假名を用ひた。たゞし卷第四の振假名は底本のまゝである。」
「散文の部分には句讀點を附し、濁點を加へたが、振假名の濁點は底本のまゝにした。」
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目次:
解説 (新村出)
凡例
序
毛吹草卷第一
句躰 指合
毛吹草卷第二
誹諧四季之詞/非季詞
連歌四季之詞
誹諧戀之詞
連歌戀之詞
世話 付 古語
毛吹草卷第三
付合
毛吹草卷第四
名物
毛吹草卷第五
發句 春/夏
毛吹草卷第六
發句 秋/冬
廻文之發句
句數之事
毛吹草卷第七
付句
附録
毛吹草追加 上
發句 春/夏
毛吹草追加 中
發句 秋/冬
句數之事
毛吹草追加 下
一夏之發句
廻文之誹諧
廻文之發句
賦物之廻文字
廻文之狂歌
廻文之短歌
毛吹草の刊年及び諸本考略 (竹内若)
◆本書より◆
「解説」(新村出)より:
「毛吹草七卷は、貞德門下の異端者松江重賴の編輯した貞門俳諧の方式の書で、同派俳風の興隆時代に方つては、異端の書ながらも、盛に利用參考せられた當代の名著であつた。」
「著者松江維舟重賴は、京都の旅宿業者として通稱を大文字屋治右衞門といつた。(中略)慶長七年の生れ、延寶八年に歿し、七十九歳であつた。誕生の年には、舊師松永貞德は三十二歳、相爭ひて共に師の勘當を受けた野々口立圃は八歳、山本西武よりは四年上、(中略)貞門の正系を繼いだ安原貞室は、(中略)八歳も年下であり、(中略)同流異色の北村季吟は彼よりも二十二年も遙か後に生れた。」
「重賴は、性剛直、才俊敏、師匠には破門を受け、先輩の立圃とは全く相容れず、(中略)後には西武とも違ひ、遂に貞室とも背くやうになつた。」
「重賴の著書は十數部存するが、(中略)犬子集と毛吹草とが最も重要なる二大著であることは古來異議もないが、その他、俳諧集中にては、彼れが寛文四年(六十三歳)所刊の佐夜中山集のうちに芭蕉の現存最古の二俳句が載せられてゐる事柄を指摘したい。
本書は、卷一に連歌付と俳諧付との附句の差別より説起し、發句連句の句體の良否をそれぞれ幾多の分類を施しつゝ、一々句例を擧げて品隲し、式目十三ケ條を附記したる後、卷二には俳諧と連歌との兩方に亙つて四季の季題等を掲げて、世話(俚諺)と古語(成語成句)とを附載し、卷三には伊呂波別で附合の語彙を編纂し、卷四には本邦古今の名物(物産)を五畿七道の國別に排列して、松前や琉球や高麗やの異域の産物をも附載した。卷五卷六は春夏秋冬の發句、卷七は附句、を夫々彙輯した。」
「卷第一」より:
「一 見たて
川岸の洞(ほら)は螢の瓦燈(くはとう)かな
波たては輪違(わちがひ)なれや水の月
ふりましる雪に霰(あられ)やさねき綿
水かねかあられたはしる氷面(ひも)鏡
おなしやうなる岩ほ岩かね
苔むしろ色やさなから靑疊(たゝみ)
六月よりも思ふ正月
ふり/\のなりにむきたる眞桑(まくは)瓜
寒き事正直なれや冬の空
軒のつらゝは更にさげ針」
「一 廻文(くはいぶん)
しつつらしさいて果(はて)いさしらつゝし
丸くさかは名こそそこなは風車
きつの火よしらけにけらし宵の月」
「卷第二 世話 付 古語」より:
「天人の五すい
人間(にんけん)の八く
天にあらはひよくのとり
ちにあらはれんりのえだ
せんたんは二ばよりかうばし
しやは一すんより大かいをしる
ゑみのうちのかたな
わたにはりをつゝむ心
はなはねにかへる
とりはふるすにかへる
天しる地(ぢ)しるわれしる人しる
きりはふくろをとをす
よろこひのまゆをひらく
けだものくもにほゆる
ときにあへはねすみもとらになる
いちもつのたかもはなさねはとらす
たまみがかざれはひかりなし
かはらもみがけはたまとなる
こゝろの師とはなれ
こゝろをしとせざれ
どろのうちのはちす
いちのなかの隱者(いんじや)
かうじもんをいです
あくじ千里をはしる」
「天子(てんし)に父母(ふぼ)なし
聖人(せいじん)に夢(ゆめ)なし
和哥(わか)に師匠(ししやう)なし
人は一代(だい)な(な)は末代(まつだい)
侍(さふらひ)と金(こがね)は朽(くち)て朽せぬ
鷹(たか)はしぬれと穗(ほ)をつまぬ
美目(みめ)は果報(くはほう)のもとひ
女(をんな)は氏(うぢ)なうて玉(たま)の輿(こし)に乘(のる)
哥人(かじん)は貴(たつと)からすして高位(かうゐ)に交(まじる)
仁者(じんしや)愁(うれへ)す
智者(ちしや)はまどはす
勇者(ようしや)はおそれず
落花(らつくは)枝(えだ)にかへらす
破鏡(はきやう)二たひてらさす
倫言(りんげん)汗(あせ)のことし
善惡(ぜんあく)は友(とも)による
麻(あさ)につるゝ蓬(よもき)
水(みづ)は方圓(はうゑん)の器(うつはもの)にしたかふ
見るをみまね
ならはんよりなれよ
手功(こう)より目功(めこう)
寺(てら)のほとりの童(わらんべ)はならはぬ經(きやう)をよむ
鄭家(ていか)のやつこは詩(し)をうたふ
勸學院(くはんがくゐん)の雀(すゞめ)は蒙求(もうきう)を囀(さへづる)
みづとりくがにまどふ
うをの木にのぼることし
すなみちありくことし
渇(かつ)にのぞみて俄(にはか)に井(ゐ)を堀(ほる)
飢(うへ)にのそみて苗(なへ)をうふることし
日くれてみちをいそぐ
いひがち高名(かうみやう)
一揆(き)のよりあひ
船頭(せんどう)がおほうてふねが山へのぼる
さゝやき八町(ちやう)
人ごといはゞ莚(むしろ)しけ
まなこは天をはしる」
「卷第三 付合」より:
「ひ
日 暦(こゆみ) 舞扇(まひあふき) 天岩戸(あまのいはと)
日南北向(ひなんぼつかう) 猫(ねこ) 石龜(いしがめ) 非人
火 矢 石 天 墓(はか) 柘榴(ざくろ) 龍腦(りうなう) 生腦(しやうなう) 花
檜葉(ひば) 垣(かき) 折(おり) 岩(いは)
琵琶(びわ) 湖(みづうみ) 法會(ほふゑ) 馬上(ばしやう) 天人 賀茂(かも)
屏風(びやうぶ) 爐(ろ)の先(さき) 勝手口(かつてぐち) 病所(びやうしよ) 山 巖(いはほ) 雛遊(ひなあそび) 草
櫃(ひつ) 鎖細工(ぜうざいく) 節供(せつく) 飯(いひ) 物本(ものゝほん) 刀ノ鞘(さや)
樋(ひ) 機(はた) 刀 鑄物(いもの)
膝(ひざ) 綠子(みどりこ) 猫(ねこ) 談合
鬚(ひげ) 海老(ゑび) 鯲(どぢやう) 鯰(なまづ) 鯨(くじら) 鼠(ねずみ) 虫 莓(こけ) 野老(ところ) 人參(にんじん) 大根(こん) 夷(ゑびす) 天神 唐人(たうじん)
額(ひたい) 山 岸(きし) 甲(かぶと) 人を見る
肘(ひぢ) 輪懸金(わかけがね) 蒔網(まきあみ) 綿
晝寐(ひるね) 海馬(あじか) 狐(きつね) 梟(ふくろふ) 夜鷹(よたか) 蝙蝠(かうふり) 宰予(さいよ) 猫(ねこ) 盗(ぬす)人
引 網(あみ) 舟 鋸(のこぎり) 車(くるま) 石 草 注連(しめ) 屏風(びやうぶ) 枕(まくら) 首(くび) 陣(ぢん) 手 袖(そで) 津(つ) 心 目 風(かぜ) 一文字(いちもんじ) 茶(ちや) 塩(しほ)」
「せ
關(せき) 咳氣(がいき) 相撲(すまひ) 水 花
雪隱(せつゐん) 蕨箒(わらびはゝき) 路地(ろぢ) 沈丁花(ぢんちやうけ) 蠅(はい) 聲(こは)つくろひ 思案(しあん)
瀨(せ) 馬 牛 畠(はたけ)
錢 神佛參 瘡(かさ) 堤(つゝみ) 楊弓(やうきう) ひようそく 鼠戸 嘉祥(かじやう)
蟬(せみ) 耳(みゝ)の煩(わづらひ) 帆柱(ほばしら)
洗濯(せんたく) 川邊 灰汁(あく) しやぼん 日和(ひより) 病あかり
責(せむる) 馬 科人(とがにん) 念佛(ねんぶつ) 碁(ご) 皷(つゞみ) 城(しろ) 戀(こひ)」
「卷第四 名物」より:
「山城 畿内
○洛陽典藥頭屠蘇白散(ラクヤウテンヤクノカミトソビヤクサン) 半井龍腦丸(ナカラヰノリウナウグハン) 延壽院延齡丹(ヱンジユヰンノヱンレイタン) 施薬院牛黄淸心圓(セヤクヰンノゴワウセイシンヱン) 盛方院鳳髓丹(セイハウヰンノホウズイタン) 竹田牛黄圓(タケダノゴワウヱン) 上智院蘇香圓(シヤウチヰンノソカウヱン) 兼康元康齒藥(カネヤスモトヤスノハグスリ) 慶祐太乙膏(ケイユウノタイチカウ) 慶雲意德萬應膏(ケイウンイトクノマンオウカウ) 同茄子膏藥(ナスビガウヤク) 大蛇亮産藥(ダイジヤノスケノサングスリ) 道正解毒(ダウシヤウノゲドク) 外郎透頂香(ウイラウノトウチンカウ)」
「卷第五 發句 夏」より:
「白雨
夕たちの手がらは水のきれめ哉 重方
夕たちの目きゝは雲をしるし哉 道二
夕たちは道外(だうけ)ぶりたる天氣哉 貞盛
夕たちや三日が内のでかし物 宗治
夕たちやふる村雲の劔(けん)の先 德元
鳴神や夕立雲のはらつゝみ 望一
夕たちのさやなりなれや雷(らい)の聲 一木
夕立のなかるゝといや水はじき 重雄
夕立の足やいつくも達者(たつしや)ぶり 作者不知
夕立の切(きり)物なれやのほり龍(れう) 炭伽
夕たちははかてはきぬる木履(ほくり)哉 光有
夕立の雲につまづく日足かな 政公
望一勾當出世の悦に
夕立の雲や涼しき水衣 重賴
夕立を請なかしたる木立哉 元綱」
「毛吹草追加 下 廻文之誹諧」より:
「正保二年九月六日
廻文
春日何
交野(かたの)見つ鳥と小鳥とつみの鷹 重賴
冷(ひえ)の氣(け)さむく酌(くむ)酒(さけ)の醉(ゑひ) 重方
照(てり)て來(き)つ西に眞(ま)西に月てりて 重貞
友はよき人問(とひ)き夜はもと 重供
瓜琴(つまごと)をむかひてひかん男松 方
巣(す)ひくうかけた竹か鶯 賴
日の南雪や早(はや)きゆ南の日 供
ねふりつ乘(のる)は春の釣舟 貞
比もなふ下水みたし鮒(ふな)もろこ 賴
すは花は蓮(はす)すは花は蓮 方
ひとりのみ悲(かな)しき品(しな)か御法(みのり)とひ 貞
たが髪(かみ)きるややる君か方 供
りんきいひ泣(なく)なよ泣なひいきむり 方
つたなき中ははかなき名たつ 賴
狐(きつ)にとひ何度(なんど)もどんな人につき 供
いなやまひでぞ袖隙やない 貞
躰(てい)も見よ哥今いたう讀(よみ)も居て 賴
しろ霜をきつ月おもしろし 方
池の北山やさ山や瀧(たき)の景(けい) 供
葉にりくつなは花つくり庭 貞
松の木ののびる春日の軒(のき)の妻(つま) 方
霞に見ずよ四角(よすみ)に御簾(みす)か 賴
君の代ともれ誰/\も豐(とよ)の三寸(みき) 貞
友の來つる夜よる月のもと 供
鹿が出(で)たかなたは田中たてかゞし 賴
しら露つらややら露つらし 方
村雨や晴じとしればやめざらん 供
すきととぼけななけ郭公 貞
淀(よど)そ爰(こゝ)初旅(たび)だつは爰ぞとよ 方
ねふりたくして出(で)し下り舟 賴
着(き)よきるかきよきかきよきかるきよぎ 貞
つゝめども先(まづ)妻(つま)もとめつゝ 供
ちと難(なん)をたしなみなした女どち 賴
見かけさばきててぎはさげがみ 方
咲(さく)におし馬(むま)はやはまんしおに草 供
名は野の尾花(おばな)名は小野の花 貞
月を嵯峨(さが)霧(きり)ふり/\き笠(かさ)を着(き)つ 方
川からしもが賀茂白川か 方
寄よ皆堤(つゝみ)に見つゝ波よるよ 賴
紫竹(しちく)根(ね)くちし/\ 貞」
「正保三年二月中旬
廻文
南何
樂(らく)までぞ花見て皆は袖まくら 直久
友の來つるは春月のもと 重賴
出(で)し野をば鴈(がん)が歸鴈が羽をのして 重方
雪とく/\ととく/\ときゆ 同
木かきつう切とり取き卯木垣(うつぎかき) 賴
山家(が)は賤(しづ)も持柴鎌(がま)や 同
むらの馬子(まご)もどり成共駒(こま)のらん 方
水底(みなそこ)きよき淸(きよ)きこそ波 同
照(てり)は見ゆ月の輪(わ)のきつ弓張(はり)て 同
むしの音しるししるし音のしむ 賴
宜野(むべの)とや草花はさく宿の邊 同
さゝもるもれややれ盛(もる)もさゝ 方
しらぬ身よ哥がらかたう讀(よみ)ぬらし 賴
今朝(けさ)何事を男(おとこ)になさけ 同
世の名たつくやむは無益(むやく)つたなの世 方
形見(かたみ)を見たかかたみを見たか 同
むつみ來(き)し人と跡とひ樒(しきみ)摘(つ)む 賴
身の品(しな)はたゞ只はなしのみ 同
賴みつゝ民のたのみた堤(つゝみ)の田 方
淀路(よどぢ)どちとよ/\ 同
牛見なば車は丸(まる)く花見衆 賴
桃(もゝ)さく早桃(さもゝ)もゝ咲さもゝ 同
友の來(き)た春寄(より)よるは瀧(たき)のもと 方
鴨(かも)か小鴨かかもか小鴨か 同
皆筏(いかだ)出(で)し竿(さほ)さして高い波 賴
きつき夜風が風がよき月 同
葉のきなやたれたしだれた柳のは 方
しらはぎ萩は萩(はぎ)は氣ばらし 同
狩(かる)時はおかしき鹿をはぎ取か 賴
弓鑓(やり)や見ゆ弓鑓やみゆ 同
名高きと作(つく)りはりくつとぎ刀 方
聟(むこ)がねが來んむこかねがこん 同
手からはやたしなみなしたやはらかで 賴
嶋(しま)は糸よき着(き)よといはまし 同
今朝のめか春初春は瓶(かめ)の酒 方
梅かと花は花はとがめん 同
彌(いや)かるく鶯ひくうくるかやい 賴
子規(しき)猶なきし/\ 同
出(で)ていきつ山や葉山や月出て 方
寒さよしるくくるし夜寒さ 同
眠(ねふ)りしは白露つらし走(はしり)船 賴
岸(きし)かさがしき岸か嶮(さかし)き 同
藻(も)をのけい玉藻(も)をも又池の面(おも) 方
飼(かふ)時なりと鳥なき飛ぶか 同
もいのとやよし寢(ね)し寢し夜門(かど)の妹(いも) 賴
なみだかたみな涙互(かたみ)な 同
世中はむなしく死(し)なんはかなの世 同
敵(てき)時よきと時よきと來て 方
咲いなばもどれどれ共花軍(いくさ) 同
かいるの類(るい)かかいるのるいか 賴
井のもとぞ見すかす霞外面(そとも)の井 方
たつたや春は春はや立た 同
山や野を雪花(ばな)はきゆ小野山や 賴
炭(すみ)くろくたゞ只くろくみす 同
灸(やいと)いやもぐさくさくも灸いや 方
小猫(ねこ)の藝(げい)よよい毛(け)の小猫 同
咲三株(みかぶ)花畑(ばた)花はふかみ草 賴
霖(ながめ)やとくととくと止(やめ)がな 同
妻戸(つまど)によ問(とひ)よれよ人夜にと待 方
此燒香仕(かくたくかし)ぬ主(ぬし)かくたくか 同
慈悲(じひ)よきと寺で御(み)寺て齋(とき)よ非時(ひじ) 賴
彼岸(ひがん)に花は花葉にむかひ 同
木はつらし月かげ欠(かき)つ白椿(つばき) 同
やく山燒(やく)よよく山やくや 方
のかず聞(きゝ)狩取(かりとる)鳥か雉子(きゞす)かの 同
春日(かすが)は神事(じんじ)神事は春日 賴
笛(ふえ)は今朝皷(つゞみ)も見つゝ酒はえふ 方
しばしはまふ間まふ間はしばし 同
田鶴(たづ)たつか羽(はね)早(はや)はねは且(かつ)たつた 賴
むらあし有か苅芦(かるあし)あらん 同
白波な船ばたはなふ波ならし 方
風川西に西には風か 同
病沙汰(やむさた)は果(はた)さぬ沙汰は肌(はだ)寒や 賴
夜着(よぎ)がな着たききたき永夜 同
出(で)てみよと告(つげ)い名月(めいげつ)とよみ出(で)て 方
ぬりとはおちた太刀(たち)をば取ぬ 同
かたきとぞ聞にもにくきそと來たか 賴
いざたゝ女難(なん)を糺(たゞ)さい 同
紐(ひも)をのみよろこぶ比よ身の思ひ 方
そちに契るは春吉日ぞ 同
蝶(てふ)まふて長閑な門の蝶舞て 賴
問(とひ)ぬらし花の名はしらぬ人 方
眞砂地(まさごぢ)をかるくもくるかお兒樣(ちごさま) 同
宮は火きえた絶(たえ)き火は闇(やみ) 賴
鈴(すゞ)のみが音をし音を神の鈴 同
太皷(たいこ)をしばししはしおこいた 方
稚(おさな)さをすかすよすかすおさなさを 同
柿(かき)ある屋にて手に遣(やる)秋か 賴
生(なり)けりと折來(く)る栗を取けりな 同
よき月月夜/\ 同
かきし間や羽はとはねば山鴫(しぎ)か 方
さあ霧たちた立たりき朝 同
しろ霜は篠のしのざゝ葉も白し 賴
鐘(かね)なりけりな鳴(なり)けりな音が 同
つれなきをかなしひし中起馴(おきなれ)つ 同
まつ夜來(こ)よ妻(つま)待夜こよ妻 方
詩(し)の錦(にしき)つゞりやりつゝ錦の詩 賴
をいかはか魚をいかはか魚 同
比も經(へ)ば流(ながれ)よれがなはへもろこ 方
蕪(かぶら)あらふ子こぶらあらふか 同」
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